
管理職は、労働基準法で「管理監督者」として定義されており、下記の項目などが特別に許されています。
<管理監督者に適用される特例>
- 残業時間の制限がない
- 残業代が払われない
- 法定休日が取得できない
しかし、一般的な会社の役職がついている管理職は、法律上の「管理監督者」の要素を満たさないため、「名ばかり管理職」と呼ばれます。
もし、あなたが「名ばかり管理職」であるにも関わらず、「残業代が出ない」などの扱いを受けていたら違法であり、会社に未払い残業代を請求することができます。
管理監督者の要素を満たせないにもかかわらず、管理監督者扱いする会社の行為は「違法」です。
そこでこの記事では、
- 「管理監督者」の正確な定義
- 自分が管理監督者かどうか分かる判断基準(チェックリスト)
- 管理監督者の要素を満たしていなかった場合に、会社に要求できる3つのこと
などについて詳しく解説します。
仮に、あなたが「名ばかり管理職」で、月給25万円、月100時間のサービス残業をしていたとします。
2年前までさかのぼって残業代を請求するなら約440万円を請求することができます。
しかし、何も請求をしなければ残業代はゼロ円のままです。
最後までしっかり読んで、「管理職」に関する正しい知識を学び、行動に移していきましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■一般的な管理職の定義
「部長」「課長」「店長」「工場長」などの、部署や店舗をまとめる権限・責任を持った社員のこと。
■労働基準法における管理職(管理監督者)の定義
- 経営者に近い責任・権限
- 自由な労働時間
- 残業代をもらう必要がないほど高い待遇
上記の3つの要素を満たしているのが管理監督者。
■名ばかり管理職とは
- 管理職と法律上の管理監督者を混同し、社員が違法扱われているケースがとても多く、そのような人のことを「名ばかり管理職」
- 会社が社員を管理職扱いしたからといって、自動的に、法律上の「管理監督者」になるわけではない
- 「名ばかり管理職」なら未払い残業代を請求できる可能性がある
目次
1章:管理職の定義とは?会社の言う「管理職」と法律上の定義は異なる
あなたは、
「管理職だから残業代は払われない」
「管理職だから残業に上限がない」
などということを会社から言われたことはありませんか?
これらは、法律上の「管理監督者」に当てはまれば合法ですが、「管理監督者」の要素を満たさない「名ばかり管理職」であれば違法となります。
一般的には、「部長」「課長」「店長」「工場長」などの、部署や店舗をまとめる権限・責任を持った社員のことを「管理職」と呼びます。
しかし、会社が社員を管理職扱いしたからといって、自動的に、法律上の「管理監督者」になるわけではありません。
管理職と法律上の管理監督者を混同し、社員が違法扱われているケースがとても多いです。そして、そのような人のことを「名ばかり管理職」と言うのです。
そこで、まずは管理監督者の定義である、
- 経営者に近い責任・権限
- 自由な労働時間
- 残業代をもらう必要がないほど高い待遇
の3つについて詳しく解説します。
また、あなたが「名ばかり管理職」か判断できるチェックリストを用意しましたので、自分が名ばかり管理職であるかどうか判断するのに活用してください。
1−1:法律上の「管理監督者」の定義
管理監督者の定義は、以下の3つです。
【経営者に近い権限・責任を持っている】
もし、あなたが法律上の管理監督者にあたるならば、以下のことに当てはまるはずです。
- 経営者に近い立場にいる
- 従業員の採用や解雇、部署の立上げなどの権限を持っている。
- 経営方針の意思決定に携われる。
つまり、商品サービスの内容や品質、商品の価格、取引先の選定など会社の重要なことがらを自分の権限で決められるような、社内でも経営者に近い立場の人が管理監督者として扱われるということです。
そのため、「部長」「課長」「店長」「工場長」などの肩書きを持っていても、自らの裁量で行使できる権限が少なく、上司の命令を部下に伝達するだけの役割しかない場合は、管理監督者ではありません。
【勤務時間を自分で決める権限を持っている】
管理監督者は、立場上、時間を選ばずに判断・対応することが求められます。その特殊な立場ゆえ、管理監督者の出退勤の時間は、あらかじめ、厳密に決めておくことができません。
そのため、勤務時間が決められており、自分の勤務時間を自分の裁量で決める権限を持っていない場合は、法律上の管理監督者とはみなされません。
また、遅刻や早退が会社からペナルティにされる場合も、管理監督者とはみなされません。
【残業代を出す必要がないほどの高い待遇を受けている】
管理監督者とみなされるには、残業して残業代が支払われないことに見合うほどの好待遇をうけていることも1つの要素になります。
たとえば、「他の社員に比べて非常に高い賃金をもらっている」というのが一つの目安です。
数万円の役職手当がつくくらいでは、管理監督者の地位にふさわしい賃金とは言えません。一般社員と比べて、とても高い待遇受けていないのであれば、残業代が出ないのは違法です。
ただし、「非常に高い賃金」というのは業界や会社によって判断が曖昧であるため、待遇を基準にした判断は補足程度に考えておいてください。
これらの3つの要素に1つでも当てはまらないものがあれば、あなたは「名ばかり管理職」である可能性が高いです。
それでは、あなたが名ばかり管理職か、管理監督者か判断できるチェックリストを用意したので、ぜひやってみてください。
1−2:あなたが名ばかり管理職かどうか分かるチェックリスト
あなたは、以下の項目にいくつ当てはまるでしょうか?
1〜2つ:管理監督者ではない可能性が高い
3つ以上:管理監督者ではない可能性が極めて高い
3つ以上当てはまる人は、法律上の管理監督者とみなされる可能性が極めて低いです。つまり、肩書きだけの管理職=名ばかり管理職である可能性が高いということです。
1−3:名ばかり管理職に適用されていなかったら違法になる4つの規定
あなたは、自分が名ばかり管理職なのか、管理監督者なのか判断できたでしょうか?
管理監督者だった場合のみ、
- 労働時間→残業時間の上限がない
- 休憩時間→取得する権利がない
- 法定休日→取得する権利がない
- 残業代(割増賃金)→もらう権利がない
というように、労働基準法の4つの規定が適用されません。
もし、あなたが名ばかり管理職でこれらの規定が適用されていなかったら違法です。
【残業代が払われない】
通常は「1日8時間・週40時間」を超える時間働いた場合、その時間が残業時間になります。そして、社員には、その働いた時間に対して残業代をもらう権利があるのですが、管理監督者にはこの規定が適用されません。
ただし、名ばかり管理職は管理監督者ではないため、残業代が払われてなければ違法です。
【残業時間に上限がなかったら違法】
通常、1日8時間・週40時間のどちらか一方を超える労働時間は「残業時間」であり、会社は原則的に、これを超えて社員を働かせることはできません。
しかし、管理監督者は労働時間が柔軟であることが求められるため、この残業時間の上限が適用されません。ただし、名ばかり管理職で残業時間の上限がなかったら違法です。
【休憩時間が取得できない】
通常、社員には、1日労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩が与えられなくてはなりません。
しかし、管理監督者はイレギュラーな事態が発生したときも対応しなければならないため、休憩時間の規定も適用されません。ただし、これも名ばかり管理職で取得できなければ違法です。
【法定休日が取得できない】
通常、社員には毎週1日以上の休日(法定休日)が与えられなければなりません。
しかし、管理監督者は会社のために休日も出勤しなければならないことが考えられるため、法定休日も取得する権利がありません。ただし、名ばかり管理職は、毎週1日以上の休日が取得できていなければ違法です。
【コラム:有給休暇、深夜労働は、管理監督者も対象外にならない】
管理監督者は労働基準法の、通常の社員に適用される規定の対象外になるとお伝えしました。しかし、「深夜労働」と「有給休暇」は別です。
労働基準法では、22時〜翌朝5時までの労働を「深夜労働」としており、会社は+0.25倍の割増賃金を、管理監督者に払わなければなりません。(最二小判平成21年12月18日)
また、有給休暇についても、管理監督者も取得する権利を持っています。もしあなたが、要素を満たす「管理監督者」であったとしても、深夜の割増賃金や有給休暇の取得ができないなら、違法です。
2章:あなたは管理監督者?これまでの判例から判断しよう
管理監督者の定義や適用されない規定については分かったけれど、イマイチ自分が管理監督者なのかどうか分からないな・・・
そんな疑問をお持ちの人もいるかもしれません。そこで、実際に「管理監督者」とみなされたケース・みなされなかったケースの判例も紹介しますので、参考にしてみてください。
【コラム】「スタッフ職」は管理監督者ではないことがほとんど
一部の会社には、経営者の直属で人事や経営企画、機密事項を扱う仕事などを行う「スタッフ職」と言われる社員がいることがあります。あなたがこの「スタッフ職」の場合、確かに経営者に近い立場で仕事していると言えるかもしれません。しかし、あなた個人の権限で、高度な決定をすることができるでしょうか?
たとえ、経営者に近い立場で仕事をしていたとしても、1章で紹介した要素を満たしていなければ、管理監督者ではありません。
3章:あなたも使われているかも?管理職を悪用するブラック企業の3つの手口
ここまで読んで、自分が管理監督者なのかどうか判断できたでしょうか?もしあなたが、管理監督者の定義を満たしていない場合、これから紹介する「3つの手口」に騙されている可能性があります。
ブラック企業は、社員が労働基準法について無知であることにつけ込んで、社員を管理監督者扱いし、不当に安い人件費でこき使うのです。
その手口とは、名ばかり管理職なのに、
- 長時間労働や休日なしで働かせる
- 残業代を払わない
- 残業時間の対価に見合わない役職手当を払い、人件費を抑える
といった扱いをすることです。
これらの手口について詳しく解説します。
3−1:長時間労働や休日なしで働かせる手口
1章で解説したように、管理監督者は、
- 残業時間の制限がない
- 休憩時間が必要ない
- 法定休日が必要ない
- 残業代が払われない
など、労働基準法の規定の対象外になります。
ブラック企業はこれを利用して、社員に以下のようなことを言って騙すことがあります。
ブラック企業の経営者は、「管理職は労働時間・休日の制限がない」と社員を洗脳することで、不当に安い人件費でこき使おうとします。しかし、管理監督者の定義に当てはまらない社員をこのように扱うのは違法です。
3−2:残業代ゼロで働かせる手口
先ほど説明したように、通常は「1日8時間・週40時間」を超える時間働いた場合、その時間が残業時間になります。そして、その時間は残業代が払われる義務があるのですが、これも管理監督者の場合は、適用されません。
そのため、これを悪用して、社員に役職をつけて残業代ゼロで働かせる手口が使われることがあります。
来月から課長にするから、自信をもって部下達をリードしてくれ!
管理職にしてしまえば、残業を払わずにいくらでも残業させられるぜ!
もちろんこれも、3つの要素を見てしていない「名ばかり管理職」の人の場合は違法で、残業代をもらう権利があります。
3−3:残業時間の対価に見合わない役職手当を払い、人件費を抑える手口
3−2で説明したのは「管理職にすることで残業代を払わない」手口ですが、「管理職にして役職手当を払うことで、残業代を払ったことにする」手口もあります。
5万円分の役職手当を残業代だと言い張れば、5万円でただ働きさせられてお得だぜ。
この手口は、社員から「残業代が払われていない」を言われても、「役職手当が残業代の代わりなんだ」と反論することで、社員を騙すことができるという点で、より悪質な手口です。
しかし、「残業代の代わり」と主張される役職手当が、本当に働いた残業時間の対価として見合っていない金額なら違法です。
役職手当で残業代がごまかされる手口について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
役職手当があっても残業代が出る!その理由と方法を弁護士が徹底解説
あなたもこれらの手口に思い当たるところはありませんでしたか?もし、
「自分は管理監督者ではないみたいだ」
「会社から不当な扱いを受けていることが分かった」
と思った場合は、これから紹介する方法を実践することをおすすめします。
4章:管理監督者じゃなかった場合に会社に要求できること・方法
あなたが、管理監督者の定義を満たしていないにもかかわらず、労働時間や残業代の規定の対象外にされている場合は、これから紹介することを会社に要求することができます。
会社に要求できることには、
- 長時間労働の改善
- 法定休日の取得
- 残業代の請求
という、大きく3つのことがあります。
これらについて、
- 自分で直接要求する
- 労働基準監督署に申告する
- 弁護士に依頼する
という3つの手段で実践することができます。どれでもいいわけではありませんので、これから簡単に解説します。
【会社に直接要求】
まずは、「長時間労働の改善」「法定休日の取得」などを、自分で会社に改善を訴えるという方法が考えられます。
しかし、相手は社員を不当にこき使うブラック企業ですので、いち社員が訴えたところで改善してくれる可能性はとても低いでしょう。あなたが会社に在籍し続けることを望む場合は、改善を訴えたことで、職場での人間関係が悪化する可能性もあります。
そのため、あまりオススメの手段ではありません。
「残業代請求」の場合は、会社に直接「内容証明郵便」を送って、残業代を請求するという手段があります。
ただし、自分で会社に内容証明を送って残業代を請求しても、無視をされたり、会社側に弁護士が付いて交渉が難航する可能性が高いです。
その結果、最悪の場合、1円も取り戻せない場合もあります。
【労働基準監督署に申告】
「労働基準監督署」とは、厚生労働省の出先機関で、労働基準法に基づいて会社を監督するところです。
労働基準監督署に申告することで、会社に調査が入り、長時間労働や休日の取得などに関して「是正勧告」されることがあります。
また、是正勧告の結果、未払いにされていた残業代が払われる可能性はあります。
しかし、労働基準監督署は個人が相談する「残業代の請求」の案件では動いてくれないことが多く、申告しても労力が無駄になる可能性も高いです。
【弁護士に依頼する】
弁護士は、長時間労働の是正や休日の取得を、直接解決することはできません。しかし、残業代の請求については一番オススメです。ブラック企業は管理職に対して、残業代を未払いにしていることがとても多いため、請求すれば残業代を取り返せる可能性が高いです。
実は、弁護士に依頼すると言っても「訴訟(裁判)」になることは少ないです。おそらくあなたが心配しているであろう「費用」の面でも、「完全成功報酬制」の弁護士に依頼すれば、「相談料」や「着手金」ゼロで依頼することができます。
自分で請求する方法や、弁護士に依頼する流れ・費用について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
5章:残業代請求する上での2つのポイント
会社に要求できることとその手段について、理解できたでしょうか?最後に、残業代を請求する場合に集めるべき「証拠」について、簡単に解説します。
5−1:残業代請求に必要な証拠
残業代を取り返すためには、会社に在籍しているうちに、自分で証拠を集めておくのがオススメです。
証拠集めは、弁護士に依頼してやってもらうこともできます。しかし、弁護士が証拠を要求しても提出しない悪質な会社もあるため、できるだけ自分で集めておくことが大事なのです。
残業代請求に有効な証拠について、勤怠管理している会社と、勤怠管理していない会社に分けてご紹介します。
【勤怠管理している会社で有効な証拠】
- タイムカード
- 会社のパソコンの利用履歴
- 業務日報
- 運転日報
- メール・FAXの送信記録
- シフト表
【勤怠管理していない会社で有効な証拠】
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もオススメ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
証拠としては、①の本人の筆跡が確認できる「手書き」のものが、証拠として認められる可能性が高いです。③の家族へのメールなどは、証拠として認められる可能性が低いため、できるだけ手書きで記録を残すようにしましょう。
証拠は、できれば3年分あることが望ましいですが、なければ半月分でもかまわないので、できるだけ毎日の記録を集めておきましょう。
手書きでも証拠になりますが、注意しなければならないのは「ウソ」を絶対に書かないことです。ウソの内容が発覚すれば、信用が疑われて不利になってしまうからです。
そのため、証拠はたとえば「20時30分」ではなく「20時27分」のように、できるだけ正確に記録するようにしましょう。
集めるべき証拠について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
【保存版】知らないと損する?残業代請求する為に揃えておくべき証拠
5−2:残業代請求には3年の時効がある!行動は早めに
もう一点注意してもらいたいのが、残業代請求には時効があると言うことです。3年の時効を過ぎると、残業代は二度と取り返すことができなくなります。
そのため、未払いの残業代を取り返したい場合は、すぐに行動を始める必要があるのです。
残業代請求の時効について、詳しくは以下の記事を参照してください。
残業代請求の時効は3年!時効を止める3つの手段と具体的な手続きの流れ
まとめ:名ばかりの管理職と管理監督者の定義
いかがだったでしょうか?
最後にもう一度、この記事の内容を振り返りましょう。
もっとも覚えておいて欲しいことは、会社から管理職にされていても、法律上の管理監督者になることはないということです。
管理監督者の法律上の定義は、
- 経営者に近い責任・権限を持っている
- 労働時間が自由
- 残業代が必要ないほど高い待遇を受けている
の3つで、このすべてを満たしている必要があるのです。
また、ブラック企業は、社員を管理職にすることで、以下のような手口を使うことがあります。
- 長時間労働や休日なしで働かせる
- 残業代ゼロで働かせる
- 残業時間の対価に見合わない役職手当を払い、残業代を払ったことにする
もしあなたが、管理監督者の要素を満たしていないのに、これらの手口でこき使われているとしたら、以下のことを会社に要求するべきです。
- 長時間労働の改善
- 法定休日の取得
- 残業代の請求
「残業代の請求」なら、弁護士を利用するのがもっともオススメです。時効が成立する前に行動をはじめて、会社から1円でも多く残業代を取り返しましょう。
【内部リンク一覧】
役職手当があっても残業代が出る!その理由と方法を弁護士が徹底解説
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠