
あなたは、
「雇用契約書がないのは違法ではないの?」
「雇用契約書がない場合、会社に罰則はないの?」
「雇用契約書がもらえない場合、どうしたら良いの?」
などの疑問やお悩みをお持ちではありませんか?
入社時に雇用契約書がないことに気付くと、心配になりますよね。
実は、法律上、雇用契約書は必ずしも必要というわけではありません。そのため、もしあなたの会社が雇用契約書をくれなくても、違法ではないのです。
しかし、雇用契約書という形ではなくても、会社は何らかの形で「労働条件を明示」する義務があります。
したがって、
「自分の労働条件がどんなものか、会社から何も教えてもらえない」
という場合は、違法である可能性が高いです。
さらに、雇用契約書は義務ではありませんが、労働条件や契約内容を従業員に正しく理解してもらうために、ほとんどの会社が活用しています。
そのため、雇用契約書がもらえない会社は、限りなくブラック企業に近いです。
そこでこの記事では、まずは雇用契約書や労働条件を明示する義務について、法律上の詳しいルールを解説します。
さらに、雇用契約書がない場合にありがちなトラブルと、雇用契約書がもらえない場合の対処法をお伝えします。
すぐにでも対処法を知りたい場合は、4章からお読みください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■労働条件通知書に記載されている必要があること
- 労働契約の期間
- 就業の場所、業務の内容
- 労働時間
- 賃金
- 退職について
■雇用契約書がない場合のありがちなトラブル
- 求人票の内容と労働条件が異なる
- 自分に不利な契約や就業規則がある
- 聞いていない試用期間がある
■労働条件通知書がない場合の対処法
- 会社に明示を求める
- 労働基準監督署に相談する
- 労働問題専門の弁護士に相談する
- 退職する
■雇用契約書がない場合の対処法
労働条件通知書をよく読み、会社に説明を求める。
目次
1章:雇用契約書がないことは違法ではない
それではさっそく、雇用契約書のルールや考え方について解説します。
まず、結論から言えば、
「雇用契約書はなくても問題ないが、労働条件が明示されていなければ違法」
ということになります。
なぜなら、労働基準法という法律で、入社時には労働条件について書面で明らかにしなければならないと決められているからです。
そこで、簡単に雇用契約書と労働条件通知書の違いについて説明します。
①雇用契約書とは
雇用契約書は、必ず交付しなければならないというものではありません。
ただし、労働契約法では、以下のようなルールもあります。
したがって「労働条件通知書」で一方的に「あなたの労働条件はこれですよ」と通知するだけでなく、お互い理解し、内容を確認するために「雇用契約書」という書類を別に作成することがあるのです。
とは言え、労働契約法は「できるだけこうしてください」というルールですので、違反しても罰則はありません。
つまり、雇用契約書をもらえていなくても、労働条件通知書がもらえていれば、違法ではありません。
②労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、労働基準法で交付が義務づけられている書類のことです。あなたと会社との間で締結された「給与」「労働時間」「残業」「休日」などの労働条件について、書類に記載されています。
労働条件通知書について、労働基準法では以下のように決められています。
実際には以下のようなものです。
厚生労働省「労働条件通知書」の雛形
2章:雇用契約書ではなく労働条件に関する書面が必須
それではこれから、
- 入社時に明示されなければならない条件
- 労働条件の明示がない場合の罰則
について詳しく解説します。
2−1:労働条件について明示しなければならない5つのこと
以下の5つの労働条件については、会社は従業員に対して書面で明示しなければならないと義務づけられています。
①労働契約の期間
いつからいつまで働く、とあらかじめ決められている契約(期間の定めのある労働契約)の場合は、その期間が明示されている必要があります。
期間の定めがない契約の場合は、「期間の定めがない」ことが明示されている必要があります。
②就業の場所、業務の内容
あなたが毎日業務を行う場所や、業務の具体的な内容について明示されていなければなりません。
③労働時間
労働時間については、以下のことが明示されている必要があります。
- 始業・終業時刻
※シフト制や日勤、夜勤など日によって就業時間が異なる場合は、勤務パターンごとの始業・終業時間が明示されていなければなりません。 - 残業の有無
- 休憩時間
- 休日の日数
- 休暇の有無
④賃金
賃金については、
- 毎月の基本給の金額
- 残業代や休日手当の計算方法、割増率
- 給与の締め日や支払い日
- 控除される項目について
- 支払い方法(手渡しか振り込みか)
などが明示されている必要があります。
⑤退職について
退職手続きの方法や理由、解雇の理由などを明示する必要があります。
なお、労働条件は会社が自由に決められるわけではありません。
労働基準法のルールに従った内容でなければ違法ですので、それぞれ詳しくは以下の記事をご覧ください。
【労働時間について】
【労働基準法上の労働時間とは】役職や制度によって異なるルールを解説
【退職について】
最短2週間で退職可!労働基準法・民法上のルールと退職手続きの流れ
【休日について】
労働基準法上の休日の定義とよくある4つの疑問を弁護士が徹底解説!
【休憩について】
労働基準法上の45分・60分の休憩の「3つの原則」正しいルールを解説
【残業代】
あなたの残業代は適正?労働基準法での残業代の定義・支払いのルールとは
2−2:労働条件の明示がない場合の罰則
労働条件を書面にて従業員に明示することは、会社の義務です。
そのため、
- 労働条件が書面にて明示されていなかった
- 通知した労働条件の内容が、労働基準法で定められたルールを満たしていない
などの場合は、
「30万円以下の罰金」
という罰則の対象になります。(労働基準法120号1号)
さらに、実際に働き出したら「労働条件通知書の内容と違った」という場合は、あなたは即座に雇用契約を打ち切ることができます。
3章:雇用契約書がない場合のありがちなトラブル
雇用契約書は、先ほども説明したように、あなたと会社の間で労働条件や契約の内容について確認し、お互いの認識に違いがないか確認するものです。
一部のブラック企業では、口頭では良い条件を言いつつ、実際には異なる条件で雇用し、それを説明せずに従業員を働かせることがあります。
こうした会社を避け、トラブルなく働くためにも雇用契約書があった方が良いのです。
雇用契約書がない場合は、以下のようなトラブルや悩みの原因になりかねません。
【雇用契約書がない場合のありがちなトラブル】
- 求人票の内容と労働条件が異なる
- 自分に不利な契約や就業規則がある
- 聞いていない試用期間がある
順番に説明します。
3−1:求人票の内容と労働条件が異なる
最も多いのが、入社後になって「求人票に書かれていた条件が違う!」と気付くパターンです。
会社によっては、求人票と実際の労働条件が異なることがあります。そのため、求人票を見て、その条件ならと思って入社したのに、実際の労働条件が違っていた、というケースがあるのです。
求人票に書かれた労働条件は、あくまで「目安」です。
そのため、それを悪用して、人を集めるために、わざと、
- 給与を高めに記載する
- 残業を短めに記載する
- 休日を多めに記載する
といった行為をする会社も多いのです。
とは言え、労働条件通知書には、実際の条件と異なったことを書くことはできません。
そのため、入社時に雇用契約書をもらい、それをよく読んでいれば、こうしたトラブルを避けることができます。
3−2:自分に不利な契約や就業規則がある
会社には、社内でのルールを定めた「就業規則」があります。就業規則は会社独自のルールですので、本来なら法律にのっとった内容でなければなりません。
しかし、雇用契約書を交付しないような会社の場合、
- 残業をしても残業代を支払わない
- 就業規則に違反したら即時解雇する
など、違法で会社に有利な内容を勝手に記載していることがあります。
そのため、雇用契約書がない会社の場合、入社後にトラブルが発生するリスクがあるのです。
3−3:聞いていない試用期間がある
会社に入社するときは、最初の数ヶ月が試用期間であることがあります。
これは労働条件通知書には記載される必要がありますが、労働条件通知書を読んでおらず、口頭での説明も受けていなければ「試用期間なんて聞いていない」と後からトラブルになる事があります。
雇用契約書があり、説明を受けていれば、使用期間があることを納得した上で働く事ができます。
4章:労働条件通知書・雇用契約書がない場合の対処法
ここまで説明したように、労働条件通知書がなければ違法ですし、雇用契約書がなければトラブルの元になります。
したがって、労働条件通知書・雇用契約書がない場合は、これから紹介する対処法を実践することが大事です。
- 労働条件通知書がない場合の対処法
- 雇用契約書がない場合の対処法
を順番に解説します。
4−1:労働条件通知書がない場合の対処法
労働条件通知書がない場合は、
- 会社に労働条件の明示を求める
- 労働基準監督署に相談する
- 労働問題専門の弁護士に相談する
- 退職する
という手段の対処法を実践してください。
4−1−1:会社に労働条件の明示を求める
労働条件を明示することは、会社の義務です。
そのため、もしもらえていない場合は、まずは会社に対して明示をお願いしてみましょう。
小さな会社の場合は、経営者や担当者が労働条件通知書が必要なことすら知らず、あなたがお願いすることで明らかにしてくれる可能性もあります。
しかし、
「会社に対してそんなこと言えない」
「言っても労働条件を開示してくれない」
ということもあると思います。
その場合は、これから解説する他の方法を実践してください。
4−1−2:労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、労働基準法にのっとって全国の会社を監督・指導する行政機関のことです。
全国の都道府県にあり、労働者なら誰でも無料で相談することができます。
労働基準監督署に相談すると、
- 労働基準法にのっとった、具体的なアドバイスをくれる
- 会社に立入調査する
- 会社に対して是正勧告(改善命令)を出す
- 勧告に従わない場合、経営者を逮捕することがある
- 厚生労働省のHPで会社名と違法行為を公開する
などの対応を取ってくれることがあります。
労働条件通知書がないことは違法ですので、会社に対してこうした対応をとり改善してくれる可能性があります。
ただし、労働基準監督署はすべての相談に対して動いてくれるわけではありませんので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
4−1−3:労働問題専門の弁護士に相談する
労働条件通知書をもらえておらず、それを原因として会社との間で何らかのトラブルが発生している場合、労働問題専門の弁護士に相談することで、問題を解決できる可能性があります。
労働問題専門の弁護士に依頼することには、
- 専門知識があるため、迅速に解決できる可能性が高い
- 問題解決に責任を持って取り組んでくれる
などのメリットがあります。
ただし、労働問題弁護士に依頼すると、ある程度の費用が発生しますので、どのくらいの費用が必要か相談時に聞いてみましょう。
労働問題専門の弁護士への依頼方法や選び方について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【保存版】手間、時間、お金をかけずに労働問題を解決するための全知識
4−1−4:退職する
労働条件通知書がない場合の、最大の解決策は「退職する」ことです。
労働条件通知書がなく、入社後に条件が異なることに気付いた場合、それは違法行為ですので、あなたは「即座に退職する」ことができます。
退職届に「労働条件通知書がもらえなかった」ことを記載し、メールもしくは書面で提出した上で、すぐに退職しましょう。
次の会社に入社するときは、雇用契約書をもらい、労働条件についてしっかり理解した上で入社することをおすすめします。
4−2:雇用契約書がない場合の対処法
次に、雇用契約書がない場合の対処法ですが、雇用契約書がないことはそもそも違法ではありませんので、
- 労働基準監督署
- 労働問題専門の弁護士
などを使った対処法は使えません。
さらに、雇用契約書がないことを理由にして退職することもできません。
そのため、もし労働条件通知書がもらえているなら、その内容をもとに会社に対して労働条件や契約内容について確認し、理解を深めるようにしましょう。
そうすることで、その後のトラブルを避けることができるでしょう。
まとめ:雇用契約書がない
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【労働条件通知書に記載されている必要があること】
- 労働契約の期間
- 就業の場所、業務の内容
- 労働時間
- 賃金
- 退職について
【雇用契約書がない場合のありがちなトラブル】
- 求人票の内容と労働条件が異なる
- 自分に不利な契約や就業規則がある
- 聞いていない試用期間がある
【労働条件通知書がない場合の対処法】
- 会社に明示を求める
- 労働基準監督署に相談する
- 労働問題専門の弁護士に相談する
- 退職する
【雇用契約書がない場合の対処法】
労働条件通知書をよく読み、会社に説明を求める。
しっかりルールを覚えて、不利な条件で働かせられることがないように気をつけてください。
参考記事一覧
【労働時間について】
【労働基準法上の労働時間とは】役職や制度によって異なるルールを解説
【退職について】
最短2週間で退職可!労働基準法・民法上のルールと退職手続きの流れ
【休日について】
労働基準法上の休日の定義とよくある4つの疑問を弁護士が徹底解説!
【休憩について】
労働基準法上の45分・60分の休憩の「3つの原則」正しいルールを解説
【残業代】
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【労働基準監督署に相談するポイント】
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
【労働問題専門の弁護士に相談するポイント】