残業代も割増しになる!3つの割増賃金と割増率や正しい計算方法を解説
この記事を読んで理解できること
- 残業代の仕組みと割増賃金
- 3つだけ覚えれば大丈夫!割増賃金の種類
- カンタンにできる!割増賃金の計算方法
- 残業代を請求する方法
このように、割増賃金のことを知らずに、割増のない残業代や手当をもらっていたという人は、決して少なくありません。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■残業代の計算式
残業代の計算式は下記のようになっています。残業した時間には、割増賃金が発生することが法律で定められています。
■残業代の割増率
残業代の割増率は下記のように決まっています。
あなたの労働の対価をきちんと得るためには、正しい残業代の知識を持つことが大切です。
残業代をごまかすブラック企業に利用されないよう、残業代の割増率をきちんと理解しましょう。
目次
1章:残業代の仕組みと割増賃金
割増賃金について解説する前に、まずは残業代の仕組みをおさらいしましょう。
1章では、残業代の基本的な仕組みと割増賃金について解説します。
1-1:残業代の仕組み
残業代とは、法定労働時間(1日8時間、1週間で40時間)を超えて労働を行った際に支給される残業手当のことで、通常の賃金に一定割合がプラスされた割増賃金が支給されます。
詳しくは2章で説明しますが、下記のような割増率で賃金が支給されます。
仮に基礎時給が1,500円で40時間の残業を行った場合、基礎時給とは、残業代計算に必要な1時間あたりの労働の費用です。
「基礎時給1,500円」×「割増率1.25倍」×「残業時間40時間」で残業代が計算できます。
答えは75,000円ですから、この月の残業代は75,000円となります。
もし、割増率を知らずに残業代を計算すると、
「基礎時給1,500円」×「残業時間40時間」=60,000円ですから、
15,000円も損をすることになります。
1-2:通常の労働時間の時給よりも高い時給で支払われる賃金
先ほどの表でもお伝えしましたが、「割増賃金」とは,通常の賃金(基礎時給)に一定の割合で金額を割増した賃金のことです。
法律では、以下3つの働き方をした際に、通常賃金に一定割合上乗せした割増賃金を支払わなければならない決まりになっています。
①「時間外労働」…法定労働時間を超えた残業時間のこと
②「法定休日労働」…法定休日(※)に行う労働のこと
③「深夜労働」…午後10時~午前5時の間に行われる労働のこと
※2章参照
上記、3つの働き方をした際に、下記、割増率が適用されます。
2章:3つだけ覚えれば大丈夫!割増賃金の種類
割増賃金には3つの種類があることは1章でも触れましたが、2章ではより詳しく割増賃金について解説します。
2-1:3つの割増賃金とその割増率
①時間外労働
②法定休日労働
③深夜労働
2-1-1:時間外労働
残業代は大きく分けて、「法定内残業」と「法定外残業」の2つがあります。
1章で解説した通り、法定労働時間を超える労働時間のことを「法定外残業」と言います。
一方,会社が雇用契約上定めている労働時間のことを、所定労働時間といいます。
会社が定める時間ですから,必ずしも法定労働時間と同じというわけではありません。
例えば、会社の規定により9時~17時(うち12時~13時が休息時間)だった場合、労働時間は7時間になります。
もし、1時間残業した場合は8時間の労働時間となりますから、法律で定められた1日8時間労働は超えません。
ですので、法定内残業は、残業でありながら「割増率」の適用はありません。
通常労働時間の時給と同じ時給となります。
このように、法律で定められた労働時間を超えない場合を、「法定内残業」と言います。
2-1-2:法定休日労働
法定休日労働とは、法律で定められた最低休日である週1回以上または4週間に4回以上与えなければならない「法定休日」に労働することを意味します。
つまり、最低でも月に4回は法定休日があるということです。
雇用契約上、法定休日が何曜日であるかの定めがない場合には、日曜日から起算して週7連勤目の土曜日の労働が法定休日労働となります。
2-1-3:深夜労働
深夜労働とは、午後10時~午前5時までの間に労働することを意味し、一般的には「深夜手当」という名目で割増賃金が支給されることが多いです。
2-2:基本的な割増率
以下が、割増賃金を求める際の計算ベースとなる割増率の一覧表です。
働き方によっては、④時間外労働+深夜労働や⑤休日労働+深夜労働といったケースも生じます。
時間外労働(1.25倍)+深夜労働(0.25倍)=1.5倍となります!
2-3:【特別なケース】大企業のみ適用の割増率
割増賃金を計算する際、基本的には2-1:3つの割増賃金とその割増率で解説した、割増率一覧表を参考にしていただければ大丈夫ですが、大企業だけに適用される特別なルールがあります。
法律では、大企業における1ヵ月の残業時間が60時間を超える場合は、60時間を超える残業に対して原則として1.5倍の時間給を支払うことが義務付けられています。
出典)厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/seisaku/2009/09/01.html
ちなみに、大企業の明確な定義はなく、定義のある中小企業よりも規模の大きい企業を日本では大企業と呼んでいます。
(出典:中小企業・小規模企業者の定義|中小企業庁)https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.html
【コラム】中小企業にも適用!? 割増率の耳より情報
お伝えした通り、月60時間超の法定労働時間外労働について、現状、大企業では「1.5倍の割増率」での支払いが義務とされていますが、中小企業においてはその適用が猶予されています。
しかし、厚生労働省では、3年後の平成32年ないし33年度中に廃止される見込みであることが決定しました。
参考)厚生労働省 働き方改革について(平成29年4月28日付)
2章では割増賃金の種類と割増率について解説しました。
3章ではいよいよ割増賃金を考慮した正しい残業代の計算をしてみたいと思います。
3章:カンタンにできる!割増賃金の計算方法
残業代の仕組み、割増賃金についての理解が深まったところで、いよいよ残業代を計算してみたいと思います。
あなたの本当の残業代は、いくらになるのでしょうか。ぜひ一緒に計算してみてくださいね。
3-1:割増率をつかった残業代のやさしい計算式
残業代は、①残業時間の時給を先に計算してから、②残業代の計算式に当てはめて計算します。
《残業代の計算式》
①残業時間の時給=基礎時給×割増率
-
基礎時給とは、時給制の人は普段通りの時給、月給制の人の場合、月給を1ヵ月の「一月平均所定労働時間(=約170時間)」で割ったものです。
※*170時間とは「契約で決められた平均労働時間」のことです。「契約で決められた平均時間」というのは、人にもよりますが160~174時間であることが多いようです。今回は計算しやすいように170時間としています。これに、以下の4種類の割増率のどれか適切なものをかけたのが「残業時間の時給」です。
・通常の残業時間:1.25倍
・法定休日(週1日は必ず休まなければならない日):1.35倍
・通常の深夜残業(22:00~翌朝5:00):1.5倍
・法定休日の深夜残業:1.6倍
②残業代=残業時間の時給(割増賃金)×残業時間
-
残業時間とは、「1日8時間」もしくは「週40時間」を超えて働いた時間のことです。それに①の「残業時間の時給」をかけたものが、あなたが本来払われるべき残業代です。
ただし、1時間あたりの基礎時給をより厳密に計算するためには、月給から除外賃金(通勤手当や住宅手当など)を引いて計算する必要があります。
以下が、基礎時給の計算に入れて良い手当、基礎時給の計算に入れられない、月給から引かれる除外賃金になります。
給与明細を見れば、あなたがもらっている手当がわかります。
ここまでの説明をトータルすると、残業代は以下の計算式で求められます。
3-2:割増率考慮した正しい残業代を計算してみよう!
例題)
Tさんは9~18時定時(休憩1時間)の会社で、月給25万円のうち、通勤手当:1万円、住宅手当:2万円をもらっています。
Tさんの1週間の勤務状況は以下となりました。
<月~金曜日>
毎日9時間働いたので、この週は「5時間」の法定時間外労働が発生しています。
<土曜日>
Tさんの会社では、所定休日(法定休日以外の休日)ですが、仕事が残っていたので13時~0時まで仕事をしました。
1週間の労働時間が40時間を超えている場合、所定休日に働いた時間は法定時間外労働として扱われますから、土曜日の法定時間外労働は「8時間」。午後10時からは深夜労働となるため、深夜労働を「2時間」したことになります。
<日曜日>
Tさんの会社では法定休日(労働基準法によって定められた休日)にあたりますが、まだ仕事が残っていたため、11時~22時まで仕事をしました。
つまり、法定休日労働を「10時間」したことになります。
※土日は休憩時間を1時間ずつ取ったと仮定
もう一度、整理してみましょう。
【Aさんの月給と手当】
【1週間の残業状況】
下記、残業代の計算式に当てはめて、残業代を計算してみます。
◆残業代 計算式
◆残業代 割増率
(25万万円-<1万円+2万円>)÷170時間=1,400円まず、Tさんの1時間あたりの時給を計算します。
Tさんの基礎時給は、1,294円であることがわかりました。
基礎時給がわかったところで、1週間の勤務状況を元に、残業代を計算してみましょう。
●法定時間外労働(1.25倍)
1,294円×1.25×13時間=21,028円
●法定時間外労働+深夜労働(1.5倍)
1,294円×1.5×2時間=3,882円
●休日労動(1.35倍)
1,294円×1.35×10時間=17,469円
これらを合算して、残業代の合計を算出すると・・・
21,028円+3,882円+17,469円=42,379円
Tさんのこの週の残業代は、42,379円だということがわかりました。
4章:残業代を請求する方法
割増賃金を考慮した残業代の計算をマスターしたら、どのように請求すれば良いのか、本章では自分で請求する方法と、弁護士に依頼する方法を解説します。
4-1:自分で残業代を請求する場合
自分で残業代を請求する方法は、以下2種類あります。
①会社に交渉する
②労働基準監督署に相談する
①会社に交渉する
まずは残業代や休日・夜間手当の請求書を「配達証明付き内容証明郵便(内容証明)」で送りましょう。残業代請求の時効は3年間ですから、内容証明を送って時効を止めることが重要です。
内容証明を送れば、もし会社が「そんな郵便物届いていない」とウソをついたとしても、請求書が届いていることを証明してくれます。
仮に会社がすんなり応じてくれそうならば、支払方法や支払う金額などについてしっかりと書面化し、サインをもらっておきましょう。
しかしながら、会社が無反応だったり、要求を却下されたりした場合は、労働基準監督署に申告するという次の選択肢が考えられます。
②労働基準監督署に相談する
労働基準監督署に申告すると、会社へ「調査」「是正勧告」が行われることがあります。
労働基準監督署から会社に対して指導や勧告があれば、あなたの残業代も払われる可能性があるでしょう。
ただし、労働基準監督署は、「労働基準法に違反する会社の指導・監督」をする機関であり、「労働者に残業代を取り返してあげる」機関ではありません。
「未払いの残業代、休日や深夜手当を取り返す」ことを目的にするのであれば、法律の専門家である弁護士に相談するのが一番です。
4-2:弁護士に依頼する場合(おすすめ)
残業代請求の相談先として、一番心強いのは弁護士です。特に、残業代請求問題に強く、実績のある弁護士が望ましいでしょう。
①【交渉】弁護士が会社と交渉
交渉とは、弁護士が会社との間に入って、電話・書面・対面で直接会社と交渉してトラブルの解決を図るものです。
あなたからヒアリングした内容をもとに、弁護士があなたに代わって会社と交渉します。
交渉の結果、会社があなたの要求を飲んでくれるのであれば、あなたの口座に会社から請求した金額が振り込まれ本件は終着となります。
しかしながら、交渉をしても合意に至らなかった場合は、労働審判や訴訟(裁判)に進むことになります。
また、あなたが在職中で、これから退職を考えているのであれば、弁護士に相談していることが会社にバレることなく、実際に交渉を開始する時期についても相談が可能です。
②【労働審判】裁判より簡単な手続き
労働審判とは、裁判所に行き、会社・あなた・裁判官などの専門家で問題の内容を確認し、解決の方法を探す方法です。
労働審判の場合は、解決するまで以下のような流れで進みます。
第1回労働審判で解決されれば、申立てから1~2ヶ月程度、第2回、第3回まで延びればさらに1ヶ月~2ヶ月程度期間も延びることになります。
労働審判の回数は、最大3回までと決められています。
ですから、裁判のように何回も裁判所に行ったり、長期化したりすることがないのが特徴です。
あなたも初回の労働審判のみは参加する必要がありますが、それ以降は参加しなくていい場合もあります。
裁判になると費用や手間がかかるため、ブラック企業の経営者もできれば裁判はやりたくないと考えています。
そのため、多くの場合、「交渉」か「労働審判」で決着が付きます。
しかし、労働審判において決定されたことに不服がある場合は、訴訟(裁判)へ移行します。
③【訴訟(裁判)】裁判になることはほぼ無い
訴訟(裁判)は労働審判と違い、何回までという制限がなく、長期にわたり争い続ける可能性があります。
それでも、あなたが出廷する必要があるのは、本人尋問のときだけなので、それほど回数はありません。
訴訟(裁判)では、裁判所で「原告(あなたもしくは、あなたが依頼した弁護士)」と「被告(会社)」が主張し合い、裁判官が判決を下します。
訴訟(裁判)は、労働審判と違って、回数の制限が無いため、数年単位に長期化する可能性があります。
訴訟(裁判)の流れはこのようになっています。
最高裁まで行くことはほとんどないため、多くは地方裁判所までの1~2年程度で終わるようです。
ただし、先ほどお伝えした通り、裁判まで行くことは、ほとんどなく労働審判で決着がつきます。
弁護士を利用して訴えれば、思ったよりも手軽に、お金もかけずに会社と戦うことができることが理解できたかと思います。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
コラム
残業代請求において大前提となるのが"証拠集め"です。以下を参考に、先に証拠集めをしておくといいかもしれません。
【勤怠管理している会社で有効な証拠】
1.タイムカード
2.会社のパソコンの利用履歴
3.業務日報
4.運転日報
5.メール・FAXの送信記録
6.シフト表
また、これらの証拠になるものがなくても、諦める必要はありません。
タイムカードを置いていなかったり、日報をつけないような勤怠管理してない会社でも、以下のようなものが証拠になり得ます。
【勤怠管理していない会社で有効な証拠】
1.手書きの勤務時間・業務内容の記録
2.残業時間の計測アプリ
3.家族に帰宅を知らせるメール
まとめ:残業代と割増賃金
この記事では、
・残業代の仕組みと割増賃金
・割増賃金の種類と割増率
・割増賃金の計算方法
・残業代の請求方法
をご説明させていただきました。
以下、残業代計算式と割増率一覧表を参考に、ぜひあなたの残業代を計算してみてください。
◆残業代 計算式
◆残業代 割増率
残業代未払いの証拠を集めて、弁護士に依頼することが、確実に残業代を手にする方法になることがこの記事によりわかっていただけたのではないでしょうか。