
あなたは、以下のような悩みや疑問をお持ちではありませんか?
「フレックスタイム制の場合、どこからが残業になるんだろう?」
「フレックスタイム制では、残業の上限はあるのかな?」
「フレックスタイム制の場合、残業代はどう計算するんだろう?」
フレックスタイム制は、通常とは異なる労働時間・残業のルールを持っていますが、しっかりルールを知った上で働いている人は少ないようです。あなたも「聞いたことはあるけれど、正確にはよく分からない」というのが本音ではないでしょうか?
しかし、中には、労働時間の管理を曖昧にし、社員に長時間残業・サービス残業を強いる手段として、フレックスタイム制を悪用する会社も存在します。
そのため、大事なのは、会社から都合良く利用されないために、「フレックスタイム制の正しいルール」を知った上で働くことです。
そこでこの記事では、まずはフレックスタイム制の残業のルールや違法になるケースについて、詳しく解説します。
さらに、フレックスタイム制の場合の残業代のルールや、残業代の計算方法、そして、違法性がある場合の対処法についてもお伝えしていきます。
最後までしっかり読んで自分の状況を確認し、いつでも状況を改善する行動を起こせるように準備しておきましょう。
全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点
■フレックスタイム制とは
「始業や就業の時間を社員が自分で自由に決めることができる働き方」で、「労働時間が1日単位ではなく、1週間や1ヶ月単位でカウントされ、それが残業の基準になる」という特徴がある。
簡単に言うと、あらかじめ決められた労働時間の枠内なら、何時間働いても残業にならない(残業代が出ない)制度。
■フレックスタイム制の残業になる時間
- あらかじめ決められた総所定労働時間を超えて働き、法定労働時間内の場合は、法内残業
- 清算期間が1ヶ月以内の場合・・・週40時間の法定労働時間を超えて働いた時間が法外残業
- 清算期間が1ヶ月の場合・・・前述の表における1ヶ月当たりの法定労働時間を超えて働いた時間が法外残業
目次
1章:フレックスタイム制の場合の残業のルールと違法になるケース
フレックスタイム制とは
「始業や就業の時間を社員が自分で自由に決めることができる働き方」
のことで、
「労働時間が1日単位ではなく、1週間や1ヶ月単位でカウントされ、それが残業の基準になる」
という特徴があります。
まずは、フレックスタイム制の残業のルールについて解説します。
それよりも、残業代のルールから知りたい場合は、2章から読んでください。
フレックスタイム制の一番の特徴は、残業の基準が1日単位ではなく、1週間や1ヶ月単位になっているということです。
そのため、あらかじめ決められた労働時間の枠内なら、何時間働いても残業にならない(残業代が出ない)のです。
通常の労働形態の場合、1日8時間・週40時間を超えて働くと残業になり、その時間分の残業代が発生します。
フレックスタイム制の場合は、あらかじめ決められた労働時間内なら、1日8時間・週40時間を超えて働いても残業になりません。
もう少し詳しく解説しましょう。
フレックスタイム制では、あらかじめ「一定の期間(精算期間)と、その期間内の「総所定労働時間(契約時間)」が決められています。
「一定の期間(清算期間)」内で、「総所定労働時間」を超えなければ、1日8時間・週40時間を超えて自由に働くことができるのです。
清算期間を1ヶ月以内の期間で定める場合は、その清算期間を平均した1週間当たりの総所定労働時間が40時間以内である必要があります。
また、清算期間を1ヶ月とした場合は、以下の表の時間以内である必要があります。
1ヶ月の日数 |
月の法定労働時間 |
28日 |
160.0時間 |
29日 |
165.7時間 |
30日 |
171.4時間 |
31日 |
177.1時間 |
フレックスタイム制の場合の「法内残業」とは、「総所定労働時間」を超えて働いていても、労働時間が以下の時間を超えない残業のことです。
- 精算期間が1週間の場合:40時間
- 精算期間が1ヶ月の場合:先ほどの表の通り、160時間〜177.1時間
以上の時間は、労働基準法で定められた労働時間の基準ですので、この時間内の残業は「法内残業」なのです。
一方で、総所定労働時間を超え、さらに上記の法定労働時間も超えて残業した場合は、「法外残業」になります。
《フレックスタイム制の例》
- 清算期間=1週間
- 総所定労働時間=40時間
上記の条件の場合。
上記の場合、(月)は5時間、(火)は10時間と毎日働く時間が異なっています。通常の労働形態の場合、(火)と(木)は「1日8時間」を超えて労働しているため、残業(法外残業)になります。
しかし、フレックスタイム制の場合、1週間という清算期間内の労働時間が、法定労働時間である「40時間」を超えていないため、この週は法外残業がないことになります。
ただし、このケースでは、清算期間が40時間と定められているため、この週に40時間を超えて労働した場合、40時間を超えた時間が法外残業になります。
2章:フレックスタイム制の残業代のルール
フレックスタイム制は、1章で解説したように、「残業」について通常の労働形態とは異なる基準があります。
そのため、残業代のルールも、通常の労働形態とは異なるのです。
簡単に言うと、
- 働いた時間が、あらかじめ決めた総所定労働時間を超えているが、法定労働時間を超えていない場合→1.0倍の残業代発生
- 働いた時間が、法定労働時間を超えている場合→1.25倍の残業代発生
- 働いた時間が、あらかじめ決めた総所定労働時間に満たなかった場合→賃金カットor労働時間のくり越し
というルールがあります。
それでは、これらのルールについて詳しく解説します。
2−1:法定労働時間を超えていない場合と超えた場合で残業代が異なる
フレックスタイム制の場合、残業時間が「総所定労働時間を超えているが、法定労働時間内」である場合は、1.0倍の残業代が発生します。
※1.0倍の意味について、詳しくは3章で解説します。
しかし、実際の残業時間が、総所定労働時間を超え、さらに法定労働時間も超えていた場合は、1.25倍の残業代が発生します。つまり、残業代が高くなるのです。
-
残業が総所定労働時間を超え、法定労働時間を超えていない・・・1.0倍の残業代発生
-
残業が総所定労働時間を超え、法定労働時間も超えている・・・1.25倍の残業代発生
- 1週間の法定労働時間・・・40時間
- 1ヶ月の法定労働時間・・・以下の表の時間
1ヶ月の日数 |
月の法定労働時間 |
28日 |
160.0時間 |
29日 |
165.7時間 |
30日 |
171.4時間 |
31日 |
177.1時間 |
この法定労働時間を超えて働いた場合、1.25倍の割増率がかけられた残業代が発生するのです。
詳しい計算方法は3章で解説します。
2−2:働いた時間が総所定労働時間に満たなかった場合
フレックスタイム制の場合、1日の労働時間が自由であるため、実際に働いた時間が、あらかじめ決められた「総所定労働時間」に満たない場合もあると思います。
この場合は、
- 満たなかった時間分賃金をカット
- 労働時間を翌月に繰り越す
ということができます。
もちろん会社は、賃金をカットしたり労働時間を繰り越したりせずに、満額支払うこともできます。
ただし、総所定労働時間を超えて働いた場合に、その時間(残業)分を翌月の総所定労働時間から差し引くことはできません。
そのため、会社から「今月はたくさん働いたから、その分来月の労働時間を減らそう」などと言われて、残業代が出ていなければ違法です。
そのため、もし残業代がごまかされていたら会社に請求して取り返せる可能性が高いです。
3章:フレックスタイム制の場合の残業代の計算方法
フレックスタイム制の場合、残業代は以下の計算式で計算することができます。
ただし、フレックスタイム制の場合は、法内残業と法外残業を区別して計算することがポイントです。
それでは、順番に解説します。
①基礎時給を計算する
基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金のことです。月給制の人の場合は、以下の計算式で計算することができます。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
※一月平均所定労働時間とは、会社によって決められたあなたの1ヶ月当たりの労働時間の平均のことです。一般的に170時間前後であることが多いです。
上記の条件の場合、
20万円÷170時間=1176円(基礎時給)
になります。
②割増率をかける
次に、基礎時給に割増率をかけて「残業1時間当たりの賃金」を計算します。
割増率は、法内残業の場合は「1.0倍」、法外残業の場合や「1.25倍」をかけます。
そのため、計算すると以下のようになります。
(計算例)基礎時給1176円の場合
法内残業
1176円×1.0=1176円
法外残業
1176円×1.25=1470円
③残業時間をかける
②で計算した「残業1時間当たりの賃金」に、残業時間をかけることで、残業代を計算することができます。
これも、フレックスタイム制の場合は、法内残業と法外残業を区別して計算します。
フレックスタイム制では、
- あらかじめ決められた総所定労働時間を超えて働き、法定労働時間内の場合は、法内残業
- 清算期間が1ヶ月以内の場合・・・週40時間の法定労働時間を超えて働いた時間が法外残業
- 清算期間が1ヶ月の場合・・・前述の表における1ヶ月当たりの法定労働時間を超えて働いた時間が法外残業
ですので、具体的に計算すると以下のようになります。
(計算例)
- 精算期間:平成30年1月1日から1ヶ月
- 総所定労働時間:160時間
- 実際の月の労働時間:250時間
1月は31日まであるため、法定労働時間は「177.1時間」。
そのため、残業時間は、
法内残業
177.1時間―160時間=17.1時間
法外残業
250時間―177.1時間=72.9時間
になります。
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
として残業代を計算すると、
法内残業の残業代
(20万円÷170時間)×1.0×17.1時間=2万110円
法外残業の残業代
(20万円÷170時間)×1.25×72.9時間=10万7163円
両方を足すと
2万110円+10万7163円=12万7273円
と計算できます。
4章:違法な残業が行われている場合の対処法
ここまでお伝えしたように、フレックスタイム制でも残業の上限がありますし、法定労働時間を超えて労働した場合は、1.25倍の残業代が発生します。
しかし、
- フレックスタイム制を理由に、長時間残業を強いられている
- フレックスタイム制を理由に、残業代をもらえていない
ということもよくありますので、これらの場合は、これから紹介する対象法を実践することをおすすめします。
【長時間残業が発生している場合】
残業には法律上の上限があるため、毎月45時間を超えるような残業が日常化しているような場合、違法である可能性があります。
残業が多い場合の対処法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【サービス残業が発生している場合】
フレックスタイム制を理由に残業を強いられ、しかも残業代が一切ないという場合は、会社に請求することで取り返せる可能性が高いです。
会社への請求方法には、以下の2つがありますので、ぜひご覧ください。
残業代を自分で請求する方法
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
残業代を弁護士に依頼して請求する方法
まとめ
いかがでしたか?
最後にもう一度、今回の内容を振り返ります。
【フレックスタイム制とは】
「始業や就業の時間を社員が自分で自由に決めることができる働き方」で、「労働時間が1日単位ではなく、1週間や1ヶ月単位でカウントされ、それが残業の基準になる」という特徴がある。
【フレックスタイム制の残業になる時間】
- あらかじめ決められた総所定労働時間を超えて働き、法定労働時間内の場合は、法内残業
- 清算期間が1ヶ月以内の場合・・・週40時間の法定労働時間を超えて働いた時間が法外残業
- 清算期間が1ヶ月の場合・・・前述の表における1ヶ月当たりの法定労働時間を超えて働いた時間が法外残業
【未払い残業代がある場合の対処法】
- 自分で直接会社に請求する
- 弁護士に依頼して請求する
フレックスタイム制は、考え方が少し難しい制度です。そのため、もし残業について「違法では?」と思うことがあれば、専門家に相談してみてください。
【参考記事一覧】
長時間残業がある場合、以下の記事で改善方法を知ってください。
残業が多いあなたに!違法性の3つの基準とすぐにできる改善方法
残業代を自分で請求する場合は、以下の記事で詳しく方法を解説しています。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
残業代を請求する方法は、以下の記事で徹底解説していますので、ぜひご覧ください。