弁護士が徹底解説!退職するときに損しないための“有給消化”と“貰えるお金”の話
この記事を読んで理解できること
- 退職で損しないための「転職タイミング」は3つ
- 退職で損しないために最初に知っておくべきことは4つ
- 【損しない方法①】有給休暇を全て消化する
- 【損しない方法②】失業保険を賢く貰う
- 【損しない方法③】退職時に未払い残業代を請求
- 退職金をもらう
あなたはいつか今の会社を退職する時に主張できる、労働者の「権利」について正しく理解できているでしょうか?
「有給休暇が消化できることは知っているけど、改めて聞かれるとあまり自信がないかも・・」という方も多いですよね。
具体的に退職時、主張・請求できる代表例として以下のものがあげられます。
- 有給休暇の消化
- 失業保険の受給
- 未払い残業代の請求
- 退職金
しかし、これらのものは自分からアクションして請求しないともらうことができず、損してしまう可能性があります。
毎年、多くの労働問題で悩む方々を見ていますが、特に感じているのが、
「正しい知識や手順さえ知っていればもっと正当な権利を主張して、良い形で退職できる方が本当に多いのでは?」ということです。
そこで本日は、労働問題を専門に扱う弁護士である私が、改めて、会社を辞める時にやっておくと得をする制度や権利についてまとめてみました。
今退職を検討している方・今後転職の可能性があると感じている方は、改めてこの記事で確認し、役立てていただけると幸いです。
それではみていきましょう!
目次
1章:退職で損しないための「転職タイミング」は3つ
退職で損しないためには、転職のタイミングも重要となります。
損しない転職タイミングは、次の3つです。
- ボーナスを貰った後
- 希望する求人が多い時期
- 会社の閑散期
この章では、これらのタイミングが転職するのに良いタイミングである理由について、具体的に解説します。
1-1:ボーナスを貰った後
ボーナスの支給については、就業規則で「支給日在籍要件」が規定されている会社が多いです。
支給日在籍要件のある会社では、ボーナスの支給日の時点で会社に在籍していなければボーナスは支給されません。
そのため、ボーナスの支給日が近い場合には、支給日まで在籍して、ボーナスを貰った後で転職するのが良いでしょう。
1-2:希望する求人が多い時期
退職で損をしないためには、自分の希望する条件に合う転職先を決める必要があります。
希望する求人が少ない時期に退職すると、転職先が決まらなかったり、条件面で妥協したりしなければならなくなる可能性が高いでしょう。
転職で損をしないためには、希望する求人が多い時期に転職すべきです。
希望する求人が出るのを待って、転職先を決めてから退職すると再就職までのタイムラグもなく安心です。
1-3:会社の閑散期
会社の繁忙期に退職すると、会社から退職を引き止められて手続きがスムーズに進まなかったり、同僚に迷惑をかけたりする可能性があります。
転職は会社の閑散期をねらって、気持ち良く転職先に送り出してもらえるのがベストです。
2章:退職で損しないために最初に知っておくべきことは4つ
退職時にやっておくと良い事は、以下の4つです。
- 有給休暇を消化する
- 「会社都合」扱いにして失業保険をできるだけ長くもらう
- 未払いの残業代を会社に請求する
- 退職金をもらう
これらの具体的なメリットや手続きの方法について、詳しくはのちほどで解説しますが、先に全体の手続きの流れを把握しておきましょう。
退職前から準備が必要なものと、退職後に開始する手続きがありますので、注意してください。
それでは、有給休暇の消化から解説します。
3章:【損しない方法①】有給休暇を全て消化する
有給休暇は、法律上、申請すれば取得できるため、会社は有給休暇の消化を原則拒否できません。
あなたは、有給休暇について、「会社からの許可がないと取得できない」と勘違いをしていませんか?
しかし、実は、法律上有給休暇は従業員が申請すれば、無条件で取得することができます。
従業員は会社に理由を言う必要もありません。
法律上、従業員には以下の日数の有給休暇が付与されますので、退職時に残っている日数があれば、会社に申請してすべて消化しておくことをおすすめします。
ただし、有給休暇を取得できるのは、以下の条件を満たす場合のみです。
【有給休暇取得の条件】
雇い入れの日から6ヶ月以上勤務
全労働日の8割以上出勤
有給休暇は、以下の流れに沿って申請することが可能です。
有給休暇の申請を会社は原則断ることができませんので、堂々と申請してすべての日数を消化して、退職しましょう。
場合によっては、退職時に消化しきれなかった有給休暇を、会社が買い取ってくれることもあります。
その場合、残っている有給休暇の日数分の買取価格が支払われます。
ただし、有給休暇の買取は例外的なもので、法律上の規定もありません。
そのため、あくまでも有給休暇は、消化してから退職することを前提に考えておきましょう。
4章:【損しない方法②】失業保険を賢く貰う
一定の条件を満たした場合、自己都合で退職しても「会社都合退職」扱いで失業保険を受給できます。
会社都合退職になった場合、3つのメリットがあります。
- 失業保険を受給しやすくなる
- 退職直後から失業保険が受給できる
- 失業保険を受給できる期間が長くなる
失業保険とは、次の会社に入社するまでの一定の期間、一定額のお金を国からもらうことができる制度です。
失業保険は、自己都合で退職した場合は「自己都合退職」、会社都合で退職を余儀なくされた場合は「会社都合退職」として扱われます。
そして、このどちらの扱いになるかによって、失業保険の受給できる条件や期間などが変わってきます。
- 自己都合退職・・・失業保険の優遇なし
- 会社都合退職・・・失業保険の優遇あり
実は、自分から会社を辞め、離職票に「自己都合退職」と記載されていた場合であっても、ある条件に当てはまる人の場合、「会社都合退職」扱いにできるケースがあります。
この場合、会社都合退職の場合と同様、失業保険の制度上大きなメリットがあるのです。
それではその方法と、具体的なメリットの内容について見ていきましょう。
4-1:会社都合退職とみなされる条件について見ていこう
自己都合退職でも、会社都合退職扱いになる条件には、「解雇」や「倒産」など様々なものがあります。
その条件の中には、あまり知られていませんが、以下のような条件もあるのです。
【会社都合退職になる条件】
①特定受給資格者の「解雇等」にあたる条件
以下の理由で退職した場合は、形式上は自己都合退職でもハローワークで手続きを行うことで「特定受給資格者(=会社都合退職扱い)」にできます。
- 1ヶ月当たり45時間を超える(退職前の3ヶ月以上)残業が続いていた
- 1ヶ月当たり、平均80時間を超える(退職前の2ヶ月〜半年)残業が続いていた
- 退職前1ヶ月の残業時間が100時間を超えていた
- 賃金(退職手当を除く)の3分の1を超える額が、期日までに支払われなかった月が2ヶ月以上続いた、または退職前半年の間に3ヶ月以上あった
- 賃金が勝手に85%未満まで減額された
- 労働契約締結時の条件と、実体が著しく異なっていた
- 職業生活の継続のための配慮なしに、会社から職種転換された
- 期間の定めのある労働契約の更新で、3年以上の契約の継続が決定した後に、契約更新がなくなったため
- 期間の定めのある労働契約の締結時に、今後も契約の更新があると言われていたのに、契約更新がなくなったため
- 上司、同僚等からのパワハラを受けていた
- 会社から直接・間接に退職勧奨を受けて退職した
- 会社の都合で3ヶ月以上休業が続いた
- 会社が法令に違反した
②特定理由離職者にあたる条件
以下の理由で退職した場合は、「特定理由離職者(=会社都合退職扱い)」にできます。
A.契約更新時の理由による退職
期間の定めのある労働契約の期間が満了し、契約の更新を希望したのに、更新がされなかった
B.健康の理由による退職
体力の不足、負傷、視力・聴力等の減退
- 妊娠、出産、育児等によって離職し、雇用保険の受給期間の延長措置を受けている
- 家族の死亡、病気、親の扶養、介護など
- 配偶者や扶養すべき親族との別居生活の継続が困難になったための退職
- 通勤が困難になったため(結婚による引っ越し、事業所の移転、配偶者の再就職等による別居の回避など)
- 会社の人員整理等で希望退職者の募集に応募した
(引用元:厚生労働省「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」)
「長時間残業を継続していた」という理由などは、当てはまる人も多いのではないでしょうか。
これらの条件を満たしていれば、「解雇」「倒産」などの、会社都合による退職ではなくても、会社都合退職と同様の優遇を受けることができるのです。
4-2:会社都合退職扱いで失業保険がもらえると何が良いの?
では、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
メリットには、
- 失業保険を受給しやすくなる
- 退職直後から失業保険が受給できる
- 失業保険をもらえる期間が長くなる
というものがあります。
順番に解説します。
4-2-1:失業保険を受給しやすくなる
自己都合退職した人など「一般受給資格者」に分類された人は、失業保険を受給するには、「離職前2年間」に「12ヶ月以上」失業保険に加入している必要があります。
12ヶ月に満たなければ、失業保険を受給できません。
しかし、「特定受給資格者」に分類された人は、「離職前1年間」に「6ヶ月以上」失業保険に加入していれば、失業保険を受給することができるのです。
4-2-2:退職直後から失業保険が受給できる
さらに、「一般受給資格者」の場合は、失業保険を受給できるまで「3ヶ月の待機期間」があります。
つまり、会社を辞めて、すぐに失業保険を申請しても、3ヶ月は失業保険をもらうことができないのです。
これに対し、「特定受給資格者」は、退職直後(最短7日後)から失業保険を受給することができます。
4-2-3:失業保険をもらえる期間が長くなる
これに加えて、「特定受給資格者」になると、失業保険の給付期間が最大「330日」になります。
「一般受給資格者」の場合は、最大150日までですので、2倍になることもあるのです。
具体的には、会社都合扱いになった場合は、以下の例のように失業保険を受給することができます。
- 退職時の年齢:30歳
- 退職前6ヶ月の賃金総額:180万円(退職金、賞与、祝い金を除く)
- 失業保険の被保険者期間:8年
会社都合退職扱いの場合
支給総額:106万380円
給付日数:180日
自己都合退職扱いの場合
支給総額:53万190円
給付日数:90日
これを見て分かるように、受給できる金額は、会社都合退職扱いの方が2倍になることもあるのです。
正確には、以下のように受給期間が決められています。
会社都合扱いの場合、 失業中の収入がない時期に、退職後すぐに、長期間失業保険が受給できるのですから、とても大きなメリットです。
退職時には、他にも覚えておくと良いことがあります。
それが、会社に未払いの残業代を請求することです。
5章:【損しない方法③】退職時に未払い残業代を請求
実は、会社を退職するとき、もしくは退職したあと、3年前の残業までさかのぼって、未払い残業代を請求することが可能です。
多くの会社では、「残業ありき」の仕事量が押しつけられ、残業が常態化し、しかも残業代が全額出ない、ということがよくあります。
残業代を支払わないことは違法であるため、退職するときに請求すれば、取り返すことができる可能性が高いです。
5-1:残業代は2年分までさかのぼって請求できる
残業代請求には、「3年の時効」があります。
そのため、3年以上前の残業代については請求することができません。
時効の基準となるのは、毎月の給料日です。
給料日が毎月25日の会社の場合、毎月25日を過ぎるたびに1か月分の残業代が時効で消滅します。
(時効の例)
2020年8月25日が給料日の残業代
→2023年8月25日に時効
しかし、過去3年前の分まではさかのぼって請求することができるため、請求できる金額はあなたが思っているよりずっと大きくなる可能性があります。
- 月給:25万円
- 残業:月70時間
- 一月平均所定労働時間:170時間
※一月平均所定労働時間とは、会社が設定している月の平均労働時間のことで、大体170時間前後であることが多いです。
(25万円÷170時間)×1.25倍×70時間=12万8590円(1ヶ月の残業代)
3年分が請求できるとすると、
12万8590円×36ヶ月=462万9240円
このように、「残業が多いがほとんど支払われていない」という方は、退職時に請求できる残業代の金額は数百万円単位になるケースもあるのです。
5-2:残業代の請求方法は2つ
残業代請求の方法には、
- 自分で直接会社に請求する方法
- 弁護士に依頼して請求してもらう方法
の2つがあります。
これらには、以下のようなメリット・デメリットがあります。
これらのメリット・デメリットを踏まえて、請求方法を選んでください。
5-3:管理職、早出残業、みなし残業でも残業代は請求できる可能性がある
会社によっては、以下のようなことを理由に「残業代は出ない」と言われていることがあります。
- 管理職は残業代が出ない
- 営業手当、業務手当などが残業代のかわり
- 基本給に残業代も含んでいる
- 早出出勤は残業ではない
しかし、実はこれらの場合でも、実際には残業代が発生する可能性が高いです。
未払いが認められれば、残業代を取り返せることもあります。
そのため、これらを理由に「残業代が出ない」と思っている方は、退職時に残業代を請求することをおすすめします。
5-4:請求前に自分で証拠を集めておくとより有利
残業代請求を成功させるために、最も大事なのが「証拠集め」です。
そのため、私の経験上、会社を辞める前に以下のような証拠を集めておくと残業代請求をスムーズに行うことができる傾向があります。
証拠を取得せずに辞めてしまうと、後から証拠を集めることが非常に困難になりますので、やめる前から集めるのがポイントです。
- 雇用契約書
- 就業規則
- 賃金規定
- 給与明細
- 賃金台帳
まず集めておきたい証拠
- タイムカード
- シフト表
- 業務日報
- 運転日報
- タコグラフ(ドライバーなどの場合)
日報などは、正確に書いていないことも多いと思います。
正確ではない記録が残っていると、交渉になったときに不利になりやすいです。
また、タイムカードやシフト表は会社側が都合良く改ざんしている可能性もあります。
会社で、タイムカードなどの勤怠管理がなされていない場合や、タイムカードなどはあるけれども会社によって改ざんされているような場合は、以下のような証拠を集めるとよいでしょう。
証拠になるようなものがない場合でも証拠にできるもの
- 手書きの勤務時間・業務内容の記録(最もおすすめ)
- 残業時間の計測アプリ
- 家族に帰宅を知らせるメール(証拠能力は低い)
- 会社のパソコンの利用履歴
- メール・FAXの送信記録
会社が勤怠管理をしていない場合に証拠として以外におススメなのは①です。
毎日手書きで、1分単位で時間を書きましょう。
具体的な業務についても書くのがベストです。
③のメールは内容にもよりますが、裁判になると証拠としては弱いことが多いので、できるだけ手書きでメモを取りましょう。
証拠集めは、以下の点に注意して行ってみてください。
【証拠集めの注意点】
1.できるだけ多くの証拠を集める。
証拠は、できれば2年分の証拠があることが望ましいですが、なければ半月分でも請求は可能です。
できるだけ毎日の記録を集めておくと良いでしょう。
2. ウソの内容を書かない
「手書きのメモ」や「日報」など、残業時間を手書きで記録しておく方法もご紹介しましたが、その場合絶対に「ウソ」の内容のことを書いてはいけません。
証拠の中にウソの内容があると、その証拠の信用性が疑われ、裁判官の心証が悪くなり、有効な証拠として認められない可能性があります。
そのため、証拠は「19時30分」ではなく、「19時27分」のように、1分単位で記録するようにし、正確に記録していることを示せるようにしておきましょう。
6章:退職金をもらう
この章のポイント
- 30代でも100万円以上出るのが平均的
- 退職金規定がなくても、退職金が支払われる慣行があれば請求できることがある
退職を考えている人は、「退職金っていくらくらいもらえるのだろう・・・」と思っている人も多いと思います。
大学卒業後すぐに入社し、普通の成績で勤務した場合の退職金(モデル退職金)を見ると、30代でも100万円以上支給されるというデータがあります。
※モデル退職金とは、東京都産業労働局が中小企業を対象に調査し、集計した退職金の平均データのことです。
このように、勤続年数が増えるほど、退職金の金額も大きく増額していきます。
ただし、以下のように、勤続年数が短いと退職金を受給することができない企業も多いため、まだ就職・転職して日が浅い人は注意してください。
退職金規定が存在し、それが社員に周知されていなければ、退職金が請求できないのが原則です。
しかし、退職金規定が存在しなくても、あきらめる必要はありません。
従来、退職者に対し、会社の内規に従って退職金を支払われており、それが慣行となっているといえれば、慣行が労働契約の内容となり、退職金請求権が発生することがあるからです。
まとめ:退職で損しないタイミングは3つ。損しない方法は4つ。
最後にもう一度、今回の内容を振り返ります。
退職で損しないタイミングは、
- ボーナスを貰った後
- 希望する求人が多い時期
- 会社の閑散期
退職時に損しない方法は、
- 有給休暇の消化
- 「会社都合退職」にして失業保険を受給する
- 退職後に未払い残業代を請求する
- 退職金をもらう
という行動を以下のスケジュールの通りに行うと良いでしょう。
- 有給休暇は申請すれば原則必ず取得できる
- 消化できなかった有給休暇は、会社に買取してもらうことも可能
- 月45時間を超える残業が続いていた場合、「会社都合退職」になることがある
- 会社都合退職になった場合、3つのメリットがある
- 失業保険を受給しやすくなる
- 退職直後から失業保険が受給できる
- 給付日数が増える
- 未払い残業代は2年前の分までさかのぼって請求できる
- 退職前に自分で証拠集めをするとより良い
- 30代でも100万円以上出るのか平均的
- 退職金規定がなくても、退職金が支払われる慣行があれば請求できることがある
- 支給日在籍要件がある場合は、算定期間に会社に在籍していても退職するとボーナスがもらえない
- ボーナスはもらってから退職するのがベスト
これらの知識を賢く使って、在職中も退職時も損しないように行動することをおすすめします。