
あなたは、以下のような悩み、疑問がありませんか?
「トラック運転手って過酷なのかな?」
「トラック運転手が過酷と言われるのはなぜ?」
「実際どのくらい過酷なんだろう?」
トラック運転手には過酷なイメージがありますよね。しかし、本当に過酷なのか、過酷なのはなぜなのかあまり知られていません。
私はこれまで、弁護士として労働問題に取り組む中で、たくさんのトラック運転手から相談を受けてきました。トラック運転手から仕事の実態を聞く中で、トラック運転手が過酷であるのには、特有の理由があることが分かりました。
そこで今回は、まずはトラック運転手の過酷さについて、労働時間や給料、労働災害の保険支給の状況から見ていきます。そして、トラック運転手が過酷である理由と、あなたが過酷な状況にある場合の対処法についてお伝えします。
最後までしっかり読んで、今後の行動や仕事選びに役立ててくださいね。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■トラック運転手の過酷さの実態
- 労働時間:他業種に比べ、平均労働時間が月30時間以上長い
- 賃金:全業種の平均賃金と比較して、最も低い
- 労働災害保険の支給数:脳・心臓疾患に関する浪々災害保険の支給数がワースト1位
■トラック運転手が過酷である理由
- 拘束時間が長い
- 深夜労働が多い
- 道路状況や荷受人の都合に振り回される
- 積み下ろし作業を行わなければならないことがある
- 宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加
- 6割以上の運送会社で人手不足
■違法性のあるケース
- 給料、残業代が未払い
- 異常な長時間労働
- 荷待ち時間などが労働時間にカウントされない
- 退職させてくれない
- 安全対策が不十分
1章:トラック運転手は過酷?実態から確認しよう
それでは、まずはトラック運転手の仕事の実態から、過酷さを確認してみましょう。
1−1:トラック運転手の労働時間
それでは、まずはトラック運転手の労働時間を他業種と比較して、過酷さを判断してみましょう。
厚生労働省の「賃金構造統計調査(平成29年)」によると、トラック運転手の労働時間について、以下のような結果が出ています。
これを見て分かるように、トラック運転手の平均残業時間は月に「34時間」、合計労働時間は「210時間」であることが分かります。これは、1日当たり10時間弱の労働をしている計算です(月22日出勤の場合)。
それでは、他の業界はどうなのでしょうか。
同じ調査を見てみると、以下のような結果が出ています。
これを見て分かるように、全業界の平均の労働時間は、月「178時間」です。トラック運転手は、平均より30時間以上も長い時間働いているのです。
1−2:トラック運転手の給料
先ほどと同様の調査によると、トラック運転手の給料は以下のようになっています。
これを見て分かるように、平均月給は「32万4000円」です。これは、残業代や休日手当も含んだ額面の給料です。
それでは、他の業界の月給も見てみましょう。
これを見ると、トラック運転手の平均月給はどの業界の平均よりも少ないことが分かります。
1−3:トラック運転手の労働災害保険の支給状況
トラック運転手の過酷さは、労働災害保険の支給数からも確認することができます。
労働災害保険(労災保険)とは、業務中や通勤中に起こったことが原因で、病気や怪我になった時に、国が支給する保険のことです。
この支給が多いほど、「健康に悪影響を及ぼす過酷な仕事」であると考えることができます。
以下の調査結果を見てみてください。
これは、「脳・心臓疾患」の労働災害保険の支給状況に関するデータですが、トラック運転手が最も多い「運輸業」は、平成27年、28年共にワースト1位であることが分かります。
※厚生労働省「過労死等の労災補償状況(平成28年度)」より引用
さらに、別の調査によると、トラック運転手の「死傷災害(※)は、以下のように、
- 墜落、転落
- 動作の反動、無理な動作
- はさまれ、巻き込まれ
- 転倒
- 交通事故
など、様々な原因で発生していることが分かります。
※ここでの死傷災害とは、死亡や4日以上休業した怪我の数。
※厚生労働省「交通労働災害防止のための新しい安全衛生管理手法のすすめ」から引用
2章:トラック運転手の仕事が過酷になる6つの理由
トラック運転手の仕事が過酷になってしまうのは、労働時間の長さや賃金、仕事の危険性だけではありません。
他にも、以下の6つの理由があります。
- 拘束時間が長い
- 深夜労働が多い
- 道路状況や荷受人の都合に振り回される
- 積み下ろし作業を行わなければならないことがある
- 宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加
- 6割以上の運送会社で人手不足
それぞれ順番に解説します。
それより先に、今の過酷な現状を変える方法について知りたいという場合は、3章に進んでください。
2−1:拘束時間が長い
トラック運転手の仕事が過酷である最大の理由は、拘束時間の長さです。
会社にもよりますが、トラック運転手の場合は運転時間以外にも、朝礼、出発前の点検などの準備、整備の時間、トラックを掃除する時間など様々な業務が発生します。
さらに、トラック運転手は「荷待ち時間」もかかります。
以下の調査によると、トラック運転手の荷待ち時間は、トラックの種類全体の平均で、1日「48分」発生しています。
特にトラックが大型になるほど荷待ち時間が長くなる傾向があり、大型トラックで平均「51分」、トレーラーの場合は平均「1時間1分」も発生しています。
※引用:厚生労働省「トラック運送状況の実態調査結果」
運送会社以外の多くの会社の社員は、拘束時間は、労働時間+休憩時間で、9時間、3時間の残業があってようやく12時間に達する程度です。
トラック運転手の場合は、そもそもの平均拘束時間が12時間もあり、仕事に費やす時間が長いため、それが仕事の過酷さに繋がっています。
2−2:深夜労働が多い
さらに、トラック運転手は業務が深夜に及ぶことも多いです。トラック運転手に深夜労働が必要になる理由として、以下の2つがあります。
①渋滞を避けるため
特に長距離ドライバーの場合は、渋滞すると運転時間が長時間化してしまいます。
そのため、できるだけ渋滞を避けるために、深夜に運転することも多いのです。
②荷受人の都合
ほとんどの小売店は、朝9時、10時頃に開店します。そのため、7時頃からその日の開店準備を始めることが多いです。また、コンビニは、店舗が混み始める前の早朝5時、6時ごろに搬入作業をするのが一般的です。
そのため、こうした荷受人の都合に合わせて、トラック運転手は早朝に納品する必要があり、深夜に配送業務を行うことも多いです。
このように、トラック運転手は深夜労働が多いのですが、深夜労働があると昼夜が逆転し、心身への負担が大きいです。深夜労働が多いことも、トラック運転手の仕事が過酷になる理由の1つです。
2−3:道路状況や荷受人の都合に振り回される
トラック運転手の場合、道路状況や荷受人の都合で労働時間が左右されることも、仕事が過酷になる理由の1つです。
トラック運転手は、配送業務という仕事柄、どうしても道路状況の影響を受けます。しかし、道路状況は、事故や天候、イベント、工事など様々な理由で乱れることが多く、乱れることで配送にかかる時間が数時間単位で変わることもあります。
さらに、トラック運転手の場合荷受人の都合によっても、労働時間が変わります。
たとえば、配送先の倉庫にトラックが集中し、荷待ち時間が数時間も発生してしまうケースがありますし、個人宛の配送業務の場合、荷受人が不在で再配達が必要になることもあります。
このような、道路状況や荷受人の都合による影響は、労働時間が長くなるだけでなく、精神的なストレスにもなる点で、仕事の過酷さに繋がっています。
2−4:積み下ろし作業を行わなければならないことがある
トラック運転手は、運転業務以外にも、荷物の積み下ろし作業をやらなければならないケースも多いです。
荷物の積み下ろし作業は、
- フォークリフト
- 手作業
の2パターンがあります。
フォークリフトの場合体力は消耗しませんが、それなりの技術力が必要で、そもそもフォークリフトの免許を持っていなければなりません。
手作業の場合は、体力面の消耗が非常に大きいです。特に夏場の荷台に入っての作業は、身体への負担が非常に大きく過酷です。
このように、積み下ろし作業があることも、トラック運転手の仕事が過酷である理由の1つです。
2−5:宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加
近年、通販を利用して買い物をする人が増えたことで、宅配便の量が急増しています。それに伴って、トラック運転手の業務量も大幅に増えているのです。
宅配便の量は、2015年度には年間「37億5000万個」にも及んでいます。
1990年度の「11億個」から、3倍以上にもなっているのです。
※参考:国土交通省 平成29年2月「物流を取り巻く現状について」
しかも、国内の物流の9割以上がトラック運転手によって担われています。
物流の手段には、
- 航空
- 鉄道
- 海運
- トラック
がありますが、航空、鉄道、海運を合わせても全体のわずか8.7%で、それ以外はすべてトラックによって担われています。
そのため、宅配便の急増がトラック運転手の業務量にダイレクトに繋がり、トラック運転手の仕事が過酷になるのです。
2−6:6割以上の運送会社で人手不足
運送会社の間で「人手不足」が広がっていることも、トラック運転手の仕事が過酷になる理由の1つです。
全日本トラック協会の調査をまとめた資料によると、人手不足を感じている運送会社の数は、大きく増加してきています。
※引用:国土交通省 平成29年2月「物流を取り巻く現状について」
上記の結果には入っていませんが、平成29年7月〜9月の最新のデータを見ると、運送会社でトラック運転手の人手不足を感じている会社の割合はさらに増え、以下のようになっています。
- 運転手がやや不足している:41.5%
- 運転手が不足している:21.1%
合計で、6割以上の会社が、トラック運転手の人手不足を感じているのです。
そのため、トラック運転手1人当たりの労働量が増え、仕事がより過酷になりがちな現状にあります。
3章:トラック運転手の労働実態は違法?違法性のある状況を確認しよう
トラック運転手は、違法な状況で働かされているために、仕事が過酷になっているケースもあります。
過酷に違法性のある働き方をしているケースも多いです。
そこで、自分が違法ではないか確認し、違法な場合はどうしたら良いのか、対処法を知っておいてください。
それでは、ありがちな違法な状況を順番にお伝えします。
3−1:給料、残業代が未払い
あなたは、会社から給料や残業代を未払いにされていませんか?
給料は、給料日に全額支払うことが法律で義務づけられています。(労働基準法第24条)
そのため、
「今月の給料の支払いを待って欲しい」
「給料は分割で来月以降支払う」
などと言われていたら、それは違法です。
また、トラック運転手に多いのが、残業代が未払いにされるケースです。
残業代は、「1日8時間・週40時間」を超えて働いた場合に、必ず発生するものです。あなたが歩合給制で働いていたとしても、必ず発生します。
そのため、
「トラック運転手には残業代は出ない」
「歩合給制だから残業代は出ない」
など言われていたら、それは違法であるため、後からでも請求して取り返すことが可能です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【給料の未払い】
【未払い給料の請求方法】弁護士が教えるあなたが取るべきベストな選択肢
【残業代の未払い】
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
3−2:異常な長時間労働
1章でお伝えしたように、トラック運転手は長時間労働しているケースが多いです。しかし、そもそも会社との間で36協定(※)を締結していない場合、残業することは違法です。
※36協定とは、残業を可能にするために会社と従業員との間で締結される協定のことです。
さらに、36協定を締結していても、基本的に月に45時間を超えて労働することは違法ですし、毎月の平均残業時間が80時間を超えていたる場合は、「過労死基準」を超えて労働しているため、健康障害を発症する可能性が高いです。
もし、あなたも長時間労働が日常化している場合は、違法な状況にあるかもしれません。あなたの健康のためにも、現状を改善することをおすすめします。
長時間労働にお悩みのお場合は、以下の記事をご覧ください。
残業が多いあなたに!違法性の3つの基準とすぐにできる改善方法
3−3:荷待ち時間などが労働時間にカウントされない
トラック運転手に多いのが、「荷待ち時間」などが労働時間としてカウントされないケースです。
そもそも、労働時間としてカウントされるのは、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
であるとされています。
そのため、
- 渋滞した場合の運転にかかった時間
- 荷待ち時間
- 荷物の積み下ろし作業
- 事務作業
- トラックの整備、点検
などの、本来の配送以外にかかった時間も、労働時間としてカウントされます。
あなたも、これらの時間が会社から労働時間としてカウントされていない場合、その労働時間分の残業代を請求できる可能性があります。
3−4:退職させてくれない
トラック運転手に多いのが、退職したいのに、強引に引き止められ退職させてくれないというケースです。
しかし、労働基準法上、あなたには辞める権利があるため、会社はあなたを引き止めることはできません。そのため、基本的には「配達証明付き内容証明郵便」で退職届を送付すれば、2週間後には退職することが可能です。
さらに、退職すると言うと、
- トラックの修理代
- 退職することによる損害の発生
などを理由に、損害賠償請求され、退職を足止めされるケースもあります。しかし、そもそも損害賠償請求は、以下の条件を満たしていなければ認められません。
①労働者に故意または重過失がなければならないこと
②故意または重過失があったとしても、すべての損害を賠償する必要はないこと
そのため、「損害賠償請求する」と脅されても、ほどんどの場合。多額の損害賠償金を支払わなければならないことはありません。
3−5:安全対策が不十分
トラック運転手は、業務上常に危険と隣り合わせです。そのため、運送会社には、トラックについて様々な安全基準のルールを守る義務があります。
たとえば、
- 車両の大きさ
- 荷物の固定方法
- 座席、シートベルト
- 各部位のライト
- 安全装置
など、細かく規定されているのです。
しかし、一部の悪質な運送会社の場合、こうした規定を守っていないこともあります。もし、安全対策が不十分だと、危険にさらされるのは運転手であるあなたです。
そのため、規定に違反している会社で働いている場合は、すぐに別の会社に転職することをおすすめします。
あなたも、思い当たることはありませんでしたか?
もし違法な状況で働いている可能性があるなら、労働基準監督署に相談してみることをおすすめします。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
また、残業代が未払いの場合は、弁護士に依頼して請求することも可能です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【トラック運転手の過酷さの実態】
- 労働時間:他業種に比べ、平均労働時間が月30時間以上長い
- 賃金:全業種の平均賃金と比較して、最も低い
- 労働災害保険の支給数:脳・心臓疾患に関する浪々災害保険の支給数がワースト1位
【トラック運転手が過酷である理由】
- 拘束時間が長い
- 深夜労働が多い
- 道路状況や荷受人の都合に振り回される
- 積み下ろし作業を行わなければならないことがある
- 宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加
- 6割以上の運送会社で人手不足
【違法性のあるケース】
- 給料、残業代が未払い
- 異常な長時間労働
- 荷待ち時間などが労働時間にカウントされない
- 退職させてくれない
- 安全対策が不十分
過酷な状況にいるままでは、心身に負担が蓄積されていきます。早めに行動し、現状を変えていきましょう。
【参考記事一覧】
残業が多い場合の、違法性の判断基準や対処法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
残業が多いあなたに!違法性の3つの基準とすぐにできる改善方法
未払い給料の請求方法について、詳しくは以下の記事にご覧ください。
【未払い給料の請求方法】弁護士が教えるあなたが取るべきベストな選択肢
残業代の請求方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
労働基準監督署に相談する場合の、相談できることや相談の流れについて、以下の記事で詳しく解説しています。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
残業代請求を弁護士に依頼する方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。