- 更新日:2024.08.21
- #変形労働時間制とは
変形労働時間制と残業代の関係性をわかりやすく解説
この記事を読んで理解できること
- 変形労働時間制 とは
- 「変形労働時間制だから残業代は出ないよ」は違法の可能性が高い!騙されないで
変形労働時間制とは「一定の期間を単位として、その期間内であれば1日8時間を超えても、残業代を追加で支払わない」 という制度です。
例えば、デパートで年末商戦の時期は忙しい…というときに、一定期間だけ残業代を支払わずに残業をする ことが可能になります。
そのため、あまり働く側にメリットはない制度と言えます。
そこで、この記事では、変形労働時間制の定義や、この制度が適法になる条件を紹介し、正しい給与を計算できるようにしていきます。
ブラック企業の言うことを鵜呑みにせず、自分で給与を把握しましょう!
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■変形労働時間制とは
「一定の期間を単位として、その期間内であれば1日8時間を超えても、残業代の追加の支払をしない」という制度。
■下記に該当すれば変形労働時間制ではない
以下のチェックリストにひとつでもあてはまれば、あなたの会社は変形労働時間制ではない。
□シフトが突然変更になることがある
□就業規則に変形労働時間制であることが書かれていない
□就業規則で、一定期間の労働時間が平均して40時間以下になるよう定められていない
■変形労働時間制の3つのタイプ
労働時間を変形させる期間が①1ヶ月単位②1年単位③1週間単位の3つの長さにわかれている。
■変形労働時間制が適法になる条件を満たしていない場合
残業代請求ができる可能性があるため、早めに行動することが大事。
目次
1章 変形労働時間制 とは
1章では、変形労働時間制とは何かについて徹底解説します。
1-1 変形労働時間制 の定義
変形労働時間制とは、労働時間を月や年単位で決め、週40時間又は1日8時間を超えていても、残業代を支払わないという制度を言います。
(例)年度末の3月は、所定労働時間を2週間ごとに平均して1週間あたり40時間とする。
図をみると、最初の月曜日は10時間、金曜日は12時間働いており、本来なら8時間オーバーの部分について残業代が支払われます。
しかし、日々の労働時間が8時間を超えていても、所定労働時間が平均して40時間に収まっているため、残業代は出ないのです。
このように、会社が変形労働時間制を導入すると、1日8時間を超えて働いても、社員は 割増された残業代をもらうことができなくなります。
そのため、ブラック企業が この制度を悪用して残業代を違法に支 払わないケースが後を絶ちません。
次に紹介する「変形労働時間が導入できる 場合の条件」をしっかり読み、自分の職場では本当に変形労働時間制が導入できるのかを確認しましょう。
【コラム】就業規則で変形労働時間制が定められている場合の例
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変形労働時間制が導入されている場合、就業規定には次のような記載があります。
(労働時間及び休憩時間)
第○○条 所定労働時間は、毎月1日を起算日とする一箇月単位の変形労働時間制とし、一箇月を平均して1週間40時間以内とする。
2 確実の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は次のとおりとする。
始業時刻 終業時刻 休憩時間
午前9時 午後6時 正午から午後1時まで就業規則は周知が義務付けられているため、会社のどこかに貼られていたり、置かれているはずです。わからなければ上司に確認しましょう。
1-2 変形労働時間制が適法になる条件
変形労働時間制を導入すると、一定の場合に残業代を支払わなくて良いことから、会社はこの制度を使いたがります。
しかし、この制度を適法に使うためには厳しい条件をクリアする必要があるのです。
まずは、あなたには変形労働時間制が適用されるのかどうか、チェックシートで確認してみましょう。
□シフトが突然変更になることがある
□就業規則に変形労働時間制であることが書かれていない
□就業規則で、一定期間の労働時間が平均して40時間以下になるよう定められていない
ひとつでも当てはまった方は、変形労働時間性が適用されない、つまり違法な可能性が高いので残業代請求ができるといえます。
すぐに2章を読みましょう!
ここからは、単位別に詳しい条件を解説していきます。
自分の会社の就業規則を見て、1か月単位・1年単位・1週間単位のどれにあてはまるのか確認し、該当の章を見ていきましょう。
1-2-1 一か月単位
一か月単位の変形労働時間制を導入するための条件は以下の通りです。
①労使協定又は就業規則で②~④について決めておくこと
②変形期間は一か月以内とし、起算日を決めること
③1ヶ月以内の一定期間を平均して週あたりの労働時間が40時間を超えないように決めること
④対象期間内における各週・各日の労働時間を具体的に特定して おくこと
→シフト表やカレンダーで、期間内のすべての労働日ごとの労働時間を定めなければなりません。
(例)3月1日 10時間 午前8時~午後7時(休憩1時間)
3月2日 4時間 午後1時~午後5時
④に関して、守っていない会社が多く見受けられます。よくあるのが、当日になって「今日は10時間働いてね」などと言うケースです。
ほかにも
・一か月単位なのに半月ごとのシフトしか作っていなかった
・その日にシフトを告げられる
と言ったケースでは、④特定の条件が満たされず、変形労働時間制の適用がないと言えます。
なお、一か月単位の変形労働時間制を導入すると特定された週又は日において1週40時間、1日8時間を超えて労働させることができます。
【コラム】増える残業代~ヤマト運輸のケース~
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ヤマト運輸では、未払い残業代が問題になっていました。この件について労働審判を進めていくうち、「変形労働時間制が適切に使われていなかった」ということが明らかになったのです。
本来、一か月の変形労働時間制では、あらかじめシフト表ですべての労働日の労働時間を決めておかなければなりません。しかし、ヤマト運輸では、
・170時間が上限なのに220時間分ものシフトが組まれていた
・月の途中でシフトが変わった
という運用をしていました。これが本当なら、変形労働時間制を導入することはできません。そのため、会社はより多くの残業代を支払う可能性が出てきたのです。ヤマト運輸の話は、他人ごとではありません。あなたの会社は、直前にシフトを変えていませんか?実は変形労働時間制は、会社にとって導入が難しい制度なのです。
1-2-2 一年単位
一年単位の変形労働時間制が適法になるための条件は以下の通りです。
①労使協定及び就業規則により②~⑥を決めること
②対象労働者の範囲を決めること
→「全従業員を対象とする」などあなたが対象であることがわからないといけません。
③変形期間は一年以内とし、起算日を決めること
→3ヶ月でも6カ月でも構いません。
④1ヶ月以内の一定期間を平均して週あたりの労働時間が40時間を超えないように決めること
⑤対象期間における労働日数・労働時間が以下の日数を満たすこと
(ⅰ)1日10時間まで
(ⅱ)1週52時間まで
(ⅲ)連続して労働させることができる日数は6日まで
(ⅳ)期間内の労働日数の限度は「280日×対象期間の歴日数÷365日」によって出された日数まで
⑥対象期間内における各週・各日の労働時間を、具体的に特定しておくこと
→シフト表やカレンダーで、期間内のすべての
労働日ごとの労働時間を定めなければなりません。
特定の方法は2種類あります。
(ⅰ)対象期間内の全日の労働日、所定労働時間を定める方法
(ⅱ)区分期間を設ける方法
一年単位の変形労働時間制の条件をクリアすると、特定された週又は日において1週40時間、1日8時間を超えて労働させることができます。
1-2-3 一週間単位
一週間単位の変形労働時間制を導入するための条件は以下の通りです。
①労働者30人未満の事業規模の小売業、旅館、料理店、飲食店であること
②労使協定により、一週間の所定労働時間として40時間を超えないように決めること
③各週の始まる前に、労働者に労働時間を書面で通知すること
④就業規則や労働契約において労使協定と同様の定めがあること
一週間の変形労働時間制を採用すると、1日10時間まで働かせることができます。
ここまで、変形労働時間制の条件を説明してきました。
そこで次は、変形労働時間制の場合にだまされがちな未払い残業代の話に移りましょう。
2章 「変形労働時間制だから残業代は出ないよ」は違法の可能性が高い!騙されないで
2-1 変形労働時間制は無効であることが多い
変形労働時間制を導入している会社では、次のようなことを言われることがあります。
しかし、これは全くのウソです。
確かに一定の条件を満たせば 残業代が出なくなりますが、①そもそも変形労働時間制の条件を満たしていなかったり、➁変形労働時間制が有効であったとしても、最初に決めた時間を超えて社員を働かせた場合には、会社は残業代を支払う必要があります。
特に、A変形労働時間制は労使協定や就業規則の定めが適切であること、B実際の運用が適切に行われていることが必要なのですが、ほとんどの会社ではこの2点について、厳守されていることがないのです。
コンプライアンスが特に大事であるはずの大手企業であるヤマト運輸でさえ、変形労働時間制の実際の運用が適切になされず、月の途中でシフトを変更したりしていたため、変形労働時間制が無効と判断されました。
このことからも、中小企業において変形労働時間制が適切に運用されていることは極めてまれといえます。
なので、中小企業の労働者において、変形労働時間制が有効であることを前提に残業代を計算する必要は(特に請求段階においては)ないと思っておいてもよいでしょう。
そこで、以下、変形労働時間制が無効であった場合の残業代の計算方法について説明します。
2-2 変形労働時間制ではなかった場合―残業代請求
1-2章の チェックリストで、 あなたの会社が変形労働時間制ではないことがわかった場合、あなたは普通の労働形態で働いたとして残業代請求ができます。
その場合、残業代の計算方法は以下の通りです。
①時間ごとの給与である基礎時給を出す
月給÷170時間=基礎時給
* 170時間とは「契約で決められた平均労働時間」のことです。
「契約で決められた平均時間」というのは、人にもよりますが160~174時間であることが多いようです。今回は計算しやすいように170時間としています。
(例)月給34万円の基礎時給
34万円÷170時間=2,000円
基礎時給は2,000円となる
②基礎時給から残業の時給を求める
基礎時給×割増率=残業の時給
・法定労働時間(1日8時間)を超えた労働:1.25倍
・法定休日の労働:1.35倍
・深夜労働(午後10時~翌午前5時):1.25倍
・法定労働時間を超えた労働+深夜労働:
1.25倍+1.25倍 = 合計1.5倍
・法定休日の労働+深夜労働:
1.35倍+1.25倍 = 合計1.6倍
(例)基礎時給2,000円の人が午後9時まで、10時間働いた
割増率は1.25倍なので
2,000円×1.25倍=2,500円
1時間の残業代は2,500円になる
③残業の時給に残業時間をかける
残業の時給×残業時間=あなたがもらえる残業代
(例)残業の時給2,500円の人が、月50間残業した
2,500円×50時間=125,000円
この人がもらえる残業代は月125,000円、1年で150万円にもなります。
残業代の詳しい計算方法はコチラ
残業代の時給をごまかす「3つの手口」と残業代の「正しい計算方法」
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【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
まとめ:変形労働時間制と残業代
いかがだったでしょうか。最後に簡単に振り返ってみましょう。
変形労働時間制とは、「一定の期間を単位として、その期間内であれば1日8時間を超えても、残業代の追加の支払をしない」という制度を言います。
この制度を使うためには、厳しい条件をクリアする必要がありますが、ほとんどの会社ではこれをクリアしていません。例えば、以下のチェックリストにひとつでもあてはまれば、あなたの会社は変形労働時間制ではないのです。
□シフトが突然変更になることがある
□就業規則に変形労働時間制であることが書かれていない
□就業規則で、一定期間の労働時間が平均して40時間以下になるよう定められていない
万が一変形労働時間制ではない場合、あなたは追加で残業代をもらうことができます。残業代は、以下の式で求めることができます。
①時間ごとの給与である基礎時給を出す
月給÷170時間=基礎時給
②基礎時給から残業の時給を求める
基礎時給×割増率=残業の時給
③残業の時給に残業時間をかける
残業の時給×残業時間=あなたがもらえる残業代
一方、あなたの会社が変形労働時間制を採っている場合には、労働時間を変形させる期間が①1ヶ月単位②1年単位③1週間単位の3つの長さにわかれます。あなたの会社がどの長さを採っているかは就業規則を見ればわかりますので、確認してみましょう。
なお、変形労働時間制の残業代の計算は、採用している期間の長さによって異なります。
以上のように、会社から「変形労働時間制を採っている」と言われても、ほとんどの場合では適法になるための条件を満たしていません。そのため、残業請求ができる可能性があります。
もう一度チェックリストを見返し、あなたの会社が本当に変形労働時間制なのかを確認してみましょう。