建設業の残業の実態と、残業代の計算方法、残業代請求の手順を解説

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監修者 住川佳祐

弁護士法人QUEST法律事務所
住川 佳祐

建設業の残業の実態と、残業代の計算方法、残業代請求の手順を解説
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この記事を読んで理解できること
  • 建設業界における残業の実態
  • 建設業界の残業に関する3つの問題点
  • 未払い残業代の計算方法と割増率
  • 未払い残業代を取り返す2つの方法

あなたは、

  • 建設業界の残業の実態が知りたい
  • 建設業界で残業が多い理由は?
  • 建設業で未払い残業代を請求したい

などとお考えではないですか?

厚生労働省の令和4年の毎月勤労統計調査では、 建設業の月間実労働時間及び出勤日数を、調査産業計と比較すると、建設業の実労働時間・出勤日数の多さが分かります。

【建設業】
  • 月間実労働時間:163.5時間
  • 所定内労働時間:149.7時間
  • 所定外労働時間:13.8時間
  • 出勤日数:20.0日
【調査産業計】
  • 月間実労働時間:136.1時間
  • 所定内労働時間:126.0時間
  • 所定外労働時間:10.1時間
  • 出勤日数:17.6日

この調査によると、建設業は、月の実労働時間で27.4時間、所定外労働時間(残業時間)で3.7時間、出勤日数は2.4日、それぞれ調査産業平均より多くなっています。

この毎月勤労統計調査では、建設業のすべての職種の平均値が出されているため、職種によっては実労働時間や残業時間がさらに多くなっているケースもあります。

また建設業は、令和6年3⽉31日まで、36協定で定められた時間外労働の上限規制が適用されないため、どうしても残業が多くなる傾向があります。

そこでこの記事では、1章で建設業界における残業の実態を、2章では建設業界の残業に関する3つの問題点について解説します。

さらに、3章では未払い残業代の計算方法と割増率を、4章では未払い残業代を取り返す2つの方法について解説していきます。

この記事をしっかり読んで、未払い残業代の請求など早めに行動することをおすすめします。

未払い残業代を取り返したいというあなたへ、まずはお気軽にご相談ください
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1章:建設業界における残業の実態

先に解説した令和4年毎月勤労統計調査では、建設業の平均残業時間は月13.8時間となっていましたが、その実態は、サービス残業を含めると月100時間を超える残業も珍しくないようです。

実際に、令和3年にゼネコン大手の男性社員(当時29)が自殺した事件では、特別調査委員会は長時間労働が原因だったとする報告書をまとめており、その後労災が認定されています。

男性は、会社の時短目標のため勤務時間を過少に申告していましたが、男性の実際の残業時間を調べた結果、自殺する直前3か月は平均100時間を超えていました。

月100時間を超える残業は、労働基準法に違反し、また厚生労働省の過労死ラインの目安を超えています。

このように、建設業では100時間超の残業も珍しくない理由と、36協定の時間外労働の上限規制が適用されない点を解説していきます。

1-1:100時間超の残業も珍しくない理由

建設の仕事でこれほど残業が長くなるのは、単に会社がブラックだという理由だけではなく、業界全体の体質や慣例が関わっています。

具体的には、次のような点が建設業の仕事を過酷にし、社員の労働時間を長くする一因になっています。

  • 短納期でも工期を伸ばせない
  • 他社との競争が激しい
  • 業界全体の人手不足
  • 変わらない業界の体質

それぞれ解説していきます。

1-1-1:短納期でも工期を伸ばせない

建設現場では、依頼主から「いつまでに完成させてほしい」と納期が設定されます。

遅れると依頼主との今後の取引にも影響するため、施工会社にとっては、納期は絶対に守らなければいけない目標です。

また多少工期が短い仕事でも依頼を受けることも多く、現場の長時間労働を招く一因となっています。

1-1-2:他社との競争が激しい

2022年度の帝国データバンクの調査によると、建設業の倒産は1291件で前年より大幅に増加しています。

また、新型コロナウイルスや円安・世界情勢の影響による品不足や資材の高騰が続き、建設業界全体が大きな影響を受けています。

近年建設業界は、東日本大震災後の復興関連の工事や、東京五輪に向けた建設ラッシュが進んでいましたが、1990年代初頭のバブル期に比べると国内の工事受注件数は半減していると言われており、業界内での競争が厳しくなっています。

そのため、自社で仕事を受注するためには、短納期や安い工事費でも受け入れなければいけない場面もあり、こうしたしわ寄せは現場で働く人々に及んでいます。

1-1-3:業界全体の人手不足

建設業界では、長らく人手不足が叫ばれています。

他の業界も含めた全体では、仕事に就く人の数はほぼ変わっていないのに対し、建設業界は右肩下がりになっています。 

なかでも特に深刻なのが、若手の不足です。

過酷な仕事といった先入観から敬遠され、就職希望者が少なく、会社に入ってもすぐに辞めてしまう人が多いため、建設の職場では中堅以上の社員が多くても若手が圧倒的に足りなくなっています。

また若手社員は、ほかにも覚える仕事が多く、会社に戻ってから行う事務作業の量も膨大になるため、残業が長くなってしまいます。

1-1-4:変わらない業界の体質

建設業界の変わらない体質として

  • サービス残業も多い
  • 会社の規模に関わらず残業が多い

という傾向があります。

業界全体が残業体質で、長時間残業が珍しくない建設の職場では、残業時間の多くがサービス残業になることが慣例化しており、働く社員も「周りもそうだから」と受け入れることが普通になりがちです。

また、下請けの小さな会社だけでなく、中堅~大手ゼネコンクラスの大企業でも残業が常態化しているのがこの業界における残業の実態です。

また、建設業界は、伝統的に社風が体育会系の面があります。

上司は自分たちが経験した働き方を部下にも求める傾向があり、長時間のサービス残業を会社内で認める空気ができやすくなっています。

1-2:36協定の時間外労働の上限規制が適用されない

建設業は、労使間で締結した36協定の届出義務はありますが、令和6年3⽉31日まで、36協定で定められた時間外労働の上限規制が適用されません。

36協定の時間外労働の上限は、原則⽉45時間・年360時間とされていて、特別条項付き36協定を締結・届出すれば、一定の範囲内であればさらに残業時間を延長できます。

建設業は、これらの上限規制が適用されないため、簡単に言えば、残業を無制限にさせられるという状況です。

そのため、先にあげた労働時間を長くする理由に加えて、法律でも規制されていないため、残業がますます多くなってしまいます。

2章:建設業界の残業に関する3つの問題点

建設業界の残業に関する問題点としては、次の3つがあげられます。

  • 36協定の上限規制と残業代の誤解
  • 施工管理や現場監督と「管理監督者」の扱い
  • 残業代がごまかされるよくあるケース

それぞれ解説していきます。

2-1:36協定の上限規制と残業代の誤解

建設業では、残業時間の上限規制がない(令和6年3⽉31日まで)ことを説明しましたが、残業時間の上限と残業代の支払いについては、当然分けて考える必要があります。

会社側が社員に、「1日8時間、週40時間」を超えて仕事させた場合は、社員に対して「残業代」を支払わなければいけません。 

しかし一部の会社では、残業時間の上限に規制が入らないことで、残業が当たり前の特殊な業種と誤解しているのか、残業代のルールが守られていない傾向があります。

この建設業に対する残業の上限規制も、令和6年4月1日から他の業種と同じように上限規制が適用されるため、今までのような労務管理では大きな問題が生じる可能性があります。

2-2:施工管理や現場監督と「管理監督者」の扱い

残業時間が長い施工管理現場監督の場合、会社側から「管理職には残業代が出ない」と言われるケースが多くあります。

それは、労働基準法第41条2号で定める管理職(管理監督者)には、残業代や休日手当などの割増賃金を支払う必要がない(深夜手当を除く)と定められているからです。

管理監督者は、労働基準法では「労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と規定されています。

そのため、労働基準法における管理監督者の要素として次の3つがあげられます。

  • 経営者に近い責任・権限を与えられている
  • 労働時間管理を受けていない
  • 地位にふさわしい待遇を受けている

これらの条件を満たしていない場合は、法律上の管理監督者に該当しない可能性が高いです。

そのため、会社が管理職と呼ぶ施工管理や現場監督であっても、会社からの指示によって業務する社員の場合は、職務内容や待遇などの条件満たしていないため、管理監督者と認められるケースはほとんどありません。

このように、管理職という肩書だけで残業代が支払われていない場合は、実はサービス残業をさせられているだけであり、実際に残業代が支払われていない場合は違法です。

「管理職」の肩書が悪用されているケースについては、次の記事もご確認ください。

名ばかり管理職チェックリスト!問題点と残業代の請求方法を弁護士が解説

2-3:残業代がごまかされるよくあるケース

残業代がごまかされるよくあるケースとして、次の3つがあげられます。

  • 自主的な仕事には残業代が出ない
  • タイムカードなどで管理されていない
  • 決まった時間分しか残業代は出ない

それぞれ解説していきます。

2-3-1:自主的な仕事には残業代が出ない

現場監督などの仕事をしている人は、朝から現場に詰め、夕方に作業が終了してから会社に戻り、翌日の準備をしたり別の案件の作業をしたりするケースが多くあります。

上司や会社は、仕事を終わらせるために自主的に残って行っていると主張しますが、こうした作業は残業と認められることが多いです。

実際に、時間内に業務が終わらず、残業が常態化しているような場合は、具体的な指示がなくても、言葉にしない指示があったとする判例があります。

2-3-2:タイムカードなどで管理されていない

建設業の仕事では、現場に直行することが多く、タイムカードで勤怠を管理する体制が整っていない場合があります。

そのため、何時間働いていても労働時間は定時の8時~17時にされてしまうという事例がありますが、タイムカードがなくても働いた時間があなたの労働時間になります。

そのため、タイムカードがない場合は、メモやアプリを使って自分で毎日の始業時間・終業時間の記録を残す必要があります。

2-3-3:決まった時間しか残業代が出ない

社内規定として、「45時間以上は残業代が出ない」といったルールを設けている会社がありますが、これは残業代を支払わなくてもよい理由にはならず違法です。

一定の残業時間分の残業代を、最初から給料として払っておく「みなし残業制度(固定残業制度)」とセットで悪用されるパターンが目立ちますが、会社が勝手に残業代の上限を決めることはできないので、騙されないようにしましょう。

みなし残業制度については、次の記事もご確認ください。

【みなし残業制度】仕組みとブラック企業が利用しがちな理由を解説 

3章:未払い残業代の計算方法と割増率

現在の会社で、サービス残業が多く収入や仕事内容に不満がある場合は、転職を検討するのも一つの方法です。

もし転職を決めた場合は、これまでサービス残業で未払いになっていた残業代を請求することをおすすめします。

毎日の残業時間はそれほど長くない場合でも、3年間さかのぼって請求できるため、未払い残業代が100万円を超えるケースも珍しくありません。

そのため、日々の残業時間などしっかり確認しておくことが重要です。

3-1:未払い残業代の計算方法

建設業の場合は、終業後に残って仕事をする残業時間のほかに

  • 会社に集合してから現場に向かう移動時間
  • 休憩が設定されていても実際は働いた時間

なども残業時間としてカウントされます。

自分が1日にどれくらい働いているか、自分の残業時間を記録しておくことで、次の計算式で残業代を計算することができます。

残業代の計算式

ここでの「残業時間」とは、「1日8時間・週40時間」のどちらか一方でも超えた時間のことです。

残業時間には1.25倍の割増率がかけられる

①基礎時給を計算する
基礎時給とはあなたの1時間当たりの賃金のことで、時給制の場合は時給そのものので、月給制の場合は以下の計算式で計算します。

基礎時給の計算式
※一月平均所定労働時間とは、会社から定められた、あなたの1ヶ月あたりの平均労働時間のことで、170時間前後であるのが一般的です。

(計算例)
  • 月給20万円
  • 一月平均所定労働時間170時間
  • 残業80時間

20万円÷170時間=約1,176円

②割増率をかける
次に、①で計算した基礎時給に割増率をかけて「残業1時間当たりの賃金」を計算します。

割増率とは、残業や深夜労働、休日出勤をした場合にかけるもので、通常の残業は1.25倍で計算します。

※時間外労働の割増率について、詳しくは次の3-2で解説します。

基礎時給1,176円の場合
1,176円×1.25倍=1,470円

③残業時間をかける
最後に、②で計算した残業1時間当たりの賃金に実際に残業した時間をかけることで、1か月の残業代を計算することができます。

1,470円×80時間=11万7,600円

残業代を3年分さかのぼって請求すると考えると、

11万7,600円×36ヶ月=423万3,600円

と、請求額は高額になります。

3-2:時間外労働の割増率

法定時間外の残業に対しては、普段の賃金に「割増率」をかけて残業手当を算出し支払われます。

割増率とは、時間当たりに換算した賃金(基礎時給)にかけられる倍率のことで、大きく分けると次のようになります。

割増率

中小企業の令和5年4月1日から労働させた時間について、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が引き上げられました。

深夜労働は、原則として午後10時~午前5時に労働させた場合となります。

建設業界では、土曜日も工事に当てられ、実質週休2日制をとれていないことが多いため、土曜日に働いた給料も割増賃金の扱いになる可能性があります。

法定外休日の出勤扱いか、週40時間以上の残業扱いか、によって計算方法は異なりますが割増賃金の対象です。

休日の割増賃金の計算方法については、次の記事も合わせてご確認ください。

労働基準法の休日の定義とよくある疑問や違法な場合の対処法を解説

4章:未払い残業代を取り返す2つの方法

会社から本当は受け取れるはずの残業代を取り返すためには、大きく分けて次の2つの方法があります。

  • 自分で請求する方法
  • 弁護士に依頼する方法

自分で請求するとお金がかからないため、金銭的な面で有利なようですが、自分で会社と交渉する手間がかかり、取り返せる金額が少なくなることもあります。

弁護士への依頼の場合は取り返せる可能性が高く、手間がかからないのでおすすめです。

また、ここまで解説してきたように、未払い残業代の計算や会社との交渉は、専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することをおすすめします。

自分で請求する場合と、弁護士に依頼する場合のメリット・デメリットは次のようになります。

残業代請求を自分でやる場合と弁護士に依頼する場合の違い

このように、自分で請求する方法では、手間・時間・精神的負担が大きいだけでなく、弁護士に頼む方法に比べて回収できる金額が少なくなる可能性が高いです。

そのため、残業代請求はプロの弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士に相談するというと

「裁判みたいな大事になるのはちょっと・・・」
「費用だけで100万円くらいかかるのでは?」

と考えてしまう人もいるかもしれません。

しかし、弁護士に頼む=裁判ではありません。

残業代の請求でいきなり裁判になることは少なく、多くの場合「交渉」「労働審判」という形で会社に請求していきます。

また、残業代請求に強い「完全成功報酬制」の弁護士に依頼すれば、「相談料」や「着手金」ゼロで依頼することができます。

弁護士に依頼した場合の流れは、次のようになります。

弁護士に依頼した場合の流れ

弁護士に依頼すると、あなたの「会社と戦う」という精神的負担を、弁護士が肩代わりしてくれるだけでなく、時間・手間を節約することもできるのです。

ただし、弁護士に依頼する場合は、「弁護士なら誰でもいいだろう」とは考えないでください。

実は、法律の知識は広い範囲に及ぶため、自分の得意分野以外の事案については、あまり知識がない弁護士が多いです。

そのため、残業代請求に強い弁護士に依頼することをおすすめします。

残業代請求に強い弁護士の選び方や、相談の流れ・かかる費用などについて、詳しくは以下の記事に書いていますのでご覧ください。

【残業代請求】弁護士選びの8つのポイントと解決までの流れや費用を解説

また、残業代請求に必要な証拠集めについては、以下の記事に詳しく書いてありますのでご覧ください。

【弁護士が解説】残業代をアップさせる証拠一覧と集め方マニュアル

建設業界では勤怠管理がされない職場も多くあります。

そうした場合は、手書きのメモでも毎日の始業時間・終業時間・業務内容を記録しておくと証拠として認められるケースがあるので、日ごろから書き残しておくクセをつけておきましょう。 

まとめ:建設業界の残業の実態

今回の内容をもう一度振り返ってみましょう。

建設業で働く人の残業時間が長くなる理由

  • 短納期でも工期を伸ばせない
  • 他社との競争が激しい
  • 業界全体の人手不足
  • 変わらない業界の体質
  • 36協定の時間外労働の上限規制が適用されない。(令和6年3⽉31日まで)

ただ、こうした理由があっても、労働基準法では、「1日8時間、週40時間」を超えて働いた分は残業代を支払わなければならないと定めています。

そのため、以下のような理由で残業代の支払いを行わないことは違法になります。

  • 現場監督は管理職だから残業代が出ない
  • 自主的な仕事には残業代が出ない
  • タイムカードなどで管理されていない
  • 決まった時間分しか残業代は出ない

このように長時間の残業が当たり前の業界なので、未払いの残業代を請求した場合は、多額のお金が戻ってくる可能性があります。

残業代の計算方法や請求方法についてしっかり理解し、未払い残業代がある場合は、すぐに行動して取り戻せるチャンスを逃さないようにしましょう。

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弁護士法人QUEST法律事務所へのご相談は無料です。当事務所では、電話・メール・郵送のみで残業代請求できます。ですので、全国どちらにお住まいの方でも対応可能です。お1人で悩まずに、まずは以下よりお気軽にご相談ください。

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