- 2023.07.03
- 2025.03.05
- #医師残業
残業多すぎ?医師の残業のルールと医師特有の実は残業になる5つの時間


この記事を読んで理解できること
- 週60時間以上の労働が普通?医師の長時間残業の実態と原因
- 医師の場合の残業のルールを確認しよう
- 【医師特有】残業代がないがしろにされてしまう3つのケースとは?
- 医師でも未払い残業代の請求が可能
あなたは、医師であることを理由に長時間の残業を強いられていませんか?
医師は患者の命や健康に深く関わるという業務の特殊さや、一般的に高額の給与をもらうことなどから、「長時間残業やサービス残業をして当たり前」と思われがちです。
しかし、医師でも、「勤務医」や「研修医」は労働基準法上、残業代をもらう権利がありますし、残業の上限があります。
そのため、もしあなたやあなたの勤務する病院で、「異常な長時間残業が常態化している」「どれだけ残業しても、残業代が出ない」などの状況があれば、それは違法です。
「医師という仕事上仕方ない」と思われているかもしれませんが、法律上の残業の正しいルールを知っておかないと、
- 残業のしすぎで自分が体を壊してしまう
- 周囲の職員や後輩医師に、間違った働き方を伝え、強制してしまう
という可能性もあります。
そのため、まずは「法律上の正しい残業のルール」を知っておくことが大事です。
そこでこの記事では、まずは医師の残業の実態と、なぜ残業が長時間になってしまうか、その理由を解説します。
次に、医師の残業の労働基準法上の正しいルールと、「みなし残業」「年俸制」「管理職」などの、残業代がごまかされるケース、そして、もし残業代がもらえていなかった場合の、請求方法について解説します。
正しいルールを覚えて、間違った働き方を改善していきましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■医師の残業が長時間化する理由
- 患者からの診療要求が拒めない(応召義務)
- 「残業は当たり前」と考える慣習がある
- 診療以外の仕事も多い
■労働時間としてカウントされる可能性が高い時間
①前残業、朝礼:早く出勤しての報告や引き継ぎ、業務遂行のために出席が前提になっている朝礼、事務局長による講話など。
②院内研修・勉強会:参加が義務付けられている研修や病棟勉強会など。
③宿直業務:実際には労働していた場合の宿直の時間
④待機時間:患者の対応のために、控え室に待機している時間など
■医師の残業代がごまかされるケース
- みなし残業
- 年俸制
- 管理監督者
目次
1章:週60時間以上の労働が普通?医師の長時間残業の実態と原因
あなたは、毎月何時間の残業をしていますか?
患者の容体や急患など、様々なイレギュラーが発生する医師の現場では、「長時間残業やサービス残業なんてしょうがない」という認識の人が多いと思います。
確かに、職業柄ある程度の残業は仕方ないかもしれませんが、働きすぎであなたが倒れてしまえば、本末転倒です。
そこで、まずは
- 医師の残業の実態
- 医師の残業が長時間化する原因
について紹介します。
それより先に、医師の場合の残業のルールについて知りたいという場合は、2章から呼んでください。
1-1:医師の残業の実態
それでは、医師の残業の実態から紹介します。
結論から言うと、驚くことに、4割以上の勤務医が毎週20時間以上、月80時間以上の残業をしているという実態があります。
詳しくは、以下の表をご覧ください。
※データ元:労働政策研究・研修機構「『勤務医の就労実態と意識に関する調査』調査結果」 (https://www.jil.go.jp/press/documents/20120904.pdf)
この結果を見ると、医師の4割は「過労死基準(※)」を超えて働くのが普通になっているということになります。
※過労死基準とは、厚生労働省の定める労災認定の基準で、月80時間を超える残業は、健康障害を発症する可能性が高いとされています。
しかし、医師といえど、これほどの長時間残業を続けていれば、心身に重大な健康障害を発症してしまうこともあります。
実際、2015年には、毎月160時間前後の残業をしていた産婦人科の精神科医が自殺した事件が起こっています。
調査によると、1割の勤務医は、この精神科医と同じくらいの残業の水準にありますので、あなたも十分注意する必要があります。
1-2:医師の残業が長時間になる原因
それでは、なぜ医師はこれほどの長時間残業が日常化しているのでしょうか?
主な理由は、
- 患者からの診療要求が拒めない(応召義務)
- 「残業は当たり前」と考える慣習がある
- 診療以外の仕事も多い
などです。これらの原因がいくつも重なり合って、医師の長時間残業につながっているのです。それぞれ簡単に解説しますので、あなたも確認してみてください。
1-2-1:患者からの診察要求が拒めない(応召義務)
医師は、医師法で以下のように定められた「応召義務」があります。
「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」(医師法19条)
医師は、基本的に患者の要求は断ることができないため、要求に応じているうちに残業が続いてしまいます。これが、医師の長時間残業の一つの原因です。
1-2-2:「残業は当たり前」と考える慣習がある
医師は、患者の命や健康に責任を持つ仕事ですので、たとえ「応召義務」のようなものがなくても、医療のプロフェッショナルとして、患者のためには残業は厭わない、という姿勢になりがちです。
そのような医師が多いため、病院や業界全体が「残業は当たり前」と考える慣習になっているのではないでしょうか?
実際、病院と医師の間では、異常な長時間残業を前提にした36協定が締結されることが非常に多いです。
※36協定とは、病院経営者と医師との間で締結する、残業を可能にする協定のことです。
最近でも、
- 岐阜市民病院:残業上限月150時間
- 京都中部総合医療センター:残業上限月150時間
- 日赤医療センター:残業上限月200時間
- 国立循環器病研究センター:月300時間
などの36協定が締結されていることが、ニュースになりました。
これは、医師は「長時間残業が当たり前」と考えている、病院や業界の慣習の現れではないでしょうか。
そうした慣習が、医師の長時間残業の原因の一つになっている可能性があります。
しかも、現状では、医師の残業は働き方改革の「適用除外」にされているため、今後もしばらくは改善が難しいと考えられます。
1-2-3:診療以外の仕事が多い
医師は、診療以外にも、
- 院内委員会活動
- 会議
- レセプトの作成
- スタッフの教育、指導
- 自分の医療水準を維持、向上させるための活動
など、様々なことに時間を使います。ただでさえ、患者の診療で残業が発生しやすいのに、診療以外にも膨大な業務があることは、医師の長時間残業の原因になっています。
2章:医師の場合の残業のルールを確認しよう
医師でも、「勤務医」「研修医」は労働者であるため、労働基準法が適用されます。
そのため、「上限なく残業させられる」という医師は、違法な状況である可能性が高いです。
それでは、
- 労働基準法上の、医師の残業のルール
- 医師の労働時間としてカウントされる時間
について、解説します。
2-1:労働基準法上の残業時間のルール
まずは、残業の基本的なルールから確認しましょう。
残業とは、法定労働時間を超えて働いた時間のことです。
法定労働時間とは、法律で定められた「1日8時間・週40時間」の時間のことで、これを超えた労働が「残業」になります。
つまり、以下のどちらか一方でも超えて働いた時間が残業です。
- 1日8時間を超えた労働時間
- 週40時間を超えた労働時間
一般的な医師の1日の流れで考えると、以下のようになります。
研修医の場合は、もっと早く出勤し、帰宅後もレポート作成があるなど、さらにハードな生活になることが多いようです。
2-2:宿直も労働時間になる?労働時間カウントのルール
多くの医師は、月に何度も宿直があると思います。
しかし、実は宿直中の時間も労働時間としてカウントされ、残業扱いされることもあるのです。
過去の判例から、「労働時間」としてカウントできるのは、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
(三菱重工業長崎造船所事件・最判平成12年3月9日労判778号)
のことであるとされています。
「使用者」とは、簡単に言えばあなたの職場の上司にあたる医師などのことです。
その使用者から「この仕事をやってくれ」「この時間は働いてくれ」という指示を受けている時間は、すべて労働時間としてカウントされるのが原則です。
さらに、上司から明らかに「この仕事を残ってやってくれ」と指示されていなくても、
- 就業時間内に終わらない量の仕事がある
- 指示された時間内では完了できない
などのような、仕事上働かざるを得なかった時間は、「労働時間」としてカウントされる可能性が高いです。
そのため、宿直を含む以下の時間も、使用者の指揮命令下に置かれていたのであれば、労働時間としてカウントできる可能性が高いです。
【労働時間としてカウントされる可能性が高い時間】
①前残業、朝礼:早く出勤しての報告や引き継ぎ、業務遂行のために出席が前提になっている朝礼、事務局長による講話など。
②院内研修・勉強会:参加が義務付けられている研修や病棟勉強会など。
③宿直業務:実際には労働していた場合の宿直の時間
④待機時間:患者の対応のために、控え室に待機している時間など
以上をまとめると、
「1日8時間・週40時間」のどちらか一方を超えた時間
で、かつ、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
の両方を満たす時間は、医師でも残業時間としてカウントされるのです。
3章:【医師特有】残業代がないがしろにされてしまう3つのケースとは?
医師の場合、
- みなし残業
- 年俸制
- 管理監督者
などを理由に、どれだけ残業しても「残業代は出ない」「残業代は一定額」と言われることがあります。
しかし、最近ではこれらのケースでも残業代が発生すると判断されることが多いです。
そこで、これらのケースについて解説します。
3-1:基本給や〇〇手当に残業代が含まれている
あなたは、病院から、
- 残業代は基本給に含まれている
- 残業代は、毎月一律○万円までしか支給しない
- 業務手当、役職手当などが残業代の代わり
などと言われていませんか?
このように、どれだけ残業しても一定額の残業代しか出なかったり、他の手当が残業代の代わりとして支給されていたりすることは、法律上認められません。
もしあなたがこのようなことを理由に、どれだけ残業しても残業代が変わらない状況なら、それは違法です。
そのため、医師でも、未払い残業代を請求することが可能です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
みなし残業(固定残業)の違法性を判断する7つのポイントを徹底解説
3-2:年俸制なので残業代の支払い義務はない
年俸制であっても、基本給部分と残業代部分が明確に区分されていない場合は,残業代の支払い義務があります。
【年俸制の医師の残業代請求が認められたケース】
最近では、1700万円の年俸をもらっていた医師が未払い残業代を病院に請求し、請求が認められた裁判がありました。
このケースでは、年俸のうち、残業代になる部分が明らかにされていなかったことから、残業代が支払われていたとは言えないと判断されました。
あなたも、病院との間で年俸制での契約になっていれば、残業代を請求できる可能性があります。
年俸制について、詳しくは以下の記事を参照してください。
3-3:医師は「管理職(管理監督者)だから」支払い義務はない
医師の場合、病院内で「スタッフを管理する業務があるから」「役職がついているから」などの理由で、管理職扱いされることも多いと思います。
管理職の場合は、「残業の上限がなくなる」「残業しても残業代が出ない」と思われていることがありますが、実はそうではありません。
確かに、労働基準法上、病院の経営や採用などに大きな権限を持っている人を「管理監督者」と呼び、深夜手当を除き、残業代を支払う必要がないとされています。
しかし、「管理職=管理監督者」ではありません。
労働基準法上の管理監督者とみなされるには、医師の場合、
病院の経営者と一体的な立場で、病院の経営に関与できる
病院の職員の採用や労働条件を決定する権限を持っている
他の医師に比べて高い待遇を受けている
出退勤の時間が自由
などの要素を満たす必要があります。
そのため、ほとんどの医師は管理監督者ではありません。
もしあなたが、管理職を理由に「残業の上限がない」「残業しても残業代が出ない」という状況にあるなら、残業代を請求できる可能性があります。
管理職(管理監督者)について、詳しくはこちら(内部リンク)の記事をご覧ください。
管理職でも残業代が出る?管理職の3つの定義と判断基準を徹底解説
4章:医師でも未払い残業代の請求が可能
まずは、医師の残業代がどのくらいになるのか、シミュレーションしてみましょう。医師の残業代は、高額になる可能性が高いです。
医師の月給は平均「84万9000円」というデータ(※)があるため、「月給85万円」として計算します。
※厚生労働省「2017年度賃金構造統計調査」
(例)
- 月給85万円
- 月の残業100時間(うち深夜残業20時間)
- 一月平均所定労働時間170時間
※一月平均所定労働時間とは、病院によって決められている1ヶ月の平均労働時間のことです。一般的に170時間前後であることが多いです。
(85万円÷170時間)×1.25倍×通常の残業80時間=50万円(1ヶ月の深夜残業以外の残業代)
(85万円÷170時間)×1.5倍×深夜残業20時間=15万円(1ヶ月の深夜残業の残業代)
50万円+15万円=65万円(1ヶ月の残業代の合計)
となります。
これは、決して大げさな計算ではありません。
医師の場合は、1章でお伝えしたように残業が100時間に達する人も多い上、「宿直」などが労働時間として認められれば、深夜残業も多くカウントできるからです。
残業代は3年分までさかのぼって請求できるため、
65万円×36ヶ月=2340万円
と高額になります。
お金のために仕事をしているんじゃない、と思われる人も多いと思いますが、正しい金額の残業代をもらうことはあなたの権利ですので、病院に請求することも検討してみることをおすすめします。
残業代の請求方法には、以下の2つがありますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【自分で残業代を請求する方法】
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
【弁護士に依頼して残業代を請求する方法】
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
まとめ:医師の残業について
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【医師の残業が長時間化する理由】
- 患者からの診療要求が拒めない(応召義務)
- 「残業は当たり前」と考える慣習がある
- 診療以外の仕事も多い
【労働時間としてカウントされる可能性が高い時間】
①前残業、朝礼:早く出勤しての報告や引き継ぎ、業務遂行のために出席が前提になっている朝礼、事務局長による講話など。
②院内研修・勉強会:参加が義務付けられている研修や病棟勉強会など。
③宿直業務:実際には労働していた場合の宿直の時間
④待機時間:患者の対応のために、控え室に待機している時間など
【医師の残業代がごまかされるケース】
- みなし残業
- 年俸制
- 管理監督者
医師の場合の、残業の正しいルールが理解できたでしょうか?周囲にも伝えて、残業の改善のために役立てていただければと思います。
【参考記事一覧】
みなし残業が違法になるケースについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
みなし残業(固定残業)の違法性を判断する7つのポイントを徹底解説
年俸制について、詳しくは以下の記事で解説しています。
管理職の残業や残業代のルールについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
管理職でも残業代が出る?管理職の3つの定義と判断基準を徹底解説
残業代請求を自分で行う方法について、以下の記事で解説しています。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
残業代請求を弁護士に依頼して行う場合の、手続きや費用、弁護士の選び方について、詳しくは以下の記事で解説しています。