- 2023.03.24
- 2024.11.29
- #トラック運転手労働時間
トラック運転手の労働時間の実態と違法な場合の2つの対処法を弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- トラック運転手の労働時間は平均202時
- トラック運転手の労働時間の法的なルール
- トラック運転手の労働時間が上限を超えた場合のリスク
- 労働時間が違法な場合の3つの対処法
あなたは、
「トラック運転手の労働時間は平均何時間ぐらいだろう?」
「トラック運転手の労働時間に関するルールはあるのかな?」
「トラック運転手の労働時間が違法な場合の対処法を知りたい」
などとお考えではありませんか?
トラック運転手は、長時間労働になりがちな職業のため、自分自身の労働時間は長いのか、違法ではないのか気になると思います。
結論から言えば、トラック運転手の労働時間は、1か月に平均202時間という厚生労働省のデータがあります。
しかし、実際にはもっと長時間に及んでいて、中には「違法」な状況で働いている人も少なくないと思われます。
なぜなら、実は「荷待ち時間」や「点呼」「渋滞による遅れ」などの時間も、労働時間にカウントすることができ、それらをカウントせずに不当に低い賃金で働かされているトラック運転手が多く見受けられるからです。
そのため、あなたが知っておくべきなのは、トラック運転手の労働時間の正しいルールと違法性の判断基準です。
そこでこの記事では、まずはトラック運転手の労働時間の実態について紹介し、次にトラック運転手の労働時間に関する労働基準法上のルールについて詳しく解説します。
さらに、トラック運転手の長時間労働のリスクや、違法な長時間労働をしている場合の対処法についてもお伝えします。
この記事から正しい知識をしっかり得て、今後の働き方に活用してください。
1章:トラック運転手の労働時間は平均202時
トラック運転手は労働時間が長時間になりがちです。
あなたもトラック運転手として働いているなら、まずは、
「トラック運転手の労働時間は何時間くらいなのか」
「トラック運転手の労働時間が長くなる理由は?」
について確認することをおすすめします。
そこでまずは、
- トラック運転手の労働時間の実態
- 労働時間が長くなる3つの理由
について、順番に解説します。
1-1:トラック運転手の労働時間の実態
厚生労働省の令和3年「賃金構造基本統計調査」によると、トラック運転手の労働時間について、以下のような結果が出ています。
これを見て分かるように、トラック運転手の平均残業時間は月に「28時間」、合計労働時間は「202時間」であることが分かります。
これは、月22日出勤の場合1日当たり9.2時間弱の労働をしている計算になります。
残業は、最も多い40代でも月に31時間となっていますが、実は実態はこれとは異なる可能性が高いです。
なぜなら、賃金構造統計調査は、一部の選ばれた事業所や会社が、任意で労働時間や給与を記録し申告するため、会社側がわざと労働時間を少なく申告している可能性があるからです。
そこで、次に会社だけでなくトラック運転手それぞれも調査されたデータを見てみましょう。
2章で詳しく解説しますが、トラック運転手の場合は、労働時間は次のように決められています。
つまり、「拘束時間-休憩時間=労働時間」となります。
そこで上記の「荷待ち時間がある運行の平均値」を見ると、1日の平均拘束時間が「12時間26分」、1日の平均休憩時間が「1時間58分」ですので、
12時間26分-1時間58分=10時間28分
と、1日あたりの労働時間は約10.5時間になることが分かります。
月の出勤日が22日だとすると、
22日×10.5時間=231時間
となり、賃金構造統計調査の結果よりも労働時間は長くなる結果になります。
トラック運転手の労働時間が長くなりがちなのは、特有の理由があります。
1-2:トラック運転手の労働時間が長くなる3つの理由
トラック運転手の労働時間が長くなる理由として、次の3つがあげられます。
- 荷待ち時間の発生
- 道路状況による影響
- 運転手の人手不足
それぞれ、解説していきます。
1-2-1:荷待ち時間の発生
トラック運転手の場合、運転時間以外にも荷待ち時間が発生するのが一般的です。
令和3年の調査によると、荷待ち時間のある運行の場合、平均荷待ち時間は 1 時間 34 分でした。
これは、平成27年の調査に比べると11分短くなっていますが、荷待ち時間のない運行に比べるとその分拘束時間が長くなっています。
さらに、令和3年の調査では、荷物の積み下ろしの作業「荷役時間」が、平成27年の調査に比べてかなり短くなっていますが、それでも約1時間半の時間がかかっています。
【荷待ち時間がある運行の平均値】
- 令和3年
平均拘束時間:12時間26分
荷待ち時間:1時間34分
荷役時間:1時間29分
- 平成27年
平均拘束時間:13時間27分
荷待ち時間:1時間45分
荷役時間:2時間44分
運送会社以外の多くの会社員の場合は、拘束時間は「労働時間+休憩時間」の9時間で、残業が3時間あってもようやく12時間に達する程度です。
しかし、トラック運転手の場合は、1運行で約1.5時間も荷待ち時間が発生するため、平均拘束時間が約12.5時間となり労働時間が長くなる理由の1つになっているのです。
しかも、運送会社の中には「荷待ち時間は労働時間とはカウントしない」と主張し、荷待ち時間によって残業になっても「残業代が出ない」ということもあります。
その場合「長時間労働・低賃金」という悪質な労働環境になっていることがあります。
1-2-2:道路状況による影響
先ほどの調査を見ると、1運行の平均で運転時間は「6時間50分」もあるのです。
そのため、渋滞が発生していたり、何らかの事情でコースを変更しなければならなかったりすると、労働時間が大幅に伸びてしまうことがあります。
特に最近では、異常気象による豪雨や寒波の影響で高速道路などが通行止めになり、渋滞に巻き込まれたり立ち往生してしまうケースもあります。
このように、道路状況によって労働時間が影響されるというのも、労働時間が長くなる理由の一つです。
1-2-3:運転手の人手不足
全日本トラック協会の調査によると、令和4年6月時点の「貨物自動車運転者」の有効求人倍率は「2.01」で、全職業の有効求人倍率「1.09」のほぼ倍となっています。
人手不足を感じている運送会社の数は、大きく増加してきています。
また、令和4年4月~6月期のデータを見ると、運送会社でトラック運転手の人手不足を感じている会社の割合は、次のようになっています。
- 運転手が不足している:17.7%
- 運転手がやや不足している:45.9%
合計で、6割以上の会社が、トラック運転手の人手不足を感じているのです。
また、運送会社は、トラック運転手の慢性的な人手不足のため、配送の依頼を受けた際に運転手が不足している場合の対応が求められます。
その場合、令和3年の「トラック輸送状況の実態調査結果」によると、次の図のような回答が得られました。
この調査によると、ドライバーが不足している時の対応として、平成27年の調査に比べて「ドライバーの早出残業で対応」の件数が最も増えており、次に「ドライバーの休日出勤で対応」が増えています。
そのため、運転手の人手不足がトラック運転手の労働時間が長くなる理由になっています。
長時間労働になってしまうこと自体は、ある程度は仕方ありません。
しかし、その分の残業代が出ていなかったり、異常な長時間労働になっていた場合、それは違法です。
これから、トラック運転手の労働時間の法的なルールについて解説します。
2章:トラック運転手の労働時間の法的なルール
トラック運転手は、労働時間が長くなるだけでなく、違法な状況で働かされていることも多いです。
そのため、トラック運転手の労働時間の法的なルールとして、次の4つを理解することが重要です。
- トラック運転手の拘束時間と休息期間
- トラック運転手の労働時間
- トラック運転手の休憩時間
- 休日労働
それぞれ解説していきます。
2-1:トラック運転手の拘束時間と休息期間
トラック運転手の場合、始業から終業までの時間を「拘束時間」として考えます。
この拘束時間の中に、労働時間と休憩時間があります。
また、勤務と次の勤務の間に、運転手の自由な生活時間として休息期間が定められています。
そして、トラック運転手の労働時間が長時間になりすぎないように、労働基準法で、拘束時間について次のように上限が定められています。
【1か月の拘束時間のルール】
- 原則1か月293時間が限度
- 労使協定を締結した場合は、1か月320時間まで延長可能(※)
※1年のうち6ヶ月まで、1年間の拘束時間が3,516時間を超えない範囲内
【1日の拘束時間と休息期間のルール】
- 1日の拘束時間は13時間を基本とし、16時間まで延長可能
- 15時間を超える回数は1週間に2回が限度
- 1日の休息期間は、勤務終了後8時間以上必要
以上のルールに違反すると違法ですので、4章でお伝えする対処法を実践することをおすすめします。
2-2:トラック運転手の労働時間
先ほどの図に示したとおり、労働時間の中には「作業時間」と「手待ち時間(荷待ち時間)」があります。
作業時間とは、
- 運転
- トラックの整備
- 荷物の積み下ろし
- 事務作業
など、なんらかの業務を遂行している時間のことです。
運転時間については、次のように上限が決められています。
- 1日当たりの運転時間は、2日平均で9時間が限度
- 1週間当たりの運転時間は、2週間平均で44時間が限度
- 連続運転時間は4時間が限度
また、運転開始後4時間以内または4時間経過直後に、運転を中断して30分以上の休憩等をとる必要があります。
休憩時間を分割する場合は、1回の休憩時間を10分以上にして、合計で30分以上取れるようにします。
手待ち時間(荷待ち時間)とは、荷物の積み卸しのために待機している時間のことです。
運送会社の中には、
「手待ち時間(荷待ち時間)は労働時間ではなく休憩時間だ」
と運転手に伝えていることもありますが、法律上のルールでは手待ち時間(荷待ち時間)も労働時間になります。
手待ち時間(荷待ち時間)も労働時間にカウントすることで、残業代が増えるケースも多いので、ご自分の場合労働時間としてカウントされているか、しっかり確認することをおすすめします。
2-3:トラック運転手の休憩時間
拘束時間のうち、休憩時間は労働時間とは区別されるため、労働時間としてカウントされません。
ただし、運送会社の中には、
「休憩を取ると仕事が終わらないような過密スケジュールのため、休憩が取得できない」
「実際には休憩を取得できていないのに、休憩を取得していることにされる」
という会社もあります。
しかし、休憩中に実際に休憩していたと言えない場合は、休憩ではなく労働時間としてカウントされることがあります。
労働基準法では休憩は、労働時間が
- 6時間以内の場合はナシ
- 原則6時間を超える場合は45分
- 原則8時間を超える場合は1時間
というルール通りに取得できなければならず、しかも次の条件を満たしていなければ違法です。
- 休憩は労働時間の途中に与えなければならない
- 休憩中は労働から解放し自由な利用に委ねる
休憩について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
労働基準法における休憩時間の「3つの原則」正しいルールを弁護士が解説
これらのルールが守られていない場合は、違法です。
3章:トラック運転手の労働時間が上限を超えた場合のリスク
運送業において労働時間が上限を超えた場合のリスクとして、次の2つがあげられます。
- 事故が発生するリスク
- 過労死のリスク
それぞれ解説します。
3-1:事故が発生するリスク
運送業は、全産業の中でも労働災害の発生件数が多い業界です。
厚生労働省の発表資料による令和3年の労働災害発生状況では、陸上貨物運送事業の労働災害データは次のようになっています。
- 業種別死亡災害発生状況
建設業・製造業についで3位、構成比は11.0%
- 業種別死傷災害発生状況
製造業についで2位、構成比は11.2%
陸上貨物運送事業の死傷者数は、事故の型別では「墜落・転落」が4,496人と最多で、「動作の反動・無理な動作」及び「転倒」で増加しています。
トラック運転手の労働時間が上限を超えた場合は、心身ともにその負担は大きくなるため、これらの労働災害が起こるリスクはさらに高まります。
※陸上貨物運送事業労働災害防止協会:令和3年における労働災害発生状況
3-2:過労死のリスク
過労死とは、過度な長時間労働やストレスによる、脳疾患や心不全、精神障害などによる死亡やこれらの疾患のことをいいます。
多くのケースで共通しているのは、異常な長時間労働と極度の睡眠不足などで、トラック運転手の労働時間が上限を超えた場合は、十分その条件に該当します。
「脳・心臓疾患」の労働災害保険の支給状況に関するデータによると、トラック運転手が分類される「運輸業・郵便業」は、令和2年、3年共にワースト1位となっています。
※厚生労働省「別添資料1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況(令和3年度)」より引用
また次のデータでは、トラック運転手が分類される「道路貨物運送業」が、脳・心臓疾患の支給決定件数で他の業種にかなりの差をつけて1位になっています。
このように、トラック運転手の労働時間は、長時間になりがちな要素が多く、過労死リスクの高い職種だといえます。
4章:労働時間が違法な場合の3つの対処法
あなたが違法な状況で働いている場合、これから紹介する対処法を実践することをおすすめします。
なぜなら、違法な会社で働き続けると、
- 長時間労働で疲労が蓄積され、健康に影響する
- 本来もらえるはずの残業代や休日手当がもらえず、大きな損をしてしまう
という可能性があるからです。
そこで対処法としては、次の3つがあげられます。
- 労働基準監督署に相談する
- ホワイトな運送会社に転職する
- 弁護士に相談して残業代を請求する
それぞれ解説していきます。
4-1:労働基準監督署に相談する
あなたが、
- 会社の違法行為を暴きたい
- 会社に何らかの制裁を与えたい
- 異常な長時間労働など、違法な状況を改善して欲しい
という場合、労働基準監督署に相談するという選択肢があります。
労働基準監督署とは、労働基準法にのっとって会社を監督・指導する行政機関です。
労働基準監督署に相談することで、
- 会社の行為や自分の状況について、法律上正しいアドバイスをもらえる
- 会社の違法行為が明らかな場合、会社に対して「調査」「是正勧告」などの対応が取られる
ということが期待できます。
※是正勧告とは、会社に対して「違法な状況を改善しなさい」と命令することです。
ただし、労働基準監督署に相談しても、実際に何らかの対応を取ってくれるとは限りません。
なぜなら、全国には400万を超える法人があるにもかかわらず、日本の労働基準監督署の人員は、非常勤の職員を含めても約2400人しかおらず、明らかに人員不足だからです。
そのため、「残業代を取り返したい」などの要求よりも、労働災害や危険作業など人命に関わる相談が優先され、直ちに動いてもらえない可能性もあります。
そこで、残業代を取り返す場合には、最初から弁護士に依頼することをおすすめします。
4-2:ホワイトな運送会社に転職する
「今の状況から抜け出したい」
「労働の対価として、しっかり残業代、休日手当、深夜手当などをもらいたい」
という場合は、きちんと法律上のルールを守るホワイトな運送会社に転職することをおすすめします。
ホワイトな運送会社に転職することで、
- 働き過ぎによる健康への影響を避けられる
- 仕事とプライベートを両立できる
- 残業代、休日手当、深夜手当をしっかりもらい、賃金が上がる
などが期待できます。
また物流・運送業界では、荷物量の増大に反して運転手の高齢化・人手不足が進んでいるため、国の政策としても働き方改革を進めています。
そのため、安全に対する意識が高く、運転手の事故防止や負担軽減のために積極的に取り組むホワイトな運送会社が増えています。
そういったホワイトな運送会社を積極的に探し、転職によって待遇改善・年収アップを目指すことをおすすめします。
4-3:弁護士に相談して残業代を請求する
さらに、退職・転職時には、元の会社に残業代を請求することもできます。
そこで、残業代請求に成功する確率を上げるためには、弁護士に依頼することをおすすめします。
なぜなら、残業代の計算や交渉は、専門的な知識が必要なため、1人で戦っては会社側に負けてしまうおそれが大きいからです。
実は、弁護士に依頼すると言っても「訴訟(裁判)」になることは少ないです。
ほとんどが交渉や労働審判という、訴訟(裁判)よりも簡単な手続きで解決します。
また、弁護士に依頼すると、高いお金を払わないといけないというイメージがあるかもしれませんが、実はそうとも限りません。
残業代請求に強い「完全成功報酬制」の弁護士に依頼すれば、「相談料」や「着手金」ゼロで依頼することができます。
トラック運転手は、労働時間が長く給与体系も複雑なため、残業代をごまかされるケースがとても多いです。
拘束時間が長く、長時間の労働を強いられている場合は、請求することによって高額の残業代を取り返せる可能性があります。
ぜひ、労働問題に強い弁護士に相談して、これまでの労働時間に見合った適正な残業代を請求することをおすすめします。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【残業代請求】弁護士選びの8つのポイントと解決までの流れや費用を解説
まとめ
最後にもう一度今回の内容を振り返ってみましょう。
まず、トラック運転手の労働時間の実態は、次のようになっています。
トラック運転手の拘束時間、労働時間、休憩時間について、次のようになっています。
労働時間が違法な場合は、
- 労働基準監督署への相談
- 他の運送会社への転職
という対処法を実践することをおすすめします。
労働時間のルールを正しく覚え、損しない働き方を実践していきましょう。