- 更新日:2024.08.22
- #警備員残業代
【警備員の残業代】業務別の残業代ルールと計算方法、未払分の請求方法
この記事を読んで理解できること
- 警備員でも残業代が出る!残業代のルールを解説
- 警備員なら知っておくべき労働時間のカウントルール
- 警備員の残業代の計算方法
- 未払い残業の2つの請求方法
- 未払い残業代を請求するために集めるべき「証拠」
あなたは、警備員として働く中で、
「警備員の残業代のルールはどのようになっているんだろう?」
「自分の職種の場合は、残業代がいくらになるのが正しいのかな?」
「待機時間や仮眠時間も労働時間としてカウントされることがあるって本当?」
「本来もらうべき残業代を自分で計算してみたい」
などの疑問や悩みを抱えていませんか?
警備員と言っても、
- オフィスビル、商業施設等での監視・巡回、人や車両の出入管理
- 工事現場やイベント会場での交通整理
- 現金や貴金属の運搬時の警備
- ボディガード
など様々な種類の仕事がありますが、共通しているのは、長時間残業や深夜労働が発生することが多いということです。
しかし、警備員は残業代のルールが仕事によって異なることから、正しく把握している人が少なく、本来もらうべき金額より、ずっと少ない残業代しかもらえていないという人も多く見受けられます。
そこで大事なのが、“あなたの場合の残業代のルール”を理解し、自分自身で自分の状況を把握できるようになることです。
そこでこの記事では、まずは警備員の状況別の残業代のルールや労働時間のカウントルールを詳しく解説します。
さらに、残業代の計算方法と、未払い残業代がある場合の対処方法についても解説します。
最後までしっかり読んで、損しない働き方を覚えましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
目次
1章:警備員でも残業代が出る!残業代のルールを解説
警備員は、仕事の内容によって、
- 監視業務や断続的な業務の場合
- それ以外の業務の場合
に分けられ、それぞれ残業代のルールが異なります。
そこで、あなたの場合はどちらのルールが適用されるのか分かるように、チェックリストをやってみてください。
いかがでしたか?
それぞれのうち、1つでも当てはまらないものがあれば、あなたは、「監視又は断続的労働」には該当しませんので、1-2から読んでください。
それぞれのルールが適用される条件やルールの内容について解説します。
1-1:監視業務や断続的な業務の場合
労働基準法では「1日8時間・週40時間」を超えて労働した場合、それが「残業」になり、残業代が発生すると決められています。
しかし、
「監視又は断続的労働に従事する者」
に該当する一部の警備員の場合は、1日8時間・週40時間を超えて働いても、1.25倍の残業代が発生しませんし、休憩や休日に関する労働基準法上のルールも、適用外になります。
※ただし、割増賃金が発生しないだけで、1.0倍の賃金は発生します。
「監視又は断続的労働に従事する者」は、労働基準法で以下のように定められている人のことです。
「監視又は断続的労働に従事する者で、行政官庁の許可を受けたもの」
①監視に従事する者
一定の部署で監視することを本来の業務とし、常態として身体の疲労又は精神的緊張の少ない者
②断続的労働に従事する者
- 休憩時間は少ないが手待時間の多い者
- 宿直・日直業務
常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり定時的巡視や非常事態に備えての待機等を目的とするもの。
(労働基準法第4条3号)
ポイントは2つあります。
まず、「行政官庁(労働基準監督署)の許可」が必要だということです。
つまり、会社が勝手に決めるのではなく、「この人は『監視又は断続的労働に従事する者』として働いてもらいますよ」という申請書を、会社が労働基準監督署に提出している必要があるのです。
次に、仕事内容が「監視」もしくは「断続的労働」として定義されている内容ものである必要があります。
「監視」なら、たとえば、定時の巡視や施錠等の業務のみを行うマンションの守衛などが該当します。
また、「断続的労働」なら、たとえば、ビルでの宿直・日直業務で、ほとんどの時間は待機しているだけであり、定時の見回り(巡視)や、トラブル発生時のみ対応が求められる(それ以外の待機時間は眠ったり読書したり自由に過ごせる)という仕事内容の場合は、この定義に当てはまるでしょう。
「労働基準監督署に問い合わせれば分かります。もし許可が取られていなければ無効ですので、あなたの仕事は【監視又は断続的労働】とはみなされません。」
「監視又は断続的労働」の届け出があっても、
- 精神的緊張が高い業務(例:車両の誘導)
- 身体的緊張が高い業務(例:危険な場所での監視)
- 1日の拘束時間が12時間を超える場合
- 次の勤務との間の休息が10時間未満
の場合は「監視」の業務には当てはまりませんし、
- 精神的緊張が高い業務(例:車両の誘導)
- 身体的緊張が高い業務(例:危険場場所での監視)
- 巡視や施錠などの一時的な業務以外にも、やるべき業務がある
- 1回の勤務で6回を超える巡視がある
- 次の勤務との間の休息が10時間未満
などの場合は、「監視又は断続的労働」とは言えませんので、無効になります。
この場合は、会社に未払い残業代を請求することができます。
さらに、「監視又は断続的労働」であっても、深夜労働の割増賃金は発生するため、注意が必要です。
1-2:それ以外の警備員の場合
- 交通整理、車両誘導
- 危険な場での警備業務
- 駐車場の料金徴収
- 荷物や身体検査業務
- モニターの監視
- 空港やコンビナート等の広大施設の警備
などの仕事は、「監視又は断続的労働」には該当しません。
「監視又は断続的労働」に該当しない人の場合は、労働基準法のルールが適用されますので、「1日8時間・週40時間」を超えた場合は、残業代が発生します。
残業していれば残業代が発生し、通常の賃金に割増率がかけられた割増賃金が発生しますが、警備員の場合は「深夜労働(22時から翌朝5時の労働)」や「深夜残業(22時から翌朝5時の間で、かつ8時間を超えた労働)」も多いです。
それぞれ、割増率が以下のように異なりますので、注意してください。
さらに、警備員の場合は、「変形労働時間制」が採用されているケースもあります。
変形労働時間制とは、一定の定められた期間だけ、「1日8時間・週40時間」を超えて労働しても、残業代が発生しないという仕組みのことです。
ただし、採用するには厳しい要件をクリアする必要があり、多くのケースでは違法に採用されています。
採用の条件や残業代のルールについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
変形労働時間制とは?誤解されがちな意味と企業が悪用している時の対処法
2章:警備員なら知っておくべき労働時間のカウントルール
警備員の仕事には、仕事中に「待機時間」や「仮眠時間」が設定され、その時間は「労働時間としてカウントしない」と言われることが多いです。
しかし、働いている側からすれば、その時間は職場に拘束されているのですから、労働時間にカウントされないのは理不尽に思うこともあるのではないでしょうか?
警備員の場合、労働時間のカウントのルールにも大事なポイントがありますので、
- 労働時間としてカウントされるルール
- 警備員の待機時間
- 警備員の仮眠時間
について、これから詳しく解説します。
2-1:労働時間としてカウントされる時間とは
過去の判例から、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
は労働時間としてカウントされることになっています。
会社の言い分ではなく、あなたの業務の実態をこの定義と照らし合わせて考える必要があるのです。
使用者とは、あなたの上司や会社の経営者のことです。
この上司・経営者から、明確に「この時間は働いてください」と命令された時間は、もちろん労働時間としてカウントされます。
しかし、それだけでなく、明確な指示・命令がなくても、「業務上、どうしても労働しなければならなかった時間」については、「黙示的な命令」があったと考えられるため、労働時間としてカウントできる可能性が高いです。
さらに、具体的な業務を行っていなかったとしても、「待機時間」や「休憩時間」でも、労働から解放されていなかった場合は、労働時間としてカウントできる可能性があります。
2-2:警備員の「待機時間」のルールとは
警備員は、長い勤務時間の中で「待機時間」「休憩時間」が何時間も発生するという人もいるのではないかと思います。
「待機時間」とは、具体的な業務は行っていないものの、緊急時にはいつでも稼働できるように待機している時間のことです。
警備員の場合、これが労働時間としてカウントされるのかどうかが、会社との間でトラブルになるケースが多いです。
結論を言えば、待機時間であっても、
- 常に無線を携帯し、緊急時には対応が求められていた
- 休憩中であっても、緊急時にはすぐに対応することがマニュアルに記載されていた
- 待機時間中も制服の着用
- 待機時間中も頻繁に、対応をすることがあった。
等の場合、労働時間としてカウントされる可能性が高いです。
実際、警備員の待機時間が労働時間として認められたケースがあります。
【待機時間が労働時間と認められたケース】
警備員が休憩中も、
- 無線機を携帯していた
- 敷地外に出ることが認められていなかった
という理由から、待機(休憩)時間も労働時間として認められた例があります。
このケースでは、待機(休憩)時間も、緊急時の対応が求められていたことから、「使用者の指揮命令下」にあったと判断されました。
(東京地裁平成28年7月14日)
もしあなたも「待機時間」「休憩時間」という名目でも、実際には緊急時の稼働が求められていたという場合は、未払い残業代を請求できる可能性があります。
2-3:警備員は「仮眠時間」も労働時間になることがある
夜勤のある警備業務の場合、拘束時間の中で「仮眠時間」があることもあると思います。
仮眠時間であっても、
- 警報を聞き漏らすことが許されない
- 警報が鳴ったら何らかの対応をしなければならない
- 仮眠時間中に呼び出しが頻繁にされていた
- 仮眠時間中も制服を着用していなければならなかった
- 仮眠室にいる警備員が自分一人であった
という場合は、「使用者の指揮命令下」にあると判断できるため、労働時間としてカウントされます。
過去にも、警備員の仮眠時間が労働時間としてみなされた判例があります。
【仮眠時間が労働時間とみなされた事例】
ビルの管理業務に従事していた警備員が、24時間勤務のうちの8時間の仮眠時間は、労働から解放されていなかったため、労働時間としてカウントされるとみなされました。
(大星ビル事件 東京高裁平成8年12月5日)
ただし、待機時間や仮眠時間を労働時間とみなすことができるかどうかは、専門家でなければ 判断できません。
そのため、正確に判断したい場合は弁護士等への相談が必要です。
3章:警備員の残業代の計算方法
警備員の場合、
- 深夜労働が多い
- 待機時間や仮眠時間が労働時間にカウントできる可能性がある
という理由から、残業代の金額は高額になる可能性があります。
残業代の計算方法は難しくありませんので、ぜひこれから紹介する計算式を覚え、一緒に計算してみてください。
残業代は、以下の計算式で計算することができます。
それでは、順番に解説します。
①基礎時給を計算する
まずは「基礎時給」を計算します。基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金のことです。
基礎時給は、以下の計算式で計算します。
※一月平均所定労働時間とは、会社が決めている1ヶ月当たりの平均労働時間のことで、一般的に170時間前後であることが多いです。
「月給」には、以下の手当も含めて計算することができます。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
20万円÷170時間=約1176円(基礎時給)
②割増率をかける
①で計算した基礎時給に、1章で紹介した割増率をかけることで、残業1時間当たりの賃金が計算できます。
通常の残業の場合は1.25倍ですが、深夜労働や休日出勤等によって、割増率の種類が異なるため注意してください。
基礎時給×1.25倍(残業の割増率)=残業1時間当たりの賃金
(計算例)
基礎時給1176円×1.25倍=1470円
③残業時間をかける
最後に、②までで計算した「残業1時間当たりの賃金」に残業時間をかけることで、1ヶ月の残業代の金額を計算することができます。
それでは、具体的に計算してみましょう。
(計算例)
- 月給20万円
- 一月平均所定労働時間170時間
- 以下のように勤務している場合
(月)9:00〜翌9:00(休憩8時間、通常の残業5時間、深夜残業3時間)
(火)非番
(水)9:00〜21:00(残業3時間)
(木)9:00〜翌9:00(休憩8時間、通常の残業5時間、深夜残業3時間)
(金)非番
(土)9:00〜21:00(残業3時間)
(日)休み
この場合、1週間のうち、
- 通常の残業:16時間→1ヶ月64時間
- 深夜残業6時間→1ヶ月24時間
となります。
以上の例で計算すると、
【通常の残業】
(20万円÷170時間)×1.25×64時間=9万4080円
【深夜残業】
(20万円÷170時間)×1.5×24時間=4万2336円
合計すると、
9万4080円+4万2336円=13万6416円(1ヶ月の残業代)
となります。
もし、2章で解説したように、24時間勤務の日の仮眠時間が、労働時間としてカウントされた場合は、その分の残業、深夜残業が増えますので、残業代も増額します。
(仮眠時間も労働時間としてカウントされた場合)
通常の残業:64時間→96時間
深夜残業:24時間→56時間
【通常の残業】
(20万円÷170時間)×1.25×96時間=14万1120円
【深夜残業】
(20万円÷170時間)×1.5×56時間=9万8784円
14万1120円+9万8784円=23万9904円(1ヶ月の残業代)
さらに、残業代は3年分さかのぼって請求することができますので、請求金額の合計は、
23万9904円×24ヶ月=863万6544円
と高額になります。
これほどの金額になる可能性もあるのですから、未払い残業代がある可能性がある人は、退職時等に請求することをおすすめします。
4章:未払い残業の2つの請求方法
未払い残業代は、適切な方法で請求することで、取り返せる可能性が高いです。
残業代の請求方法には、
- 自分で直接請求する方法
- 弁護士に依頼して請求する方法
の2つがあります。
どちらでも同じではなく、それぞれ流れが異なり、以下のメリット・デメリットがあります。
詳しい手続きの方法やかかる費用等について、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
【残業代を自分で直接請求する方法】
【残業代を弁護士に依頼して請求する方法】
5章:未払い残業代を請求するために集めるべき「証拠」
残業代請求を成功させるために、最も大事なのが「証拠集め」です。
証拠を取得せずに辞めてしまうと、後から証拠を集めることが非常に困難になりますので、やめる前から集めるのがポイントです。
集めるべき証拠には、
- 残業代が未払いであることを示す証拠
- 残業時間を示す証拠
の2種類があります。
【残業代が未払いであることを示す証拠】
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
【残業時間を示す証拠】
- タイムカード
- シフト表
- 日報
- メール・FAXの送信履歴
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
【待機時間や仮眠時間を残業時間として請求するための証拠】
警備員は、勤務マニュアルや規定などに、待機時間や仮眠時間に呼び出された場合に応対する記載があることが多いです。
その場合は、勤務マニュアルや規定を証拠として裁判所に提出すれば、待機時間も労働時間として認められやすくなります。
詳しい証拠の内容や証拠の集め方等について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【保存版】知らないと損する?残業代請求する為に揃えておくべき証拠
まとめ:警備員の残業代
いかがでしたか?
最後に今回の内容を振り返ってみましょう。
【「監視又は断続的労働」に該当する警備業務をしている場合】
残業代のルールが適用されないため、1日8時間・週40時間を超えて働いても、1.25倍の残業代が発生しない。
【それ以外の警備業務】
1日8時間・週40時間を超えた労働には、1.25倍の残業代が発生する
【労働時間のカウントルール】
労働時間の定義:「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
労働から解放されておらず、緊急時の対応が義務づけられている場合は、待機時間、仮眠時間も労働時間としてカウントされる。
【未払い残業代の請求方法】
- 自分で請求する
- 弁護士に依頼して請求する
未払い残業代請求の時効は3年です。退職後3年が経過すると二度と請求することができなくなりますので、請求する場合はできるだけ早く行動しましょう。
【参考記事一覧】
自分で残業代を請求する方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
残業代請求を弁護士に依頼する場合の手続きや費用、弁護士選びのポイントについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
残業代請求を行う上で必ずやるべき「証拠集め」について、詳しくは以下の記事で解説しています。