
建設業界で働くあなたは、次のような悩みをお持ちではないでしょうか。
「残業100時間って普通じゃないよな」
「サービス残業も多いな」
「この業界はどうしてこんなに残業体質なんだろうか」
週休2日制がとれず、残業時間が長い建設業は、数ある業種の中でも最も過酷な仕事の一つとして知られています。
ただでさえ人手不足なのに加えて、最近は2020年のオリンピックに向けた建設ラッシュも加速し、現場で働く人の仕事量はさらに増えています。
後で詳しく説明しますが、建設業は残業時間の上限規制がないため、どうしても働く人の残業も多くなりがちです。とは言え建設業界で働く人も労働基準法で守られており、会社側が社員を思うがままに残業させることは「違法」になります。
この記事では、建設業界の残業の実態と正しいルールについてわかりやすく解説します。
最後までしっかり読んで内容を理解し、損のない働き方ができるようにしましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■建設業界における残業の実態
建設業界では長時間残業が常態化している会社も多く、残業時間がごまかされて表に出ないことも多い。
■建設の現場で長時間労働が生まれる背景
- 短納期でも工期を伸ばせない
- 他社との競争が激しい
- 業界全体の人手不足
- 建設業は36協定から適用除外
■建設業における残業の正しいルールを解説
- 自主的な仕事には残業代が出ない
- タイムカードなどで管理されていない
- 現場監督は管理職だから残業代が出ない
- 決まった時間分しか残業代は出ない
目次
1章:建設業界における残業の実態
それではさっそく、建設業の残業の実態を紹介します。
1-1:100時間超の残業も珍しくない建設業
転職情報サイトのDODAの残業時間に調査によると「建設業界」は、全95の職種のうち残業時間が3番目に長いとされています。
平均残業時間は51.3時間とされ、建設業の上には映像関連、編集職と長時間残業で有名な職種しかありません。
昨年、新国立競技場の建設現場で現場監督をしていた23歳の新入社員が過労自殺するという痛ましい問題が起こりましたが、この男性が自殺する直前1カ月の残業は200時間を超えていたことが報じられています。
このように、建設業界では残業時間が極めて長いのが特徴です。
1-2:サービス残業も常態化
さらに、この業界では、
・サービス残業も多い
・会社の規模に関わらず残業が多い
という傾向があります。
業界全体が残業体質で、長時間残業が珍しくない建設の職場では、残業時間の多くがサービス残業になることが慣例化しており、働く社員も「周りもそうだから」と受け入れることが普通になりがちです。
また、下請けの小さな会社だけでなく、中堅~大手ゼネコンクラスの大企業でも残業が常態化しているのがこの業界における残業の実態です。
2章:建設の現場で長時間労働が生まれる背景
建設の仕事でこれほど残業が長くなるのには、単に会社がブラックだという理由だけではなく、業界全体の体質や慣例が関わっています。
具体的には、次のような点が建設業の仕事を過酷にし、社員の残業時間を長くする一因になっています。
・短納期でも工期を伸ばせない
・他社との競争が激しい
・業界全体の人手不足
・昔から変わらない業界の体質
順番に見ていきましょう。
2-1:短納期でも工期を伸ばせない
建設現場では、依頼主から「いつまでに完成させてほしい」と納期が設定されます。
遅れると罰則金が発生し、依頼主との今後の取引にも影響するため、施工会社にとっては、納期は絶対に守らなければいけない目標です。
また多少工期が短くても依頼を受けることも多く、現場の長時間労働を招く一因となっています。
2-2:他社との競争が激しい
近年は東日本大震災後の復興関連の工事や東京五輪に向けた建設ラッシュが進んでいます。
しかし、1990年代初頭のバブル期に比べると国内の工事受注件数は半減していると言われており、業界内での競争が厳しくなっています。
自社で仕事を受注するためには、短納期や安い工事費でも受け入れなければいけない場面もあり、こうしたしわ寄せは現場で働く人々に及びます。
2-3:業界全体の人手不足
建設業界では、長らく人手不足が叫ばれています。他の業界も含めた全体では仕事に就く人の数はほぼ変わっていないのに対し、建設業界は右肩下がりになっています。
なかでも特に深刻なのが若手の不足です。
過酷な仕事として知られ働き手が少なく、会社に入ってもすぐに辞めてしまう人が多いため、建設の職場では中堅以上の社員が多くても若手が圧倒的に足りなくなっています。
若手社員は、ほかにも覚える仕事が多く、会社に戻ってから行う事務作業の量も膨大になるため、残業が長くなってしまうのです。
2-4:変わらない業界の体質
建設業界は、伝統的に社風が体育会系の面があります。
建設業界で働いているあなたは、長い残業時間について、上司から
「残業は当たり前」
「昔はもっと働いた」
などと言われた経験があるのではないでしょうか。
上司は自分たちが経験した働き方を部下にも求める傾向があり、長時間のサービス残業を会社内で認める空気ができやすくなります。
3章:建設業における残業の正しいルールを解説
ここからは、建設業界における残業の正しいルールを見ていきましょう。
3-1:建設業は残業時間の上限がない
社員を残業させるためには、会社側が社員と「36協定」と呼ばれる協定を結ぶ必要があります。
36協定では残業時間の上限も決められていますが、次の4つの業務については適用除外とされています。
その業務とは
- 工作物の建設等の事業
- 自動車の運転の業務
- 新技術、新商品等の研究開発の業務
- 厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務
で、建設業はこの一つ目に当てはまります。
建設業は、季節によって業務量の差が大きく、天候などの条件にも進捗が左右されやすいため、残業時間の上限規制が適用されないのです。
36協定については、次の記事でも詳しく解説しているのでご覧ください。
36協定とは?5分で分かる定義・役割と、違法性が分かる判断基準
3-2:残業時間の「上限」はなくても残業代は発生する
建設業では、残業時間の上限時間がないことを説明しましたが、残業時間の上限と残業代の支払いについては分けて考える必要があります。
会社側が建設会社の社員に「1日8時間、週40時間」を超えて仕事させた場合は「残業代」を支払わなければいけません。
そのため、以下のような理由で残業代の支払いを行わないことは違法になります。
・自主的な仕事には残業代が出ない
・タイムカードなどで管理されていない
・現場監督は管理職だから残業代が出ない
・決まった時間分しか残業代は出ない
一つずつ確認していきましょう。
3-2-1:自主的な仕事には残業代が出ない
現場監督などの仕事をしている人は、朝から現場に詰め、夕方に作業が終了してから会社に戻って翌日の準備をしたり、別の案件の作業をしたりするケースが多くあります。
上司や会社はこのような言葉で、残業は仕事を終わらせるために自主的に行っているとしますが、こうした作業は残業と認められることが多いです。
3-2-2:タイムカードなどで管理されていない
建設業の仕事では、現場に直行することが多く、タイムカードで勤怠を管理する体制が整っていない場合もあります。
そのため、何時間働いていても労働時間は定時の8時~17時にされてしまうという事例がありますが、タイムカードがなくても働いた時間があなたの労働時間になります。
3-2-3:現場監督は管理職だから残業代が出ない
残業時間が長い現場監督に多いケースですが、会社側から
「管理職には残業代が出ない」
と言われるケースがあります。
法律で定める管理職(管理監督者)には、残業代や休日手当などの割増賃金を支払う必要がないのですが、こうした管理監督者と認められる条件は厳しくなっています。
管理監督者として認められるためには、
といった点を満たす必要があり、会社から指示を受けることが多い若手社員が認められるケースはほとんどありません。
「管理職」の悪用については、次の記事もご確認ください。
弁護士が「名ばかり管理職」を解説「管理職だから残業代無し」は違法
3-2-4:決まった時間しか残業代が出ない
社内規定として、
「45時間以上は残業代が出ない」
といったルールを設けている会社がありますが、残業代を支払わない理由にはならず、違法になります。
一定の残業時間分の残業代を、最初から給料として払っておく「みなし残業制度(固定残業制度)」とセットで悪用されるパターンが目立ちますが、会社が勝手に残業代の上限を決めることはできないので、騙されないようにしましょう。
みなし残業制度については、次の記事もご確認ください。
4章:受け取れるはずだった割増賃金の計算方法
それでは早速、残業代の計算方法について説明します。
4-1:残業代の計算方法
建設業の場合は、終業後に残って仕事をする残業時間のほかに
・会社に集合してから現場に向かう移動時間
・休憩が設定されるも実際は働いた時間
なども残業時間としてカウントされます。
自分の残業時間がわかれば、
という式で受け取ることができる残業代がわかります。
細かい計算方法については、次の記事をご確認ください。
【在職中でも退職後でもOK】残業代を請求するための完全マニュアル
4-2:休日出勤も割増賃金支払いの対象
土曜日も工事に当てられ、実質週休2日制をとれていないことが多いのが建設業界です。
実は多くの人が見落としがちですが、この土曜日に働いた給料も割増賃金の扱いになります。
休日の割増賃金の計算方法については、次の記事も合わせてご確認ください。
労働基準法上の休日の定義とよくある4つの疑問を弁護士が徹底解説!
5章:正しい残業代を請求する方法
ここまで読んだあなたは、自分でも実際に残業代を請求したいと考えたのではないでしょうか。
未払いの残業代を請求するためには、大きく分けて
・自分で会社に直接請求する方法
・弁護士に依頼して請求する方法
という2つのやり方があります。
それぞれのメリットとデメリットは次の通りです。
自分に合った方法で請求するのがベストですが、建設業界で働く人の場合は、
・忙しくて自分で手続きを進めるヒマがない
・さまざまな業界特有のルールがあり計算方法が複雑
・弁護士のほうが高額の残業代を取り戻せる可能性がある
といった理由から、労働問題専門の弁護士への依頼をオススメします。
残業代請求に必要な証拠集めについては、以下の記事に詳しく書いてありますのでご覧ください。
【弁護士が解説】残業代をアップさせる証拠一覧と集め方マニュアル
建設業界では勤怠管理がされない職場も多くあります。そうした場合は手書きのメモでも毎日の始業時間・終業時間・業務内容を記録しておくと証拠として認められるケースがあるので、日ごろから書き残しておくクセをつけておきましょう。
まとめ
いかがでしたか?今回の内容をもう一度振り返ってみましょう。
残業時間が極めて長く、それもサービス残業も多い建設業界。
建設業で働く人の残業時間が長くなる理由としては
・短納期でも工期を伸ばせない
・他社との競争が激しい
・業界全体の人手不足
・建設業は36協定から適用除外
といった業界の背景があります。
ただ、こうした理由があっても、労働基準法では、「1日8時間、週40時間」を超えて働いた分は残業代を支払わなければならないと定めています。
そのため、以下のような理由で残業代の支払いを行わないことは違法になります。
・自主的な仕事には残業代が出ない
・タイムカードなどで管理されていない
・現場監督は管理職だから残業代が出ない
・決まった時間分しか残業代は出ない
このように長時間の残業が当たり前の業界なので、未払いの残業代を請求した場合は、多額のお金が戻ってくる可能性があります。
残業代の計算方法や請求方法についても説明しているので、自分が当てはまる人はすぐに行動して、取り戻せるチャンスを見逃さないようにしましょう。
しっかりと法律を理解し、お金の面でも納得できる働き方を目指しましょう。