- 更新日:2024.08.22
- #ガソリンスタンド残業代
【ガソリンスタンドの残業代の正しいルール】違法な5つのケースと対処法
この記事を読んで理解できること
- ガソリンスタンドで働いている場合の残業代のルール
- ガソリンスタンドで残業代がごまかされる5つのケース
- ガソリンスタンド従業員の残業代の計算方法
- 未払残業代の2つの請求方法
- 未払い残業代を請求するために集めるべき「証拠」
ガソリンスタンドで働いているあなたは、
「ガソリンスタンド勤務の場合、残業代のルールはどうなっているんだろう?」
「ガソリンスタンドで働いている場合、残業代はいくらになるのが正しいのかな?」
と疑問に思ってはいませんか?
実は、ガソリンスタンドは残業代がごまかされやすい職種です。特に、
「長時間残業しているのに、残業代が少ないor出ない」
「毎日○時間休憩と言われているが、実際は客の対応でほとんど休めない」
「店長であることを理由に残業代が一切出ない」
ということも多いですが、これらは「違法」になる可能性が高いです。
なぜなら、ガソリンスタンドの従業員も、労働基準法のルールが適用されるのであり、上記のようなケースは「労働基準法違反」になることがほとんどだからです。
ただし、ガソリンスタンドの場合は一般的なルールとは異なる部分もありますので、“あなたの状況に適用されるルール”を理解しておくことが必要です。
そこでこの記事では、まずはガソリンスタンドで働いている場合の残業代のルールと、ガソリンスタンドでありがちな残業代がごまかされる5つのケースを解説します。
さらに、ガソリンスタンド勤務の場合の残業代の計算方法と、未払い残業代がある場合の対処方法をお伝えします。
この記事に書いたことを覚えて、ぜひ周りの人にも教えてあげて下さいね。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
目次
1章:ガソリンスタンドで働いている場合の残業代のルール
ガソリンスタンド勤務でも、労働基準法にのっとったルールが適用されるため、そのルールに違反すれば「違法」です。
ただし、ガソリンスタンドの場合は規模によって適用されるルールが異なる部分もあるため、まずは基礎知識として、
- 残業になる時間
- 割増率の仕組み
について解説します。
それより先に、自分の残業代を計算してみたいという人は、3章から読んでください。
1-1:残業時間のルール
ガソリンスタンド勤務の場合、「1日8時間」「週40時間」の法定労働時間のどちらか一方でも超えて働いた場合、その時間がすべて「残業」になります。
※法定労働時間とは、労働基準法が定める労働時間のことで、これを超えて働いた時間が残業になります。
ただし、「従業員が常時10人未満の事業場」の場合は、「1日8時間・週44時間」を超えて働いた場合が残業になります。
事業場とは、あなたの職場のことで会社のことではありません。
会社全体で常時10人以上従業員がいても、あなたの働いているガソリンスタンドに常時10人以上の従業員がいなければ、あなたの事業場の従業員は「常時10人未満」ということになります(従業員にはアルバイトやパートも含まれます)。
事業場の規模で残業になる時間が異なるのは、従業員10人未満のガソリンスタンドは、「特例措置対象事業場」という、労働基準法の例外ルールが適用されるからです。
(労働基準法40条8号)
1-2:残業した時間には「1.25倍」の割増率がかけられる
「1日8時間・週40時間(もしくは44時間)」を超えて働いた時間は「残業」であり、その時間に対しては「残業代」が発生します。
残業代は、通常の賃金に「1.25倍」の割増率がかけられて支払われます。
月曜日から土曜日まで毎日8時間労働した場合は、以下のようになります。
さらに、深夜労働や休日出勤をした場合は、それぞれ異なる割増率がかけられますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
2章:ガソリンスタンドで残業代がごまかされる5つのケース
ガソリンスタンドでは、以下の4つの理由で残業代がごまかされることがあります。
【残業代がごまかされる5つのケース】
- 基本給・資格手当に残業代が含まれている
- 変形労働時間制だから残業代が出ない
- 店長だから残業代のルールが適用されない
- 休憩時間と言いつつ客の対応を強いられる
- 営業時間外は労働時間にカウントされない
あなたも当てはまるものがないか、十分注意して読んでください。
2-1:基本給・資格手当に残業代が含まれている
ガソリンスタンドの従業員に多いのが、「基本給」や「資格手当」などの手当に残業代を含んでいる、残業代の代わりだと言われて、どれだけ残業しても残業代の金額が変わらないというケースです。
このように、最初から残業代の金額を決めて、毎月一定額を支払う仕組みのことを「みなし残業代制(固定残業代制)」と言い、これ自体は違法ではありません。
しかし、上記のようなことを理由に、どれだけ残業しても残業代が変わらなかったり、基本給からみなし残業代を差し引いた額が異常に低い場合は、違法である可能性が高いです。
2-2:変形労働時間制だから残業代が出ない
ガソリンスタンドに多いのが、「変形労働時間制」を理由に、残業代が出ないと主張されるケースです。
変形労働時間制とは、あらかじめ決められた期間に限って「1日8時間・週40時間(もしくは44時間)」を超えて労働しても、残業代を発生しないようにできる仕組みのことです。
ただし、変形労働時間制を導入するには条件があり、会社が勝手に導入できるわけではありません。
しかも、変形労働時間制でも、残業の基準が異なるだけで、あらかじめ決めた時間を超えて労働した場合は、残業代が発生します。
そのため、変形労働時間制を理由に、どれだけ残業しても残業代が出ない場合は、違法である可能性が高いです。
詳しくは以下の記事をご覧下さい。
変形労働時間制とは?誤解されがちな意味と企業が悪用している時の対処法
2-3:店長だから残業代のルールが適用されない
ガソリンスタンドに多いのが、肩書きが店長であることを理由に残業代が出ないケースです。
しかし、実は、肩書きが「店長」であることは、残業代が出ないことが正当化される理由にはなりません。
確かに、労働基準法上、会社の経営や採用に関して大きな権限を持っている人のことを「管理監督者」と言い、普通の従業員に適用される「残業の上限」「残業代のルール」「休日出勤」などの規定の対象外になっています。
しかし、労働基準法上の管理監督者とみなされるには、厳しい要素を満たす必要があり、経営者から雇われているほとんどの「店長」の人は、労働基準法上の管理監督者ではありません。
たとえば、あなたが店舗の責任者で、アルバイト・従業員の採用権限やシフトの決定権、販促活動の企画・実施の権限などを持っていたとしても、
- 権限の範囲が自分の店舗に限られる
- 出退勤の時間が、事実上決められている(営業時間内は常に店舗にいる必要がある、など)。
などの場合は、法律上の管理監督者とは言えません。
このように、たいした裁量もないのに、「店長」「マネージャー」といった名前だけ与えられ、残業代の支払いをされていない人のことを「名ばかり管理職」と言います。
名ばかり管理職は、悪質な経営者によって、従業員を安い賃金で長時間こき使う手口として悪用されることがあります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
2-4:休憩時間も客の対応を強いられる
ガソリンスタンドに多いのが、名目上は「休憩時間」と言いつつも、実際にはほとんど休めていないというケースです。 たとえば、
- 休憩中でも、客が来たらすぐに対応しなければならない
- 食事をしていても客が来たら途中でやめざるを得ない。
- トイレに行くこともままならない
- 休憩時間もガソリンスタンドの敷地内から出てはならない・他に従業員がいても、それぞれ別の業務を行う必要があるため、休憩中も顧客対応が必要になることがある
などのことがよく見受けられます。
しかし、過去の判例から、休憩時間は、「労務から完全に開放されている状態」になければならないとされています。
そのため、上記のようなケースでは、休憩時間も労働時間としてカウントし、残業代請求ができる可能性があるのです。実際、ガソリンスタンドの従業員が休憩時間も業務が必要だったことを訴え、残業代を取り返した判例があります。
(クアトロ事件東京地裁 平成17年11月11日)
また、セルフスタンドの監視業務も、お客様が途切れている間も、消防法上、営業時間中であれば常時監視しなければならないのであれば労働時間となります。
2-5:営業時間外は労働時間にカウントされない
ガソリンスタンドでもありがちなのが、営業時間外はタイムカードを打刻させられ、サービス残業になるケースです。
たとえば、ガソリンスタンドでは、
- 開店前にそうじや準備、着替えの時間が必要
- 閉店後に片付け、会計業務等が必要
ということがあります。
しかし、これらの時間は「営業時間ではないから」という理由で労働時間としてカウントされないことがあります。
このような行為は違法になる可能性が高いです。
過去の判例から、労働時間としてカウントされるのは、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
のことであるとされています。
使用者とは、あなたの上司や経営者のことです。
この上司や経営者から、明らかに「この仕事をしなさい」と命令されていた場合だけでなく、仕事の量や内容から、明らかな命令がなくても残業せざるを得なかった時間も「労働時間」としてカウントされるのです。
そのため、あなたも、営業時間外にも日常的に労働していた事実があれば、未払い残業代を会社に請求できる可能性があります。
3章:ガソリンスタンド従業員の残業代の計算方法
会社から支給されている残業代が正しい金額なのかどうかは、自分で計算して確かめることができます。
残業代の計算方法は難しくはありません。
残業代は、以下の計算式で計算することができます。
それでは、順番に解説します。
①基礎時給を計算する
まずは「基礎時給」を計算します。基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金のことです。
基礎時給は、以下の計算式で計算します。
※一月平均所定労働時間とは、会社が決めている1ヶ月当たりの平均労働時間のことで、一般的に170時間前後であることが多いです。
「月給」には、以下の手当も含めて計算することができます。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
20万円÷170時間=約1176円
②割増率をかける
①で計算した基礎時給に割増率をかけることで、残業1時間当たりの賃金が計算できます。
通常の残業の場合は1.25倍ですが、深夜労働や休日出勤等によって、割増率の種類が異なるため注意してください。
基礎時給×1.25倍(残業の割増率)=残業1時間当たりの賃金
(計算例)
基礎時給1176円×1.25倍=1470円
③残業時間をかける
最後に、②までで計算した「残業1時間当たりの賃金」に残業時間をかけることで、1ヶ月の残業代の金額を計算することができます。
※あなたの事業場の従業員が10人以上か10人未満かで、残業時間になる部分が異なりますので、注意してください。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
- 1ヶ月の残業時間100時間
(20万円÷170時間)×1.25倍×100時間=14万7000円(1ヶ月の残業代)
このように、月給20万円でも、本来もらうべき残業代の金額は高額になることが分かります。
もしあなたの勤務するガソリンスタンドの経営者に、未払い残業代を請求する場合、3年分までさかのぼって請求することができます。
その場合、請求できる合計金額は、
14万7000円×36ヶ月=529万2000円
と高額になりますので、退職時等には必ず請求することをおすすめします。
4章:未払残業代の2つの請求方法
未払い残業代は、適切な方法で請求することで、取り返せる可能性が高いです。
残業代の請求方法には、
- 自分で直接請求する方法
- 弁護士に依頼して請求する方法
の2つがあります。
どちらでも同じではなく、それぞれ流れが異なり、以下のメリット・デメリットがあります。
詳しい手続きの方法やかかる費用等について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
【残業代を自分で直接請求する方法】
【残業代を弁護士に依頼して請求する方法】
5章:未払い残業代を請求するために集めるべき「証拠」
残業代請求を成功させるために、最も大事なのが「証拠集め」です。
証拠を取得せずに辞めてしまうと、後から証拠を集めることが非常に困難になりますので、やめる前から集めるのがポイントです。
集めるべき証拠には、
- 残業代が未払いであることを示す証拠
- 残業時間を示す証拠
の2種類があります。
【残業代が未払いであることを示す証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
【残業時間を示す証拠】
- タイムカード
- シフト表
- 日報
- メール・FAXの送信履歴
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
- 店舗の営業時間(店長等の店舗の責任者の場合)
また、「休憩時間中は、お客様が来た場合は、業務を優先してください」などと記載された、マニュアル類があれば、休憩時間の残業代を取るための証拠となり得ます。
詳しい証拠の内容や証拠の集め方等について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【保存版】知らないと損する?残業代請求する為に揃えておくべき証拠
まとめ:ガソリンスタンドの残業代
いかがでしたか?
最後にこの記事のポイントをまとめます。
【ガソリンスタンドの残業代のルール】
- 従業員が10人以上の事業場
→1日8時間・週40時間を超えた労働時間が残業 - 従業員が10人未満の事業場
→1日8時間・週44時間を超えた労働時間が残業
この残業時間には、1.25倍の残業代が発生する
【残業代がごまかされる5つのケース】
- 基本給・資格手当に残業代が含まれている
- 変形労働時間制だから残業代が出ない
- 店長だから残業代のルールが適用されない
- 休憩時間と言いつつ客の対応を強いられる
- 営業時間外は労働時間にカウントされない
【残業代の請求方法】
- 自分で直接請求する方法
- 弁護士に依頼して請求する方法
【残業代が未払いであることを示す証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
【残業時間を示す証拠】
- タイムカード
- シフト表
- 日報
- メール・FAXの送信履歴
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
- 店舗の営業時間(店長等の店舗の責任者の場合)
残業代請求には「3年の時効」があるため、退職から3年が経過すると、一切請求できなくなります。
もし残業代請求を検討している場合は、すぐに行動をはじめることをおすすめします。
【参考記事一覧】
残業代計算における「割増率」について、詳しくは以下の記事で解説しています。
変形労働時間制について、詳しくは以下の記事で解説しています。
変形労働時間制とは?誤解されがちな意味と企業が悪用している時の対処法
店長が管理監督者になる場合、ならない場合や自分でチェックできるチェックリストなどについて、以下の記事で解説・紹介しています。
残業代請求を自分で行う方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
残業代請求を弁護士に依頼する場合の手続きや費用、弁護士選びのポイント等について、詳しくは以下の記事で解説しています。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
残業代請求時に集めるべきポイントについて、詳しくは以下の記事で解説しています。