みなし残業40時間は多い?みなし残業代制(固定残業代制)の注意点と対処法
この記事を読んで理解できること
- みなし残業40時間とみなし残業代制(固定残業代制)
- みなし残業40時間の注意点
- みなし残業代制(固定残業代制)のトラブルへの対処法
- 未払い残業代を請求する3つの方法
あなたは、
- 40時間のみなし残業は普通なの?
- 40時間のみなし残業の注意点が知りたい
- みなし残業で残業代が出ない時の対処法は?
などとお考えではありませんか?
結論から言うと、月40時間のみなし残業は、36協定が締結されている場合は違法ではありませんが、一般的な平均残業時間に比べるとかなり長いと言えます。
令和4年の厚生労働省の調査では、調査対象の全産業の月平均残業時間(パートタイムを除く一般労働者の所定外労働時間)は13.8時間となっているからです。
また、みなし残業代制(固定残業代制)では固定給の中に残業代が含まれているため、会社の運用によっては基本給と残業代の区別がつかなかったり、みなし残業時間を超えた残業代が未払いになったりするなど、トラブルが発生しやすい一面があります。
そのため、みなし残業代制についてしっかりと理解し、未払い残業代がある場合は、会社に対して請求することが重要です。
そこでこの記事では、
1章では、みなし残業40時間とみなし残業代制(固定残業代制)
2章では、みなし残業40時間の注意点
3章では、みなし残業代制(固定残業代制)のトラブルへの対処法
4章では、未払い残業代を請求する3つの方法
について解説します。
この記事を読んで、みなし残業代制の仕組みやトラブルの対処法をしっかり理解し、今後の行動に役立てて下さい。
目次
1章:みなし残業40時間とみなし残業代制(固定残業代制)
この章では、みなし残業40時間と平均残業時間について、またみなし残業代制(固定残業代制)とはなにか、その仕組みや認められる条件について解説します。
1-1:みなし残業40時間と平均残業時間
月40時間のみなし残業は、毎日2時間弱の残業をする計算になるため、決して短い残業時間ではありません。
令和4年の厚生労働省の調査では、調査対象の全産業(事業所規模5人以上)の一般労働者の月平均残業時間(所定外労働時間)は、13.8時間となっています。
会社で定めた「所定労働時間」は、労働基準法で定められた「法定労働時間」(1日8時間・1週40時間)より短い場合が多いため、実際の残業時間(法定時間外労働)はさらに短くなる可能性があります。
会社で定めるみなし残業時間に上限はありませんが、労働基準法の時間外労働の上限が原則として「⽉45時間・年360時間」となっているため、これを超えると無効になる場合もあります。
1-2:みなし残業代制(固定残業代制)とは
みなし残業代制(固定残業代制)とは、「一定の残業時間分の残業代が、最初から固定給の中に含まれている制度」です。
みなし残業代制が認められる条件として、次の2つがあげられます。
- 雇用契約書や就業規則に記載されている
- 固定残業代の金額・時間が明確にされている
会社は社員に対して、みなし残業代(固定残業代)と残業時間を定めて就業規則等に記載し、社員に周知する義務があります。
例えば、
「月給30万円(40時間分の固定残業代として8万円を含む)」
のように、基本給と残業代が別であること、金額をそれぞれ別々に記載すること、固定残業代が何時間分に該当するのかを明確に記載します。
みなし残業代制では、実際の残業時間がみなし残業時間より少なかった場合も、固定残業代として決められた残業代が支払われます。
また、実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合は、超過分の残業代が追加で支払われます。
2章:みなし残業40時間の注意点
会社で定めたみなし残業40時間の注意点として、次の2つがあげられます。
- みなし残業時間を超えたときの残業代
- みなし残業代(固定残業代)の支給条件
それぞれ解説します。
2-1:みなし残業時間を超えたときの残業代
みなし残業代制(固定残業代制)では、未払い残業代が発生する可能性があります。
みなし残業代制を導入している会社の中には、固定残業代を支給することによって残業代はすでに支払われていると主張し、みなし残業時間を超える残業代を支払わないケースがあるからです。
みなし残業代制(固定残業代制)でも実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合は、超過分の残業代が支払わなければ違法です。
また、労働時間を適正に管理していなかったり、就業規則等に明記されていなかったりするなど、残業代をきちんと払う意思が疑われる場合は、みなし残業代制(固定残業代制)は違法である可能性が高いです。
実際に過去の判例では、勤怠管理システムにおいて出勤時刻だけを入力させて、退勤時刻を入力させていない場合は、労働時間管理をしておらず残業時間を計算できないため、残業代をきちんと支払う意思がないとして、みなし残業代制(固定残業代制)を認めませんでした。(東京地判平成25年2月28日)
2-2:みなし残業代(固定残業代)の支給条件
みなし残業代制(固定残業代制)では、固定残業代の支給条件として金額と残業時間を具体的に明記する必要があります。
そのため、みなし残業代制(固定残業代制)の運用について、就業規則や賃金規程に固定残業代の支給条件が不明確になっている場合は、トラブルになるケースが多いです。
例えば次のように記載されている場合は、みなし残業代制(固定残業代制)は違法と判断される可能性が高いです。
「基本給には、法定労働時間を超える分の時間外手当を含む」
この場合、固定残業代が明確にされていないため、基本給の中のいくらが残業代なのか分かりません。
そのため、固定残業代だけでなく残業代を引いた基本給自体も明確な金額が分からないため、社員は適正な賃金が支払われているのか判断することが難しくなります。
最高裁の過去の判例では、基本給部分と残業部分を明確に区別できないようなみなし残業代制(固定残業代制)は違法と判断し、いわゆる「明確区分性」があることを固定残業代の要件としています。
3章:みなし残業代制(固定残業代制)のトラブルへの対処法
みなし残業代制(固定残業代制)のトラブルへの対処法として、次の3つがあげられます。
- 就業規則や雇用契約書を確認する
- 実際の残業時間を確認する
- 弁護士に相談する
それぞれ解説します。
3-1:就業規則や雇用契約書を確認する
みなし残業代制(固定残業代制)でトラブルが発生した場合は、就業規則や雇用契約書を確認する必要があります。
みなし残業代制を導入する場合、会社は社員に対して固定残業代と残業時間を定めて、就業規則や雇用契約書に記載し社員に周知する義務があります。
また、固定残業代が割増賃金として支給されることや、時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金率も定めておく必要があるからです。
就業規則や雇用契約書で基本給や固定残業代が明確に区別されていない場合は、固定残業代が残業代の支払いと認められない可能性があります。
特に給与明細等で基本給部分と固定残業代部分が明記されていない場合は、残業代に関するトラブルが発生しやすく、固定残業代が割増賃金の支払いと認められない可能性もあります。
3-2:実際の残業時間を確認する
みなし残業代制(固定残業代制)でトラブルが発生した場合は、実際の残業時間を確認する必要があります。
実際の残業時間を明らかにすることで、適正な残業代が支払われていない場合は、会社に対して残業代を請求できるからです。
また、みなし残業時間を超えた残業代が支払われていない場合は、みなし残業代制(固定残業代制)が認められない可能性があります。
適正な残業代を確認し未払い残業代を請求するためには、残業していた証拠が必要です。
例えば、証拠としては次のようなものが有効です。
- タイムカード
- 会社のパソコンの利用履歴
- 業務日報
- 運転日報
- シフト表
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録
これらの証拠は、残業時間を示す証拠となる可能性があるので、コピーや写真で保存しておくことをおすすめします。
3-3:弁護士に相談する
みなし残業代制(固定残業代制)でトラブルが発生した場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
みなし残業代制(固定残業代制)の場合は、みなし残業の違法性の判断や賃金・残業代の計算が難しいケースが多いからです。
特に、基本給や固定残業代の区別が曖昧で金額も最低賃金を下回っている場合や、みなし残業を超えた部分の残業代が未払いになっている場合は、会社に適正な賃金・残業代を請求できます。
未払い残業代は自分で請求できますが、手間や時間、最終的に戻ってくる残業代の金額を考えると、弁護士に依頼するのがおすすめです。
4章:未払い残業代を請求する3つの方法
未払い残業代を請求する方法として、次の3つがあげられます。
- 残業代を請求する内容証明を送る
- 労働基準監督署に申告する
- 弁護士に依頼して残業代を請求する
それぞれ解説します。
4-1:残業代を請求する内容証明を送る
会社に未払い残業代を請求する場合は、会社に「配達証明付き内容証明郵便」で請求書を送付します。
残業代請求の時効は法令で3年と定められていますが、「配達証明付き内容証明郵便」で郵送することで時効を半年間止めることが可能です。
そのため、できるだけ早く残業の証拠を集めて未払い残業代を明確にして、請求書を送付し時効を止めることが重要です。
会社に在籍している場合は、口頭での返答もあり得ますが、退職してしまっている場合は、電話やメールでの返答か無視される可能性もあります。
内容証明に記載した期日になっても、会社から連絡が来ない場合は、裁判所を通じた手続きが必要になります。
この場合、自分で手続きを行うのは難しいため、弁護士に相談することをおすすめします。
4-2:労働基準監督署に申告する
給料の未払いは労働基準法違反のため、労働基準監督署に申告することで解決にいたる可能性があります。
労働基準監督署とは厚生労働省の出先機関で、労働基準法に基づいて会社を監督するところです。
ただし、労働基準監督署は労働者からの申告すべてに対応できるわけではないため、未払い残業代を取り返してくれるとは限りません。
過労死や労働災害などの「人命に関わる問題」が優先して処理されるため、個々の労働者の「残業代の未払い」では、直ちに動いてもらえない可能性があります。
そのため、未払い残業代を取り返す場合は、最初から弁護士に依頼することをおすすめします。
4-3:弁護士に依頼して残業代を請求する
会社に未払い残業代を請求する場合は、弁護士に依頼することをおすすめします。
未払い残業代の請求や会社との交渉は、労働問題の専門的な知識や経験が必要だからです。
労働問題に強い弁護士に依頼することで、在職中でもトラブルを避けて残業代を請求できます。
労働問題に強い弁護士に依頼するメリットとして、次の3つがあげられます。
- 弁護士に依頼することで、最後まで責任を持って対応してくれる
- 会社との間のトラブルの対応等も、弁護士があなたの代わりに行ってくれる
- 労働問題に強い弁護士は、会社と従業員間のトラブルを円滑に解決できるノウハウを豊富に持っているため最善の解決が望める
未払い残業代の請求や会社との交渉を円滑に進め、満足できる結果を得られるためには、労働問題に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
まとめ:みなし残業40時間の注意点と対処法
月40時間のみなし残業は、一般的な平均残業時間に比べるとかなり長いと言えます。
全産業の月平均残業時間(パートタイムを除く一般労働者の所定外労働時間)は13.8時間。
みなし残業40時間の注意点として、次の2つがあげられます。
- みなし残業時間を超えたときの残業代
- みなし残業代(固定残業代)の支給条件
みなし残業代制(固定残業代制)のトラブルへの対処法として、次の3つがあげられます。
- 就業規則や雇用契約書を確認する
- 実際の残業時間を確認する
- 弁護士に相談する
みなし残業制度は、会社によっては違法に運用されている場合も多いため、雇用契約書や就業規則をしっかり確認することが重要です。
会社に未払い残業代を請求する場合は、労働問題の専門的な知識や経験が必要となるため、弁護士に依頼することをおすすめします。