【不倫慰謝料】差し押さえできる3つの条件や財産と流れを弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- 不倫慰謝料を支払わない相手に差し押さえできる3つの条件
- 強制執行で差し押さえできる財産
- 強制執行で差し押さえできない財産
- 強制執行で差し押えするまでの流れ
あなたは、
- 不倫慰謝料を払わない相手に差し押さえできるか知りたい
- 相手の財産を差し押さえて慰謝料を払わせたい
- 相手の財産を差し押さえするまでの流れが知りたい
などとお考えではありませんか?
結論から言うと、不倫慰謝料が支払われない場合は、裁判所に債権差押命令の申立てをすることで、相手の財産を差し押さえて強制的に不倫慰謝料を回収できる可能性があります。
例えば、相手の給与を差し押さえた場合は、慰謝料の全額を回収できるまで、毎月の給与から慰謝料を強制的に回収します。
ただし、裁判所に申立てて相手の財産を差し押さえるためには、次の3つの条件が必要です。
- 債務名義を取得していること
- 相手方に慰謝料を支払う財産があること
- 相手方の住所や財産を把握していること
また、強制執行によって差し押さえできる財産と、差し押さえできない財産があります。
そこでこの記事では、
1章では、不倫慰謝料を支払わない相手に差し押さえできる3つの条件
2章では、強制執行で差し押さえできる財産
3章では、強制執行で差し押さえできない財産
4章では、強制執行で差し押えするまでの流れ
について解説します。
この記事の内容をしっかり理解して、不倫慰謝料が支払われない場合には、相手の財産を差し押さえる方法も検討してください。
目次
1章:不倫慰謝料を支払わない相手に差し押さえできる3つの条件
不倫慰謝料を支払わない相手に差し押さえできる条件として、次の3つがあげられます。
- 債務名義を取得していること
- 相手方に慰謝料を支払う財産があること
- 相手方の住所や財産を把握していること
それぞれ解説します。
1-1:債務名義を取得していること
相手の給料や財産を差し押さえる債権差押命令の申立てをするためには、債務名義を取得していることが条件になります。
債務名義とは、金銭等の支払いを請求できる権利を証明する公的な文書のことで、次のようなものがあげられます。
- 確定判決
- 仮執行宣言付判決
- 和解調書
- 調停調書
- 執行認諾文言付公正証書
- 仮執行宣言付支払督促
例えば、示談によって慰謝料の支払いに関する合意が成立した場合の強制執行認諾文言付の公正証書や、裁判所への慰謝料請求の申し立てによる調停調書・確定判決・和解調書などの公文書が債務名義となります。
これらの債務名義がない場合は、強制執行が認められないため注意が必要です。
1-2:相手方に慰謝料を支払う財産があること
相手の給料や財産を差し押さえるためには、相手方に慰謝料を支払う財産があることが条件になります。
差し押さえは、裁判所に相手の財産の差し押さえを申し立てて、強制的に未払いの債権を回収する手続きです。
そのため、相手に慰謝料を支払うだけの財産がない場合は、裁判で慰謝料の支払いが命じられても回収できないため注意が必要です。
また、差し押さえによって相手の給料から回収できますが、原則として給料から所得税・住民税・社会保険料を引いた月額給料の4分の1までが差押えの対象と定められています。
さらに、同じ月額給料の額が44万円を超える場合は、33万円を超える部分について全額差し押さえできます。
1-3:相手方の住所や財産を把握していること
差し押さえの申し立てをする場合は、相手の住所と財産を特定する必要があるため、相手の住所や財産について把握していることが条件になります。
相手の住所は、本籍地の市町村から戸籍謄本を取り寄せたり、住民票から転居先を確認したりできますが、難しい場合は弁護士に依頼しましょう。
また、給与を差し押さえする場合は、勤務先の情報も把握しておくことが必要です。
相手の財産については、
- 裁判所の財産開示手続き
- 第三者からの情報取得手続き
などを利用することで、相手の財産に関する情報を把握できる場合があります。
ご自身での手続きが難しい場合は、弁護士に依頼しましょう。
2章:強制執行で差し押さえできる財産
不倫慰謝料を強制執行で回収する場合、差し押さえできる相手の財産を把握しておくことが大切です。
主に、差し押さえの対象となる財産には、次の3つがあげられます。
- 債権(給与・預貯金)
- 動産
- 不動産
それぞれ解説します。
2-1:債権(給与・預貯金)
相手が保有している債権は、差し押さえの対象になります。
代表的なものでは、勤務先からの給与、金融機関の口座にある預貯金があげられます。
相手の給与を差し押さえた場合は、その月の給与だけでなく、不倫慰謝料の全額を回収するまで毎月差し押さえの効力が及ぶことが特徴です。
そのため、相手が退職しない限り、毎月の給与から未払いの不倫慰謝料を回収できます。
ただし、預貯金の場合は、差し押さえた時点での預貯金残高が対象となるため注意が必要です。
差し押さえの直前に全額引き出していた場合は、不倫慰謝料を回収できない可能性もあります。
加えて、差し押さえ以降に入金された預貯金は、差し押さえの対象外となります。
2-2:動産
現金や自動車をはじめとする動産も、差し押さえの対象であり、主な動産には次のようなものがあります。
- 現金
- 自動車
- 宝石類
- 美術品
- 骨董品
- 1か月以内の収穫が確実な農作物
- 裏書の禁止されていない有価証券(株券・手形・小切手など)
動産は、債権者の生活に必要不可欠なものを除き、幅広いものが差し押さえ対象です。
しかし、美術品や骨董品は、換価を特定することが難しいため、差し押さえの対象にしないケースもあります。
2-3:不動産
債権者が、土地や建物などの不動産を所有している場合は、差し押さえの対象になります。
不動産は比較的、財産としての価値が高いので、競売にかけて売却し売却代金のなかから未払いの不倫慰謝料を回収します。
ただし、抵当権などの担保権がある場合は、差し押さえができたとしても、金融機関の担保権が優先されるため、不動産の価値によっては、不倫慰謝料の回収が難しい場合もあるので注意が必要です。
3章:強制執行で差し押さえできない財産
強制執行は、相手方の財産を強制的に差し押さえることができますが、法律では相手方の最低限の生活に考慮して、差し押さえできないものを定めています。
不倫慰謝料の未払いを回収する目的とはいえ、強制執行する際は、差し押さえできない次の2つに注意しなければなりません。
- 差押禁止動産
- 差押禁止債権
それぞれ解説します。
3-1:差押禁止動産
差押禁止動産とは、民事執行法131条で定める、差し押さえできない動産のことです。
すべての財産を差し押さえられるわけではなく、相手方の最低限の生活確保に配慮しなければならないからです。
主に、相手方の生活に欠かせない衣類や家財などをはじめ、次のようなものがあげられます。
- 債権者の生活に欠かせない家電・家財・衣類など
- 1か月の生活に必要な食料や燃料
- 66万円までの現金
- 位牌や仏像など
- 債権者の身体の補足に必要なもの
- 生活に欠かせない実印などの印鑑
3-2:差押禁止債権
給与は、本来は差し押さえできる債権ですが、相手方の生活に必要な範囲は、差し押さえが禁止されています。
慰謝料請求の場合は、次の範囲を超える部分の差し押さえが禁止されます。
- 手取り月額44万円以下:手取り額の1/4
- 手取り月額44万円超:手取り額から33万円を引いた金額
このほかでは、社会保障として支給されるものがあたります。
- 国民年金
- 厚生年金
- 生活保護給付金
ただし、これらの社会保障が債権者の口座に振り込まれた場合は、預貯金債権とみなされるため、全額が差し押さえの対象となります。
4章:強制執行で差し押えするまでの流れ
対象となる財産を差し押さえる際は、おおまかに次のような流れで手続きを行います。
- 相手の住所や財産などを調べる
- 裁判所への申し立て書類を準備する
- 裁判所に「債権差押命令申立」を行う
- 債権差押命令の発令
- 相手方の勤務先や金融機関から取り立てをする
- 裁判所に取立届を提出する
1.相手の住所や財産などを調べる
強制執行の申し立てをする際は、相手方の住所と財産を特定しなければなりません。
住所は戸籍や住民票から調査できますが、元配偶者に対しては取得が困難なため、弁護士に依頼することをおすすめします。
財産については、裁判所の財産開示手続きにより把握できますが、弁護士に依頼する場合は一緒に調べてもらうとよいでしょう。
2.裁判所への申し立て書類を準備する
次に、申し立て書類には次のような種類があります。
- 債権差押命令申立書
- 執行力のある債務名義正本
- 債務名義の送達証明書
- 資格証明書(法人の場合)
事前に準備しておきましょう。
3.裁判所に「債権差押命令申立」を行う
書類を準備したら、相手方の住所を管轄する地方裁判所に債権差押命令の申し立てを行います。
その際、手数料分の収入印紙と郵送するための切手代がかかるので、こちらも裁判所で事前の確認が必要です。
4.債権差押命令の発令
債権差押命令の申し立てが受理されると、債権差押命令が発令されます。
債権差押命令は、裁判所から相手方の勤務先や金融機関に送付され、各所から相手方へ債権の支払いが禁止されます。
その後、裁判所から相手方に債権差押命令が送付され、相手方は給与の一部や預貯金を引き出せなくなります。
5.相手方の勤務先や金融機関から取り立てをする
債権差押命令発令後は、あなたが自分で相手方の勤務先や金融機関に直接連絡をして不倫慰謝料を取り立てします。
取り立ては、差し押さえを申し立てた本人が行わなければならない点には注意が必要です。
6.裁判所に取立届を提出する
不倫慰謝料を全額回収できた場合は、裁判所に取立届を提出し、強制執行による差し押さえ手続きは終了します。
まとめ:不倫慰謝料を支払わない相手には差し押さえできる
■不倫慰謝料を支払わない相手に差し押さえできる条件
- 債務名義を取得していること
- 相手方に慰謝料を支払う財産があること
- 相手方の住所や財産を把握していること
差し押さえできる財産は、給与・預貯金などの債権、動産・不動産。
しかし、差押禁止動産と差押禁止債権が定められているため、相手方のすべての財産を差し押さえることはできません。
■強制執行(差し押え)までの流れ
- 相手の住所や財産などを調べる
- 裁判所への申し立て書類を準備する
- 裁判所に「債権差押命令申立」を行う
- 債権差押命令の発令
- 相手方の勤務先や金融機関から取り立てをする
- 裁判所に取立届を提出する
この記事の内容を参考にして、不倫慰謝料が未払いになったときに差し押さえする場合に役立ててください。