
あなたは、長時間の残業を強いられて、
「どのくらい残業したら過労死する危険性があるんだろう?」
「過労死と残業時間にはどんな関係があるのかな?」
と疑問を持っていませんか?
結論から言えば、
「100時間をこえる残業を1ヶ月以上」
もしくは、
「80時間を超える残業を2ヶ月以上」
行うと、過労死の危険性が高いことが、厚生労働省の定める基準「過労死ライン」によって定められています。もしあなたも、これらの基準を超える残業をしているなら危険です。
なぜなら、過去には、長時間の残業を続けたために過労死したり、精神疾患を発症・悪化させ、自殺に至ったケースがたくさんあるからです。
そのため、もしあなたが、体調の変化を覚えるほどの長時間残業に悩まされているなら、まずは自分の状況、体調をチェックし、それから現状を変えるための行動を始めるべきです。
そこでこの記事では、まずは過労死に至る危険性のある残業の基準「過労死ライン」とその違法性、そして、長時間残業によって過労死した過去のケースを紹介します。
さらに、あなたの心身の状態をチェックするチェックリストと、長時間残業によって何らかの健康障害を発症してしまった場合の労働災害(労災)補償、そして現状を変えるための行動方法についても紹介します。
しっかり読んで、自分の身を守るための行動を始めましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■最も大事な事は、長時間の残業は過労死に繋がる可能性が高いということ
■過労死ライン
①脳・心臓疾患に関する過労死ライン
②精神疾患に関する労災認定基準
残業時間には、以下のルールがあります。
■残業時間の上限のルール
- 36協定を締結している場合:月45時間まで
- 特別条項付き36協定を締結している場合:年6回まで、特別な事情がある場合は、45時間を超える残業が可能
■過労死ラインを超える残業で、何らかの病気になった場合は、以下の補償を受けられる可能性がある
【労働災害(労災)保険の補償】
- 療養給付
- 休業補償給付
- 障害補償給付
- 遺族補償給付
- 障害補償年金
- 介護補償給付
目次
1章:過労死する危険性のある残業時間「過労死ライン」とは
最近、長時間残業で、会社員が過労死したというニュースを見かけることが多いです。
それだけ長時間残業による働き過ぎは、心身への負担が大きいのです。
残業が長くなるほど、過労死に繋がる危険性が高くなるため、一定の基準を超えた残業は、「違法」であり、「労働災害(労災)認定」され、補償が受けられる事などが定められています。
それでは、まずは過労死ラインとその違法性について見ていきましょう。
1-1:過労死の基準になる2つの過労死ライン
長時間残業によって、労働者が過労死することがないように、厚生労働省は「これを超えたら過労死の危険性が高い」という基準を設定しています。これが「過労死ライン」です。
過労死ラインは、労働災害(労災)の認定基準のことです。
※労災認定基準とは、労働者が一定の時間を超えた残業をしていて、過労死したり、脳・心臓疾患、精神疾患などを発症した場合に、「仕事に原因があった」と労災認定されやすくなる基準のことです。
労災認定されると「療養給付」「休業補償給付」などを受けることができます。
補償について、詳しくは4章で解説します。
過労死ラインには、以下の2つがあります。
①脳・心臓疾患に関する過労死ライン
②精神疾患に関する労災認定基準
簡単に解説します。
①脳・心臓疾患に関する過労死ライン
脳・心臓疾患に関する過労死ラインとは、「脳・心臓」に何らかの健康障害が発生した場合に、一定の基準を満たしていれば、労災認定されるという基準です。
基準にはいろいろなものがありますが、その中には「長時間残業」の項目があり、以下の残業が該当します。
- 健康障害を発症する前の2ヶ月ないしは6ヶ月にわたって、1ヶ月の残業時間の平均が80時間を超えている
- 健康障害が発症する前の1ヶ月間に100時間を超えている
「脳血管疾患及び虚血性疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発1063号平成13年12月12日))
②精神疾患に関する過労自殺の認定基準
精神疾患に関する過労自殺の認定基準とは、なんらかの精神疾患(うつ病など)を発症した場合に、一定の基準を満たしていれば、労災認定されやすくなる基準のことです。これも、基準の中には「長時間残業」の項目があります。
それによると,
- 精神疾患の発症前の1ヶ月に160時間以上の残業を行なった
- 精神疾患の発症前の2ヶ月間連続して、月120時間以上の残業を行なった
- 精神疾患の発症前の3ヶ月間連続して、月100時間以上の残業を行なった
という場合に、「極度の長時間労働」に該当し,心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」の中で,「強」と判断してよいとされています。
心理的負荷の強度が「強」と判断されることは、過労死ラインでも珍しく、厚生労働省も、これら時間をの超える残業を精神疾患の原因にもなる危険な残業と考えているといえます。
1-2:過労死ラインを超える残業は違法
結論から言えば、過労死ラインそのものは法律上の残業のルールではありませんので、過労死ラインを超えた残業=違法というわけではありません。
しかし、残業には労働基準法による上限が設定されているため、過労死ラインを超える残業は、結局「違法」になる可能性が高いのです。
労働基準法から、過労死ラインを超える長時間残業の違法性について解説します。
そもそも、法律上「1日8時間・週40時間」を超える労働(=残業)は禁止されていますが、「36協定」が締結されることで、残業が可能になります。
※36協定とは、会社と社員との間で、社員の残業を可能にするために締結されるものです。
ただし、36協定が締結されていても、以下のように残業が可能な時間には上限が設定されています。
そのため、36協定が締結されている会社で、月45時間を超える残業が日常的になっているなら、それは違法です。
※36協定について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
36協定とは?5分で分かる定義・役割と、違法性が分かる判断基準
さらに、「特別条項付き36協定」が締結されている場合、条件さえ満たせば、実質1ヶ月の残業時間に上限がなくなるというルールがあります。
多くの会社では、この特別条項付き36協定を悪用して、従業員に45時間を超える長時間残業を強いている実態があるのです。
しかし、実はこの特別条項付き36協定も、
- 残業の上限である45時間を超えて良いのは、年6回まで
- 特別な事情がある場合のみしか、上限を延長できない。
というルールがあります。
2章:基準を超えた残業で過労死したケース
過去には、長時間残業によって心身に負荷がかかったことから、
- 脳・心臓疾患を発症して過労死
- 精神疾患を発症・悪化させて自殺
した例が複数あります。
その中でも代表的なものを紹介します。
2−1:脳・心臓疾患による健康障害・死亡
まずは長時間残業により、脳・心臓疾患を発症し、過労死してしまった例を紹介します。
【長時間残業を原因とした過労死(飲食業)】
ファミリーマートの加盟店(フランチャイズ)で、月218時間〜254時間もの残業を半年間にわたって続けた男性が、過労死した事例があります。男性の死因は、急性硬膜下血腫で、その原因となったのは、仕事中の過労による脚立からの転落による頭蓋骨の骨折でした。
「ファミリーマート過労死事件」
【長時間残業を原因とした脳疾患の発症(運転手)】
長時間の残業で、支店長専属の運転手がもともと持っていた脳動脈瘤が悪化し、くも膜下出血を発症した事例があります。
もともと持っていた動脈瘤は、治療の必要性があるものではなかったため、長時間の残業による精神的・身体的負荷から症状が悪化し、くも膜下出血発症の原因となったと認められました。
「支店長付き運転手くも膜下出血事件」(最判平成12年7月17日)
【長時間残業を原因として心不全(テレビ局)】
NHKで記者をしていた女性が、月に159時間もの残業を行い、過労死した事件がありました。疲労を蓄積する一方で、深夜残業や休日出勤もあったことから快復することもできず、心不全で急死してしまったのです。
「NHK女性記者過労死事件」
2−2:30記事精神疾患の発症とそれを原因とする自殺
次に、精神疾患を発症し、それを原因として自殺してしまったケースを紹介します。
【長時間の残業で自殺に追い込まれた事例(建設業)】
新国立競技場の現場監督だった20代の男性が、月200時間の残業によって過労自殺した事例があります。男性は長時間残業による慢性的な睡眠不足から精神疾患を発症し、自殺にいたったようです。
「新国立競技場過労自殺事件」
【長時間の残業で自殺に追い込まれた事件(広告業)】
異常な長時間残業を原因として、精神状態に異常をきたし、自殺に追い込まれてしまった事件があります。
この社員は自殺する前の月には、午前6時半や7時に自宅に帰宅し、午前8時ごろには自宅を出て出勤するという異常な生活をしていました。
周囲も心配するほどのストレスを抱えた状態でしたが、職場の環境が改善されることはなく、その後自宅で自殺してしまいました。
電通事件(平成12年3月24日)
【長時間残業で病院の職員が自殺した事件(病院)】
月に188時間をこえる残業から臨床検査技師の男性が飛び降り自殺をした事件があります。男性には家族もいましたが、弱音を吐くこともなく、仕事を一人で抱え込み、追い込まれて自殺してしまったようです。
「小樽掖済会病院事件」
3章:あなたも過労死に近い?自分の状態をチェックしよう
まずは、あなたの健康状態についてチェックしてみましょう。
あなたは、以下のようなことに当てはまるものがありませんか?
1つでも当てはまれば、あなたには疲労が蓄積されていると思われます。3つ以上ならかなり危険な状態です。
このような状態を放置していると、いずれは重大な健康障害を発症したり、最悪の場合過労死してしまうかもしれません。
4章:労災認定されたら補償が受けられる
過労死ラインを超える残業をして、何らかの健康障害を発症してしまった場合は、
「労働災害(労災)認定」
を受けられる可能性が高いです。
【療養給付】
病気の治療にかかった費用を、全額国が負担してくれる補償です。
【休業補償給付】
労災の被害者が、けがや病気のため働くことができず、収入を失った場合に、休業した分の補償が受けられるものです。
給与額の60%の休業特別支給金と、給与額の20%の休業特別支給金が支払われます。つまり、休業中は、給料の80%が支給されるのです。
【障害補償給付】
治療を続けても症状がこれ以上改善しない状態(症状固定)になった後も、後遺症が残っている場合は、後遺障害に対して補償金が支払われます。これが障害補償給付です。
【遺族補償給付】
社員が過労死や過労自殺で亡くなった場合、遺族に対して支払われるものです。
【障害補償年金】
長時間労働によって、重い病気にかかり、
①労災から1年6か月が経過してもまだ治療が終了しない場合で、
かつ、
②傷病等級1級から3級という思い傷病
の場合に支払われるものです。
【介護補償給付】
介護補償給付は、障害年金と傷病年金を受給している方の中でも、等級が1級か2級であるような重い障害を負っている方の介護費用に対する支給です。
もし、
「まだ労働災害(労災)認定してもらっていない」
という場合は、労働基準監督署で申請することで、労働災害(労災)認定して貰える可能性があります。
労働災害(労災)補償について、詳しい金額や条件、手続き方法が知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
労働災害とは?保険が貰えるケース・申請方法・トラブル解決法まとめ
5章:残業時間が長い場合の3つの改善方法
あなたが、過労死ラインを超えるような残業を強いられている場合、重い健康障害を発症してしまう前に、行動をはじめることを強くおすすめします。
現状を変える方法としては、
- 労働基準監督署に相談する
- 残業が少ない職場に転職する
- 自分で工夫して残業時間を短くする
等の方法があります。
それでは、順番に解説します。
5-1:労働基準監督署に相談する
過労死ラインを超えるような残業が日常的になっている場合、労働基準法に違反している可能性が高いです。そのため、労働基準監督署に相談することで解決に至る可能性もあります。
- 労働基準監督署の監督官が、会社に立入調査する
- 違法な状況が確認できた場合、是正勧告(改善命令)が出される
- 再三の是正勧告に従わない場合、経営者が逮捕されることもある
などの対応が取られることがあります。
つまり、長時間残業が改善される可能性があるのです。
ただし、労働基準監督署に動いて貰うためには押さえておくべきポイントがありますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
通報してやる!労働基準監督署での全手続きとトラブル解決のポイント
5-2:残業が少ない職場に転職する
現状を変えるもっとも良い方法が、現在の会社を辞めて新しい会社に転職することです。会社を辞めるという選択肢は、なかなか勇気がいるかもしれません。
しかし、ブラック企業に居続けても、あなたは会社から良いように使われ続けるだけではないでしょうか。
なぜなら、長時間残業やサービス残業を長年当たり前にしてきた「会社の空気」や、「上司の考え方」などは、簡単には変わらないからです。そのため、ここで仮に労働基準監督署に相談しても、時間がたてば、結局長時間残業が日常的に行われる状態に元通りになる可能性が高いです。
そのため、残業が少ない、残業代がきちんと出る“ホワイト企業”に転職するのがもっとも効果的な方法なのです。
いざという時知っておくと便利!?弁護士が教える残業代を1円でも多く請求する手順
5-3:自分で工夫する方法
会社での残業時間が長い場合、最も手っ取り早い改善方法は「自分で工夫する」ことです。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
- 仕事を効率化できないか工夫する
- 仕事を一人で抱え込まない
- 平日の夜に予定を入れる
これらの「自分で改善する」方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
残業が多いあなたに!違法性の3つの基準とすぐにできる改善方法
しかし、過労死ラインを超えるような残業時間があれば、自分の工夫で改善することは困難であることが多いです。
そのため、より確実な現状を変える方法は、やはり今の会社から抜け出す方法です。過労死ラインを超えるような残業をしていれば、正常な判断能力を失い「まだ大丈夫」と間違った考えを持ってしまうこともあります。
できるだけ早めに、現状を変えるための行動をはじめて行きましょう。
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
最も大事な事は、長時間の残業は過労死に繋がる可能性が高いということです。残業時間の過労死の基準には、以下のものがあります。
【過労死ライン】
①脳・心臓疾患に関する過労死ライン
②精神疾患に関する労災認定基準
残業時間には、以下のルールがあります。
【残業時間の上限のルール】
- 36協定を締結している場合:月45時間まで
- 特別条項付き36協定を締結している場合:年6回まで、特別な事情がある場合は、45時間を超える残業が可能
あなたの心身の状態は、以下のチェックリストでチェックできます。
過労死ラインを超える残業で、何らかの病気になった場合は、以下の補償を受けられる可能性があります。
【労働災害(労災)保険の補償】
- 療養給付
- 休業補償給付
- 障害補償給付
- 遺族補償給付
- 障害補償年金
- 介護補償給付
長時間残業がある現状は、以下の3つの方法で改善できます。
【長時間残業の改善方法】
- 労働基準監督署に相談する
- 残業が少ない職場に転職する
- 自分で工夫する方法
長時間残業が日常的になっている職場では、未払い残業代が発生している可能性が高いですので、退職時にしっかり請求することをおすすめします。
【参考記事一覧】
36協定について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
36協定とは?5分で分かる定義・役割と、違法性が分かる判断基準
労働災害について、詳しくは以下の記事で解説しています。
労働災害とは?保険が貰えるケース・申請方法・トラブル解決法まとめ
労働基準監督署に通報する方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
通報してやる!労働基準監督署での全手続きとトラブル解決のポイント
残業代請求の詳しい方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。
いざという時知っておくと便利!?弁護士が教える残業代を1円でも多く請求する手順
残業の多さを自分で改善したい場合は、以下の記事を参考にしてください。