
もしかして、あなたは
「会社からはみなし残業と言われているけど、これって本当は違法なんじゃないか」
とお思いではありませんか?
実は、当たり前のように導入されている「みなし残業代制」は違法であることが多く、あなたが対抗策を分かっていれば、残業代をきちんと払ってもらうことができるのです。
「みなし残業代制」を利用する会社は、ブラック企業である可能性が極めて高く、「残業代が支払われていると錯覚」させ、あなたをこき使う(=長時間労働させる)ことで、利益をむさぼっています。
この記事を読めば、みなし残業が違法かどうかを自分で判断する知識が得られ、違法なみなし残業で働かされている場合、あなたが取れる行動指針が分かります。
1章では、みなし残業とはそもそも何か
2章では、ブラック企業が使うみなし残業の手口
3章では、みなし残業の違法性を判断するための7つのポイント
4章では、残業代を請求するための全体像
について解説しています。
それでは読み進めていきましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■みなし残業(固定残業代)とは
■みなし残業(固定残業代制)を使って残業代をごまかす手口
- 各種手当を残業代だと偽る手口
- 基本給に一定金額の残業代を含む手口
■みなし残業の違法性のチェックリスト
①就業規則がない or どこにあるか知らされていない
②基本給部分と残業部分の区別がつかない
③残業に対する対価でないものを残業代と言っている
④みなし残業を超えた分の残業代が支払われない
⑤みなし残業が想定する残業時間が異常に長い
⑥基本給が最低賃金を下回っている
⑦給与規程が改定されている
目次
1章:みなし残業の意味とブラック企業の意図
1-1:みなし残業の意味
「みなし残業」という言葉は、「固定残業代制」とも呼ばれます。
両方とも、法律的に正式な用語ではありませんが、世間では、「一定の残業時間分の残業代を最初から給料として払っておく制度」のことを「みなし残業代制」あるいは「固定残業代制」と呼ぶことが多いです。
※以下、みなし残業代制(固定残業代制)と呼ぶことにします。
1-2:みなし残業に対するブラック企業の意図
先ほど、みなし残業代制(固定残業代制)を利用する会社は、ブラック企業である可能性が極めて高いと書きました。
あなたは会社から、「どれくらい残業しているか把握しきれないので、残業時間に関係なく、一律の金額を残業代として支給します」と言われていませんか?
一見、これは良い会社のように見えますが、実はブラック企業は「社員にいくら残業させても一定の残業代さえ支払っておけば、いくらでもこき使える」と考え、みなし残業代制(固定残業代制)を悪用していることが非常に多いのです。
この手口の悪質な点は、ブラック企業はきちんと残業代を支払っていないにもかかわらず、従業員は
「仕事がちょっとキツイけど残業代が出るだけマシか」
と思ってしまう場合があることです。
更に、ひどい場合には、入社時に
「うちの業界は、普通は残業代が出ないけど、我が社は残業代が出るから同年代の人よりも少し給料が高いよ」
と言われ、従業員は満足に思っていたりする場合もあります。
しかし、上記のように一見すると社員に対してメリットがありそうに見せかけながら、実は社員を騙して違法に長時間労働させるのがブラック企業の手口なのです。
お前らに死ぬほど長時間残業させてこき使うために、雀の涙ほどのみなし残業代を払ってやってるんだよ。
2章:ブラック企業が使うみなし残業の手口
2章では、ブラック企業が使う「みなし残業代制(固定残業代制)」の手口について解説していきます。
2-1:手口の種類
みなし残業代制(固定残業代制)を悪用した手口は、大きく分けて以下の2種類あります。
- 各種手当を残業代だと偽る手口
- 基本給に一定金額の残業代を含む手口
それでは、1つずつ見ていきましょう。
2-1-1:各種手当を残業代だと偽る手口
あなたの給与明細に、以下のような項目がある場合は要注意です。
「残業手当」「営業手当」「役職手当」「役付手当」
「業務手当」「地域手当」「職務手当」「調整手当」etc.
これらのことを一般的には「固定手当」と言い、毎月の給料に含まれている様々な手当です。
これらについて残業代の代わりだと言われていませんか?
ブラック企業は「営業手当が残業代の代わりについている」などと社員に話すことがありますが、これらの手当を残業代という扱いにして、一律の金額で手当として支払うのは専門家から見ると違法になるケースが多いです。
つまり、会社は残業代を1円も支払っていないのに、あなたが無知であるのをよいことに残業代だとして、あなたを丸め込んでいるのです。
2-1-2:基本給に一定金額の残業代を含む手口
例えば、「基本給の中に40時間分の残業代3万円が含まれている」という手口で、ブラック企業が求人をかける際によく使う手口です。
求職者から見れば、本来は同職種よりも給料が低いのに、基本給に残業代の金額を上乗せされているので、他の会社よりも給料が高く見えて魅力的に感じます。
つまりブラック企業としては、この手口を使うことで
「入社を希望する人が増える」「低賃金で長時間労働させられる」
という2つの意味で美味しいのです。
これは、社員が就業規則(賃金規程)をあまり確認しないことを逆手に取った、「会社ができるだけ残業代を払わずに済むような条項」を就業規則(賃金規程)に巧妙に組み込む手口です。
具体的には、以下のような条項を就業規則に盛り込んでおくのです。
第●条
「基本給には、固定割増賃金として、法定労働時間を超える労働40時間分の残業手当を含む。」
普通は就業規則(賃金規程)を注意して見ないことが多いため、このような条項を知らず、あなたが“知らないうちに”残業代が払われていることとして扱われてしまうのです。
【コラム】「40時間」と書いてある時点でそれ以上の残業をさせられる
残業が10時間しかない会社が、みなし残業代制(固定残業代制)で「40時間分の残業手当を含む」など、本来の残業時間よりも多めの数字を書くことはありません。
そもそもブラック企業は、まともに残業代を支払う気がないのですから、就業規則に書いてある残業時間よりも遥かに多くの残業を強いられることは覚悟しておくべきでしょう。
3章:みなし残業の違法性を判断するための7つのチェックポイント
あなたの会社のみなし残業代制(固定残業代制)が違法かどうかを判断するためには、就業規則を確認したりする必要があります。
以下のいずれかに該当する場合は、みなし残業が違法になることが極めて多いです。
必ず違法というわけではありませんが、以下の7つに1つでも該当したら、専門家に問い合わせてみると良いでしょう。
①就業規則がない or どこにあるか知らされていない
②基本給部分と残業部分の区別がつかない
③残業に対する対価でないものを残業代と言っている
④みなし残業を超えた分の残業代が支払われない
⑤みなし残業が想定する残業時間が異常に長い
⑥基本給が最低賃金を下回っている
⑦給与規程が改定されている
それぞれについて解説していきます。
3-1:就業規則がない or どこにあるか知らされていない
みなし残業代制(固定残業代制)が合法であるためには、就業規則にみなし残業代制(固定残業代制)に関する内容が記載されている必要があります。
そのため、そもそも就業規則がない、もしくは、就業規則がどこにあるか知らされていない場合は、みなし残業代制(固定残業代制)と会社が主張しても違法である可能性が極めて高いです。
仮に就業規則が存在していたとしても、諦める必要はありません。
以下のような場合があれば、みなし残業制は違法である可能性が高いです。
3-2:基本給部分と残業部分の区別がつかない
まずは、合法であるケースから紹介します。
基本的には、残業時間と残業代の金額が両方明示されている必要があります。
以下は、合法になる可能性が高い就業規則です。
「第●条
基本給には、固定残業手当として、時間外労働45時間分である6万円を含む。」
しかし、現実にはここまでしっかりした就業規則や賃金規程は極めて稀でしょう。
次に、違法であるケースについて紹介します。
最高裁は、「基本給部分と残業部分を明確に区別できないようなみなし残業代制(固定残業代制)は違法」と判断しています。
【違法な事例1~残業しない労働時間の部分と、残業時間が区別できない】
・高知県観光事件(最高裁平成6年6月13日)
会社側は「歩合給に残業代が含まれている」と主張しましたが、みなし残業代制(固定残業代制)として違法とみなされた事件。
例えば、みなし残業代制(固定残業代制)について、就業規則や賃金規程に以下のような規定になっていれば違法である可能性が極めて高いです。
【違法な事例2~残業時間も金額もなし】
「第●条:基本給には、法定労働時間労働に対する手当を含む」
このような場合、基本給のうち、残業代の部分の金額がいくらかは全く分かりません。残業時間も額も書いていないからです。
【違法な事例3~残業時間はあるが金額がない 】
「第●条:基本給には、法定労働時間を超える労働45時間分の時間外手当を含む」
このような場合、残業の時間(45時間)は記載してありますが、基本給の中のいくらが残業代なのかは、分かりません。
そのため、法律に詳しくない労働者にとって、基本給部分と残業代部分を区別することは不可能です。
残業時間のみ記載してある場合の時間外手当は、違法の可能性が高いです。
3-3:残業に対する対価でないものを残業代と言っている
たとえ就業規則に「各種手当を残業代として払う」と書いていても、法的には、残業代とは認められないことが多いです。
各種手当てが前述の3-1や3-2の要件をクリアしており、就業規則に残業代の趣旨で支払われるということが記載されていたとしても、諦める必要はありません。
各種手当の中に、“残業に対する対価”と“その他の手当の対価(営業手当や深夜手当など)”が混在している場合、近時の裁判例においては、みなし残業代制(固定残業代制)は違法となる場合が多いです。
みなし残業代制(固定残業代制)を違法とする裁判例は以下のようなものです。
【「営業手当」がみなし残業代として認められなかったケース】
会社は、営業手当について、営業マンの残業が多いことから支給されているので、残業手当であると会社は主張していました。
しかし、裁判所は、残業が多い他の部署には営業手当が払われていないことを疑問視し、営業手当は、残業手当ではなく、営業活動に伴う経費の補充やインセンティブの意味であると判断しました。
つまり、みなし残業代制(固定残業代制)は違法とされました。(※アクティリンク事件(東京地判平成24年6月29日))
【「成果給」がみなし残業代として認められなかったケース】
「成果給」について、会社は残業手当として支給していると主張しました。
しかし、「成果給」、前年度の成績に応じて支給されるものでした。
残業代とは、残業時間に比例して払われるものであり、「成果給」とは性質の違うものであると判断しました。
つまり、みなし残業代制(固定残業代制)は違法とされたのです。(※トレーダー愛事件(京都地判平成24年10月6日))
【「精勤手当」がみなし残業代として認められなかったケース】
「精勤手当」について、労働者の年齢、勤続年数、会社の業績等により数回にわたり変動していることを理由に、残業代以外の意味のものが含まれているとして、みなし残業代制(固定残業代制)を否定しました。
(※イーライフ事件(東京地判平成25年2月28日))
以上のように、「〇〇手当が残業手当だ!」と会社が言い張ったとしても、裁判官は簡単には有効なものとは認めないのです。
なお、以下は、ある手当について、みなし残業代制(固定残業代制)を認めた裁判例で、あまりない例外的なケースと言えます。
【残業の実態をきちんと調査した上でみなし残業代制(固定残業代制)を設けて合法となったケース】
「セールス手当」について、セールスマンの残業時間を平均して1日1時間、1か月合計23時間という調査結果を基にセールス手当の割合を決めていた事案で、みなし残業代制(固定残業代制)を有効とした。
(※関西ソニー販売事件(大阪地判昭和63年10月26日))
上記の裁判例のように、ある手当が残業手当とする会社の主張が通るためには、会社が残業の調査をきちんと行い、調査に即して残業手当を設定した等の適切な運用が必要です。
しかし、このような適切な運用をしている会社はほとんど見当たりません。
3-4:みなし残業を超えた分の残業代が支払われない
固定残業の定める労働時間を超えて残業したのに、その差額を上乗せして払わない場合は、裁判所はみなし残業代制(固定残業代制)は違法とする考え方が強いようです。
(テックジャパン事件判決最高裁平成24年3月8日櫻井龍子補足意見)
また、労働時間を適正に管理していなかったり、就業規則等を雑に定めていたりすることで、残業代をきちんと払う意思がないと判断できる場合は、みなし残業代制(固定残業代制)は違法である可能性が高いです。
【勤怠管理システムの不備でみなし残業代制(固定残業代制)が違法となったケース】
勤怠管理システムにおいて、「出社時刻」だけを入力させていた。
出勤時刻を入力させていない以上、労働時間管理をしておらず、残業時間を計算できないので、残業代をきちんと払う意思がないとして、みなし残業代制(固定残業代制)を認めませんでした。
(※イーライフ事件判決(東京地判平成25年2月28日))
3-5:みなし残業が想定する残業時間が異常に長い
月45時間を超える残業を想定する固定残業代制(みなし残業代制)は違法になる可能性があります。
三六協定で許されている45時間を超える残業を常に想定していることに違法性が高さが表れているからです。
特に月80時間を超えるような総統に長期な残業を想定する固定残業代制(みなし残業代制)(みなし残業制)は、違法になる可能性が高いです。
なぜなら、月80時間を超える残業は過労死との関連性が強いとされているため(「脳血管疾患及び虚血性疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発1063号平成13年12月12日))、このような危険性の高い残業をあらかじめ予定する固定残業代制(みなし残業代制)を認めるわけにはいかないからです。
裁判例も長期にわたる残業を認めない傾向にあります。
【長期にわたる残業が認められなかったケース】
■ザ・ウインザー・ホテルズ・インターナショナル事件(札幌高判平成24年10月19日)
95時間分のみなし残業代として支給された「職務手当」について45時間分を超える部分について、無効と判断しています。
■マーケティングインフォーメーションコミュニティ事件(東京高判平成26年11月26日)
残業100時間分の営業手当について、違法な長期労働を許してしまいかねず、みなし残業代制(固定残業代制)として認めないと判断しました。
3-6:基本給が最低賃金を下回っている
あなたの月給のうち、みなし残業を除いた部分(基本給部分)が非常に少ない場合、みなし残業代制(固定残業代制)が違法となる可能性が非常に高いです。
みなし残業を除いた部分を、173.8(月の所定労働時間)で割ってみて、あなたの職場の都道府県の最低賃金を下回っていると、みなし残業代制(固定残業代制)は違法の可能性が高いです。
「(注)東京の最低賃金は平成28年度のものです。」
なお、各都道府県の最低賃金については以下をご参照ください。
地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
3-7:給与規程が改定されている
過去に、就業規則や給与規程が改定されている場合は、要注意です。
(就業規則や給与規程の最初や最後に改定日が記載されています。)
就業規則や賃金規程を変更は、かつてある手当について、「残業手当」ではないものとして払っていたのを、「残業手当」にしてしまおうと画策するために行われている可能性があります。
例えば、あなたの知らないうちに、基本給の一部がみなし残業代に置き換えられていたりするのです。
このような場合、不合理な就業規則の変更として、労働契約法10条により認められない可能性が極めて高いのです。
4章:違法なみなし残業に対して、残業代を請求できる
ここまでで、あなたの会社のみなし残業代制(固定残業代制)が違法かどうかをある程度判断できるようになったかと思います。
違法なみなし残業代制(固定残業代制)であるならば、あなたは、会社に対して残業代を請求することができます。
4章では、
- 請求できる金額のイメージ
- 残業代を請求するにはまず証拠を集める必要があること
- 「弁護士に頼む = 裁判」ではないこと
- 早く行動を起こすべきであること
について解説します。
4-1:請求できる金額のイメージ
【基本給が15万円で、みなし残業代が5万円の人のケース】
みなし残業代分(5万円)が残業代と認められなかった場合、上図のように約200万円も請求金額が増える可能性があります。
更に本当は、割増率や残業時間も考慮されるので、もっと金額が大きくなる可能性が高いです。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
残業代の時給をごまかす「3つの手口」と残業代の「正しい計算方法」
4-2:残業代を請求する場合は証拠を集めるべき
残業代請求をしようと考える場合は、残業していた証拠が必要です。
例えば、証拠としては以下のようなものが有効です。
- タイムカード
- 会社のパソコンの利用履歴
- 業務日報
- 運転日報
- FAX送信記録
- シフト表
会社が後で、消してしまう可能性があるので、コピーをしたり写真で保存しておいたりすることもおすすめします。
とにかく、半月分でも構わないので写真にとるなり、コピーをとるなりして、自分で持っているのが、後々大きな武器になります。
しかし、本当にひどいブラック企業は、勤怠管理をせず、上記のような証拠が会社に残っていないケースもあります。
そこで、会社が勤怠管理をしていない対抗策として、以下のようなもので記録しておくことが有効です。
①仕事をしていた時間と業務内容の個人的な記録
例えば手書きの日記に書いておくなどです。できるだけその日ごとにメモしてください。
②残業時間の計測アプリ
最近では、残業時間を計測できるアプリが増えているようです。
③家族に帰宅を知らせるメール
会社を出る際に家族に送ったメールやLINEなどです。①②と比べると証拠としては少し弱めです。
残業代を請求しようと考える場合は、これらをできるだけ多く毎日集めてください。
4-3:「弁護士に頼む = 裁判」ではない!
一人で会社に立ち向かい、残業代を回収することも不可能ではありません。
しかし、会社にも社労士や弁護士がついているため、軽くあしらわれてしまうだけです。
みなし残業代制(固定残業代制)について、するどく違法性を主張し、本来の残業代を回収するためには、弁護士に依頼することをおすすめします。
“弁護士に頼む”というと、何か大げさで、何年も裁判したり着手金を何十万も用意したりしなければならないとイメージされる方も多いようです。
しかし、残業代請求というものは、いきなり裁判することは少なく、交渉や労働審判という形で回収していくことがほとんどです。
長期間の戦いになってあなたの負担が増すばかりのようなことは少なくなってきています。
4-3-1:交渉のイメージ
弁護士が、会社との窓口になって、会社に請求書面を送りつけたり、電話で回収の督促をしたりします。
あなたが、会社に出向いたり、会社の人間と連絡をとったりする必要はありません。
これらは全て弁護士が行います。
あなたにとっては、定期的に弁護士から会社との交渉の進捗を教えてもらいながら、弁護士と作戦を練り、「このぐらいの額であればよいか」という額において、会社と和解にもちこみます。
交渉であれば、あなたの時間やお金の面での負担が少なくて済みます。
あなたからすると、普段通り生活しながら、ときおり弁護士と連絡をとり、時間が数か月後に、残業代が自分の口座に振り込まれているというイメージです。
あなたが裁判所や会社に行くような大げさなことをする必要はないのです。
4-3-2:労働審判のイメージ
労働審判とは、裁判所を利用して、労働者側、会社側、裁判官側の三者が裁判所で集まって、話し合いをするというものです。
交渉がうまくいかなかった場合に用いられることが多いです。
裁判所に行くというと大げさですが、最大でも3回しか裁判所に行くことはありません。
(1回で終わることも珍しくありません。)
しかも、法廷に立つのではなく、裁判所内の会議室のような場所に丸テーブルに座り、「こういう風に残業させられたんです。」と中立な裁判官に伝えるものです。
中立な裁判官に、残業の実態を伝えることで、より適切な判断が期待できます。
会社の側も、裁判官の判断には大人しく従うケースが多いです。
また、裁判と違い、裁判所に最初に支払う手数料も安く設定されています。
そして、労働審判での結果をもとに、会社の財産を差押さえることができるため、会社に対する非常に強力な圧力になるのです。
4-3-3:訴訟のイメージ
交渉や労働審判でうまくまとまらなかった場合は、訴訟という形になります。
労働審判は短い期間で裁判官が判断するため、ざっくりとした判断しかされません。
そこで、もっと厳格な判断を仰ぎたい場合は訴訟を利用します。
訴訟の場合のメリットとしては、残業代についての、年6%または14.6%の遅延損害金も含めて請求できるため、受け取る金額も大きくなります。
また、残業代とは別に付加金という、残業代を支払わなかったことについての罰金を請求できる可能性もあります。
しかし、訴訟は時間が1年以上かかることも多く、その間、弁護士に日当を払い続けるもので、金銭的にも時間的にも負担が多いです。
さらに、必ず勝てるという保証はなく、途中で結局和解が結ばれる可能性が高いです。
この場合、付加金は請求できません。
4-3-4:金銭的負担が少ない法律事務所もある
「弁護士に依頼すると高そう」「お金を工面しなければ」と思う方も多いと思います。
しかし、残業代請求は、あなたの権利です。
現時点で弁護士に頼むお金がないことを理由に、請求を諦めるのは、もったいないことです。
最近では、着手金無料の事務所も増えており、実際に残業代を回収できた場合に、その回収できた額から、弁護士費用を支払うという、完全成功報酬制をとる事務所も登場しています。
そのような事務所であれば、あなたの金銭的な負担も極めて低いので相談してみるとよいでしょう。
以下に、3つの手段についてのメリット・デメリットを記載します。
基本的には、「交渉 → 労働審判 → 訴訟」という流れで進むことが多いです。
【交渉のメリット】
①早期解決(1~6か月)
②お金がなくても利用できる事務所が存在する。
③裁判所に行ったり、会社の人に会ったりする必要が無い。
【交渉のデメリット】
早期解決ということから、若干譲歩する必要がある。
【労働審判のメリット】
①裁判官に判断してもらえるので、会社への圧力となる。
②労働審判の結果をもとに、会社の財産を差し押さえることができる。
③訴訟より、おおげさでなく、最大3回で終わる。
【労働審判のデメリット】
①裁判所に毎回行く必要がある(その場合会社を休む必要あり)
②裁判官の審判があっても、会社が異議申立てすれば、訴訟になってしまう。
③こちらも幾分か譲歩する必要がある。
【訴訟(裁判)のメリット】
①より法的に厳格な判断を得られる。
②遅延損害金も請求できる。
③付加金を請求できる。
【訴訟(裁判)のデメリット】
①時間がかかる。
②お金がかかる。
③精神的負担も大きい。
④結局和解で終わる事が多いので、付加金も請求できないことが多い。
⑤負担をかけても、必ず勝てるわけではない。
4-4:時効は3年なので早く行動すべき
以上のように残業代を請求する手段は複数あります。
しかし、残業代請求権の時効は「3年」と決められています。
つまり3年よりも前の残業代分は請求できなくなってしまいます。
ですので、残業代を請求したい場合は、早めに行動しましょう。
なお、以前勤めていた会社であっても、3年以内までであれば遡って残業代を請求できます。
まとめ:みなし残業(固定残業)の違法性
いかがでしたでしょうか?
当記事では、
■みなし残業代制(固定残業代制)の意味と、これを利用する会社の意図(利益を増大させるために、人件費を削減する。)
■その意図を打ち破り、適切な残業代請求をするために、ご自身の武器として、みなし残業代制(固定残業代制)の違法チェックリスト
■違法なみなし残業代制(固定残業代制)を設定する会社に対して、残業代を請求する方法や、弁護士に頼んでもそこまで負担がかからないということ
を解説しました。
あなたが残業代を請求しようと考えるならば、
・まずは1ヶ月分でも良いので証拠を集める
・時効は3年なので早く行動する
・専門家(弁護士)に相談する
ということを明日から実行されることをおすすめします。