- 更新日:2024.08.21
- #残業代請求
失敗しない残業代請求!有効な証拠と請求方法、ブラック企業の対処法
この記事を読んで理解できること
- まずは自分が残業代を請求できるのかをチェックしよう
- 残業代請求で重要なのは「証拠」
- 【オススメ順】残業代の請求方法と手順
- 残業代の請求には「時効」がある!早めのアクションが大事
- 【あなたの残業代をチェック】未払い残業代の計算方法
- 一部のブラック企業は残業代を意図的に出さないことがある
「残業代を請求したい!」
「残業代を請求する方法が知りたい」
「自分も残業代を請求できるかどうか判断したい」
あなたは、このような悩みがありませんか?
頑張って遅くまで働いたのに残業代が出ないと、会社への不満が溜まりますよね。
しかし、残業代が出ないことを泣き寝入りする必要はありません。
残業した事実があれば、後からでも未払いの残業代を会社に請求することができます。
しかも、残業代請求に取り組んできた弁護士である私の経験上、以下のような場合でも残業代が請求できたことが何度もありました。
【残業代が出ないと勘違いされやすいケース】
- 基本給や〇〇手当に残業代が含まれていると言われ、それ以上の残業代が一切出ない
- 管理職には残業代が出ない
- 歩合給に残業代が含まれている
- 残業禁止と言っているから、残業しても残業代が出ない
- 年俸制、フレックスタイム制、変形労働時間制などを理由に、残業代が出ない
あなたも思い当たることがあれば、残業代を取り返せる可能性があります。
ただし、間違った請求手続きをしてしまうと、
- 本来請求できるはずの金額より、少ない金額しか取り返せなかった
- 会社との関係がこじれて、長い時間や手間がかかってしまった
- 請求に失敗し、1円も取り返せなかった
などの可能性もあります。
そのため、あなたが損しないためには、適切な請求手続きの方法とポイントを知っておくことです。
そこでこの記事では、
- 残業代が請求できるかどうか分かるチェックリスト
- 請求手続きをするために大事な「証拠」について
- 請求手続きの具体的な方法、費用、それぞれの方法のメリット・デメリット
- 残業代請求の「3年の時効」
- ブラック企業が残業代をごまかす手口
- 残業代の計算方法
について解説します。
この記事で、残業代請求に必要な知識を丁寧に解説していますので、読みながら行動を開始してください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■残業代請求のために、まず証拠を集めよう
- 労働条件を示す証拠:雇用契約書、就業規則、シフト表、給与明細
- 残業時間を示す証拠:タイムカード、シフト表、日報(手帳やアプリでの記録も証拠になり得る)
■証拠がなくても残業代請求は可能
- 手元に証拠がない場合→弁護士が開示請求できる
- 会社に証拠が一部しか残っていない場合→残っている資料の平均時間で請求できる
- 会社にも一切証拠が残っていない場合→開示請求で出てくることがあり、また、同僚への聞き取り調査が証拠の代わりになることがある。
■残業代請求の2つの方法
- 残業代請求に強い弁護士に依頼する→高額の残業代を取り返せる可能性がある
- 自分で会社と直接交渉する→請求に失敗し1円も払ってもらえないこともある
■残業代の計算方法
■残業代請求の時効
給与の支払日から3年間で時効になり、請求しても認められなくなる。
■残業代請求の報復を抑える方法
- 在職中は請求手続きの準備のみ進め、退職後に会社に請求する
- 弁護士に依頼することで、請求後のトラブルには弁護士に法的に対処してもらう
目次
1章:まずは自分が残業代を請求できるのかをチェックしよう
それではさっそく、あなたが残業代を請求できるのかどうか、チェックリストで確認してみましょう。
【残業代請求が可能かどうか確認できるチェックリスト】
- タイムカードを切った後や切る前にやらなければならない業務がある
- みなし残業代制で、どれだけ残業しても残業代が変わらない
- 管理職、店長を理由に、残業代が一切出ない
- 歩合給に残業代が含まれている
- 残業禁止と言われているが、実際には残業しなければならない業務や終わらない業務量がある
- 年俸制、裁量労働制、フレックスタイム制などを理由に、残業代が出ない
いかがでしたか?
もし一つでも当てはまるものがあれば、あなたは残業代を請求できる可能性が高いです。
2章:残業代請求で重要なのは「証拠」
残業代を1円でも多く取り返すためには、「証拠」を集めておくことが大事です。
しかし証拠は、その「種類」や「集め方」によって、有効性が変わってきます。
間違った集め方をすれば証拠として認められず、残業代の請求額が少なくなってしまう可能性もあるのです。
そこでここでは、
- 残業代請求で証拠が重要な理由
- 残業代請求に有効な証拠と証拠にならないもの
- 証拠がない場合のこと
について解説します。
2-1:証拠次第で請求の可否・金額は大きく変わる
もし、あなたが残業代の一部、もしくは全部を貰えていない状況にあるなら、
「残業代は請求したら支払って貰えるのが当然」
と思うかもしれません。
しかし、実際に請求するとそう簡単にはいかないのです。
なぜなら、証拠がなければ、
- 会社が反論してきたときに、会社の主張を覆すことができない
- 弁護士等の専門家の力を借りる時に、あなたの未払い残業代の存在を客観的に示せない
という理由があります。
会社の反論を覆すことや、弁護士等の専門家の力を借りることができなければ、
- 残業代請求に失敗し、1円も取り返せない
- 本来取り返せるはずの金額より、ずっと少ない金額しか取り返せない
ということにもなりかねないのです。
2-2:残業代請求に有効な証拠一覧
それでは、集めるべき証拠を紹介します。
ブラック企業は労働条件を勝手に変更したり、残業した事実をもみ消したりすることで、あなたの残業代をごまかしている可能性があります。
※ブラック企業が残業代をごまかす手口について、詳しくは6章をお読みください。
そこで以下の証拠を集める必要があります。
- 労働条件を示す証拠
→あなたが残業した場合に、いくらの残業代が支払われる契約になっているのか示せる - 残業時間を示す証拠
→どれだけ残業していたのかが示せる
順番に解説します。
2-2-1:労働条件を示す証拠
労働条件を示す証拠には、以下のものがあります。
- 雇用契約書
- 就業規則
- シフト表
- 給与明細
これらを証拠として残しておくことで、あなたが本来どのような契約で雇用されているのか、残業した場合にいくらの残業代が発生するのか証明することができます。
2-2-2:残業時間を示す証拠
残業時間を示す証拠には、以下のようなものがあります。
《集めやすい証拠》
①タイムカード
②シフト表
③業務日報(上司のサインや印鑑などがあれば、より強い証拠になる)
【ポイント】
日報などは、正確に書いていないことも多いと思います。
正確ではない記録が残っていると、交渉になったときに不利になる可能性あります。
また、タイムカードやシフト表は会社側が都合良く改ざんしている可能性もあります。
このように、以上の証拠の正確性が期待できない場合は、以下に示す証拠を使うこともできます。
《証拠になり得るもの》
①手書きの勤務時間・業務内容の記録
②残業時間の計測アプリ
③家族に帰宅を知らせるメール
④会社のパソコンの利用履歴
⑤メール・FAXの送信記録
⑥セキュリティカード
⑦PASMOなどのICカード
⑧会社内の時計の写真
【ポイント】
証拠として一番良いのは①です。
毎日手書きで、1分単位で時間を書きましょう。
具体的な業務についても書くのがベストです。
③のメールは、裁判になると証拠としては弱いので、できるだけ手書きでメモを取りましょう。
《認められにくい証拠》
- 手書きではなく、PCやスマホに自分で入力した出退勤の時間のメモ
- 出勤8時、退勤21時など、端数を省略した大雑把なメモ
- 記録していなかった時期について、後からまとめて出退勤時間を考えて書いた記録
- 嘘の記録をしている場合
《証拠集めの注意点》
①毎日の残業時間が分かるように集める
証拠は、できれば3年分の証拠があることが望ましいですが、なければ半月(2週間)分でもかまいません。
半月分しか証拠がなくても、その分の平均残業時間から未払い残業代を計算して、請求できるのです。
できるだけ毎日の記録を集めておきましょう。
②ウソの内容を書かない
「手書きのメモ」や「日報」など、残業時間を手書きで記録しておく方法もご紹介しましたが、その場合絶対に「ウソ」の内容のことを書いてはいけません。
証拠の中にウソの内容があると、その証拠の信用性が疑われ、裁判官の心証が悪くなり、有効な証拠として認められない可能性があります。
そのため、証拠は「19時30分」ではなく、「19時27分」のように、1分単位で記録するようにし、正確に記録していることをアピールできるようにしておきましょう。
2-3:証拠がない場合
2−2で紹介したような証拠がない場合や、既に退職済みでこれから証拠を集めることが難しい場合も諦める必要はありません。
①手元に証拠がない場合
もし、あなたの手元に証拠が一切なくても、交渉時に会社に対して証拠の開示請求をすることができます。
会社が開示を拒否し続けても、訴訟(裁判)になれば裁判所から会社に対して、文書提出命令が出されます。
会社はこれに従わないと、あなたの主張している労働時間や労働条件が真実として扱われます。
② 会社に証拠が一部しか残っていない場合
会社にも、証拠が一部しか残っていない場合もあります。
その場合は、残っている資料の平均時間で労働時間が計算され、その金額で請求が可能です。
③会社にも一切証拠が残っていない場合
原則、証拠が全くない場合は、残業代請求は難しいです。
ただし、証拠がなくても自己申告に基づいて残業代を支払ってくれる企業も存在します。
また、あなたが「証拠がない」と思い込んでいても、弁護士などの専門家が開示請求をしてみると、意外と証拠が出てくるケースもあります。
さらに、過去には依頼者の同僚への聞き取り調査で残業時間を割り出し、請求した例もありますので、証拠が一切なくても諦める必要はありません。
まずは弁護士に相談してみましょう。
3章:【オススメ順】残業代の請求方法と手順
残業代の請求方法には、
- 自分で手続きを行う方法
- 残業代請求に強い弁護士に依頼する方法
の2つがあります。
どちらの方法でも同じではありません。
それぞれに以下のようなメリット・デメリットがあり、かかる費用も異なります。
さらに、手続きの流れも、自分でやる場合と弁護士に依頼する場合で以下のような違いがあります。
それでは、順番に解説します。
3-1:残業代請求に強い弁護士に依頼する
手間、時間、精神的なストレスをかけずに、より高額の残業代を取り返せる可能性が高いのが、残業代請求に強い弁護士に依頼することです。
残業代請求に強い弁護士に依頼することで、
- 失敗し、残業代を回収できなくなるリスクを抑えられる
- 手間、時間、心理的負担を最小限にできる
- 完全成功報酬制の弁護士なら、高額な報酬の支払いの心配も少ない
というメリットがあります。
残業代請求に強い弁護士を選ぶポイントは、以下の通りです。
【おすすめの弁護士の特徴】
- HPに「残業代請求に強い」と記載されている
- HPに「過去の請求額実績」が掲載されている
- 相談料無料、着手金ゼロ、完全成功報酬の仕組みを導入している
- 残業代がどれくらいとれるのか、事前に答えることができる
【避けたい弁護士の特徴】
- 大手の法律事務所
- 企業の顧問になっている法律事務所
- 裁判の実績の多さをあえてアピールしている
ポイントは、「残業代請求に強い弁護士」に依頼するということです。
実は、医師に「耳鼻科」「眼科」「外科」などの専門があるように、弁護士にも「不倫」「交通事故」「残業代請求」のように専門分野があり、自分の専門以外には無知である弁護士も多いです。
そのため、もし残業代請求を不得意とする弁護士に依頼すると、失敗して本来回収できるはずの金額より少ない金額しか回収できないこともあります。
※残業代請求に強い弁護士の選び方について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
弁護士に依頼した場合、
- 交渉
- 労働審判
- 訴訟(裁判)
という流れで請求手続きが進められます。それぞれの手続きについて解説します。
3-1-1:【交渉】弁護士が会社と交渉
交渉の場合、弁護士が、あなたからヒアリングした内容をもとに交渉しますので、あなたが会社に出向く必要はありません。
また、あなたが在職中で、これから退職を考えている場合、多くの事務所では、実際に交渉を開始する時期について相談することができます。
退職前に弁護士に依頼する場合は、在職中に請求手続きの準備を進め、退職後に弁護士から会社に内容証明を送って貰う、などの方法をとることができます。
そのため、弁護士に相談していることが会社にばれる心配も必要ありません。
交渉は、弁護士と会社との間で、当事者間での合意によるトラブルの解決がゴールであり、合意できた場合は、あなたに会社から慰謝料や未払いの給料が支払われることになります。
合意に至らなかった場合に、労働審判や訴訟(裁判)に進むことになります。
3-1-2:【労働審判】裁判より簡単な手続き
労働審判とは、裁判所に行き、会社・あなた・弁護士・裁判官などの専門家で問題の内容を確認し、解決の方法を探す方法です。
労働審判の場合は、解決するまで以下のような流れで進みます。
第1回労働審判で解決されれば、申立てから1〜2ヶ月程度、第2回、第3回まで延びれば1ヶ月〜2ヶ月程度期間も延びることになります。
労働審判の回数は、最大3回までと決められているため、裁判のように何回も裁判所に行ったり、長期化することがないのが特徴です。
あなたも初回の労働審判のみは参加する必要がありますが、それ以降は参加しなくて良い場合もあります。
多くの場合、「交渉」か「労働審判」で決着が付きますが、労働審判において決定されたことに不服がある場合は、訴訟(裁判)へ移行します。
労働審判について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
労働審判とは?手続きの流れや費用、裁判との違いなど弁護士が徹底解説
3-1-3:【訴訟(裁判)】
訴訟(裁判)は労働審判と違い、何回までという制限がなく、長期に渡り争い続ける可能性があります。
ただし、あなたはほとんど出廷する必要がありません。
訴訟(裁判)では、裁判所で「原告(あなたもしくは、あなたが依頼した弁護士)」と「被告(会社)」が主張し合い、裁判官が判決を下します。
訴訟の流れはこのようになっています。
私が弁護士として様々な裁判を見聞きしてきた経験上、最高裁まで行くことはほとんどなく、多くは地方裁判所までの1〜2年程度で終わるようです。
裁判になると数年単位で争うこともありますが、先ほどお伝えした通り、訴訟(裁判)まで行くことはほとんどなく交渉・労働審判で決着がつきます。
3-2:自分で会社と直接交渉する
残業代は、自分で会社に「配達証明付き内容証明郵便」を送ることでも、請求することが可能です。
【内容証明とは】
差し出した日付、差出人の住所・氏名、宛先の住所・氏名、文書に書かれた内容を、日本郵便が証明してくれる郵便の仕組み。
【配達証明とは】
配達した日付を証明してくれる制度。
ただし、自分で直接会社に請求する方法には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
【メリット】
- 費用を抑えることができる
【デメリット】
- 取り返せる残業代の金額が少なくなりがち
- 労力、手間、時間がかかる
- 自分で会社の人と交渉しなければならないため、心理的負担が大きい
残業代請求は、専門的な知識がなければ手続きを進めることが難しいため、上記のようなデメリットもあるのです。
それでも自分で請求したいという場合は、以下の流れで請求することができます。
【自分で残業代を請求する流れ】
- 証拠を収集する
- 残業時間を計算する
- 時効を止める(内容証明郵便による催告)
- 会社と交渉する
順番に解説します。
3-2-1:証拠を収集する
まずは証拠を集める必要があります。
必要な証拠や集め方は、2章でお伝えした通りです。
自分で請求する場合は、弁護士に依頼する場合のように開示請求することができません。
※開示請求とは、弁護士の権限で会社に証拠を開示することを求めることです。
そのため、請求前の段階で、できる限り自分で集めておく必要があります。
3-2-2:残業代を計算する
次に、最初に集めた証拠をもとに、残業代を計算します。これも、自分で請求する場合は、自分で正確に計算しなければなりません。
残業代は、以下の計算式で計算できます。
基礎時給とは、あなたの月給を時給に換算した金額のことであり、割増率は残業の時間帯等によって「1.25~1.6倍」で変動します。
詳しくは、5章をご覧ください。
3-2-3:配達証明付き内容証明郵便を送る
4章で詳しくお伝えしますが、残業代請求には時効があるため、手続きを開始する最初の段階で「時効を止める手続き」を行う必要があります。
時効を止めるためには、「配達証明付き内容証明郵便」を会社に郵送する必要があります。
時効を止めるために、出来るだけ早く、会社に対して残業代などを記載した内容証明を送ることが重要です。
内容証明のテンプレートを下記に示しますので参考にしてください。
<内容証明テンプレート>
私は○○年○○月○○日,貴社に入社し,○○年○○月○○日に退社した者です
私は,平成○○年○○月○○日から平成○○年○○月○○日(以下「請求期間」とします。)まで,貴社に対し,合計■時間の時間外労働を提供いたしましたが,貴社からは,一切,割増賃金のお支払いただいておりません。
よって,私は,貴社に対し,請求期間内の未払割増賃金の合計額である★円の支払を請求いたしますので,本書面到達後1週間以内に,以下の口座に振り込む方法によるお支払をお願いいたします。
○○銀行○○支店
○○預金(普通・定期などの別)
口座番号○○
口座名義人○○
なお,本書面到達後1週間を過ぎても貴社から何らご連絡いただけない場合は,やむを得ず労働基準監督署への申告,訴訟の手段をとらせていただくことをあらかじめ申し添えます。
3-2-4:会社と交渉する
内容証明を送ると、会社との交渉がスタートします。
運が良ければ、内容証明が届いた時点で支払いに応じる会社もあるかもしれません。
もし会社が減額の交渉を行なった場合、どのくらいの金額で折り合いがつくかはあなた次第です。
ただ、会社は顧問弁護士等の、法律の専門家をつけることが多いですので、
- 本来もらえるはずの金額よりも少ない額で妥協しなければならない
- そもそも内容証明すら無視され、会社から相手にして貰えない
ということも可能性としてはありえます。
4章:残業代の請求には「時効」がある!早めのアクションが大事
実は、残業代請求には「3年の時効」があります。
そのため、残業代は3年分までさかのぼって請求することができるのですが、時効を過ぎると、請求できる金額が少なくなってしまうのです。
時効の基準になるのは、毎月の給料日(もしくは給料日だった日)です。
つまり、3年間経過したら3年分が一気に消滅するということではなく、毎月の給料日を過ぎるたびに、1ヶ月分の残業代が消滅していくのです。
したがって、少しでも多くの残業代を取り返したい場合は、少しでも早く行動をはじめることをおすすめします。
5章:【あなたの残業代をチェック】未払い残業代の計算方法
残業代の計算方法は難しくありません。
これから紹介する3つのステップで計算することが可能です。
手元に給与明細などがあれば、読みながら計算してみましょう。
弁護士に依頼すれば請求金額の計算もやってくれますが、その前に自分でだいだいの請求額を知っておくと、具体的なイメージが湧いて、行動のモチベーションも上がるでしょう。
これから、
- 残業代の正しい計算方法
- 実は労働時間にカウントできる9の時間
について、解説します。
5-1:残業代の計算式
残業代は、以下のような簡単な計算式で計算することができます。
それでは、順番に解説します。
自分で計算するのが面倒な場合は、以下のページの「残業代チェッカー」で簡単に計算してみましょう。
①基礎時給を計算する
まずは、基礎時給を計算します。基礎時給とはあなたの1時間当たりの賃金のことで、時給制の場合は時給そのものので、月給制の場合は以下の計算式で計算します。
※一月平均所定労働時間とは、会社から定められた、あなたの1ヶ月あたりの平均労働時間のことで、170時間前後であるのが一般的です。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
20万円÷170時間=約1176円
②割増率をかける
次に、①で計算した基礎時給に割増率をかけて「残業1時間当たりの賃金」を計算します。
割増率とは、残業や深夜労働、休日出勤をした場合にかけるもので、以下のものがあります。
(計算例)
- 基礎時給1176円の場合
1176円×1.25倍=1470円
③残業時間をかける
最後に、②で計算した残業1時間当たりの賃金に実際に残業した時間をかけることで、1ヶ月の残業代を計算することができます。
ここでの「残業時間」とは、「1日8時間・週40時間」のどちらか一方でも超えた時間のことです。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
- 残業100時間
以上の条件の場合
基礎時給を計算
20万円÷170時間=約1176円
残業1時間当たりの賃金を計算
1176円×1.25倍=1470円
残業代を計算
1470円×100時間=14万7000円
残業代は2年分さかのぼって請求すると考えると、
14万7000円×24ヶ月=352万8000円
と、請求額は高額になります。
あなたも自分の場合で計算してみてください。
もう1点注意して頂きたいことがあります。
それは、これから紹介する「9の時間」も、残業代計算をするときに、残業時間にカウントできる可能性が高いということです。
5-2:労働時間としてカウントできる可能性のある時間
例えば休憩時間であったとしても、「その間に電話番を依頼されている」など即座に業務対応する必要がある時間であれば、残業代が発生する時間としてカウントできる可能性があります。
あなたも思い当たることはないでしょうか?
【労働時間としてカウントできる可能性がある時間】
- 掃除:始業前や就業後の掃除時間
- 着替え:制服、作業服、防護服などに着替える時間
- 休憩時間:休憩中の電話番や来客対応などを依頼された場合(ただし休憩が取れなかったことの証拠が必要です。)
- 仕込み時間:ランチとディナーの間の仕込み時間
- 準備時間:店舗などで開店前の準備をする時間
- 待機時間:トラックの荷待ちの時間など
- 仮眠時間:警報や緊急事態に備えた仮眠の時間(特に警備や医療従事者など)
- 研修:会社からの指示で参加した研修
- 早出残業:定められた勤務時間よりも前に出社し仕事した時間(会社の指示があったことの証拠が必要です。)
これを読んで、「あれ?この時間はうちの職場では残業扱いされてないぞ?」と思ったものがあったかもしれません。
その場合は、
- 会社が法律上正しい残業代・残業時間のルールを把握していない
- 会社が意図的に労働時間をごまかしている
という可能性があります。
これらの「ごまかされやすい時間」について、詳しくは以下の記事を参照してください。
労働基準法上の「残業時間の定義」と残業のトラブルへの2つの対応策
6章:一部のブラック企業は残業代を意図的に出さないことがある
私の経験上、社員の残業代をごまかす一部のブラック企業は、様々な手口を使って、
「残業代はすでに支払っている」
「残業の事実はない」
と主張してくることがあります。
法律の専門知識のないほとんどの労働者は、このような手口で簡単に騙されてしまいやすいでしょう。
そこで、これから、特に残業代がごまかされやすい「役職」「職種」「給与形態」などを紹介しますので、あなたも該当しないかチェックしてみてください。
さらに、ブラック企業に残業代請求した場合の「報復」「リスク」の心配についても解説します。
6-1:役職・業種・給与形態で残業代が出ない
一部のブラック企業は、役職や業界・業種、給与形態などをたくみに利用して、残業代をごまかしています。
残業代を1円でも多く取り返すために、ブラック企業がどのような手口を使っているのか、本当はどのくらい残業代が出るのか、確認しましょう。
6-1-1:課長、所長、店長等を理由に残業代出ないが
私がこれまでに残業代請求の相談を多数受けてきた経験上、非常に多くの会社で「管理職・店長だから残業代が出ない」と言われているようです。
しかし、実は残業代がゼロになるのは法律上の「管理監督者」になる場合です。
法律上の管理監督者としてみなされるためには、以下の要素を満たしている必要があります。
【管理監督者としてみなされる要素】
- 経営者に近い権限・責任を持っている
- 勤務時間を自分で決める権限を持っている
- 残業代を出す必要がないほどの高い待遇を受けている
この要素を満たしていなければ、名前だけの管理職(名ばかり管理職)です。
これらの要素を満たしていないのに残業代がゼロなら、あなたの会社の経営者や担当者が間違った知識を持っているか、もしくは人件費削減のために、意図的にあなたを管理職扱いしている可能性があります。
管理職でも残業代が出るケースや、管理監督者に関する詳しいことについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
「管理職の残業代ゼロ」はほぼ違法!判断基準から解決策まで徹底解説
6-1-2:歩合給、みなし残業代制、裁量労働制等を理由に残業代が出ない
あなたは、
- 歩合給制
- みなし残業代制
- 裁量労働制
- 年俸制
- フレックスタイム制
などを理由に「残業代が出ない」と言われていませんか?
これらの制度自体は、違法なものではありません。
しかし、正しく適用されていることが少なく、ブラック企業から「残業代をごまかす手口」として悪用されていることが多いのです。
たとえば、以下のような事に該当すれば、未払い残業代がある可能性が高いです。
【歩合給制の場合】
- 歩合給制だから残業しても残業代は出ないと言われている
- 給料のすべてが歩合給で、固定給がない
【みなし残業代制の場合】
- 残業代が固定で支払われており、どれだけ残業してもそれ以上の残業代が出ない
- ○○手当が残業代の代わりと言われている
【裁量労働制の場合】
- 勤務時間や仕事内容に裁量性がないのに、裁量労働制が適用されている
【年俸制、フレックスタイム制の場合】
- 年俸制やフレックスタイム制だからという理由で、残業代が出ない
これらの場合の詳しいルールや違法性について、以下の記事で解説しています。
「歩合給制だから残業代が出ない」は間違い!正しいルール・計算方法
裁量労働制にも残業がある!制度の考え方と残業代が貰える条件を解説
【年俸制でも残業代が出る】その理由と残業代の計算方法を徹底解説
間違われることが多い?フレックスタイム制の残業・残業代ルールを解説
6-1-3:残業代が出ないことが多い職種
私のこれまでの経験上、
- 長時間労働が日常的になりがちな仕事
- 勤務時間が深夜に及ぶことも多い仕事
- 個人の技能、労働力に頼る割合が高い仕事
- 客、患者や天候など、イレギュラーな要因で業務内容や量が変わりやすい仕事
などは、残業が長時間化し、しかも残業代が出ないことが多いです。
具体的には、以下の職種では、特に残業代が出ないことが多いようです。
【残業代が出ないことが多い職種】
- トラック運転手
- タクシー運転手
- 飲食店
- SE(システムエンジニア)
- 看護師
- 医師
- ベンチャー企業の社員
- 建築業
- 住み込み管理人
- ガソリンスタンド
- 警備員
- 保育士
あなたもこれらの職種なら、未払い残業代があり、請求できる可能性がありますので、ぜひ弁護士等の専門家に相談してみてください。
これらの職種について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【トラック運転手】
【SE(システムエンジニア)・PG(プログラマー)】
【ベンチャー企業の社員】
【住み込み管理人】
【ガソリンスタンド】
6-2:残業代請求による会社から仕返しや嫌がらせのリスク
こうしたブラック企業に勤めており、普段から会社から理不尽な扱いを受けている場合、以下のような報復や嫌がらせを心配されることがあります。
- 社内での嫌がらせ・パワハラ
- 社内で不利益な扱い方をする
- 解雇する、退職勧奨する
- 理由を付けて損害賠償請求する
私の経験上、実際にこういった報復をされることは非常に稀です。
ただし、相手はブラック企業ですので、こうした報復をされる可能性は「絶対にない」とは言い切れません。
しかし、
- 在職中は請求手続きの準備のみ進め、退職後に会社に請求する
- 弁護士に依頼することで、請求後のトラブルには弁護士に法的に対処してもらう
ということで、報復を避けることができます。
さらに、仮に在職中に請求して、実際にこれらの報復をとられたとしても、以下のような対応ができます。
- 社内での嫌がらせ、パワハラ
→証拠を残して訴訟を起こす可能性を伝えることで、防ぐことができます。あまりにもひどい場合は、会社に損害賠償請求することも可能です。 - 社内での不利益な扱い
→不当な理由での不利益な扱いは「違法」であるため、労働基準監督署に申告し、改善のための行動を依頼できます。また、申告する可能性を伝えることで、不利益な扱いを抑止できる可能性もあります。 - 解雇&退職勧奨
→不当な理由での解雇は違法であり、強く退職を勧めること(退職勧奨、退職強要)も会社に罰則があります。そのため、労働基準監督署や弁護士に依頼することで、これらの対応を撤回させたり、損害賠償請求することができます。 - 理由をつけて損害賠償請求する
→そもそも会社が社員に対して損害賠償請求できるケースは非常に限られています。あなたに重大な過失がある場合などを除いて、損害賠償請求が認められることはほとんどありません。
残業代を請求した場合の会社からの報復について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【残業代請求への3つの報復】報復を避ける方法と対抗手段を徹底解説
まとめ:残業代の請求について
いかがでしたか?
今回の内容を振り返ってみましょう。
【歩合給制の場合】
- 歩合給制だから残業しても残業代は出ないと言われている
- 給料のすべてが歩合給で、固定給がない
【みなし残業代制の場合】
- 残業代が固定で支払われており、どれだけ残業してもそれ以上の残業代が出ない
- ○○手当が残業代の代わりと言われている
【裁量労働制の場合】
- 勤務時間や仕事内容に裁量性がないのに、裁量労働制が適用されている
【年俸制、フレックスタイム制の場合】
- 年俸制やフレックスタイム制だからという理由で、残業代が出ない
《認められにくい証拠》
- 手書きではなく、PCやスマホに自分で入力した出退勤の時間のメモ
- 出勤8時、退勤21時など、端数を省略した大雑把なメモ
- 記録していなかった時期について、後からまとめて出退勤時間を考えて書いた記録
- 嘘の記録をしている場合
- 手元に証拠がない場合
→弁護士が開示請求できる - 会社に証拠が一部しか残っていない場合
→残っている資料の平均時間で請求できる - 会社にも一切証拠が残っていない場合
→開示請求で出てくることがあり、また、同僚への聞き取り調査が証拠の代わりになることがある。
【残業代請求の2つの方法】
- 残業代請求に強い弁護士に依頼する
- 自分で会社と直接交渉する
【残業代請求の時効】
給与の支払日から3年間で時効になり、請求しても認められなくなる。
【ブラック企業で残業代が出ないケース】
- 課長、所長、店長等の管理職や役職を理由に残業代が出ない
- 歩合給制、みなし残業代制、裁量労働制、年俸戦、フレックスタイム制等の給与形態、労働形態を理由に残業代が出ない
【残業代が出ないことが多い職種】
- トラック運転手
- タクシー運転手
- 飲食店
- SE(システムエンジニア)
- 看護師
- 医師
- ベンチャー企業の社員
- 建築業
- 住み込み管理人
- ガソリンスタンド
- 警備員
- 保育士
【残業代請求の報復を抑える方法】
- 在職中は請求手続きの準備のみ進め、退職後に会社に請求する
- 弁護士に依頼することで、請求後のトラブルには弁護士に法的に対処してもらう
正しいポイントを押さえて、できるだけ早めに行動を開始しましょう。