- 2018.01.26
- 2024.11.27
- #管理職手当
管理職手当の民間企業・公務員の相場と名ばかり管理職のチェックリスト
この記事を読んで理解できること
- 管理職手当の意味と相場
- 管理職手当と残業代の関係
- 管理職手当とは別に残業代を請求する方法
あなたは、
「管理職手当って何?」
「管理職手当の相場が知りたい」
「管理職手当が出ても残業代が出ないと辛い」
などとお考えではないですか?
結論から言うと、管理職手当とは、管理職の職責に対する対価として支給される手当のことを言いますが、会社によっては管理職手当を支給しても残業代は支給しなかったり、管理職手当を残業の対価として支給しているケースが多いです。
管理職手当の相場としては、令和4年の東京都産業労働局の調査では、次のようになっています。
- 部長:7~11万円
- 課長:4~8万円
- 係長:2~4万円
それぞれ、同一役職の支給額が同じ場合と異なる場合や、従業員数でみた会社規模によって支給額に幅はありますが、各会社の就業規則または賃金規程で決められています。
管理職手当を支給しない場合でも違法ではないため、管理職手当を支給する会社は、全体の72.6%となっています。
※東京都産業労働局:中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)
この記事では、1章で管理職手当の意味と相場を、2章では管理職手当と残業代の関係について解説していきます。
さらに、3章では管理職手当とは別に残業代を請求する方法について解説していきます。
もしあなたが、管理職手当を残業の対価としてもらっている場合は、過去3年にさかのぼって残業代を請求できる可能性があります。
1章:管理職手当の意味と相場
先にあげたように、約7割の会社では管理職になると管理職手当が支給されています。
そこでこの章では、管理職手当の意味と相場について解説していきます。
1-1:管理職手当とは
一般的には「部長」や「課長」、「係長」といった地位や、「マネージャー」や「主任」など何らかの役付けがある人を「管理職」と呼びます。
会社は、管理職に就いた社員に、管理職としての職責への対価として、あるいは支給対象外となる時間外手当(残業代)の代わりとして、基本給とは別に特別な手当を与えることがあります。
その手当のことを、「管理職手当」と言います。
管理職手当の支給は法律で決められているわけではないため、その支給額や対象者は会社ごとに違いがあります。
1-2:管理職手当の相場
令和4年の東京都産業労働局の調査では、管理職手当の支給状況は次のようになっています。
管理職手当の支給額は、平均値だけでなく同一役職でも支給額が異なる場合や、会社の従業員数で区分されています。
管理職手当の相場としては、次のようになります。
- 部長:7~11万円
- 課長:4~8万円
- 係長:2~4万円
それぞれ解説していきます。
1-2-1:部長(管理職手当:7~11万円)
部長の管理職手当の相場は、7~11万円になっています。
調査産業計の平均を見てみると、次のようになっています。
【同一役職の支給額は同じ場合】
- 平均年齢:2歳
- 平均支給額:87,470円
【同一役職で支給額が異なる場合】
- 平均年齢:7歳
- 平均支給額:92,559円
また、同一役職の支給額が同じ場合、部長の管理職手当の平均支給額が最も高い業種は、「金融業,保険業」の14万6,881円となっています。
1-2-2:課長(管理職手当:4~8万円)
課長の管理職手当の相場は、4~8万円になっています。
調査産業計の平均を見てみると、次のようになっています。
【同一役職の支給額は同じ場合】
- 平均年齢:5歳
- 平均支給額:60,098円
【同一役職で支給額が異なる場合】
- 平均年齢:7歳
- 平均支給額:53,385円
また、同一役職の支給額が同じ場合、課長の管理職手当の平均支給額が最も高い業種は、「建設業」の8万5,323円となっています。
1-2-3:係長(管理職手当:2~4万円)
係長の管理職手当の相場は、2~4万円になっています。
調査産業計の平均を見てみると、次のようになっています。
【同一役職の支給額は同じ場合】
- 平均年齢:2歳
- 平均支給額:25,597円
【同一役職で支給額が異なる場合】
- 平均年齢:9歳
- 平均支給額:29,657円
また、同一役職の支給額が同じ場合、係長の管理職手当の平均支給額が最も高い業種は、「建設業」の5万2,299円となっています。
この「建設業」の平均支給額は、この調査産業の中でも飛びぬけており、調査産業計の平均支給額の2倍以上というかなり高いものになっています。
2章:管理職手当と残業代の関係
先にあげたように、会社によっては管理職手当を支給しても残業代は支給しなかったり、管理職手当を残業の対価として支給しているケースが多いです。
しかし、管理職に対して残業代を支給していない場合は、多くのケースが違法とされる可能性が高いです。
違法とされるポイントは、次の2つです。
- 管理職手当が支給されても管理監督者には該当しない
- 管理職手当は固定残業代(みなし残業代)にはならない
それぞれ解説していきます。
2-1:管理職手当が支給されても管理監督者には該当しない
管理監督者とは、労働基準法第41条2号で「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」として、「労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされています。
管理監督者は、労働基準法に定められた労働時間や休憩、休日などの規定(深夜手当を除く)が適用されないため、残業代についても支給の対象にはなりません。
しかし、会社の基準で管理職を定め管理職手当を支給していたとしても、労働基準法の管理監督者に該当するとは言えません。
労働基準法における管理監督者の要素としては、次の3つがあげられます。
- 経営者に近い責任・権限を与えられている
- 労働時間管理を受けていない
- 地位にふさわしい待遇を受けている
これらの条件を満たしていない場合は、法律上の管理監督者に該当しない可能性が高いです。
管理監督者に該当しない場合は、労働基準法に定められた労働時間や休憩、休日などの規定の対象となるため、残業代が支給されていなければ違法です。
実際多くの管理職は、この条件を満たしているとは言えないため、当然残業代が支払われるはずです。
しかし、「管理職」という肩書を口実にして残業代が支払われていないケースが多いです。
条件を上から順に見ていきましょう。
■経営者に近い責任・権限を与えられている
つまり、取引や商品・サービスの内容や品質、価格、取引先の選定など会社の重要なことがらを自分の権限で決められるような、社内でも経営者に近い立場の人が管理監督者として扱われます。
管理職であっても重要な会議に出席したり、社員の募集や会社の重要な決定に関わる権限を持っていない場合は、経営者に近い責任や権限を与えられているとは認められません。
そのため、「管理職」の肩書きを持っていても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、上司の命令を部下に伝達するだけの役割しかない場合は、条件を満たしていないため管理監督者とは認められにくいです。
■労働時間管理を受けていない
管理監督者の立場にある人は、出勤や退勤の時間を自分で決定できる権限を持っていなければいけません。
なぜなら、管理監督者は時間を選ばずに対応することが求められる立場であり、会社のためには時間や土日に関係なく出勤しなければならないからです。
そのため、勤務時間が決められており、遅刻や早退で会社からペナルティを受ける場合は、労働時間管理を受けているため管理監督者とは認められにくいです。
■地位にふさわしい待遇を受けている
管理監督者の立場にあるかどうかは、給料や手当の額も判断材料となります。
例えば、「他の社員に比べて非常に高い賃金をもらっている」というのが一つの目安です。
わずかな役職手当がつくくらいでは、管理監督者の地位にふさわしい賃金とは言えません。
ただし、「非常に高い賃金」というのは業界や会社によって判断が曖昧であるため、待遇を基準にした判断は補足程度となります。
2-2:管理職手当は固定残業代(みなし残業代)にはならない
管理職には、残業代のかわりに管理職手当が支給されているから、と主張する会社が多く見られますが、管理職手当は残業代の代わりにはならないため違法です。
管理職手当だけでなく役職手当や役付手当なども、残業代ではないものに残業代という名目を与えているにすぎないことが多く、このような場合は残業代の代わりとは認められません。
例えば、あなたが「課長」の立場にいる場合、仕事の内容や責任の範囲が他の社員とは異なるため、その対価として待遇に差をつけるために支払われるのが、管理職手当の本来の意味合いです。
過去の裁判例においても、課長に与えられていた管理職手当が固定残業代であると会社が主張したことに対して、「その名称からしても課長という職責に対する手当としての側面も否定できない」ことを理由の一つとして、残業代の代わりにはならないと判断されたものがあります。
(スタジオツインク事件・東京地判平成23年10月25日)
また仮に、就業規則や雇用契約書に、
「管理職手当については、○○時間分の時間外手当として○○万円支給する。」
等の記載があったとしても、その計算根拠が明確であることと、勤務時間を記録し残業時間が超えた場合は、超過分の残業代を支払う必要があります。
3章:管理職手当とは別に残業代を請求する方法
管理監督者に該当するほどの権限や相応の待遇も与えられないまま、残業代が支払われていない場合は、管理職手当とは別に未払い残業代を請求することができます。
そのためには、まず残業代請求に必要な証拠を集めて、残業代請求を弁護士に依頼することが重要です。
自分で請求するとお金がかからないため、金銭的な面で有利なようですが、自分で請求する方法では、手間・時間・精神的負担が大きいだけでなく、弁護士に頼む方法に比べて回収できる金額が少なくなる可能性が高いです。
また、ここまで解説してきたように、管理監督者の判断やや会社との交渉は、専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することをおすすめします。
3-1:残業代請求に必要な証拠を集める
残業代を請求する最初のステップとして、残業代請求に必要な証拠を自分で集めることをおすすめします。
残業代請求の証拠として有効なのは、以下のようなものです。
【勤怠管理している会社で有効な証拠】
- タイムカード
- 会社のパソコンの利用履歴
- 業務日報
- 運転日報
- メール・FAXの送信記録
- シフト表
【勤怠管理していない会社で有効な証拠】
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
会社が勤怠管理をしていないため、自分で勤務時間を記録する場合は、毎日手書きで具体的な業務毎に1分単位で時間を書きましょう。
家族に帰宅を知らせるメールは、裁判になると証拠としては弱いので、できるだけ手書きでメモを取りましょう。
証拠は、できれば3年分あることが望ましいですが、なければ一部でもかまわないので、毎日の記録を集めておきましょう。
ただし、手書きの場合絶対に「ウソ」の内容のことを書いてはいけません。
証拠の中にウソの内容があると、その証拠の信用性が疑われ、証拠として利用できなくなり、残業していた事実を証明できなくなる可能性があります。
そのため、証拠は「20時30分」ではなく、「20時27分」のように、1分単位で記録するようにし、曖昧さが指摘されないようにしておきましょう。
3-2:残業代請求を弁護士に依頼する
残業代請求はプロの弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に相談するというと
「裁判みたいな大事になるのはちょっと・・・」
「費用だけで100万円くらいかかるのでは?」
と考えてしまう人もいるかもしれません。
しかし、弁護士に頼む=裁判ではありません。
残業代の請求でいきなり裁判になることは少なく、多くの場合「交渉」や「労働審判」という形で会社に請求していきます。
また、残業代請求に強い「完全成功報酬制」の弁護士に依頼すれば、「相談料」や「着手金」ゼロで依頼することができます。
弁護士に依頼した場合の流れは、次のようになります。
それぞれ順番に解説していきます。
3-2-1:弁護士が会社と「交渉」する
交渉とは、弁護士が会社との間に入って、電話・書面・対面で直接会社と交渉してトラブルの解決を図るものです。
交渉の場合、弁護士は、あなたからヒアリングした内容をもとに交渉を進めるため、あなたは会社に出向いたり電話やメールをする必要はありません。
また、あなたが在職中で、これから退職を考えている場合は、実際に交渉を開始する時期について相談可能です。
そのため、弁護士に相談していることが会社にばれることはありません。
交渉は、弁護士と会社との間の話し合いによるトラブル解決がゴールであり、合意できた場合は、あなたに会社から未払いの残業代が支払われることになります。
合意に至らなかった場合は、労働審判や訴訟(裁判)に進むことになります。
3-2-2:「労働審判」を申し立てる
交渉で決着が付かなかった場合は、労働審判の申し立てを行います。
労働審判とは、裁判所であなた・会社・裁判官などの専門家で問題の内容を確認し、解決の方法を探す訴訟(裁判)よりも簡単な方法です。
労働審判では、最低1回は裁判所に出向く必要がありますが、会社側の人と入れ替わりで部屋に入って話し合う形式のため、直接顔を合わせることはありません。
労働審判の場合は、解決するまで次のような流れで進みます。
第1回労働審判で解決されれば、申立てから1〜2か月程度、第2回、第3回まで延びれば1か月〜2か月程度期間も延びることになります。
労働審判の回数は、最大3回までと決められているため、裁判のように何回も裁判所に行ったり、長期化することがないのが特徴です。
あなたも初回の労働審判のみは参加する必要がありますが、それ以降は参加しなくて良い場合もあります。
多くの場合、「交渉」か「労働審判」で決着が付きますが、労働審判において決定されたことに不服がある場合は、訴訟(裁判)へ移行します。
3-2-3:「訴訟」を提起する(裁判)
訴訟(裁判)は労働審判と違い、何回までという制限がなく、長期に渡り争い続ける可能性があります。
ただし、あなたはほとんど出廷する必要がありません。
行く必要があるのは、本人尋問のときだけです
訴訟(裁判)では、裁判所で「原告(あなたもしくは、あなたが依頼した弁護士)」と「被告(会社)」が主張し合い、裁判官が判決を下します。
訴訟の流れは、次のようになります。
最高裁まで行くことはほとんどないため、多くは地方裁判所までの1〜2年程度で終わるようです。
裁判になると数年単位で争うこともありますが、先ほどお伝えした通り、裁判まで行くことは少なく、交渉・労働審判で解決します。
弁護士に依頼すると、あなたの「会社と戦う」という精神的負担を、弁護士が肩代わりしてくれるだけでなく、時間・手間を節約することもできるのです。
ただし、弁護士に依頼する場合は、「弁護士なら誰でもいいだろう」とは考えないでください。
実は、法律の知識は広い範囲に及ぶため、自分の専門分野以外の事案については、あまり知識がない弁護士が多いです。
そのため、残業代請求に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
3-3:残業代請求には3年の時効がある
未払いの残業代の請求には「3年」の時効があり、時効が成立すると二度と請求できなくなります。
時効の基準となるのは、「毎月の給料日」です。
【給料の支払日が「15日締め・翌月末払い」の場合】
例えば、給料の支払日が「15日締め・翌月末払い」の場合、2020年2月16日から3月15日までの給料は、2020年4月30日に支払われます。
そのため、2020年3月15日締めの給料は、2023年の4月30日経過時に時効を迎えます。
そこで、2020年3月15日締めの給料の時効を止めるためには、2023年の4月末までに「時効を止める」手続きを行う必要があります。
毎月の給料日がくるたびに時効が成立し、1か月分の残業代が消滅してしまいます。
少しでも多くの残業代を取り返すために、できるだけ早く行動を開始しましょう。
まとめ:管理職手当について
最後にもう一度、今回の内容をまとめます。
【管理職手当とは】
会社が管理職に就いた社員に、管理職としての職責への対価として、あるいは支給対象外となる時間外手当(残業代)の代わりとして、基本給とは別に与える特別な手当て。
【管理職手当の相場】
- 部長:7~11万円
- 課長:4~8万円
- 係長:2~4万円
【管理職に対して残業代を支給していない場合、違法とされる可能性が高い2つのポイント】
- 管理職手当が支給されても管理監督者には該当しない
- 管理職手当は固定残業代(みなし残業代)にはならない
【労働基準法における管理監督者の3つの要素】
- 経営者に近い責任・権限を与えられている
- 労働時間管理を受けていない
- 地位にふさわしい待遇を受けている
残業代を取り戻すためには、管理監督者の判断や会社との交渉など専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することをおすすめします。
会社側の「管理職手当を支給しているから残業代はなし」といった言葉に丸めこまれることなく、未払いの残業代はしっかり請求しましょう。