- 2023.09.08
- 2025.02.04
- #残業代未払い罰則
残業代未払いには罰金・懲役の罰則もある!罰則の内容・ルールを徹底解説


この記事を読んで理解できること
- 残業代未払いの罰則とその対象
- 残業代未払いの罰則と同様に罰則が科されるケース
- 残業代の未払いを労働基準監督署に申告する方法
- 残業代の未払いを請求する方法
あなたは、
- 残業代が未払いの会社への罰則が知りたい
- 残業代の未払いで罰則が科される主なケースは?
- 残業代の未払いを解決する方法が知りたい
などとお考えではないですか?
結論から言うと、残業代が未払いになっている場合、会社・使用者には罰則として、
「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」(労働基準法 第119条1号)
が科される可能性があります。
また、労働基準監督署が従業員から残業代の未払いの相談を受けた場合は、会社への立ち入り調査や是正勧告を行います。
会社が再三の是正勧告を無視したり、改善が見られないなど悪質と判断された場合は、使用者が逮捕や書類送検される可能性があります。
そこでこの記事では、1章で残業代未払いの罰則とその対象を、2章では残業代未払いの罰則と同様に罰則が科されるケースについて解説します。
さらに、3章では残業代の未払いを労働基準監督署に申告する方法を、4章では残業代の未払いを請求する方法について解説します。
最後までしっかり読んで、正しい知識と行動方法を学び、未払いの残業代を回収してください。
目次
1章:残業代未払いの罰則とその対象
労働基準法では、法定労働時間を超えた残業や、休日・深夜労働には、それぞれ定められた割増率で算出した割増賃金を支払わなければならないとされています。
労働基準法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
そのため、残業代が未払いになっている場合は、会社・使用者に対して罰則が科せられます。
まずは、残業代未払いに対する罰則について、
- 残業代未払いの罰則の内容
- 罰則を受ける対象「使用者」とは
- 罰則を受けるのは一部の悪質な会社のみ
などについて解説します。
1-1:残業代未払いの罰則の内容
残業代の未払いは労働基準法に違反するため、
「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
(労働基準法 第119条1号)
という罰則が定められています。
「6か月以下の懲役」とは、6か月以下の間、刑務所などに拘置されて、一定の労働(刑務作業)をさせられる刑罰のことです。
「30万円以下の罰金」とは、労働基準法違反の罰として、30万円以下の金額を罰金として支払わなければならないというものです。
有罪判決が出た場合は、当然「前科」がつくことになります。
このように残業代の未払いは、適正な金額の残業代を支払わない違法行為にあたるため、罰金または懲役刑になります。
1-2:罰則を受ける対象「使用者」とは
労働基準法に違反した場合、罰則を受けるのは、違法行為を行った「使用者」です。
【労働基準法の使用者】
労働基準法 第10条
この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
つまり、経営者はもちろんですが、それだけでなく、各事業の実質的な権限を持つ人も使用者になります。
「部長」「課長」「店長」「所長」などの、経営者以外の人でも、その事業の業務命令や、労働者の指揮監督を行う場合は、使用者です。
そのため、会社が「適正な金額の残業代を支払わない」という違法行為をしていた場合、あなたの残業代の支払いについて、実際の権限を持っていた人が「使用者」であり罰則の対象になります。
また、労働基準法に違反し残業代を支払わない場合、人だけでなく「会社自体」も罰金刑に処せられます。(労働基準法 第121条)
1-3:罰則を受けるのは一部の悪質な会社のみ
ここまで罰則について解説してきましたが、実は残業代の未払いで罰則を受けるのは、ごく一部の悪質な会社のみです。
なぜなら、逮捕や書類送検されるのは、労働基準監督署が繰り返し是正勧告を行っても従わないような、悪質性の高いケースに限定されるからです。
令和3年度の厚生労働省の資料によると、労働基準監督署の監督指導による残業代未払いの是正結果は、次のようになっています。
【令和3年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント】
(1)是正企業数:1,069 企業(うち1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、115 企業)
(2)対象労働者数:6万 4,968 人
(3)支払われた割増賃金合計額:65億781万円
(4)支払われた割増賃金の平均額は、1 企業当たり 609万円、労働者 1 人当たり10万円
※支払額が1企業で合計100万円以上となった事案を集計
2章:残業代未払いの罰則と同様に罰則が科されるケース
ここまで解説したように、法定労働時間を超えて働かせて残業代を支払わなかった場合、罰則が科される可能性があります。
その他にも同じように、労働基準法違反として罰則が科されるケースがあります。
- 法定労働時間を超えて働かせて残業代を支払わない場合
- 時間外労働および休日労働の労使協定を結んでいない場合
- 時間外労働の上限を超えて働かせた場合
それぞれ解説していきます。
2-1:法定労働時間を超えて働かせて残業代を支払わない場合
法定労働時間を超えて従業員に働かせて、残業代を支払わない場合は、労働基準法に違反するため、
「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
(労働基準法 第119条1号)
という罰則が科される可能性があります。
これは、時間外労働だけでなく、休日・深夜労働に対する割増賃金の未払いも同様です。
残業した場合、残業時間に対して基礎時給に1.25倍の割増率がかけられた残業代(割増賃金)をもらうことができます。
またその他の労働条件によって、次の図に示すように割増率がそれぞれ定められています。
例えば、残業時間が月60時間を超える場合は、割増率は基礎時給に対して1.5倍になります。
こうした割増賃金が適正に支払われていない場合は、労働基準法違反となります。
2-2:時間外労働および休日労働の労使協定を結んでいない場合
時間外労働および休日労働の労使協定(36協定)を結んでいない場合は、従業員に「法定労働時間」を超えた時間外労働(残業)・休日労働をさせることはできません。
そのため、適正な36協定を結ばず残業させた場合は、労働基準法に違反するため、
「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
(労働基準法 第119条1号)
という罰則が科される可能性があります。
36協定とは、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といい、1日8時間・週40時間の「法定労働時間」を超えた時間外労働(残業)をするために、会社と従業員との間で締結される協定です。
36協定は、従業員一人一人と協定を結ぶのではなく、労働組合や労働者の代表と会社の間で締結し、従業員が誰でも確認できるように周知されている必要があります。
2-3:時間外労働の上限を超えて働かせた場合
時間外労働の上限を超えて働かせた場合は、労働基準法に違反するため、
「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
(労働基準法 第119条1号)
という罰則が科される可能性があります。
時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として月45時間・年360時間と定められていて、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、
- 時間外労働 ・・・年720時間以内
- 時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内
- 原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
といった条件が定められています。
3章:残業代の未払いを労働基準監督署に申告する方法
残業代の未払いを労働基準監督署に申告する方法は、次の3つです。
- メールで申告
- 電話で申告
- 訪問して申告
申告することで、
- 労働基準法にのっとったアドバイスをもらえる
- 労働基準監督官が会社に立ち入り調査する
- 違法行為が確認できた場合、会社に対して是正勧告(改善命令)を出す
- 再三の是正勧告に従わない場合、経営者を逮捕することもある
という効果が期待できます。
労働基準監督署に動いてもらうためには、「実名」で「直接訪問」して、申告することをおすすめします。
なぜなら、労働基準監督署は、労働者からのすべての申告で動くわけではないからです。
それは、全国には400万を超える法人があるにもかかわらず、日本の労働基準監督署の人員は、非常勤の職員を含めても約2400人しかおらず、明らかに人員不足だからです。
そのため、「より緊急性の高い案件」であることをアピールして優先的に扱ってもらう必要があり、匿名ではなく実名で、電話やメールではなく直接訪問しての申告を行うことがポイントです。
労働基準監督署に申告する詳しい方法やポイントについて、以下の記事で詳しく解説しています。
サービス残業を告発するべき?告発するメリットと集めるべき証拠
4章:残業代の未払いを請求する方法
残業代の未払いを請求する方法としては、次の2つがあげられます。
- あなたの会社の本社に残業代の未払いを報告する
- 弁護士を使って残業代を請求する
それぞれ解説します。
4-1:残業代の未払いを本社に報告する
残業代が未払いになっていることについて、自分が勤務していた支社や店舗ではなく、本社に直接連絡して相談することをおすすめします。
なぜなら、あなたの残業代が未払いになっていることを、本社は知らない可能性がある上、本社は問題になることを恐れて、あなたの上司よりも誠実な対応をしてくれる可能性があるからです。
本社に報告することで、あなたの現在の店長や上司などに、本社からなんらかのペナルティが科せられる可能性があります。
もし、
- 本社に直接言うのは怖くてできない
- 試したけれど効果がなかった
といった場合は、これから紹介するもう一つの方法がおすすめです。
4-2:弁護士に未払い残業代の請求を依頼する
未払いの残業代がある場合、対処方法として最も効果的なのが、弁護士に依頼して未払い残業代を請求することです。
ここまででお伝えしたように、労働基準監督署への申告や、本社への違法行為の報告では、実際に未払い残業代が回収できるかやってみなければ分かりません。
しかし、弁護士に依頼すれば、労働基準監督署と違ってすぐにあなたのために行動を起こし、責任を持ってやり遂げてくれます。
弁護士に依頼して未払い残業代を請求した場合、過去3年分までさかのぼって、未払い残業代を請求できる可能性があります。
例えば、次の条件で未払い残業代を計算してみます。
- 月給:25万円
- 残業:月45時間
- 一月平均所定労働時間:170時間
※一月平均所定労働時間とは、会社が設定している月の平均労働時間のことで、大体170時間前後であることが多いです。
1か月の残業代は、
(25万円÷170時間)×1.25倍×45時間≒8万2,720円
3年分が請求できるとすると、
8万2,720円×36か月=297万7,920円
さらに、会社の残業代未払いが悪質なものと裁判所から判断されれば、
- 付加金
- 遅延損害金
も加えて請求できる可能性があります。
付加金とは、裁判になった時に、未払いの残業代額と同等の金額を、会社に請求できるというものです。
遅延損害金とは、未払いの残業代に対して
- 社員が在職中は年利3%
- 社員が退職して以降は年利14.6%
が請求できるというものです。
例えば、退職後100万円の未払い残業代がある場合、年間14万6,000円の遅延損害金が発生することになります。
1章で解説した罰則が「刑事上の罰則」であるのに対し、残業代請求による付加金や遅延損害金は、いわば「民事上の制裁」です。
会社に刑事上の罰則が与えられるケースは少ないですが、このように民事上の請求によって、会社から未払い残業代を回収することは比較的難しくないのです。
ただし、付加金や遅延損害金を請求できるのは、訴訟(裁判)まで進んだ場合のみです。
未払いの残業代がある場合は、対処方法として最も効果的な、残業代請求に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
残業代請求の詳しい方法については、以下の記事をご覧ください。
【残業代請求】弁護士選びの8つのポイントと解決までの流れや費用を解説
まとめ:残業代未払いに対する罰則
最後に今回の内容を振り返ってみましょう。
残業代の未払いは違法行為のため、
「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」
という罰則が科せられます。
罰則の対象になるのは、労働基準法上の「使用者」であり、
- 経営者
- 残業代未払いの実際の決定権を持つ上司
- 会社
になります。
未払残業代を回収する方法
- 労働基準監督署への申告
- 本社への報告
- 弁護士に依頼して未払い残業代を請求する
という3つがあります。
労働基準監督署への申告で未払い残業代を回収することは難しいため、あなたに合ったより確実な方法で行動することをおすすめします。