- 更新日:2024.10.09
- #36協定残業時間
【36協定の残業時間】業種別のルールと残業時間の上限や違法なケース
この記事を読んで理解できること
- 36(サブロク)協定での残業時間について
- 残業時間の上限規制の適⽤が猶予・除外となる事業・業務
- 36協定で残業が違法になるケース
- 残業時間が違法な場合の対処法
あなたは、
「36(サブロク)協定がある場合の残業時間のルールが知りたい」
「36協定と残業時間の関係ってなんだろう?」
「36協定があると、残業時間の上限は何時間になるのかな?」
などの疑問はありませんか?
36協定とは、「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超えた時間外労働(残業)・休日労働を可能にするための、会社と従業員の間で締結する協定のことです。
この協定を所轄労働基準監督署⻑へ届け出ることで、会社はあなたに残業をさせることが可能になります。
ただし、36協定が締結されているからと言って、
「何時間でも残業させて良い」
というわけではありません。
36協定が締結されると、36協定のルールにのっとった残業でなければ、「違法」になることもあります。
そこでこの記事では、36協定における残業時間の基本的な考え方や上限、違法になるケースと、違法な場合の対処法について解説します。
あなたも、会社から違法に働かせられることのないように、正しい知識を身につけましょう。
1章:36(サブロク)協定での残業時間について
そもそも、多くの会社では当たり前のように残業がありますが、36協定が締結されていなければ残業させることはできません。
また、残業時間(時間外労働時間)の上限は労働基準法によって定められており、労使の合意に基づく所定の手続きをとらなければ、これを延⻑することはできません。
そこでこの章では、
- 36協定と残業時間の意味
- 残業時間の上限「月45時間」と特別条項
- 残業時間を計算してみよう
この3つを順番に解説します。
1-1:36協定と残業時間の意味
36協定とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といい、1日8時間・週40時間の「法定労働時間」を超えた労働(残業)をするために、会社と従業員との間で締結される協定です。
従業員一人一人と協定を結ぶのではなく、労働組合や労働者の代表と会社の間で締結します。
36協定は、従業員が誰でも確認できるように周知されている必要があります。
例えば、
- PCの従業員が誰でも見られるフォルダ内に入っている
- 職場の壁に貼ってある
- 休憩室に置いてある
などです。
これらの方法で見えるようにされていなければ、労働基準法違反(第106条)です。
また、36協定があると、法定労働時間を超えた労働(残業)が可能になりますが、これから紹介するように、残業時間には上限が設定されています。
1-2:残業時間の上限「月45時間」と特別条項
36協定が締結された場合は、以下のように残業時間のルールが適用されます。
つまり、36協定が締結されている場合でも、⽉45時間・年360時間を超える残業時間は「違法」なのです。
ただし、上記の残業時間の上限を超えて残業している場合もあると思います。
実は、「特別条項付き36協定」を締結することで、上記の残業時間の上限を延長することができます。
【特別条項付き36協定で残業時間の上限を延長できる】
特別条項付き36協定とは、「⽉45時間・年360時間」という残業時間の上限を超えた残業を可能にするために、会社と従業員との間で締結される協定のことです。
ただし、月単位なら何時間でも残業時間が延長できますが、
- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、「2~6ヶ⽉平均」が全て1⽉当たり80時間以内
- 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度
といった条件があります。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
長時間残業に注意!特別条項付き36協定の3つのルールを弁護士が解説
ここで、あなたの残業時間が、どのくらいなのか計算してみましょう。
1-3:残業時間を計算してみよう
お伝えした通り、36協定があっても「⽉45時間・年360時間」を超えた残業時間が日常的にある場合、違法である可能性が高いです。
あなたの残業時間は、以下のように計算することができます。
①1日に8時間を超えて労働した時間を計算する
例えば、10:00-19:00(途中休憩1時間)が定時の会社の場合、19:00時以降に働いた時間はすべて残業になります。
さらに、会社の指示で9:00時には出勤して働いているという場合、9:00~18:00時(途中休憩1時間)で8時間労働になりますので、たとえ定時が19:00時までであったとしても、18:00時以降に働いた時間が、すべて残業時間です。
②週40時間を超えて労働した時間を計算する
1日8時間を超えて労働した日がなかったとしても、週40時間を超えて働いている週があれば、その時間はすべて残業になります。
例えば、1日8時間の労働を、月曜日から土曜日まで続けた場合、労働時間の合計は48時間になりますので、8時間は「残業時間」になります。
③月の合計残業時間を足す
①と②で計算した残業時間を、全て足し合わせましょう。すると、あなたの1ヶ月の残業時間が分かります。
こうして計算した残業時間が、45時間を遙かに超えていたり、毎月45時間を超えているようなら、あなたの会社は違法行為をしている可能性が高いです。
しかし、気をつけて頂きたいのが、これから紹介する業種の場合は、36協定における残業時間の上限のルールが異なります。
2章:残業時間の上限規制の適⽤が猶予・除外となる事業・業務
36協定が締結されている場合も、残業時間には上限があるとお伝えしました。
しかし、これから紹介する業種については、「36協定」「特別条項付き36協定」が締結されていても、上限規制の適⽤が猶予・除外となります。
- 土木、建築の現場作業、工事などを行う職種
- トラック、タクシーなど自動車の運転を行う職種
- 新技術、新商品等の研究開発を行う職種
- 季節などによって業務量が大きく変化する業種
それぞれ解説していきます。
2-1:土木、建築の現場作業、工事などを行う職種
これらの業種の人は、36協定による残業時間の上限が2024年3⽉31日まで猶予されるため適用されません。
2024年4月1日以降は、災害の復旧・復興の事業を除き、上限規制がすべて適用されます。
災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休⽇労働の合計について、
- ⽉100時間未満
- 2〜6か⽉平均80時間以内
とする規制は適用されません。
ただし、もし長時間労働が原因となって精神疾患などが発生した場合は、労災認定されます。
労災認定の基準としては、「過労死ライン」が設定されています。
過労死ラインについて詳しくは、以下の記事の記事を参照してください。
【長時間残業は過労死する】過労死ラインと違法性を弁護士が徹底解説
2-2:トラック、タクシーなど自動車の運転を行う職種
トラック、タクシー、バスのドライバーの人の場合は、独自の規定が存在します。
これらのドライバーの1日の労働時間は、運転、整備、荷扱いなどの「作業時間」と、荷待ち・客待ちなどの「手持ち時間」を合わせた「労働時間」が13時間以内(16時間以内までなら延長可)で、「休憩時間」を継続して8時間以上取らなければならない、という規定があります。
また、2024年4月1日以降は、
- 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、
・⽉100時間未満
・2〜6か⽉平均80時間以内
とする規制は適用されません。 - 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは年6か⽉までとする規制は適用されません。
また、それぞれ1ヶ月、1年単位での規定がありますので、詳しくは以下の記事を参照してください。
トラック運転手の労働時間の実態と違法な場合の2つの対処法を弁護士が解説
2-3:新技術、新商品等の研究開発を行う職種
新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。
ただし、労働安全衛⽣法が改正され、時間外労働が⽉100時間を超えた労働者に対しては、医師の⾯接指導が罰則付きで義務付けられました。
また、「新技術・新商品等の研究開発」を行う職種では、裁量労働制が採用されていることが多いです。
分かりやすく言うと、メーカーの研究職等の人のことです。
裁量労働制の場合は、1日8時間・週40時間という法定労働時間とは関係なく、あらかじめ設定された「みなし労働時間」だけ、毎日労働していると考えられます。
裁量労働制について詳しくは、以下の記事を参照してください。
2-4:季節などによって業務量が大きく変化するような業種
具体的には、
- 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業(砂糖精製業を除く。)
- 造船事業における船舶の改造又は修繕に関する業務
- 郵政事業の年末年始における業務
- 都道府県労働局長が厚生労働省労働基準局長の承認を得て地域を限って指定する事業又は業務
という、一部の限られた業種のことです。
これらの4つの業種で働いている人は、36協定による残業時間の上限の適用は受けませんが、1年間におけるトータルでの残業時間の上限は設定されています。
次に、36協定で残業が違法になるケースを紹介します。
もしあなたが当てはまるようなら、現状を変えるための行動をはじめることをおすすめします。
3章:36協定で残業が違法になるケース
36協定が締結されている会社では、以下の場合に「違法」になります。
【36協定が締結されていて残業が違法になるケース】
- 月45時間の上限を超えた長時間残業
- 年6ヶ月を超えて、月45時間をこえる残業をしている
- 「特別な事情」がないのに、上限を超えて残業している
- 残業によって著しい不利益を被った
順番に解説します。
3-1:月45時間の上限を超えた長時間残業
繰り返しになりますが、36協定が締結されていても、
「⽉45時間・年360時間」
を超える残業は違法です。
※ただし、特別条項付き36協定が締結されている場合は、違法ではありません。
会社は残業時間が月45時間を超えると、残業が違法になることを知っているため、
「今月はもう45時間を超えるから、残業しないでくれ」
と言ってくることもあります。
しかし、残業を禁止すると言いつつも、
- とても定時には終わらないような量の仕事を押しつけられる
- 定時の始業時間前や終業時間後に、打ち合わせや予定を入れられる
ということもあり、結果的にサービス残業を強いられることもあります。
こうした場合は、たとえ出退勤の記録上は「残業していない」ことになっていても、実際には残業の実態があるのですから、会社は違法行為をしていることになります。
もしあなたも、このような状況に思い当たることがあるなら、以下の記事を読んでみてください。
残業禁止なら残業代は出ない?弁護士が教える法律上の扱いと対処方法
3-2:年6ヶ月を超えて、月45時間をこえる残業をしている
1章では、「特別条項付き36協定」を締結している場合、「⽉45時間・年360時間」といった残業時間の上限を、さらに延長できるとお伝えしました。
しかし、残業時間の上限が延長できるのは、「年6ヶ月まで」です。
つまり、延長した月が1年のうち7ヶ月あると、1年の半分を超えているため、たとえ「特別条項付き36協定」が締結されている場合でも、違法です。
3-3:「特別な事情」がないのに、上限を超えて残業している
「特別条項付き36協定」は、あくまで臨時的・一時的・突発的な「特別の事情」が発生した場合にのみ、36協定の上限時間を延長させることができるという協定です。
そのため、以下のような「特別な事情」をあらかじめ定めておき、その事情が発生した場合のみ、36協定の上限を超えた残業が認められます。
【残業時間の上限が延長できる特別な事情の例】
- ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
- 納期の逼迫
- 大規模なクレームへの対応
- 機械のトラブルへの対応
こうした「特別な事情」がなく、日常的に「月45時間」といった上限を超えた残業が発生している場合、特別条項付き36協定があっても違法です。
3-4:残業によって著しい不利益を被った
以上の労働時間の条件が満たされていても、あなたが著しい不利益を被ってしまうような残業は、違法となる可能性が高いです。
例えば、以下のようなケースです。
- 体調不良(持病などを含む)
- 家族の危篤
- 妊娠している
- 家族に対する育児、介護が必要
こうしたケースでは、自分や家族の身体・生命に関わるため、残業の強制は認められません。
もしあなたが違法な状況にある場合は、これから紹介する対処法を実践してください。
4章:残業時間が違法な場合の対処法
あなたが、違法な残業をさせられている場合、まずはその違法行為が確認できる「証拠」を集めておくことが大事です。
具体的には、以下のようなものです。
これらを集めておくことで、あなたが、違法な長時間労働をさせられていることが証明できるのです。
※証拠について詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【弁護士が解説】残業代をアップさせる証拠一覧と集め方マニュアル
そして、これらの証拠を集めた上で、以下の対処法を行いましょう。
- 労働基準監督署に相談する
- 残業代請求に強い弁護士に相談する
それぞれ、順番に解説していきます。
4-1:労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、労働基準法にのっとって全国の会社を監督する行政機関です。
労働者なら誰でも無料で会社とのトラブルを相談することができます。
日常的に、36協定の上限を超えて残業させられている場合等は違法ですので、労働基準監督署に会社の違法行為を申告することができます。
申告することで、
- 労働基準法にのっとったアドバイスをもらえる
- 労働基準監督官が会社に立ち入り調査する
- 違法行為が確認できた場合、会社に対して是正勧告(改善命令)を出す
- 再三の是正勧告に従わない場合、経営者を逮捕することもある
という効果が期待できます。
とは言え、どのような相談に対しても、労働基準監督署が動いてくれるわけではありませんので、そんな時には労働基準監督署を動かすコツを知っておくことが大事です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【労働基準監督署】相談できることと相談前の準備、相談するメリット
4-2:残業代請求に強い弁護士に相談する
あなたが、36協定の残業時間の上限を超えるほどの残業をさせられている場合、
「会社の違法行為に対して、何らかの仕返しをしたい」
「サービス残業があるため、未払い残業代を請求したい」
などと思うこともあるのではないかと思います。
そのような場合は、残業代請求に強い弁護士に相談することをおすすめします。
残業代請求に強い弁護士に相談することで、
- 現状を変えるためにやるべき行動について、具体的に教えてくれる
- 「残業代請求」という形で会社に仕返しできる
ということが期待できます。
残業代請求に強い弁護士に相談した場合、次のような流れになります。
「交渉」とは、弁護士が会社に対して請求書を送ったり、電話で残業代の督促をしたりすることです。
あなたが直接会社に行ったり、連絡をとったりする必要はなく、時間やお金の面での負担は少ないです。
「労働審判」とは、交渉で解決しなかったときにとられる選択肢で、あなた側、会社側、裁判官の三者が裁判所の会議室のようなところに集まって話し合うものです。
早ければ1回裁判所に行けば終わることもあり、最大3回まで話し合いが行われますが、弁護士に依頼すれば2回目以降は参加する必要がないことが多いです。
裁判官を交えるため、会社に対して非常に強力な圧力になります。
これらの手段で解決できなかったときにとられるのが、「裁判」です。
裁判は「交渉」や「労働審判」に比べれば、金銭的な負担が大きく、時間もかかってしまいます。
しかし、最近では「完全成功報酬制」を採用する事務所も増えています。
「完全成功報酬制」とは、相談料や着手金が無料で、実際に残業代が戻ってきたときに、回収できた残業代から報酬金を払うという制度です。(ただし実費のみは発生する場合があります)
残業代請求をする上で、実際に裁判になってしまうことは少ない上に、完全成功報酬制の事務所なら、あなたの金銭的負担も極めて低いのです。
まずは相談してみると良いでしょう。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【残業代請求】弁護士選びの8つのポイントと解決までの流れや費用を解説
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
まず、最も大事なことは、36協定があっても残業時間の上限があるということです。
ただし、以下の業種の場合は、残業時間の上限について異なるルールの対象になります。
【残業時間の上限規制の適⽤が猶予・除外となる事業・業務】
- 土木、建築の現場作業、大規模な機械・設備の工事などを行う職種
- トラック、タクシー、バス、社用車など四輪以上の自動車の運転を行う職種
- 新技術、新商品等の研究開発を行う職種
- 季節などによって業務量が大きく変化するような業種
36協定が締結されていても、以下の場合は違法になります。
【36協定が締結されていて残業が違法になるケース】
- 月45時間の上限を超えた長時間残業
- 年6ヶ月を超えて、月45時間をこえる残業をしている
- 「特別な事情」がないのに、上限を超えて残業している
- 残業によって著しい不利益を被った
しっかり正しい知識を覚えて、違法な長時間残業を強いられないようにしましょう。