- 更新日:2024.09.13
- #求償権とは
求償権とは?不倫慰謝料との関係と放棄を求める示談交渉を弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- 不倫の慰謝料における求償権とは
- 慰謝料を「請求する側」と求償権の関係
- 慰謝料を「請求された側」と求償権の関係
- 求償権を放棄する際の注意点
あなたは、
- 配偶者の不倫相手に慰謝料を請求したいけど、求償権を行使されそう。
- 配偶者の不倫相手に求償権を放棄してもらうにはどうしたらいいの?
- 不倫相手の配偶者から慰謝料を請求されたけど、求償権を放棄する代わりに減額を求めたい。
などと悩んでいませんか?
結論から言うと、あなたが不倫相手に慰謝料を請求した場合、不倫相手が「求償権」を行使して、支払った慰謝料の一部を不倫の当事者(共同不法行為者)であるあなたの配偶者に請求する可能性があります。
求償権とは、不倫の当事者の一人が慰謝料を支払った場合、もう一人の当事者に対して「支払った慰謝料の一部を請求できる権利」のことです。
もし、あなたが配偶者の不倫を許し離婚しない場合、不倫相手から慰謝料を得たとしても、家計を共にする配偶者が不倫相手に慰謝料の一部を支払うことになります。
一方、不倫慰謝料を請求された側は、求償権を放棄する条件で、請求者に対して慰謝料の減額を求めることができます。
そこでこの記事では、
1章で、不倫の慰謝料における求償権とは
2章で、慰謝料を「請求する側」と求償権の関係
3章で、慰謝料を「請求された側」と求償権の関係
4章で、求償権を放棄する際の注意点
など、不倫慰謝料と求償権の関係について、知っておくべきことを順番に解説します。
この記事を読んで、不倫慰謝料と求償権の関係を把握し、求償権の放棄と慰謝料の減額交渉の進め方を理解しましょう。
目次
1章:不倫の慰謝料における求償権とは
不倫の慰謝料における求償権について、次の3つを上げて解説します。
- 不倫慰謝料の求償権とは「支払った慰謝料の一部を請求できる権利」のこと
- 不倫慰謝料の求償権の負担割合
- 求償権の行使と時効
それでは順番に見ていきましょう。
1-1:不倫慰謝料の求償権とは「支払った慰謝料の一部を請求できる権利」のこと
不倫慰謝料の求償権とは、不倫の当事者の一人が慰謝料を支払った場合、もう一人の当事者に対して「支払った慰謝料の一部を請求できる権利」のことです。
そもそも不倫は、不倫の当事者(共同不法行為者)両方に責任があるため、慰謝料の支払い義務は二人にあります。
しかし、被害者が不倫発覚後も離婚しない場合、配偶者に慰謝料を請求しても意味がないため、一般的には不倫相手にだけ慰謝料を請求します。
そのため、不倫相手が慰謝料を全額支払った場合は、もう一人の当事者である配偶者に対して責任に応じた負担を求めることができます。
例えば、不倫相手が慰謝料100万円を支払った場合は、その半額の50万円程度をもう一人の当事者である配偶者に支払うよう請求できるわけです。
これを、不倫慰謝料における「求償権」と言います。
被害者から見れば、不倫相手から100万円の支払いを受けても、配偶者が不倫相手に対して50万円支払うわけですから、夫婦共同の家計には50万円しか残らないことになります。
もちろん、夫婦が離婚した場合は、不倫した配偶者が50万円を支払っても被害者には関係がないため、求償権の行使は問題にはなりません。
1-2:不倫慰謝料の求償権の負担割合
不倫慰謝料は、不倫の当事者両方に支払い義務があるため、求償権の負担割合は、「5:5」となるのが原則です。
不倫は、どちらか一方だけに責任があるとは言い難いことが多いためです。
ただ、必ず半分ずつになるわけではなく、事例によっては責任の大きさによって負担割合が変わることもあります。
例えば、配偶者は不貞行為をしない義務を負っているので、この義務に違反して不貞行為を行った場合責任が重くなるため、「配偶者:不倫相手=6:4」と言った割合になる場合もあるわけです。
また、男性が積極的に不倫を主導し女性に未婚だと偽っていた場合などは、女性側に過失があったとしても男性の責任はより重くなり、「男性:女性=7:3」といった割合になることもあります。
1-3:求償権の行使と時効
不倫慰謝料を請求され支払った場合、直ちにもう一人の当事者である不倫相手に対して、求償権を行使できます。
相手と直接会って、支払いを求めることもできますが、不倫関係が続いていると疑われないように、内容証明郵便を使ったり、支払督促などの法的手段を利用することも考えられます。
求償権には消滅時効があり、権利行使できる期間が限られています。
求償権を行使することができることを知った時から5年、または求償権を行使できる時から10年間経過してしまうと、不倫相手に求償できなくなります。
一般的には、不倫慰謝料を支払った日から5年以内に求償しなければならないという意味になります。
不倫慰謝料の求償は多額になることが多いため、求償を受けた人がすぐに全額支払ってくれるとは限りません。
ただ、相手が求償された額の一部を支払った場合は、支払い義務があることを承認したことになるため、その時から消滅時効が5年間延長されます。
2章:慰謝料を「請求する側」と求償権の関係
慰謝料を「請求する側」と求償権の関係は、次のとおりです。
- 離婚した場合は影響ナシ
- 離婚しない場合は求償権を放棄してもらう
では、それぞれ見ていきましょう。
2-1:離婚した場合は影響ナシ
配偶者の不倫が原因で離婚した場合、被害者は不倫相手に慰謝料の支払いを受けますが、その後配偶者に対して求償権を行使されても離婚しているため影響はありません。
離婚によって夫婦で家計を共同にする必要はなくなるので、被害者が不倫相手に100万円の不倫慰謝料を請求した場合、100万円をまるごと自分のものにできます。
不倫相手から元配偶者に対して50万円求償されても、被害者はそのための資金を出す必要はないからです。
2-2:離婚しない場合は求償権を放棄してもらう
不倫が発覚しても離婚せず不倫相手に慰謝料を請求する場合は、求償権を放棄してもらう必要があります。
被害者は不倫相手だけに慰謝料を全額請求できますが、相手から配偶者への求償権を行使された場合、夫婦の家計としては慰謝料を得られても、その後配偶者の責任割合に応じた額を支払うことになるからです。
例えば、求償権の負担割合が「5:5」で、不倫相手に100万円の不倫慰謝料を請求した場合、一旦、被害者は100万円を受け取りますが、配偶者が50万円の求償を受け支払う必要があるため、夫婦の家計から見ると実質的に得られる慰謝料は50万円になってしまいます。
被害者としては、求償権を行使されると慰謝料が減額される形になるため、離婚しない場合は、慰謝料の交渉に合わせて求償権の放棄を求めます。
また、求償権の放棄を求めることで、慰謝料を受け取った後も、配偶者と不倫相手が求償権の行使で関わり合うことを避けられます。
3章:慰謝料を「請求された側」と求償権の関係
慰謝料を「請求された側」と求償権の関係は、次のとおりです。
- 求償権を行使できる
- 求償権の放棄を条件に減額交渉できる
では、それぞれ見ていきましょう。
3-1:求償権を行使できる
不倫の慰謝料を請求された場合、求償権を行使して支払った慰謝料のうち、もう一人の当事者である配偶者の責任に応じた負担分を求めることができます。
例えば、付き合っている男性に妻がいることが発覚し、妻から不倫慰謝料の支払いを求められた女性の側から見ていきましょう。
女性からすると、寝耳に水ということもありますが、このような場合でも、男性と不倫したことに変わりはないため、過失が認められれば不貞慰謝料を支払わなければなりません。
しかし、不倫は相手と共同でするものですから、男性側にも一定の責任があるため、求償権を行使して原則支払った慰謝料の半額程度を男性に請求できます。
ただ、男性が既婚であることを隠していたり、男性が積極的に不倫していた場合は、男性の責任が重いと考えられるため、女性から男性に対して、支払った不倫慰謝料の6割、7割といった額の求償を行うこともできます。
3-2:求償権の放棄を条件に減額交渉できる
不倫慰謝料を請求された場合、請求された額の全額を支払わなければならないのが原則ですが、不倫相手が離婚しない場合は、求償権の放棄を条件に減額交渉できます。
請求された慰謝料、例えば100万円といった金銭を一度に支払うのは、大変な負担になります。
後で、不倫相手の男性に対して、求償権を行使できるとは言え、支払ってもらえるとは限らず、回収不能となるリスクがあります。
例えば、男性が妻と離婚しないのであれば、女性が妻に不倫慰謝料全額を支払っても、その妻と家計を同じくしている男性に対して、求償する形になるわけですから、最初から求償する分を差し引いて支払えばよいわけです。
求償する手間や回収不能リスクを避けることができますし、不倫関係を一度に解決できる点でメリットがあります。
なお、求償権の放棄を条件とした減額交渉は、不倫相手が離婚した場合は請求者である妻には関係ないため断られてしまう可能性が高いです。
4章:求償権を放棄する際の注意点
求償権を放棄する際の注意点は、次のとおりです。
- 慰謝料請求と求償権は当事者が違う
- 求償権の放棄は減額交渉と同時に行う
- 必ず示談書に記載する
- トラブルを避けるためには弁護士に相談する
それぞれ見ていきましょう。
4-1:慰謝料請求と求償権は当事者が違う
慰謝料請求と求償権は混同されがちですが、行使する当事者が異なりますので注意してください。
慰謝料請求は、不倫された側が、不倫した人たちに請求するものです。
例えば、夫が不倫した場合は、妻から、夫とその不倫相手の女性に対して請求します。
求償権は、不倫した人たちのうち、慰謝料を支払った側が、もう一方にその責任に応じて分担を求める権利です。
例えば、不倫した女性が不倫相手の妻に慰謝料を支払った場合は、女性の不倫相手である夫に対して求償権を行使します。
4-2:求償権の放棄は減額交渉と同時に行う
求償権の放棄は、慰謝料の減額交渉と同時に行うものであることに注意しましょう。
不倫された妻の側からすると、後から求償されて家計に負担がかからないように、求償権の放棄を求めるわけですが、一定の譲歩をして慰謝料減額に応じる必要があります。
不倫相手の女性からすると、慰謝料全額の負担を逃れるために、求償権を放棄することを条件に慰謝料の減額を求める形になります。
求償権の放棄の際に問題となるのが、求償権の負担割合です。
不倫相手の女性からすると、自分の負担割合が小さいほど、実際に支払うべき慰謝料の額を少なくすることができます。
妻からすると、夫の負担割合が大きいほど、実際に受け取れる慰謝料の額が少なくなってしまいます。
そのため、妻の側からは、求償権の負担割合を原則どおり、5分5分とする方向性で交渉を持ちかけることも多いです。
一方、女性側からは、既婚だと知らなかったとか、夫の方が積極的だったといった主張を行い、「夫:女性=7:3」の負担割合だと主張して交渉することもあります。
どちらも譲らず、交渉が長引いてしまうと、裁判手続きでの解決が必要になります。
4-3:必ず示談書に記載する
求償権の放棄と慰謝料の減額交渉は、妻、夫、不倫相手の三者の間で行い、認識を一致させることが大切です。
まず、不倫慰謝料の本当の金額を確定します。
不倫が原因で離婚することになった場合は、200万円から300万円といった額になりますが、離婚しない場合は、50万円から100万円程度が相場とされています。
例えば、夫の不倫に対して、妻が100万円請求する場合は、この金額が本来、請求できる慰謝料の額になります。
続いて、夫と不倫相手の負担割合を決めます。
どのような事情で不倫に至ったのか、不倫中の夫と相手の認識ややり取りなどにより、負担割合は異なります。
「夫:女性=5:5」「夫:女性=6:4」「夫:女性=7:3」など割合を確定させ、三者の間で認識を一致させます。
その上で、不倫相手は、求償権を放棄する代わりに夫の負担割合分を減額したうえで、妻に対して慰謝料を支払います。
一般的には、50万円、40万円、30万円といった額が実際に支払う金額になります。
このように妻、夫、不倫相手の三者で、一致した事項については、必ず示談書を作成して証拠を残すようにします。
示談書は、妻、夫からすると、後で求償されることを防ぐためであり、不倫相手からすると、慰謝料全額の支払いを求められることを防ぐために重要な書類になります。
4-4:トラブルを避けるためには弁護士に相談する
求償権の放棄を条件とする示談交渉は、トラブルを避けるためには弁護士に相談することをオススメします。
求償権の放棄と慰謝料の減額交渉は、妻、夫、不倫相手の三者間で協議を行って決めますが、そもそも、夫婦と不倫相手が顔を合わせて冷静に話し合いができるケースは少ないはずです。
どちらも感情的になってしまい、話し合いが進展しない上に、更なるトラブルを引き起こしかねません。
また、不倫慰謝料の減額と求償権の放棄の関係は、一般の人にはわかりにくく、「慰謝料の減額」だけがクローズアップされて不倫された側に伝わってしまうことがあります。
このような場面では、弁護士に立ち合いを求めるか、弁護士に代理で話し合ってもらった方がよりよい解決策を探ることができます。
まとめ:求償権とは支払った慰謝料の一部を取り返せる権利
最後に今回の内容を振り返ります。
不倫の慰謝料における求償権とは
- 不倫慰謝料の求償権とは「支払った慰謝料の一部を請求できる権利」のことです。
- 不倫慰謝料の求償権には負担割合があります。
- 求償権には消滅時効があり行使期間が限られます。
慰謝料を「請求する側」と求償権の関係
- 離婚する場合は影響ナシ。
- 離婚しない場合は求償権を放棄してもらう。
慰謝料を「請求された側」と求償権の関係
- 求償権を行使できる。
- 求償権の放棄を条件に減額交渉できる。
求償権を放棄する際の注意点
- 慰謝料請求と求償権は当事者が違う
- 求償権の放棄は減額交渉と同時に行う
- 必ず示談書に記載する
- トラブルを避けるためには弁護士に相談する
この記事を参考に、不倫の慰謝料と求償権の関係を理解し、求償権を放棄する際は、慰謝料の減額交渉と同時に行い、後々にトラブルにならないようにしましょう。