裁量労働制にも残業がある!制度の考え方と残業代が貰える条件を解説
この記事を読んで理解できること
- 裁量労働制における残業の扱い
- 残業代が請求できるケース
- 未払い残業代は2つの方法で請求できる
近年、「自由な働き方ができる」裁量労働制を悪用し、社員を思うがままに残業させるブラック企業が問題になっているのをご存知でしょうか?
あなた自身、
「裁量労働制だからと言って、ここまで残業させられるのはおかしいんじゃないか?」
「本当は残業代が出るんじゃないか?」
と疑問を感じているのではないでしょうか。
詳しい内容は本文で説明しますが、裁量労働制であるため残業代が出ないと言われても、実際には残業代が支払われるケースが多くあるのです。
そこで、本日は労働問題を多く扱ってきた弁護士である私が、
①裁量労働制における「残業」の扱いと違法なケース
②裁量労働制と言われ残業をして、現在まで未払いになっている「残業代」の簡単な請求方法
の2つについて詳しく解説していきます。
まずは、この記事をきっかけに今現在のあなた自身の状況を把握し、自分の会社の裁量労働制が違法なのかどうかや主張できる権利について理解を深めてみてください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■裁量労働制とは
実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社側と協定などで決めた時間を労働時間と「みなす」制度。
■裁量労働制が採用できる業務型
裁量労働制が当てはまる業務には、「専門業務型」と「企画業務型」の2つがある。
■裁量労働制が導入されていても、残業代が発生するケース
- 不当適用なのでみなし労働時間が認められない
- みなし労働時間が8時間を超えている
- 深夜まで残業をしていた
- 法定休日に出勤・仕事をしていた場合
目次
1章:裁量労働制における残業の扱い
ブラック企業は、働いている社員に裁量労働制の本当の仕組みを教えず、残業させることがあります。
会社側は、自由なスタイルで働けることを強調しつつも、実際は毎日が残業の連続……というケースも珍しくありません。
まずは、裁量労働制とはどういった制度なのか、そしてその中で残業はどのように位置付けられているかを知っておく必要があります。
1-1:裁量労働制の仕組みと残業の考え方
裁量労働制は、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社側と協定などで決めた時間を労働時間と「みなす」制度です。
例えば1日のみなし労働時間を8時間と設定した場合は、 実際に働いたのが3時間でも、8時間働いたとみなされることになります。
その一方で、会社側と1日のみなし労働時間を1日8時間と決めていた場合、働いた時間が10時間でも14時間でも、その日に働いた時間は8時間とみなされることになり、残業代は発生しません。
裁量労働制は誰にでも適用できるわけでなく、該当する業務の範囲が決められています。
1-2:裁量労働制が適用される業務は大きく2つ
会社の中には、業務の自由度が大きく、毎日同じように時間を決めて働くとかえって不都合な立場の人もいます。
裁量労働制はこういった状況を想定し規定された制度なので、適用される業種も限定されています。
裁量労働制が適用される業務は「専門業務型」と「企画業務型」の2つになり、これらに当てはまる業種以外の人に裁量労働制を適用することはできません。
どちらもみなし労働時間を採用し、仕事の進め方を社員に任せていますが、2つは異なる制度となります。そのため、規制の内容も異なってきます。
「専門業務型」は、業務の専門性が高く、働き方を委ねる必要がある社員が対象になります。
実際にはこれに当てはまらない業務であるにもかかわらず、裁量労働制を導入している会社が多く存在しています。
もう一つの「企画業務型」は会社の本社など重要な決定が行われる部門で働き、企画や立案の業務に関わる社員が対象になります。
それぞれ、導入に必要や要件として次のような点を満たす必要があります。
◆導入に必要な要件
専門業務型
・労使協定(会社と社員の間で結ばれる書面での決まりごと)を締結
・労基署への労使協定の届け出
・適用される社員の健康確保
・苦情の処理のための措置
・社員に適用した措置の保存
企画業務型
・労使委員会(会社と社員の間で結成され、裁量労働制について意見交換する委員会)を設置
・委員全員の合意のもとに労使協定を締結
・労基署への労使協定の届け出
・適用される社員の同意
このように裁量労働制の導入には必要な要件が定められており、会社が決めたからといって誰にでも適用できるものではないのです。
しかし、ブラック企業が社員を騙してが裁量労働制を悪用するケースが少なくありません。
2章:残業代が請求できるケース
裁量労働制と言っても、会社が勝手に決めて社員に適用できないことがわかったかと思います。
では、この制度が適用されている社員が、残業代を請求できるのはどのような場合なのでしょうか。
2-1:裁量労働制が不当に適用されているケース
専門業務型にせよ企画業務型にせよ、裁量労働制が不当に適用されている場合は違法残業となり、会社は残業代を支払う必要があります。
不当適用の手口をいくつか見てみましょう。
2-1-1:専門業務型の場合
専門業務型の適用は、ブラック企業が社員をこき使うのによく使う手口のひとつです。
本来は当てはまらないのにも関わらず、この制度を利用し、残業代を払わずに不当に働かせていることがあります。
①職場に労使協定がない
1章でも紹介したように、専門業務型裁量労働制を導入する場合には、労働者の代表が会社の経営者との間で労使協定を締結していなければなりません。
そもそも、この労使協定がないという場合は、専門業務型裁量労働制は無効です。
労使協定は、労働基準法によって、労働者の見えるところに置くことが会社に対し義務付けられているため、
「見たことがない」
「どこにあるのかわからない」
という場合は、そもそも労使協定が存在しない可能性が高いので、裁量労働制は無効となるでしょう。
また、労使協定は「会社ごと」に作るのではなく「職場ごと」に作らなくてはなりません。
ブラック企業は、社員が労働基準法を知らないことをいいことに、「本社に労使協定がある」と言って裁量労働制を不当に適用とします。
しかし、これは違法です。
本社に労使協定があろうが、社員であるあなたの現に働いている支店(職場)に労使協定がなければ、裁量労働制は適用されません。
②労使協定は存在するが、労使協定の締結において、社員側の代表を適切に選んでいない
「労使協定がある」ことを理由に会社は、裁量労働制を不当に適用し、残業代を払わないようにすることがあります。
しかし、労使協定は、職場で社員の中で選挙して過半数の代表を選ぶという手続きをしなければ無効なのです。
ブラック企業でよくあるのが、社員の中の「班長」などといった会社に都合のいい人を勝手に指名する場合は、違法です。
労使協定がある場合も、あきらめないでください。
③裁量労働制を適用してはいけない職種なのに適用する。
プログラマーなどはそのいい例でしょう。以下、紹介します。
・プログラマー
IT業界でよくあるのが「プログラマー」を「エンジニア」とみなして、仕事の自由度がないにもかかわらず裁量労働制を適用するケースです。
「専門業務型」の業務のなかに「情報システムの分析または設計」という条件があるため、実際の業務内容はプログラマーに近いことをやらされているのに、エンジニアとされてしまうことがあるのです。
・デザイナー
デザイナーであっても、厚生労働省により、すでに考案されたデザインをもとに、図面や製品を作成する人は、裁量労働制の適用をしてはならないとされています。
つまり、自分でデザインを考えるのではなく、言われたデザインを整えたり、レイアウトやフォントを修正するという業務がほとんどの場合は、裁量労働制の適用はされないので注意が必要です。
・カメラマン・技術スタッフ
確かに、新聞記事や出版、テレビ番組制作の取材や編集の業務は専門業務型裁量労働制の対象業務とされています。
ブラック企業は、この規定を不当に拡大して適用しています。
厚生労働省により、「記者に同行するカメラマン」「技術スタッフ」「音量調整」「フィルム作成」などの業務は含まれないとされています。
ブラック企業は、社員が知識を持っていないのをいいことに専門業務型裁量労働制を悪用し放題なのです。
2-1-2:企画業務型の場合
本社などの企画立案に関わる「企画業務型」の場合も、本来は当てはまらない業務で会社が勝手に制度を適用することがあります。
例えば、営業職は企画業務型の裁量労働制は適用されませんが、この制度で働く社員に営業活動させたとして違法残業や残業代の未払いが発生した例があります。
また、労使委員会の設置や労基署への労使協定の届け出など、企画業務型は適用に必要な要件が定められていますが、こちらを無視して残業させることもできません。
労使委員会を設置しなかったり、社員が同意していなかったりするのに企画業務型の裁量労働制が適用されている場合は無効になり、それまでの分も残業代が発生することになります。
2-1-3:不当適用の場合の残業代の計算方法
裁量労働制を不当に適用されている人がいたら、これまでの残業代は思っている以上に高額になるかもしれません。
ここで残業代の計算方法を簡単に解説しておきます。
基本的に残業代は、
という式で計算することができます。
基礎時給とは、月給を時給に換算した金額のことです。
割増率は残業の時間帯や残業した時間数によって「1.25~1.6倍」で変わります。
(例)月給23万円、一月の平均所定労働時間170時間
23万円÷170時間=基礎時給1352円
基本給23万円の人が、本当は適用できないのにも関わらず、残業代のつかないみなし労働制で働かせられていたケースを考えてみます。
1か月の残業時間が60時間(1日3時間、出社日数20日)だった場合の計算は次のようになります。
(計算例)
1352円×1.25倍×残業時間60時間=10万1400円
未払いの残業代が一ヶ月で10万円以上になりました。例えば、これが過去2年分(24カ月)になると、
10万1400円×24か月=243万3600円
と、とても大きな金額の残代を受け取ることができます。
2-2:制度の適用は認められるものの、残業代が発生するケース
裁量労働制の適用が認められた場合でも、会社は残業代を払うことなく社員を好きなように働かせられるわけではありません。
裁量労働制の適用自体は認められても、残業代が請求できるケースが3つあります。
・ケース1:みなし労働時間が8時間を超えていれば残業代が請求できる
・ケース2:深夜勤務は残業代が請求できる
・ケース3:法定休日(※)の労働は裁量労働制の適用外なので残業代が発生する
※法律で少なくとも週1回以上は与えられなければならない休日
2-2-1:みなし労働時間が8時間を超えている
裁量労働制では、1日の「みなし労働時間」をあらかじめ会社側と決定しますが、これが1日8時間・週40時間(これを法定労働時間といいます)を超えて設定されている場合、超えている分の残業代が発生することになります。
2-2-2:深夜まで残業をしていた場合
みなし労働時間で働いた時間を計算する時でも、深夜や休日についてのルールはそのまま適用されます。
22時~5時の時間帯に働いた場合は、深夜の割増分(時給の0.25倍)が発生します。
2-2-3:法定休日に出勤・仕事をしていた場合
法定休日に働いた場合には働いた時間がそのまま残業時間となり、基礎時給に1.35倍の割増率を掛けた金額が支払われることになります。
法定休日の仕事が、深夜までかかった場合は深夜の割増率0.25をプラスした分が残業代として受け取ることができます。
残業代の計算について詳しくは以下の記事をご参照ください。
今すぐ計算できる!残業代・残業時間の正しい計算方法をケース別で解説
3章:未払い残業代は2つの方法で請求できる
会社から未払いの残業代を取り返すための方法は、次の2つになります。
・自分で請求する方法
・弁護士に依頼する方法
それぞれのメリットとデメリットは以下のとおりです。
働いている人が自分で証拠を集めたり、残業代を計算したりするのは大変なので、手間がかからず、残業代を取り返せる確率が高い「弁護士への依頼」がオススメです。
残業代請求の詳細については以下の記事で詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
まとめ:裁量労働制と残業
いかがだったでしょうか?
今回の内容を、最後にもう一度見直しておきましょう。
裁量労働制とは、
実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社側と協定などで決めた時間を労働時間と「みなす」制度
1日のみなし労働時間が8時間に設定されていれば、10時間働いても12時間働いても残業代はつかないことになります。
しかし、実際には裁量労働制の会社でも残業代が発生するケースが少なくありません。
裁量労働制が当てはまる業務には、「専門業務型」と「企画業務型」の2つがあります。
裁量労働制を導入している場合でも、
・不当適用なのでみなし労働時間が認められない
・裁量労働制は認められるが、残業代が発生
といったケースでは残業代が支払われることになります。
「不当適用」というのは、そもそも裁量労働制が適用されない業種でこの制度を取り入れているケースです。
この場合はみなし労働時間が無効になるため、残業代が発生することになります。
一方、「裁量労働制は認められるが、残業代が発生」するのは次の3つのケースです。
・みなし労働時間が8時間を超えている
・深夜まで残業をしていた
・法定休日に出勤・仕事をしていた場合
裁量労働制では、1日の「みなし労働時間」を会社側と決定しますが、これが1日8時間・週40時間を超えている場合、その超過分の残業代が発生します。
また、みなし労働時間制で働く場合でも、深夜や休日についてのルールはそのまま適用されます。
22時~5時の深夜帯に働いた場合は、深夜の割増分(時給の0.25倍)、法定休日に働いた場合には働いた時間がそのまま残業時間となり、基礎時給に0.35倍の割増分が支払われることになります。
あなたが上記のケースに当てはまる場合は、一度専門家に相談してどのくらい残業代がもらえるのか計算してみてはどうでしょうか。