- 2018.05.16
- 2025.01.08
- #住み込み管理人残業代
住み込み管理人も残業代が出る!残業代ルールと請求方法を弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- 住み込み管理人でも残業代が出る!残業代のルールを解説
- 住み込み管理人の労働時間のカウントルール
- 住み込み管理人の残業代の計算方法
- 未払い残業代は請求して取り返せる
- 住み込み管理人が集めるべき「証拠」
あなたは、住み込み管理人として働いていて、
「住み込み管理人の場合は、何時から残業代が発生するんだろう?」
「時間外にも働いているけれど、残業代は出ないのかな?」
「自分で残業代を計算したい!」
などの悩み・疑問がありませんか?
住み込み管理人として働いていると、「労働時間」と「プライベートの時間」を厳密に分けるのが難しいことが多いのではないでしょうか?
実際、厳密に分けることが難しいために管理会社との間で「残業代が発生するのかどうか」トラブルになることも多いのです。
結論から言えば、あなたの場合の、住み込み管理人として所定労働時間外の業務が「労働時間」に当たるかどうかは、業務の実態から判断することができます。
ただし、あなたの場合に残業代が発生するのかどうか判断するためには、“判断基準”を持っておくことが大事です。
そこでこの記事では、住み込み管理人の場合の残業代のルールや、時間外の労働が労働時間としてカウントされる判断基準について解説します。
また、残業代の計算方法や、未払い残業代がある場合の対処方法についても解説します。
この記事を読んで現状を判断し、これからの行動に活かしてください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■住み込み管理人の場合の残業代のルール
「断続的労働」に該当する場合
→1.25倍の残業代は発生しない
「断続的労働」に該当しない場合
→1日8時間・週40時間を超えて労働した時間がすべて残業になり、残業代が発生
■住み込み管理人の労働時間のルール
所定労働時間外に、
①会社から業務の指示があった
②業務をやることがマニュアルに記載されていた
③会社は時間外の業務があることを把握していた
という場合は、所定労働時間外でも労働時間としてカウントされる可能性が高い。
■住み込み管理人が残業代がもらえるか分かるチェックリスト
□所定労働時間外の労働について、会社からの指示があった
□所定労働時間外の労働時間について、マニュアルに記載されている
□あなたが残業していることについて、会社が認識していることが分かる日報や、メールがある
目次
1章:住み込み管理人でも残業代が出る!残業代のルールを解説
住み込み管理人は、基本的には、残業代が発生することが多いです。
しかし、中には「断続的労働」という特別なルールが適用されて、残業代が発生しない人もいます。
※「断続的労働」について詳しくは1−1で解説します。
つまり、あなたに残業代が発生するかどうかは、「断続的労働」に該当するかどうかで変わるのです。
そこでこれから、
- 断続的労働に該当しない→残業代が発生する場合のルール
- 断続的労働に該当する→残業代が発生しない場合のルール
に分けて解説します。
その前に、あなたの場合はどちらのルールが適用されるか分かるように、まずはチェックリストをやってみてください。
下記のチェックリストに1つでも当てはまる場合、あなたは「断続的労働」には該当しません。
【「断続的労働」のチェックリスト】
勤務時間のうち、待機時間はほとんどない
精神的緊張が高い業務がある
見回りや施錠以外にも、常にやるべき業務がある
1日の勤務での見回りは6回以上
次の勤務との間の休息が10時間未満
労働基準監督署に「断続的労働に従事する者」の届け出が出されていない
1つも該当するものがない場合は、1−2から読んでください。
1-1:「断続的労働」ではない場合は残業代が発生する
チェックリストに1つでも該当するものがあった場合、あなたは「断続的労働」には該当しません。
断続的労働とは、勤務時間の中で、実際に業務を行っている時間と、そうでない時間が交互にあるような状態で働くことです。
チェックリストに1つでも該当している場合は、断続的労働の要件を満たしていないため、あなたは一般的な残業代のルールが適用されます。
労働基準法では「1日8時間・週40時間」を超えて労働した場合、それが「残業」になり、残業代が発生すると決められています。
そのため、「1日8時間・週40時間」を超えて働いた場合は、残業代が発生します。
残業していれば残業代が発生し、通常の賃金に割増率がかけられた割増賃金が発生します。
さらに、深夜まで残業が及んだ場合などは、割増率がさらにアップしますので注意が必要です。
次に、「断続的労働」の場合の残業代のルールを解説します。
1-2:「断続的労働」の場合は残業代が発生しない
チェックリストに1つも該当しなかった場合、あなたは、
「断続的労働に従事する者」
になり、特別なルールが適用されます。
この場合は、1日8時間・週40時間を超えて働いても、1.25倍の残業代が発生しませんし、休憩や休日に関する労働基準法上のルールも、適用外になります。
※ただし、割増賃金が発生しないだけで、1.0倍の賃金は発生します。
住み込み管理人として働く人の場合、業務のほとんどが待機時間で、住人から対応が求められる場合のみ労働する、という人もいると思います。
その場合は、管理会社との雇用契約が「断続的労働」になっている可能性があります。
「断続的労働に従事する者」は、労働基準法で以下のように定められている人のことです。
「断続的労働に従事する者で、行政官庁の許可を受けたもの」
断続的労働に従事する者
- 休憩時間は少ないが手待時間の多い者
- 宿直・日直業務
常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり定時的見回りや非常事態に備えての待機等を目的とするもの。
(労働基準法第4条3号)
ポイントは2つあります。
まず、「行政官庁(労働基準監督署)の許可」が必要だということです。
つまり、会社が勝手に決めるのではなく、「この人は『断続的労働に従事する者』として働いてもらいますよ」という申請書を、会社が労働基準監督署に提出し、認可を受けている必要があるのです。
次に、仕事内容が「断続的労働」として定義されている内容のものである必要があります。
たとえば、住み込み管理人として働いている場合、
- 定時の見回り
- 出入り口、ゴミ捨て場の施錠
- 共用部分やテナント部分の消灯
- トラブル発生時の対応
など、一時的に業務を行うのみで、他のほとんどの時間は自由に過ごすことができる(TVを見たり、読書をしたり、仮眠したりできる)という業務内容の場合は、「断続的労働」の定義に当てはまると考えられます。
「断続的労働」の届け出があっても、
- 見回りや施錠などの一時的な業務以外にも、やるべき業務がある
- 1回の勤務で6回を超える見回りがある
- 次の勤務との間の休息が10時間未満
などの場合は、「断続的労働」の業務の定義に該当しないと考えられるため、無効になります。
この場合は、会社に未払い残業代を請求することができます。
さらに、「断続的労働」であっても、深夜労働の割増賃金は発生するため、注意が必要です。
2章:住み込み管理人の労働時間のカウントルール
住み込み管理人は、仕事時間とプライベートの時間とを、明確に区別することが難しいです。
しかし、仕事の時間(労働時間)かどうかを判断できる「労働時間のルール」が存在するため、その定義を知っていれば、仕事時間とプライベートを区別することができます。
それでは、
- 労働時間としてカウントされるルール
- 住み込み管理人の残業
について順番に解説します。
2-1:労働時間としてカウントされる時間の定義
労働時間としてカウントされるのは、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
であることが、過去の判例から明らかにされています。
あなたと契約を結んでいる管理会社の言い分がどのようなものであっても、このルールから判断されるものなのです。
使用者とは、あなたが契約を結んでいる、管理会社等のことです。
この会社から、明確に「この時間は働いてください」と命令された時間は、もちろん労働時間としてカウントされます。
しかし、それだけでなく、明確な指示・命令がなくても、「業務上、どうしても労働しなければならなかった時間」については、「黙示的な命令」があったと考えられるため、労働時間としてカウントできる可能性が高いです。
さらに、具体的な業務を行っていなかったとしても、「待機時間」や「休憩時間」でも、労働から解放されていなかった場合は、労働時間としてカウントできる可能性があります。
2-2:住み込み管理人の残業の判断
繰り返しになりますが、住み込み管理人の場合は、労働時間とプライベートの時間を明確に分けて考えることが難しいです。
そのため、一部の悪質な会社は、住み込み管理人に、時間外に業務を行わせた上で、「業務命令はしていないのだから、残業代は支払わない」と主張し、残業代をごまかすことがあります。
しかし、過去の判例では、住み込み管理人の業務について、以下のように判断されています。
これは、住み込み管理人の所定労働時間外(※)での労働や、業務を行う間の待機時間も、労働時間としてカウントできると認められたケースです。
※所定労働時間とは、会社から定められた定時の労働時間のことです。
このケースでは、以下の3点から、住み込み管理人の残業が認められました。
①所定労働時間外も、会社から業務に従事する指示があった(管理人室の消灯、ゴミ置場の扉の開閉など)。
②所定労働時間外でも、住人からの宅配物受け渡しなどの要望に対応することがマニュアルに記載されていた。
③会社は管理人の日報から、所定時間外の労働があることを認識していた。
これらの理由から、所定労働時間外の「消灯」「ゴミ置き場の扉の開閉」「宅配物の受け渡し」などの業務も、残業時間にカウントされたのですが、ここで問題になるのが「待機時間」です。
つまり、所定労働時間外の業務を行う間の「待機している時間」は、残業時間としてカウントされるのかどうかです。
これについては、以下の4つの点から総合的に判断されることになります。
①待機中の時間における、実際の業務の頻度
②外出が許されるかどうか
③待機せざるを得ないのかどうか(住民の要望によって待機しているのか、自主的な待機なのかなど)
④待機時間中の、待機の態様(飲酒や娯楽はOKなのか)
参考:『働く人のための労働時間マニュアル』p.86
これらに一つでも当てはまるものがあれば、あなたは残業代をもらえる可能性があります。
※なお、土日祝などの休日における労働に対して、残業代や休日出勤手当が支払われるかは注意が必要です。
会社のマニュアルや雇用契約において、明確に「休日」と記載されていた日については、住民らの要望に応える当の業務について、労働時間として認められない可能性があります。
逆に言えば、会社が休日として設定している日については、会社のマニュアルで明示的に指示されていた業務以外はする必要がありません。したとしても残業代も出ません。
3章:住み込み管理人の残業代の計算方法
住み込み管理人の場合、所定労働時間外に行っている労働が残業とみなされ、残業代が請求できる可能性があります。
そこで、まずはあなたの残業代がどのくらいの金額になる可能性があるのか、実際に計算してみましょう。
残業代は、以下の計算式で計算することができます。
それでは、順番に解説します。
①基礎時給を計算する
まずは「基礎時給」を計算します。基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金のことです。
基礎時給は、以下の計算式で計算します。
※一月平均所定労働時間とは、会社が決めている1ヶ月当たりの平均労働時間のことで、一般的に170時間前後であることが多いです。
「月給」には、以下の手当も含めて計算することができます。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
20万円÷170時間=約1176円(基礎時給)
②割増率をかける
①で計算した基礎時給に、1章で紹介した割増率をかけることで、残業1時間当たりの賃金が計算できます。
通常の残業の場合は1.25倍ですが、深夜労働や休日出勤等によって、割増率の種類が異なるため注意してください。
基礎時給×1.25倍(残業の割増率)=残業1時間当たりの賃金
(計算例)
基礎時給1176円×1.25倍=1470円
③残業時間をかける
最後に、②までで計算した「残業1時間当たりの賃金」に残業時間をかけることで、1ヶ月の残業代の金額を計算することができます。
「断続的労働」に該当しない業務を行っている人の場合は、1日8時間・週40時間を超えて働いた時間が、すべて残業時間です。
それでは、実際に計算してみましょう。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
- 以下のように勤務している場合
所定労働時間:月〜金の8時〜17時
残業:月〜金の17時以降21時まで断続的に行っている
→17時から21時までの業務が残業と認められた場合、1日の残業は4時間、1ヶ月の残業は80時間になります。
以上の例で計算すると、
(20万円÷170時間)×1.25×80時間=11万7600円
となります。
さらに、残業代は3年分さかのぼって請求できるため、請求金額の合計は、
11万7600円×36ヶ月=423万3600円
と高額になります。
これほどの金額になるのですから、「住み込み管理人だから残業代はもらえないだろう」と諦めず、未払い残業代の請求を検討してみることをおすすめします。
4章:未払い残業代は請求して取り返せる
未払い残業代は、適切な方法で請求することで、取り返せる可能性が高いです。
残業代の請求方法には、
- 自分で直接請求する方法
- 弁護士に依頼して請求する方法
の2つがあります。
どちらでも同じではなく、それぞれ流れが異なり、以下のメリット・デメリットがあります。
詳しい手続きの方法やかかる費用等について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
【残業代を自分で直接請求する方法】
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
【残業代を弁護士に依頼して請求する方法】
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
5章:住み込み管理人が集めるべき「証拠」
残業代請求を成功させるために、最も大事なのが「証拠集め」です。
証拠を取得せずに辞めてしまうと、後から証拠を集めることが非常に困難になりますので、やめる前から集めるのがポイントです。
集めるべき証拠には、
- 残業代が未払いであることを示す証拠
- 残業時間を示す証拠
の2種類があります。
【残業代が未払いであることを示す証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
【残業時間を示す証拠】
- シフト表
- 日報
- メール・FAXの送信履歴
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
【待機時間や仮眠時間を残業時間として請求するための証拠】
住み込み管理人は、勤務マニュアルや規定などに、待機時間や仮眠時間に呼び出された場合に応対する記載があることが多いです。
その場合は、勤務マニュアルや規定を証拠として裁判所に提出すれば、待機時間も労働時間として認められやすくなります。
詳しい証拠の内容や証拠の集め方等について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【保存版】知らないと損する?残業代請求する為に揃えておくべき証拠
まとめ:住み込み管理人の残業代
いかがでしたか?
最後にもう一度今回の内容を振り返ります。
【住み込み管理人の場合の残業代のルール】
「断続的労働」に該当する場合
→1.25倍の残業代は発生しない
「断続的労働」に該当しない場合
→1日8時間・週40時間を超えて労働した時間がすべて残業になり、残業代が発生
【住み込み管理人の労働時間のルール】
所定労働時間外に、
①会社から業務の指示があった
②業務をやることがマニュアルに記載されていた
③会社は時間外の業務があることを把握していた
という場合は、所定労働時間外でも労働時間としてカウントされる可能性が高い。
【住み込み管理人が残業代がもらえるか分かるチェックリスト】
所定労働時間外の労働について、会社からの指示があった
所定労働時間外の労働時間について、マニュアルに記載されている
あなたが残業していることについて、会社が認識していることが分かる日報や、メールがある
【残業代の請求方法】
- 自分で直接会社に請求する
- 弁護士に依頼して請求する
【残業代請求時に集めるべき証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
- シフト表
- 日報
- メール・FAXの送信履歴
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
残業代の請求には「3年の時効」があります。
時効が過ぎると、それより前の残業代は一切請求できなくなりますので、請求する場合は早めに行動を開始しましょう。
【参考記事一覧】
残業代を請求する2つの方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
残業代請求時に集めるべき証拠について、詳しくは以下の記事をご覧ください。