- 更新日:2024.09.17
- #みなし残業制度
【みなし残業制度】仕組みとブラック企業が利用しがちな理由を解説
この記事を読んで理解できること
- みなし残業(固定残業)制度の仕組みと条件
- みなし残業制度のメリット・デメリット
- みなし残業制度がトラブルになるケース
- みなし残業制度のトラブルへの対処法
あなたは、
「みなし残業ってどんな制度かな?」
「みなし残業制度の仕組みが知りたい」
「みなし残業制度はいくら残業しても残業代は同じ?」
などとお考えではないですか?
みなし残業は、法律的に正式な用語ではありませんが、一般的には「みなし残業代制(固定残業代制)」と呼ばれています。
みなし残業制度は、あらかじめ一定時間の残業をしたとみなして残業代を支払う制度で、求人票では
「固定残業代 ○万円 / ○時間相当分を含む」
「月○時間分のみなし残業手当 ○万円を含む」
などと記載されています。
このように、みなし残業制度では固定給の中に残業代が含まれているため、会社の運用によっては基本給と残業代の区別がつかなかったり、みなし残業時間を超えた残業代が未払いになるなど、トラブルになりやすい一面があります。
もし、あなたの実際の残業時間が、みなし残業として設定されている残業時間より明らかに多い場合は、残業代の未払いが発生している可能性が高いです。
また、ブラック企業のなかには、みなし残業代制を利用して残業代が支払われていると錯覚させ、長時間労働を強いるケースが多くあります。
そのため、みなし残業制度の仕組みをしっかりと理解し、未払い残業代がある場合は会社に対して請求することが重要です。
この記事では、1章でみなし残業(固定残業)制度の仕組みと条件を、2章ではみなし残業制度のメリット・デメリットを、3章ではみなし残業制度がトラブルになるケースを紹介します。
さらに、4章ではみなし残業制度のトラブルへの対処法について解説します。
みなし残業制度の仕組みやトラブルの対処法をしっかり理解して、会社にいいようにこき使われないよう、正しい知識を身につけましょう。
目次
1章:みなし残業(固定残業)制度の仕組みと条件
みなし残業制度を「いくら残業しても給料が変わらない」制度だと思い込んでいる人もいるようですが、 そうではありません。
会社もそうですが、社員の中には、みなし残業制度を誤って理解している人もいます。
会社から提示された労働条件をうのみにせず、この機会にぜひ、みなし残業制度についてマスターしましょう。
1-1:みなし残業制度の仕組み
みなし残業制度とは、「一定の残業時間分の残業代を、最初から給料として払っておく制度」です。
残業代があらかじめ固定給(基本給や手当)に含まれていることから、別名「固定残業代制」とも言われています。
会社は社員に対して、みなし残業代(固定残業代)と残業時間を定めて就業規則等に記載し、社員に周知する義務があります。
例えば、
「月給28万円(50時間分の固定残業代として8万円を含む)」
のように記載します。
みなし残業では、実際の残業時間がみなし残業時間より少なかった場合も、固定残業代として決められた残業代が支払われます。
また、実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合は、超過分の残業代が追加で支払われます。
みなし残業時間に上限はありませんが、労働基準法の時間外労働の上限が原則として「⽉45時間・年360時間」となっているため、これを大幅に超えると無効になる場合もあります。
1-2:みなし残業制度が認められる条件
みなし残業制度は、どの会社でも無条件に利用できるものではありません。
法律で定められたみなし残業制度が認められる条件は、次の2つです。
- 雇用契約書や就業規則に記載されている
- 固定残業代の金額・時間が明確にされている
それぞれ解説していきます。
1-2-1:雇用契約書や就業規則に記載されている
みなし残業制度が適用されるには、雇用契約書や就業規則にみなし残業代制(固定残業代制)に関する内容が記載されている必要があります。
口頭で「うちはみなし残業制だから、残業しても残業代は出ない」と説明するだけではダメで、雇用契約書や就業規則など、書面できちんと周知させる必要があります。
【就業規則の記載例】
(みなし残業制度の定め)
第〇条 〇〇手当は固定残業手当として、あらかじめ設定した時間(〇〇時間)に対して支給し、実際の労働時間がこれを超えた場合は、法令に基づき割増賃金を加算して支給する。
また、仮に就業規則にこのような記載があったとしても、就業規則が誰でも見えるところに掲示または備え付けられている必要があります。
1-2-2:固定残業代の金額・時間が明確にされている
みなし残業制度では、固定残業となる金額を明確に記載する必要があります(何時間分の残業代であるのかも明記することがより望ましいです)。
例えば、「月給28万円(固定残業代を含む)」だけでは、「月給のうちいくらが固定残業代なのか?」「それは何時間に相当するのか?」ということが分かりません。
そのため次のように、具体的に固定残業代の金額と、残業時間を明記する必要があります。
「月給28万円(50時間分の固定残業代8万円を含む)」
つまり、50時間以内の残業に対する固定残業代を8万円として、会社はみなし残業制度を利用すると、約束することになります。
もしこの労働契約で、50時間以上の残業をした場合は、残業した分の残業代を、上乗せして払う義務が会社にはあります。
2章:みなし残業制度のメリット・デメリット
みなし残業制度について理解が深まったところで、ここではみなし残業制度のメリット・デメリットを<会社側><社員側>に分けてまとめてみます。
2-1:みなし残業制度のメリット
【メリット】
<会社側>
- みなし残業制度として定められた時間内の残業であれば、残業代の計算が楽である。
- 人件費がある程度固定化できるため把握しやすい
- 業務の効率化や社員のモチベーションアップが期待できる
<社員側>
- 残業しなくても固定残業代が支払われる
- 繁忙期・閑散期に関係なく収入が安定する
- 業務効率を上げて残業時間を短縮することができる
- 時間内にノルマをこなせた人より、仕事の遅い人が残業代を多くもらうという不公平を防ぐことができる
2-2:みなし残業制度のデメリット
【デメリット】
<会社側>
- 社員の残業時間が、就業規則で定められたみなし残業時間より少なくても、一定の残業代を支払わなければならない
- みなし残業時間より、社員が長く残業をした場合、超過分の残業代を別途支払わなければいけない
- 不適切な運用をしていると、みなし残業と思い込んでいた手当が、裁判や労働審判でみなし残業でないと扱われてしまう
<社員側>
- みなし残業制度では一般的に、就業規則で定められた時間内であれば、割増賃金は支払われない。
- みなし残業時間分の残業を強要される場合がある
- みなし残業時間を超えた残業代が未払いになる可能性がある
このように、みなし残業制度は、上手に活用すれば会社にとっても社員にとってもメリットのある制度です。
ただし、中には社員側だけがデメリットとなる働き方をしているケースも多く見受けられます。
会社のみなし残業制度が合法か、違法かを判断したい場合は、次の記事で詳しく解説しています。
3章:みなし残業制度がトラブルになるケース
先に解説したように、みなし残業制度は、残業時間や残業代のトラブルになりやすい一面があります。
トラブルになるケースとしては、主に次の2つがあげられます。
- 未払い残業代が発生する可能性がある
- 固定残業代の支給条件が不明確
それぞれ解説していきます。
3-1:未払い残業代が発生する可能性がある
みなし残業制度では、未払い残業代が発生する可能性があります。
なぜなら、みなし残業制度を導入している会社の中には、固定残業代を支給することによって残業代はすでに支払われていると主張し、みなし残業時間を超える残業代を支払わないケースがあるからです。
先に解説したように、みなし残業制度でも実際の残業時間がみなし残業時間を超えた場合は、超過分の残業代が支払わなければ違法です。
また、適正な労働時間管理が行われていない場合は、残業代をきちんと払う意思がないと判断され、みなし残業制度が違法とされる可能性が高いです。
3-2:固定残業代の支給条件が不明確
2章でも解説したように、みなし残業制度では、具体的に固定残業代の金額と、残業時間を明記する必要があります。
しかし、みなし残業制度の運用について、就業規則や賃金規程に固定残業代の支給条件が不明確になっている場合は、トラブルになるケースが多いです。
また実際に次のように記載されている場合は、みなし残業制度は違法と判断される可能性が高いです。
「基本給には、法定労働時間を超える分の時間外手当を含む」
この場合、固定残業代が明確にされていないため、基本給の中のいくらが残業代なのか分かりません。
そのため、固定残業代だけでなく残業代を引いた基本給自体も明確な金額が分からないため、社員は適正な賃金が支払われているのか判断することが難しくなります。
コラム:ブラック企業がみなし残業制度を利用する理由
ブラック企業がみなし残業制度を利用する理由は、求人票の記載で固定残業代を基本給に組み込むことで、他の会社より給料を多く見せることができるからです。
次の図のように、同業他社と比べて基本給を高く見せられるため、求職者にとってはとても魅力的な会社に映ります。
実際は、基本給が安くても、残業代をきちんともらった方 が給料は高くなる場合もありますが、固定残業代が組み込まれた基本給の方が好条件に見えます。
結果、ブラック企業はみなし残業制度を導入することで
- 入社希望者が増える
- 低賃金で長時間労働させられる
といったメリットを得ることができます。
4章:みなし残業制度のトラブルへの対処法
みなし残業制度で未払い残業代などトラブルになった場合、対処法として次の3つがあげられます。
- 雇用契約書や就業規則を確認する
- 残業時間を確認する
- 未払い残業代を請求する
順番に解説していきます。
4-1:雇用契約書や就業規則を確認する
ここまで解説したように、会社のみなし残業が違法な場合は、まず雇用契約書や就業規則を確認することが重要です。
1章で解説したみなし残業制度の仕組みや条件を満たしていない点はないか、十分注意しながら確認する必要があります。
特に、基本給やみなし残業代の区別が曖昧で金額も最低賃金を下回っている場合や、みなし残業を超えた部分の残業代が未払いになっている場合は、会社に適正な賃金・残業代を請求することができます。
もし、みなし残業の違法性の判断や賃金・残業代の計算が難しい場合は、労働基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。
4-2:残業時間を確認する
みなし残業で未払い残業代を請求できる可能性がある場合は、残業時間の確認をする必要があります。
実際の残業時間を正確に確認し明らかにすることで、みなし残業が違法とされた場合は、適正な残業代を請求することができます。
また、実際の残業時間がみなし残業時間を超えている場合は、未払い残業代を請求できる可能性があります。
また、正しい残業時間を確認し未払い残業代を請求するためには、残業していた証拠が必要です。
例えば、証拠としては次のようなものが有効です。
- タイムカード
- 会社のパソコンの利用履歴
- 業務日報
- 運転日報
- FAX送信記録
- シフト表
会社が後で消してしまう可能性があるので、コピーや写真で保存しておくことをおすすめします。
しかし、本当にひどいブラック企業は、勤怠管理をせず、上記のような証拠が会社に残っていないケースもあります。
そこで、会社が勤怠管理をしていない対抗策として、次のようなもので記録しておくことが有効です。
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
自分で勤務時間を記録する場合は、毎日手書きで1分単位で時間を書き、具体的な業務についても書き残すことがベストです。
家族に帰宅を知らせるメールは、裁判になると証拠としては弱いので、できるだけ手書きでメモを取りましょう。
証拠は、できれば3年分あることが望ましいですが、なければ一部でもかまわないので、できるだけ毎日の記録を集めておきましょう。
4-3:未払い残業代を請求する
未払い残業代を請求する方法としては、次の3つがあげられます。
- 残業代を請求する内容証明を送る
- 労働基準監督署に申告する
- 弁護士に依頼して残業代を請求する
それぞれ解説していきます。
4-3-1:残業代を請求する内容証明を送る
会社に残業代を請求するためには、会社に「配達証明付き内容証明郵便」で、請求書を送る必要があります。
【内容証明ひな形】
私は○○年○○月○○日、貴社に入社し、○○年○○月○○日に退社した者です
私は、○○年○○月○○日から○○年○○月○○日(以下「請求期間」とします。)まで、貴社に対し、合計■時間の時間外労働を提供いたしましたが、貴社からは、一切、割増賃金のお支払いただいておりません。
よって、私は、貴社に対し、請求期間内の未払割増賃金の合計額である★円の支払を請求いたしますので、本書面到達後1週間以内に、以下の口座に振り込む方法によるお支払をお願いいたします。
○○銀行○○支店
○○預金(普通・定期などの別)
口座番号○○
口座名義人○○
なお、本書面到達後1週間を過ぎても貴社から何らご連絡いただけない場合は、やむを得ず訴訟を提起させていただくことをあらかじめ申し添えます。
ただし、会社に残業代を請求する内容証明を送っても、会社側にうまく丸め込まれてしまう恐れがあります。
その場合は、労働基準監督署に申告するという方法があります。
4-3-2:労働基準監督署に申告する
「労働基準監督署」とは、厚生労働省の出先機関で、労働基準法に基づいて会社を監督するところです。
給料の未払いは労働基準法違反のため、労働基準監督署に相談することで解決にいたる可能性があります。
このような流れで労働基準監督署に申告することができますが、この方法は「残業代を請求したい場合」は、あまりおすすめできません。
なぜなら、労働基準監督署は、労働基準法に違反している会社の行為を「正す」機関であり、残業代を取り返してくれる機関ではないからです。
また、労働基準監督署は、労働者からのすべての申告で動くわけではありません。
それは、全国には400万を超える法人があるにもかかわらず、日本の労働基準監督署の人員は、非常勤の職員を含めても約2,400人しかおらず、明らかに人員不足だからです。
そのため、過労死や労働災害などの「人命に関わる問題」が優先して処理されるため、「残業代の未払い」では、直ちに動いてもらえない可能性もあります。
そこで、残業代を取り返す場合には、最初から弁護士に依頼することをおすすめします。
4-3-3:弁護士に依頼して残業代を請求する
ここまで解説してきたように、みなし残業制度の残業代の請求や会社との交渉は、専門的な知識が必要なため、弁護士に依頼することをおすすめします。
自分で請求する場合と、弁護士に依頼する場合のメリット・デメリットは次のようになります。
このように、自分で請求する方法では、手間・時間・精神的負担が大きいだけでなく、弁護士に頼む方法に比べて回収できる金額が少なくなる可能性が高いです。
そのため、残業代請求はプロの弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に相談するというと
「裁判みたいな大事になるのはちょっと・・・」
「費用だけで100万円くらいかかるのでは?」
と考えてしまう人もいるかもしれません。
しかし、弁護士に頼む=裁判ではありません。
残業代の請求でいきなり裁判になることは少なく、多くの場合「交渉」や「労働審判」という形で会社に請求していきます。
また、残業代請求に強い「完全成功報酬制」の弁護士に依頼すれば、「相談料」や「着手金」ゼロで依頼することができます。
弁護士に依頼した場合の流れは、次のようになります。
弁護士に依頼すると、あなたの「会社と戦う」という精神的負担を、弁護士が肩代わりしてくれるだけでなく、時間・手間を節約することもできるのです。
ただし、弁護士に依頼する場合は、「弁護士なら誰でもいいだろう」とは考えないでください。
実は、法律の知識は広い範囲に及ぶため、自分の専門分野以外の事案については、あまり知識がない弁護士が多いです。
そのため、残業代請求に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
残業代請求に強い弁護士の選び方や、相談の流れ・かかる費用などについて、詳しくは以下の記事に書いていますので、ご覧ください。
【残業代請求】弁護士選びの8つのポイントと解決までの流れや費用を解説
まとめ:みなし残業制度について
最後にもう一度、当記事の内容を振り返りましょう。
みなし残業制度とは、「一定の残業時間分の残業代を、最初から給料として払っておく制度」です。
残業代があらかじめ固定給(基本給や手当)に含まれていることから、別名「固定残業代制」とも言われています。
みなし残業制度が認められるためには、以下2つの条件が必須になります。
- 雇用契約書や就業規則に記載されている
- 固定残業代の金額・時間が明確にされている
みなし残業制度は、上手に活用すれば会社にとっても社員にとってもメリットのある制度ですが、違法に運用されている場合も多いため、雇用契約書や就業規則をしっかり確認することが重要です。