
タクシー運転手の仕事に興味がある人や、今現在運転手として働いているあなたは、次のような悩み・疑問をお持ちではないでしょうか?
「多くのタクシー運転手はどのくらい働いているんだろうか」
「タクシー運転手の労働時間は法律的にどうなっているんだろう」
「隔日勤務って法律的には問題ないのかな」
朝から深夜まで1日働き通し、次の日に1日休む…タクシー運転手と聞くとそんな大変な働き方を思い浮かべる人もいると思います。
これはタクシー業界で一般的な「隔日勤務」という働き方ですが、その法律的なルールについては、働いている運転手たちの間でもよく知られていないのが現状です。
そこで、この記事ではまずはタクシー運転手の労働時間の実態や基本的なルールについて解説した上で、なぜタクシー運転手の働き方の大半が法律違反になるのかをお伝えします。
最後までしっかり読んで、知らないうちに法律で決められているよりも多く働かせられないように注意してください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■タクシー運転手の働き方
日勤:朝7時に出庫して夕方5時頃に車庫に戻る。休憩1時間。週1~2日、月6~8日休み。
夜勤:夕方5時に出庫して深夜3時頃に帰庫する。休憩1時間。週1~2日、月6~8日休み。
隔日勤務:日勤+夜勤。朝の7時に出庫して深夜3時までに帰庫する。3時間休憩、月11~13日出勤。
■タクシー運転手の労働時間の考え方
拘束時間:始業から終業までの時間。労働時間と休憩時間の合計。
労働時間:運転している時間や客を待っている時間など、業務に携わっている時間。
休息期間:勤務と次の勤務の間の時間
■タクシー運転手の労働時間に関わる法律ルール
・拘束時間
日勤・夜勤:1か月299時間以内、1日13時間以内、最大16時間以内
隔日勤務:1か月262時間以内に、2暦日21時間以内
・労働時間
「1か月単位の変形労働時間制」や「1年単位の変形労働時間制」が一般的。
平均して週40時間を超えないように労働時間をあらかじめ決めておけば、1日8時間を超える日があっても良い
・休息時間
日勤・夜勤:1日の休息期間は継続8時間以上
隔日勤務:継続20時間以上
■違法の疑いが強い働き方
・変形時間労働の条件を満たさない隔日勤務
・拘束時間の計算ちがい
・休息時間の不足
・帰庫後の作業を労働時間外にする
1章:タクシー運転手の労働時間の実態
まずは、タクシー運転手がどのくらい働いているかという実態について説明します。
1-1:タクシー運転手の勤務形態
多くのタクシー会社に共通していますが、タクシー運転手の勤務体系は働く時間帯によって
・日勤
・夜勤
・隔日勤務
という3つに分けられます。それぞれの勤務体系は、次のような働き方が一般的です。
日勤:朝7時に出庫して夕方5時頃に車庫に戻る。休憩1時間。週1~2日、月6~8日休み
夜勤:夕方5時に出庫して深夜3時頃に帰庫する。休憩1時間。週1~2日、月6~8日休み
隔日勤務:日勤+夜勤。朝の7時に出庫して深夜3時までに帰庫する。3時間休憩、月11~13日出勤
タクシー会社は、少しでも車両の稼働率を上げたいため、1日交代で別の運転手が同じタクシーに乗車できる隔日勤務が多くなっています。
次節では、タクシー運転手が実際どのくらい働いているかについて説明します。
1-2:タクシー運転手の労働時間の実態
それでは、早速タクシー運転手の労働時間の実態を見ていきましょう。
1-2-1:タクシー運転手の労働時間
1日の労働時間が長く、大変な仕事というイメージがあるタクシー運転手。ただ、変形時間労働性を採用した変則的な勤務形態ではあるものの、労働時間自体はそれほど長くないようです。
全国ハイヤー・タクシー連合会によると、
平成29年6月度の実労働時間の平均は189時間
だったといいます。
勤務体系については次に詳しく説明しますが、
・日勤・夜勤の一般的な乗務日数20日だと1日平均9時間超
・隔日勤務(日勤+夜勤)の乗務日数12日程度だと1日平均15〜17時間
となり、一般的な会社員の労働時間と同程度であることがわかります。
タクシー運転手は過重な働き方が大事故につながりかねない職業であるため、厚生労働省の指導などに基づき、どの会社も労働時間はこの数字に近くなっているようです。
1-2-2:一般的な勤務シフト・残業
タクシー運転手は、勤務時間の大半で車を運転しているため、無理な働き方が大きな事故につながりかねない仕事です。
そのため厚生労働省からは、タクシー運転手の労働条件を守るための告示が出されています。
そのため多くのタクシー会社では、
日勤・夜勤:8時間労働・1時間休憩
隔日勤務:16~17時間労働・3時間休憩
という勤務シフトを採用するのが一般的です。
またタクシーの台数が限られているため、事務所に戻ってからの事務仕事を別にすれば、基本的には残業がないと言うことができます。
1-2-3:隔日勤務は慣れると負担が軽い
会社員と同じ働き方の日勤・夜勤に対し、隔日勤務は20時間近く拘束され、家に戻れるのは前の日に家を出た時間になるケースがほとんどです。
カレンダー上は、働いた翌日は必ず「明番」と呼ばれる休息のための1日となります(実質休み)。それとは別に2回乗務した後は1~2日休日があり、月の出勤日は11~13日となります。
乗務日に丸1日拘束されているため、明番は睡眠で1日の大半がつぶれるケースが多く、とてもハードな生活のようです。
ただ、実際に働いている人からは「最初はきついけど慣れると楽」「自分の時間が多い」といった声も多く聞かれます。
今日はゆっくりしてます
こんなにゆっくりしてるのにさらに明日も休みなんてさらに幸せタクシーの隔日勤務って慣れたら時間たくさん使えるようになるよね
深夜乗せるサラリーマンが飲んで帰る時に「明日も仕事だよ」(実際にはもうすぐ朝)って会話はなんだかとても切なく聞こえる…
— トイレの神様大好き♡ (@jiubaochanhong) 2018年11月29日
タクシーで隔日勤務とかやってるとどんなしごとでもできそうな気がしてきた
でも実際1日まとめて働いて次休みのほうがお得な気分
だって月の半分はおやすみなんよ(´・ω・`)b— 天ちゅー (@RHPenguin7) 2015年10月7日
ただ、必ずしもルールが守られているかと言えば、そうでもありません。
実はタクシー運転手が気づいていない違法状態が見られるのもタクシー業界の実情です。
次章では、タクシー運転手の労働時間に関わる法律について解説します。
2章:大半の隔日勤務は法律違反!タクシー運転手の法律ルール
タクシー運転手の労働時間を考えるためには、その前提となる考え方・ルールが多くあります。
結論から言うと、隔日勤務のほとんどは法律で決められた条件を満たしていない、といった例が多くあります。
そこでこの章では、タクシー運転手の労働時間の基本的な考え方を解説したうえで、タクシー業界に見られる法律違反について説明します。違法状態の詳細についてすぐに知りたい人はこの章の3節からご確認ください。
2-1:拘束時間、労働時間、休息期間
タクシー運転手の働く時間を考える場合には、
・労働時間
・拘束時間
・休息期間
など、この仕事特有の時間についての知っておく必要があります。
あるタクシー運転手の1日を見てみましょう。
この場合、「拘束時間」は始業から終業までの時間。労働時間と休憩時間の合計を指します。
また、「労働時間」とは運転している時間や客を待っている時間など業務に携わっている時間です。これに対して、仮眠時間を含む業務に携わっていない時間を「休憩時間」といいます。
そして「休息期間」というのは勤務と次の勤務の間の時間のことを指します(休憩時間と混同しないように注意しましょう)。
2-2:労働時間に適用される法律ルール
タクシー運転手の労働時間に関わる法律ルールをまとめると、次のようになります。
内容を順番に見ていきましょう。
2-2-1:拘束時間
まずは始業から終業まで、タクシー運転手が会社に拘束されている時間についての決まりです。
①日勤・夜勤
日勤・夜勤で働くタクシー運転手は、1か月の拘束時間は299時間以内と定められています。
1日(※)の拘束時間は13時間以内を基本とし、延長する場合であっても最大16時間以内となります。
※始業時刻から起算して24時間
②隔日勤務
タクシー会社は、隔日勤務で働く運転手の1か月の拘束時間を262時間以内にしなければいけません。
ただし、地域的な事情や繁忙期など特別な事情があり、書面による労使協定(※)が結ばれている時には、1年のうち6か月までは拘束時間の限度を1か月270時間まで延長することができます。
※会社と働いている社員の間で結ばれる取り決め
隔日勤務の場合、2暦日(※)の拘束時間は21時間以内とされています。
※カレンダー2日(48時間)
2-2-2:労働時間
次に拘束時間のうち、休憩時間を除いた労働時間の考え方について解説します。
労働基準法によって、社員の労働時間は1日8時間、1週間40時間までと定められています。この法定労働時間を超えた時間が「残業」になりますが、例外があります。
それがタクシー業界で一般的な「1か月単位の変形労働時間制」や「1年単位の変形労働時間制」という仕組みです。
変形時間労働性とは、社員の労働時間を1日単位ではなく、月・年単位で計算する制度のことです。
このように平均して週40時間を超えないように労働時間をあらかじめ決めておけば、8時間を超える日があっても残業になりません。
2-2-3:休息時間
最後に、タクシー運転手の勤務と次の勤務の間の時間・休息時間について見ていきましょう。
①日勤・夜勤
日勤・夜勤の場合は、1日の休息期間は継続8時間以上とする必要があります。
拘束時間は最大16時間までなので、拘束時間+休息時間が24時間なることで、翌日も同じ時間に出勤していると考えます。
②隔日勤務
隔日勤務の場合は、勤務終了後に継続20時間以上の休息期間を与える必要があります。
2-3:タクシー運転手の働き方の大半は法律違反
こうしたルールが定められているのに、ほとんどの働き方が法律違反になるのはなぜかを見ていきましょう。
2-3-1:隔日勤務はほぼ変形時間労働の条件を満たさず
私がこれまで扱ってきた例を振り返ってみても、タクシー運転手の隔日勤務の多くは法律違反の状態になっています。
一部ではそうした状態に自覚的なタクシー会社もありますが、大半は会社自体も違法状態に気がついていません。
先ほど、変形時間労働性は平均して週40時間になるように労働時間を決めると説明しましたが、週40時間以内になるよう月の上限時間を考えると、それぞれひと月の労働時間は
ひと月28日の場合 40時間×28日/7日=160時間
ひと月30日の場合 40時間×30日/7日≒171.4時間
ひと月31日の場合 40時間×31日/7日≒177.1時間
となります。この時間以内であれば平均週40時間の平均労働時間の条件を満たしていると考えることができます。
しかし、隔日勤務で一般的な1日16時間勤務、月12日出勤の場合
16時間×12日=192時間
となり、週40時間を大きく上回ってしまいます。そのため、残業代を支払わずにこの勤務体系でタクシー運転手を働かせるのは違法の疑いが強くなります。
2-3-2:拘束時間の「1日」に注意
日勤・夜勤、隔日勤務それぞれの働き方で拘束時間が決まっています。
日勤・夜勤:1日 16時間以内
隔日勤務:2暦日 21時間以内
連続でこの時間を超えることがなくても、次の勤務日の出勤時間が早い場合は24時間・48時間の合計で基準を超えるケースがあります。
こうした場合でも、定められた拘束時間をオーバーすることになります。
2-3-3:休息時間が足りないのもNG
先ほど、タクシー運転手の労働時間には、働いている時間以外に次の勤務までの休息時間も定められていることを確認しました。
日勤・夜勤:8時間以上
隔日勤務:20時間以上
会社は、これらの時間を取らずに運転手を働かせることはできません。
シフトによっては、日によって出勤時間が早まる日もありますが、定められた時間より短い休息で勤務することはできないので注意しましょう。
2-3-4:帰庫後の作業も労働時間
会社によっては、運転手が車庫に戻った時点で業務は終了とし、その後の清算作業、清掃、報告書作成などは運転手が勤務時間外に自主的に行っていることにするケースもあります。
ただ、会社の直接的な指示がなくても、これらの作業はタクシー運転手の業務であると考えるのが自然です。そのため、こうした作業時間も労働時間に含まれると考えられます。
3章:タクシー運転手の労働時間で悩んだら弁護士に相談を
自分の働く環境を改善しようと思った時に対処する方法はいくつかありますが、もしあなたがタクシー運転手で、今まさに労働時間の問題で悩んでいる場合は、労働問題に強い弁護士に相談することをオススメします。
タクシー運転手の働き方は、
・労働時間の法律ルールが複雑
・給与形態が複雑で計算が難しい
という特徴があります。法律ルールについてはこれまで解説してきた通りです。
タクシー運転手の給与形態については、基本給と歩合給を組み合わせていることが多くなります。
そのため、残業はカウントされていても、給与としては残業代が相殺されているといった法的に難しい問題があり、一般の方がこの点で会社と交渉するのは難しくなります。
そういった場合でも労働問題に強い弁護士であれば、
・タクシー運転手の労働問題についても知識豊富
・これまでの経験を生かし難しいシチュエーションにも対処できる
・自分で行うよりも未払いの残業代を取り返せる可能性が高い
・完全成功報酬制の弁護士であれば自分が負担する費用もかからない
・複雑で手間がかかる残業代の計算を正確に行ってくれる
といった強みがあります。
世の中には数多くの弁護士がいますが、ポイントは労働問題に強い弁護士を選ぶということです。
一口に弁護士と言っても、専門は人によって様々です。タクシー運転手の労働時間の問題のような専門性の高い内容については、労働問題を扱った経験が多く、実務に詳しい弁護士に相談することが問題解決の一番の近道になるでしょう。
労働問題に強い弁護士をどう選ぶかは次の記事で詳しく紹介しているのでご確認ください。
【保存版】手間、時間、お金をかけずに労働問題を解決するための全知識
まとめ
いかがでしたか?最後にもう一度今回の内容を振り返ってみましょう。
【タクシー運転手の働き方】
日勤:朝7時に出庫して夕方5時頃に車庫に戻る。休憩1時間。週1~2日、月6~8日休み。
夜勤:夕方5時に出庫して深夜3時頃に帰庫する。休憩1時間。週1~2日、月6~8日休み。
隔日勤務:日勤+夜勤。朝の7時に出庫して深夜3時までに帰庫する。3時間休憩、月11~13日出勤。
【タクシー運転手の労働時間の考え方】
拘束時間:始業から終業までの時間。労働時間と休憩時間の合計。
労働時間:運転している時間や客を待っている時間など、業務に携わっている時間。
休息期間:勤務と次の勤務の間の時間
【タクシー運転手の労働時間に関わる法律ルール】
・拘束時間
日勤・夜勤:1か月299時間以内、1日13時間以内、最大16時間以内
隔日勤務:1か月262時間以内に、2暦日21時間以内
・労働時間
「1か月単位の変形労働時間制」や「1年単位の変形労働時間制」が一般的。
平均して週40時間を超えないように労働時間をあらかじめ決めておけば、1日8時間を超える日があっても良い
・休息時間
日勤・夜勤:1日の休息期間は継続8時間以上
隔日勤務:継続20時間以上
【違法の疑いが強い働き方】
・変形時間労働の条件を満たさない隔日勤務
・拘束時間の計算ちがい
・休息時間の不足
・帰庫後の作業を労働時間外にする
もし自分の働き方で当てはまるものがあれば、労働問題専門の弁護士に相談しましょう。