悪意の遺棄とは│該当するケース・しないケースを具体的に解説

監修者

弁護士法人QUEST法律事務所
代表弁護士 住川 佳祐

悪意の遺棄とは│該当するケース・しないケースを具体的に解説
チェック
この記事を読んで理解できること
  • 悪意の遺棄とは?
  • 悪意の遺棄に該当するケース7つ
  • 悪意の遺棄に該当しないケース3つ
  • 悪意の遺棄が認められた実際の判例
  • 悪意の遺棄が認められた場合にできること4つ
  • 悪意の遺棄が認められるには「証拠」が重要

あなたは、

  • 悪意の遺棄とは何か知りたい
  • 悪意の遺棄に該当する具体的な行為を知りたい
  • 離婚の理由になるのかを知りたい

などとお考えではありませんか?

もしかしたら、配偶者が生活費をくれない、家事や育児を放棄する、一方的に家を出て行ってしまった……など、困った状況に置かれているのではないでしょうか。

配偶者に改善を求めても対応してくれない場合、どうすれば良いのか分からなくなってしまいますよね。

結論から言うと、悪意の遺棄とは法律で定められた夫婦の義務に違反する行為です。

具体的な夫婦の義務とは、以下の3つです。

  • 同居義務
  • 協力義務
  • 扶助義務

配偶者が正当な理由なく以上に違反した場合は、悪意の遺棄があったとして、離婚や慰謝料を請求できます

この記事を読めば、

  • 配偶者の行為が悪意の遺棄に当たるのか
  • 悪意の遺棄にはどう対処すれば良いのか

がわかり、適切な対処をとれるようになります。

この記事では、

1章で悪意の遺棄とは、

2章で悪意の遺棄に該当するケース7つ、

3章で悪意の遺棄に該当しないケース3つ、

4章で悪意の遺棄が認められた実際の判例、

5章で悪意の遺棄が認められた場合にできること4つ、

6章で悪意の遺棄が認められるには「証拠」が重要であること

について、詳しく説明します。

この記事を読んで、悪意の遺棄に対して、適切な対処をとりましょう。

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1章:悪意の遺棄とは?

悪意の遺棄(あくいのいき)とは、法律で定められた夫婦の義務に違反する行為です。

民法第752条では、夫婦の義務を以下のように定めています。

(同居、協力及び扶助の義務)

第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

引用元:e-Gov法令検索

以上に違反した場合は悪意の遺棄があったとみなされて、離婚の申し立てや慰謝料を請求できます

詳しく説明します。

1-1:悪意の遺棄とは、夫婦の義務に違反する行為

悪意の遺棄とは、夫婦に定められた以下の3つの義務に違反する行為です。

  • 同居義務
  • 協力義務
  • 扶助義務

それぞれ説明します。

■同居義務

正当な理由がある場合を除き、夫婦は同居する義務があります。

■協力義務

正当な理由がある場合を除き、夫婦は協力し支え合う義務があります。

■扶助義務

夫婦のいずれかが扶助を必要としている場合、もう一方は夫婦で同程度の生活を送れるように補助する義務があります。

これらの義務に違反した場合は、程度や期間なども加味されたうえで、悪意の遺棄があったかどうかを判断されます。

1-2:悪意の遺棄が認められると離婚や慰謝料を請求できる

悪意の遺棄が認められると、配偶者に対して離婚の申し立てや慰謝料の請求を行えます。

通常、離婚を成立させるには両者の同意が必要です。

しかし、法律で定められた以下の5つの離婚事由に該当する場合は、相手の同意なく離婚が認められます。

  1. 不貞行為があった
  2. 悪意の遺棄があった
  3. 3年以上、生死が不明である
  4. 強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由がある

悪意の遺棄は「2」に該当するため、たとえ相手が拒んでも離婚が成立します。

2章:悪意の遺棄に該当するケース7つ

悪意の遺棄に該当する代表的なケースは、以下の7つです。

  • 生活費を渡さない
  • 家事や育児を放棄する
  • 健康上の問題がないのに働かない
  • 身勝手な理由で別居する
  • 配偶者が家を出ざるを得ないように仕向ける
  • 病気の配偶者の面倒をみない
  • 不倫相手の家で生活している

それぞれ説明します。

2-1:生活費を渡さない

悪意の遺棄に該当する主なケースの1つ目は、生活費を渡さないことです。

同居・別居に関わらず、生活費を渡さない行為は夫婦の扶助義務に違反します。

また、たとえ生活費を渡していても、夫婦の生活水準に明らかな差がある場合は、悪意の遺棄に当てはまる可能性があります。

2-2:家事や育児を放棄する

悪意の遺棄に該当する主なケースの2つ目は、家事や育児を放棄することです。

夫婦は日々の生活を営むために、お互いに協力し合わなければいけません。

どちらか一方に家事や育児を任せきりにする行為は、夫婦の協力義務に違反します。

2-3:健康上の問題がないのに働かない

悪意の遺棄に該当する主なケースの3つ目は、健康上の問題がないのに働かないことです。

健康に問題がなく、特別な事情もないのに働かない期間が一定以上続いた場合は、夫婦の扶助・協力義務に違反します。

たとえば、経済的に厳しい状況でも働かずにぶらぶらしていたり、いつまでも仕事を真剣に探そうとしなかったりする行為がこれに当たります。

2-4:身勝手な理由で別居する

悪意の遺棄に該当する主なケースの4つ目は、身勝手な理由で別居することです。

正当な理由や配偶者の同意がないのに別居する行為は、夫婦の同居義務に違反します。

また、完全な別居だけでなく、家出や長期不在を繰り返すケースも悪意の遺棄に該当する可能性があります

2-5:配偶者が家を出ざるを得ないように仕向ける

悪意の遺棄に該当する主なケースの5つ目は、配偶者が家を出ざるを得ないように仕向けることです。

たとえば、暴力や暴言などで配偶者を脅し、家を出て行くしかない状況に追い込んだ場合がこれに該当します。

配偶者を追い出して同居できないように働きかける行為は、同居義務違反です。

2-6:病気の配偶者の面倒をみない

悪意の遺棄に該当する主なケースの6つ目は、病気の配偶者の面倒をみないことです。

病気や障害によって日常生活が困難な場合、もう一方の配偶者は経済面や生活の手助けをする義務があります。

病気の配偶者を置いて家を出て行く、面倒をみないなどの行為は、夫婦の扶助義務に違反します。

2-7:不倫相手の家で生活している

悪意の遺棄に該当する主なケースの7つ目は、不倫相手の家で生活していることです。

配偶者が不倫相手と同居する行為は、夫婦の同居・協力義務に違反します。

さらに、不倫は配偶者以外の異性と性的な関係を結ぶ「不貞行為」にも該当するため、配偶者と不倫相手の双方に関係解消や不貞行為に対する慰謝料を請求できます。

3章:悪意の遺棄に該当しないケース3つ

悪意の遺棄に該当しない代表的なケースは、以下の3つです。

  • 生活費を渡せない正当な理由がある場合
  • 仕事や家事・育児ができない正当な理由がある場合
  • 同居しない正当な理由がある場合

それぞれ説明します。

3-1:生活費を渡せない正当な理由がある場合

悪意の遺棄に該当しないケースの1つ目は、生活費を渡せない正当な理由がある場合です。

たとえば、以下のようなケースが該当します。

  • 失業中の場合
  • 専業主婦(夫)の場合

以上のように、正当な理由があって収入がない場合は、生活費を渡さない事実があっても悪意の遺棄とはみなされません。

3-2:仕事や家事・育児ができない正当な理由がある場合

悪意の遺棄に該当しないケースの2つ目は、仕事や家事・育児ができない正当な理由がある場合です。

たとえば、以下のようなケースが該当します。

  • 病気や障がいがあり、仕事や家事・育児が困難な場合
  • リストラや倒産などのやむを得ない理由がある場合
  • 就労しようと努力している場合

以上のように仕事や家事・育児ができない正当な理由がある場合は、悪意の遺棄に該当しません。

3-3:同居しない正当な理由がある場合

悪意の遺棄に該当しないケースの3つ目は、同居しない正当な理由がある場合です。

たとえば、以下のようなケースが該当します。

  • 単身赴任による別居
  • 病気療養や出産・介護による別居
  • お互いの都合による別居
  • DVやモラハラから逃れるための別居
  • 子どもの教育上、必要な別居
  • 夫婦の関係を回復するための別居

上に挙げた例のように、別居に正当な理由がある場合は、悪意の遺棄とは認められません。

4章:悪意の遺棄が認められた実際の判例

この章では、裁判で悪意の遺棄が認められた以下2つの事例を紹介します。

  • 夫が妻子を置いて一方的に出て行ったケース
  • 夫が身体障害者の妻を置き去りにしたケース

それぞれ説明します。

4-1:夫が妻子を置いて一方的に出て行ったケース

妻が夫に対して不貞行為や悪意の遺棄によって婚姻関係が破綻したとして、慰謝料を請求したケースです。

不貞行為は証拠不足で認められなかったものの、

  • 妻が夫を金銭的援助等で支えていた
  • 身勝手な理由で妻子を置いて出て行った
  • 夫婦関係の回復に努めなかった
  • 調停で決定した養育費の支払いを滞らせた

などの行為が悪意の遺棄に該当すると判断され、300万円の慰謝料が認められました。

(平成21年4月27日 東京地方裁判所)

4-2:夫が身体障害者の妻を置き去りにしたケース

夫側が、半身不随で日常生活がままならない妻を自宅に置き去りにしたケースです。

長期間の別居に加えて、その間の生活費をまったく支払わなかったことから、裁判で悪意の遺棄と認められました。

(昭和60年11月29日 浦和地方裁判所)

5章:悪意の遺棄が認められた場合にできること4つ

悪意の遺棄が認められた場合にできることは、以下の4つです。

  • 離婚を求める
  • 慰謝料を請求する
  • 婚姻費用を請求する
  • 同居調停を申し立てる

それぞれ説明します。

5-1:離婚を求める

悪意の遺棄が認められた場合にできることの1つ目は、配偶者に離婚を求めることです。

悪意の遺棄は、法定離婚事由のひとつです。

※法定離婚事由とは、法律で定められた離婚できる要件のことを指します。

したがって、悪意の遺棄が認められた場合、たとえ配偶者が離婚を拒否しても、裁判所の判決によって離婚が成立します。

5-2:慰謝料を請求する

悪意の遺棄が認められた場合にできることの2つ目は、慰謝料を請求することです。

悪意の遺棄による慰謝料相場は、ケースによって50~300万円程度です。

とくに以下のようなケースでは、慰謝料の金額も高くなる傾向があります。

  • 悪意の遺棄の内容が悪質である
  • 婚姻期間が長い
  • 親の扶養や扶助を必要とする子どもがいる
  • 不倫をしている

なお、慰謝料請求には以下の時効があります

  • 悪意の遺棄が始まった時点から3年(ただし、離婚成立後から6か月間は時効の完成が猶予されます)
  • 悪意の遺棄が離婚の原因である場合、離婚が成立した時点から3年

時効を過ぎると、慰謝料請求が困難になるおそれがあるので注意しましょう。

心配な場合は、早めに弁護士に相談して対処することをオススメします。

5-3:婚姻費用を請求する

悪意の遺棄が認められた場合にできることの3つ目は、婚姻費用を請求することです。

※婚姻費用とは、衣食住の費用や教育費、医療費などの、社会生活を送るために必要なお金のことです。

厳密に言うと、婚姻費用の請求は悪意の遺棄が証明されていなくても、婚姻費用が支払われていない事実を証明できれば請求できます

場合によっては、慰謝料よりも高額になる可能性があります。

以下の2つに当てはまる場合は、婚姻費用の請求を検討すると良いでしょう。

  • 生活費がもらえていない
  • 離婚しない

なお、配偶者が婚姻費用の支払いに応じない場合は、家庭裁判所に「婚姻費用分担請求」を申し立てて調停で話し合いを進めていく流れになります。

また、婚姻費用の請求は支払いが滞った時点から可能とされています。

しかし、実際には調停や審判の申し立て時点から認められるのが一般的です。

実情によっても変わってくるため、弁護士に相談してみると良いでしょう。

5-4:同居調停を申し立てる

悪意の遺棄が認められた場合にできることの4つ目は、同居調停を申し立てることです。

※同居調停は「夫婦関係調整調停」とも呼ばれます。一方的に出て行った配偶者に対して、同居を求めるための話し合いです。

夫婦関係の修復を望んでいる場合は、同居調停を申し立てるのもひとつの方法です。

ただし、以下のようなケースでは申し立てを却下される場合があります。

  • 一方が同居を強く拒否している
  • 同居による夫婦関係の修復が望めない

また、たとえ同居を命じる判決が出ても、配偶者が従わなければ無理に同居させることはできません

 

6章:悪意の遺棄が認められるには「証拠」が重要

悪意の遺棄が認められるには、証拠が重要です。

悪意の遺棄が認められる証拠の一例は、以下のとおりです。

  • メッセージのやり取りの履歴
  • 住民票・賃貸借契約書
  • 通帳のコピー
  • 家計簿・明細書
  • 日記・写真・動画

ただし、以上に当てはまるものであっても、内容によっては十分な証拠と認められない可能性があります。

実際、裁判で悪意の遺棄が認められるケースはそれほど多くありません。

裁判で有効な証拠を揃えるためにも、早めに弁護士にアドバイスをもらうと良いでしょう。

まとめ:悪意の遺棄とは、夫婦の義務に違反する行為

悪意の遺棄とは、夫婦関係の破綻につながると分かっていながら、以下の夫婦の義務を放棄する行為です。

  • 同居義務
  • 協力義務
  • 扶助義務

具体的には、以下の7つのような行為が悪意の遺棄に該当します

  • 生活費を渡さない
  • 家事や育児を放棄する
  • 健康上の問題がないのに働かない
  • 身勝手な理由で別居する
  • 配偶者が家を出ざるを得ないように仕向ける
  • 病気の配偶者の面倒をみない
  • 不倫相手の家で生活している

一方で、以下のようなケースでは悪意の遺棄は認められません

  • 生活費を渡せない正当な理由がある場合
  • 仕事や家事・育児ができない正当な理由がある場合
  • 同居しない正当な理由がある場合

悪意の遺棄が認められた場合にできることは、以下の4つです。

  • 離婚を求める
  • 慰謝料を請求する
  • 婚姻費用を請求する
  • 同居調停を申し立てる

ただし、裁判で悪意の遺棄が認められるケースはそれほど多くありません。

十分な証拠を提示するためにも、弁護士に相談して指示をあおぎながら準備していくことをオススメします。

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