別居中の婚姻費用とは?請求方法や決める方法、支払われない時の対処法
この記事を読んで理解できること
- 別居中の婚姻費用とは?
- 別居中の婚姻費用の請求と「養育費・婚姻費用算定表」
- 婚姻費用を請求する方法
- 別居中の婚姻費用が支払われないときの対処法
あなたは、
- 別居中の婚姻費用について知りたい
- 別居中の婚姻費用を請求したい
- 婚姻費用の金額を決める方法は?
などとお考えではありませんか?
婚姻費用とは夫婦の生活にかかる費用のことで、別居中であっても夫婦のうち収入の少ない方が、収入の多い配偶者に対して請求できます。
婚姻費用の金額は、基本的には夫婦の話し合いによって決められますが、裁判所が公開している「婚姻費用算定表」を参考にして算出することが一般的です。
そこでこの記事では、
1章では、別居中の婚姻費用とは?
2章では、別居中の婚姻費用の請求と「養育費・婚姻費用算定表」
3章では、婚姻費用を請求する方法
4章では、別居中の婚姻費用が支払われないときの対処法
について解説します。
この記事の内容をしっかり理解して、離婚に向けての別居や、婚姻費用を請求する際の参考にしてください。
目次
1章:別居中の婚姻費用とは?
婚姻費用とは夫婦の生活にかかる費用のことで、別居中であっても夫婦のうち収入の少ない方が、収入の多い配偶者に対して請求できます。
具体的には、
- 家賃・水道光熱費
- 食費
- 被服費・生活用品費
- 医療費
- 交通・通信費
- 子どもの学費
など、家族の生活に必要な費用がすべてあげられます。
2章:別居中の婚姻費用の請求と「養育費・婚姻費用算定表」
この章では、別居中の婚姻費用の請求と、婚姻費用を算定する目安となる裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」について解説します。
2-1:別居中の婚姻費用の請求
民法760条では、
「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」
と定められています。
この「婚姻から生ずる費用」が婚姻費用にあたり、別居した場合でも婚姻を継続しているため、収入の多い方が収入の少ない配偶者に対して分担する義務があるということです。
つまり、別居した場合は、収入の多い配偶者に対して婚姻費用を請求できます。
例えば、夫が一方的に別居を始めて、夫の収入の方が多い場合は、残された妻は夫に対して婚姻費用の請求が可能です。
ただし、別居の原因が妻の不倫など収入の少ない側にある場合は、妻からの婚姻費用の請求が認められないケースもあります。
2-2:裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」
別居中の婚姻費用の金額は、裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」を参考にして決められることが一般的です。
婚姻費用算定表は、夫婦それぞれの収入や子供の人数・年齢などによって、婚姻費用を算定する際の資料として公表されています。
この算定表では、婚姻費用を支払う側「義務者」の年収、支払いを受ける側「権利者」年収によって、婚姻費用がグラフ化されています。
例えば、義務者の総収入が450万円、権利者の総収入が150万円で、5歳の子どもが1人いる場合、算定表では4~6万円の下の方に当たるため、4万円程度が婚姻費用の相場となります。
また、義務者の総収入が600万円になると、同じ条件では6万円程度が婚姻費用の相場となります。
3章:婚姻費用を請求する方法
別居中の婚姻費用を請求する方法としては、次の4つがあげられます。
- 夫婦で話し合う
- 弁護士に交渉を依頼する
- 調停を申し立てる
- 審判を受ける
それぞれ解説します。
3-1:①夫婦で話し合う
別居中の婚姻費用の請求は、金額や支払い方法などを夫婦で話し合って決定します。
婚姻費用の金額は、婚姻費用算定表を参考にして月額を決めることが一般的です。
別居にあたって必要な家賃や生活費、子供の教育費だけでなく、家電品や引っ越し費用など別居にかかる費用も交渉できます。
話し合いによって、婚姻費用の金額や支払い時期、支払い方法などの合意が得られた場合は、合意書など書面として残しておくことが重要です。
さらに、公正証書(強制執行認諾文言付)にすることで、婚姻費用が支払われなかった場合は、調停や審判の手続きがなくても強制執行が可能になります。
3-2:②弁護士に交渉を依頼する
夫婦間の話し合いで合意が得られない場合や、配偶者の不倫やDVなどが原因で話し合いが難しい場合は、弁護士に交渉を依頼することが有効です。
相手が別居を認めない状況でも弁護士に依頼することで、夫婦間では難しい交渉もスムーズに進み、相手が婚姻費用の請求に応じる可能性が高まります。
また、別居だけでなく離婚を視野に入れた交渉では、離婚の合意や離婚条件など有利な形を目指した交渉が可能です。
さらに、調停や審判へ進んだ場合には、代理人として交渉だけでなく手続きまで全て安心して任せられます。
3-3:③調停を申し立てる
夫婦間の話し合いで婚姻費用の合意が得られない場合は、できるだけ早く裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てましょう。
なぜなら、婚姻費用を受け取れる期間は、調停を申し立てた時からとされることが多いからです。
調停では、夫婦双方の源泉徴収票や確定申告書の写しなど収入を示す資料を提出し、調停委員が夫婦双方から事情を聴き婚姻費用の金額など合意を目指します。
調停で婚姻費用の金額を決める際には、算定表の金額が参考にされますが、子どもの病気で治療が必要な場合など、特に増額すべき事情がある場合は、しっかり主張することが重要です。
調停で合意した条件は、調停調書に記載されそれぞれに交付されます。
調停調書は、強制執行の申し立てをする際の債務名義となります。
もし、調停調書の条件に反して婚姻費用が支払われない場合は、義務者の財産を強制的に差し押さえて回収する強制執行を申し立てられます。
調停での話し合いがまとまらない場合や、相手の欠席によって調停が不成立になった場合は、自動的に審判に移行します。
3-4:④審判を受ける
審判では、裁判官が必要な審理を行った上で、一切の事情を考慮して婚姻費用の金額を決定します。
つまり、双方の合意が必要な調停とは違って、裁判官の判断によって決められるため、柔軟な解決とは言えないでしょう。
審判の決定は審判書として作成され、強制執行の申し立てをする際の債務名義となります。
もし、審判を無視して婚姻費用が支払われない場合は、義務者の財産を強制的に差し押さえて回収する強制執行を申し立てられます。
4章:別居中の婚姻費用が支払われないときの対処法
別居中の婚姻費用が支払われないときの対処法としては、次の2つのケースがあげられます。
- 調停や審判で婚姻費用が決定した場合
- 話し合いで婚姻費用が決定した場合
それぞれ解説します。
4-1:調停や審判で婚姻費用が決定した場合
家庭裁判所の調停や審判で決定した婚姻費用が支払われない場合は、裁判所に履行勧告や強制執行の申し立てができます。
■履行勧告
家庭裁判所の調停や審判での取り決めが守られない場合は、取り決めを守らせるための履行勧告という制度があります。
家庭裁判所に対して履行勧告の申し出をすることで、家庭裁判所が相手方に対して取決めを守るように説得したり勧告したりします。
履行勧告の手続に費用はかかりませんが、義務者が勧告に応じない場合は支払を強制できません。
■強制執行
調停や審判の取り決めを無視して婚姻費用が支払われない場合は、義務者の財産を強制的に差し押さえて回収する強制執行の申し立てができます。
婚姻費用を強制執行で回収する場合、差し押さえできる財産を把握しておくことが大切です。
主に、差し押さえの対象となる財産には、次の3つがあげられます。
- 債権(給与・預貯金)
- 動産
- 不動産
■債権(給与・預貯金)
代表的なものでは、勤務先に対する給与や金融機関に対する預貯金が差し押さえの対象になります。
給与を差し押さえた場合は、その月の給与だけでなく、将来分の月ごとの婚姻費用に対して毎月差し押さえの効力が及ぶことが特徴です。
そのため、相手方が退職しない限りは、毎月の給与から婚姻費用が支払われます。
給与の差し押さえは、通常は原則として4分の1に相当する部分までとなっていますが、婚姻費用は権利者や子どもの生計を維持するお金のため、原則として2分の1に相当する部分まで差し押さえできます。
■動産
主な動産には次のようなものがあります。
- 自動車
- 現金
- 宝石類
- 美術品
- 骨董品
- 1か月以内の収穫が確実な農作物
- 裏書の禁止されていない有価証券(株券・手形・小切手など)
動産は、債権者の生活に必要不可欠なものを除き、幅広いものが差し押さえ対象です。
しかし、美術品や骨董品は、換価を特定することが難しいため、差し押さえの対象にしないケースもあります。
■不動産
債権者が、土地や建物などの不動産を所有している場合は、差し押さえの対象になります。
不動産は比較的、財産としての価値が高いので、競売にかけて売却し売却代金のなかから未払いの婚姻費用を回収します。
ただし、抵当権などの担保権がある場合は、差し押さえができたとしても金融機関の担保権が優先されるため、不動産の価値によっては婚姻費用の回収が難しい場合もあるので注意が必要です。
そのため、動産・不動産とも差し押さえの対象になる財産ですが、どちらも婚姻費用に対する差押えには有効とは言えないため、実際は給料や預貯金を差し押さえるケースがほとんどです。
4-2:話し合いで婚姻費用が決定した場合
夫婦間の話し合いで婚姻費用を決定した場合、当事者間で作成した合意書は、調停調書や審判書のような公的な文書ではないため債務名義とは認められません。
そのため、相手が婚姻費用を支払わない場合、強制執行を行うためには、裁判所に婚姻費用分担請求の申し立てが必要です。
また、合意書を公正証書(強制執行認諾文言付き)にした場合は、債務名義と認められるため、婚姻費用が支払われなかった場合は、調停や審判の手続きがなくても強制執行が可能になります。
まとめ:別居中の婚姻費用と請求方法
■婚姻費用とは夫婦の生活にかかる費用のことで、別居中であっても夫婦のうち収入の少ない方が、収入の多い配偶者に対して請求できます。
■別居中の婚姻費用の金額は、裁判所の「養育費・婚姻費用算定表」を参考にして決められることが一般的です。
■別居中の婚姻費用を請求する方法としては、次の4つがあげられます。
- 夫婦で話し合う
- 弁護士に交渉を依頼する
- 調停を申し立てる
- 審判を受ける
■別居中の婚姻費用が支払われないときの対処法としては、裁判所に履行勧告や強制執行の申し立てができます。
この記事の内容を参考にして、別居中の婚姻費用を請求する際に役立ててください。