- 更新日:2024.10.25
- #歩合給残業代
「歩合給制だから残業代が出ない」は間違い!正しいルール・計算方法
この記事を読んで理解できること
- 歩合給でも残業代が出る理由
- ドライバー・営業に多い?歩合給を理由に残業代がごまかされるケース
- 歩合給の場合の残業代の計算方法
- 未払い残業代があれば会社に請求しよう
- 集めておくべき証拠
あなたは、
と思ったことはありませんか?
間違われることも多いですが、実は、給与体系に歩合給制が導入されていても残業代が発生します。しかし、一部の会社では、
- 歩合給制が正しく理解されず、適正な金額の残業代が出ていない
- 経営者が人件費削減のために、歩合給制を理由にわざと残業代を支払っていない
- 勝手に歩合給を給与明細で残業代とそれ以外に分けている。
ということもあるようです。
あなたも、知らず知らずのうちに残業代がごまかされ、大きな損をしている可能性もあります。
そのため、大事なのは、あなた自身が歩合給制の場合の残業代のルールや自分の残業代を計算する方法について理解しておくことです。
そこでこの記事では、歩合給制の仕組みや残業代のルール、歩合給制を理由に残業代がごまかされるケースや計算方法について徹底解説します。
最後までしっかり読んで、正しい知識を覚えてください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■歩合給制とは
「個人の成績や売り上げに応じて給与が計算される給与体系」
■歩合給を理由に残業代がごまかされるケース
- 歩合給に残業代を含んでいる
- 歩合給が残業代の代わり
- 歩合給を勝手に残業代とそれ以外に給与明細上で分けられている
■残業代請求時に集めておくべき証拠
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
- タイムカード
- シフト表
- 運転日報、業務日報
- メール・FAXの送信履歴
- タコグラフ
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
目次
1章:歩合給でも残業代が出る理由
- 出来高払制、インセンティブ給制、請負給制などと言われている
- 出来高に応じて給与の金額が変わる
あなたの給与体系が上記のようになっている場合、あなたは歩合給制で給与が出る仕組みになっています。
一般的に、歩合給制について「成果によって給与が変動する」という部分だけが知られ、それゆえに「残業代が出ない」と誤解されていることが多いです。
しかし、実は残業代の計算方法が異なるだけで、残業しているなら残業代が発生します。
そこでまずは、
- 歩合給制の仕組み
- 歩合給制の残業代のルール
について解説します。
1-1:歩合給の仕組み
そもそも、歩合給制とは、
「個人の成績や売り上げに応じて給与が計算される給与体系」
のことを言います。
たとえば、
- 契約1件あたり○円が給与に加算される
- 月の売上げの○%が給与に加算される
- 年間売上げの○%が賞与として支払われる
などの形であることが多いです。
そして歩合給制には、
①固定給+歩合給…固定給にプラスして、出来高に応じて給与が支払われる
➁完全歩合給制…給与のすべてが出来高に応じて支払われる
という2つがありますが、実は②は「成績が悪い場合に給与があまりにも低くなり最低賃金すら保証されない」という理由から原則的に「違法」とされています。
そのため、歩合給制が採用されている人は、すべて「固定給+歩合給」という形で給与が支払われていると考えることができます。
1-2:歩合給制でも法定労働時間を超えて労働した場合は残業代が出る
そもそも、残業代は、「1日8時間」もしくは「週40時間」の「法定労働時間」を超えて労働した場合に、その時間分発生するものです。
この残業時間は、通常の労働時間の賃金の「1.25倍」の賃金が残業代として支払われることが、労働基準法で定められています。
(労働基準法37条1項)
これは、歩合給制でも同じです。つまり、歩合給制でもそうでなくても、法定労働時間を超えて働いた場合は残業代が発生するのです。
2章:ドライバー・営業に多い?歩合給を理由に残業代がごまかされるケース
歩合給制を採用されている人の中には、
- そもそも会社が制度を正しく理解していない
- 悪質な経営者が、人件費削減のために制度を悪用している
- 悪質な社労士が、「残業代を払わなくてよい方法がある」と、経営者に営業をかけたりセミナーを開いて教える。
などの理由で適正な金額の残業代をもらっておらず、損している人が多く存在します。
そこで残業代がごまかされる手口として、
- 歩合給に残業代を含んでいる
- 歩合給が残業代の代わり
- 歩合給を勝手に残業代とそれ以外に給与明細上で分けられている
の3つを紹介しますので、あなたも思い当たるものがないかチェックしてみてください。
それより先に、歩合給制の場合の残業代の計算方法が知りたいという場合は、3章を読んでください。
2-1:歩合給に残業代を含んでいる
一部のブラック企業では、上記のように「歩合給に残業代を含んでいる」と言って、残業代をごまかす手口が使われます。
しかし、歩合給の中に残業代を含めるには、
「通常の労働時間の賃金と、残業代部分が明確に判別できること」
という条件を満たす必要があることが、以下の判例で明らかにされました。
【判例:高知県観光事件】
これは歩合給制が採用されていたタクシー運転手が、残業代を請求したケースです。
運転手には、タクシー料金の月間売上に一定の率の歩合をかけた金額を支払う、という契約になっていました。会社側は「歩合給に残業代を含んでいた」と主張しましたが、
- 運転手が残業をしても歩合給が増額されることがなかった
- 固定給と歩合給が区別することができなかった
という理由で会社の主張は認められず、会社には残業代の支払い義務があるとみなされました。
(最高裁二小判決 平成6年6月13日)
この判例から分かるように、「歩合給には残業代を含む」との規定が就業規則の中に存在しても、歩合給の中のいくらが残業代なのかは判別できません。
したがって、「歩合給に残業代が含まれている」という会社の主張は無効になるのです。
さらに、「歩合給を計算するときに、残業代に相当する金額を控除する(差し引く)」という給与体系にしている会社もあります。
これでは、支払われる(残業代を除いた)歩合給の金額が少なくなってしまうのですが、この点については、まだ裁判で争われている途中です(国際自動車事件)。
2-2:歩合給を勝手に残業代とそれ以外に給与明細上で分けられている
通常の労働時間の賃金と残業代が明確に区別されていたとしても、名目が「残業代」というだけで実質はただの歩合給である場合、残業代として扱われない可能性があります。
(ただし、かなり専門的な話になるため、専門家に実際に聞いてみましょう。)
例えば、
歩合給が、給与明細上、「歩合給」と「残業代」の二つに6:4で分けられている。
この場合、
通常の労働時間の賃金=歩合給の6割
残業代=歩合給の4割
であり、両者は明確に区別されているとはいえます。
しかし、「残業代」とされている部分は、実際は、社員の方が頑張った成果に過ぎず、残業をしたことの対価ではありません。
つまり、「残業代」という名目であるだけで、中身はただの「歩合給」ということです。
(つまり、残業代でないものが「残業代」という名前を付けられているだけに過ぎない)
このような場合、「残業代」部分について、ただの「歩合給」であり、残業代ではないと主張できる可能性があります。
また、会社が勝手にこのようなことをやってきたとしても、就業規則に歩合給を残業代とそれ以外に分ける規定がないのであれば、このような扱いは許されません。
2-3:歩合給が残業代の代わり
歩合給が残業代の代わり、と言って「残業代は支払い済みである」と主張する会社も存在します。
しかし、ここまでもお伝えしてきたように、歩合給は「あなたの成果」に対して発生する給与のことです。
他方、残業代は「あなたが残業して働いた時間」に対して発生するものです。
そのため、この両者が混同されて「残業代は支払い済み」と主張することは認められません。
3章:歩合給の場合の残業代の計算方法
ここでは「固定給+歩合給」として、歩合給制の場合の残業代を計算してみましょう。
それではさっそく解説していきますので、もし手元に給与明細等をお持ちでしたら、自分の数字を当てはめて一緒に計算してみてください。
残業代は、以下の3つのステップで計算します。
①基礎時給を計算する
②割増率をかける
③残業時間をかける
順番に解説します。
①基礎時給を計算する
まずは「基礎時給」を計算します。基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金のことです。
歩合給制の場合は、「固定給部分」と「歩合給部分」に分けて計算する必要があります。
【固定給部分の基礎時給を計算する】
固定給部分の基礎時給は、以下の計算式で計算します。
※一月平均所定労働時間とは、会社が決めている1ヶ月当たりの平均労働時間のことで、一般的に170時間前後であることが多いです。
「月給」には、以下の手当も含めて計算することができます。
(計算例)
- 固定給18万円
- 固定給の計算に入れることができる手当2間円
- 一月平均所定労働時間170時間
(固定給18万円+2万円)÷170時間=約1176円(固定給の基礎時給)
次に、歩合給部分の基礎時給を計算します。
【歩合給部分の基礎時給を計算する】
歩合給部分の基礎時給は、以下の計算式で計算することができます。
※総労働時間とは、所定労働時間と残業時間の合計のことです。
(計算例)
- 歩合給10万円
- 総労働時間270時間(定労働時間170時間+残業100時間)の場合
10万円÷270時間=370円(基礎時給)
次は、ここで計算したそれぞれの基礎時給に、割増率をかけます。
②割増率をかける
①で計算した基礎時給に割増率をかけることで、残業1時間当たりの賃金が計算できます。
ただし、注意すべきなのは、固定給の場合は「1.25倍」の割増率をかけるのに対して、歩合給は「0.25倍」の割増率をかけるということです。
【固定給】
基礎時給×1.25倍(残業の割増率)=残業1時間当たりの賃金
(計算例)
基礎時給1176円×1.25倍=1470円
【歩合給】
基礎時給×0.25倍(歩合給の残業の割増率)=残業1時間当たりの賃金
(計算例)
基礎時給370円×0.25倍=92.5円
割増率は、深夜労働や休日出勤等で異なりますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
③残業時間を掛ける
最後に、②までで計算した「残業1時間当たりの賃金」に残業時間をかけます。
これも、固定給と歩合給を分けて計算し、最後に足し合わせます。
具体的に、歩合給制の場合の残業代を計算すると以下のようになります。
(計算例)
- 固定給18万円(+手当2万円)
- 歩合給10万円
- 一月平均所定労働時間170時間
- 1ヶ月の残業時間100時間
固定給部分の残業代を計算
(20万円÷170時間)×1.25倍×100時間=14万7000円
歩合給部分の残業代を計算
(10万円÷270時間)×0.25倍×100時間=9250円
合計する
14万7000円+9250円=15万6250円
残業代が適正な金額もらえていなければ、会社に請求することで取り返せる可能性がありますので、その方法をお伝えします。
4章:未払い残業代があれば会社に請求しよう
「自分で計算してみたら、実際にもらっている金額が少ないことが分かった」
このような場合は、会社に未払いの残業代を請求することで取り返せる可能性が高いです。
残業代を請求する方法には、以下の2つの方法がありますので、ぜひ参考にしてみてください。
【残業代を弁護士に依頼して請求する】
5章:集めておくべき証拠
未払い残業代を会社に請求する場合、必ずやっておくべきなのが「証拠集め」です。
なぜなら、証拠がなければ「残業代が未払いである」ことを客観的に証明することができないため、いくらあなたが強くと主張しても、相手がしらばってくれてしまう可能性があるからです。
歩合給制の場合、以下の証拠が必要です。
【残業代が未払いであることを示す証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
【残業時間を示す証拠】
- タイムカード
- シフト表
- 運転日報、業務日報
- メール・FAXの送信履歴
- タコグラフ
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
詳しい証拠の内容や集め方等については、以下の記事をご覧ください。
【保存版】知らないと損する?残業代請求する為に揃えておくべき証拠
まとめ:歩合給制の残業代について
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【歩合給制とは】
「個人の成績や売り上げに応じて給与が計算される給与体系」
【歩合給を理由に残業代がごまかされるケース】
- 歩合給に残業代を含んでいる
- 歩合給が残業代の代わり
- 歩合給を勝手に残業代とそれ以外に給与明細上で分けられている
【未払い残業代を請求する方法】
- 自分で請求する
- 弁護士に依頼して請求する
【残業代請求時に集めておくべき証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
- タイムカード
- シフト表
- 運転日報、業務日報
- メール・FAXの送信履歴
- タコグラフ
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
会社から都合良く利用されて損することがないように、正しい知識を覚えて行動していきましょう。
【参考記事一覧】
残業代の割増率について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
残業代を自分で請求する場合の方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
残業代請求を弁護士に依頼する方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
残業代請求時に集めるべき証拠について、詳しくは以下の記事で解説しています。