【製造業の働き方改革】5つの取り組みと必要な理由や成功事例を解説
この記事を読んで理解できること
- 製造業の働き方改革の5つの取り組み
- 製造業で働き方改革が必要な理由
- 製造業の働き方改革による成功事例
あなたは、
- 製造業の働き方改革の取り組みが知りたい
- そもそもなぜ製造業で働き方改革が必要なの?
- 製造業で成功している事例を参考にしたい
などとお考えではないですか?
昨今の人材不足等の影響もあって、製造業界では、働き方改革を進めていくことが大きな課題となっています。
なぜなら、今までのようにただ人を募集するだけでなく、柔軟な働き方のできる労働環境や、仕事にやりがいが感じられる評価制度などの導入が必要だからです。
そこでこの記事では、
1章では、製造業の働き方改革の取り組みを
2章では、製造業で働き方改革が必要な理由を
3章では、製造業の働き方改革による成功事例
について解説します。
この記事を読んで、製造業の働き方改革のポイントをしっかり理解し、今後の活動に役立てて下さい。
1章:製造業の働き方改革の5つの取り組み
製造業の働き方改革の取り組みは、主に以下の5つです。
- 長時間労働を削減する
- 雇用者の不平等な待遇を無くす
- 柔軟な働き方ができる環境を整備する
- 賃金の引上げや労働生産性を向上する
- ハラスメントを防止する
それぞれ説明します。
1-1:長時間労働を削減する
製造業の働き方改革の取り組みの1つ目は、「長時間労働を削減する」ことです。
なぜなら、現在の製造業は、慢性的な人手不足のため長時間労働が常態化しているからです。
例えば、厚生労働省が出している「令和4年度労働統計要覧」の「産業別月間実労働時間数」によれば、製造業の月間総実労働時間は「159.4時間」と、全産業の中でも4番目に高い数字となっています。
出典:厚生労働省 令和5年度労働統計要覧「産業別月間実労働時間数」
また、長時間労働が常態化すると、人件費が高くなるだけではなく、従業員の士気が低下したり、健康面でも悪影響が生じるなど、様々な問題が発生します。
こういった問題に対処するために、会社としても時間外労働の上限を設けたり、IT化の推進等により生産性を向上させるなど、長時間労働を削減するための対策が必要になります。
そのため、製造業の働き方改革の取り組みとして、「長時間労働の削減」が最も重要な課題として挙げられます。
1-2:雇用者の不平等な待遇を無くす
製造業の働き方改革の取り組みの2つ目は、「雇用者の不平等な待遇を無くす」ことです。
現在の日本では、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」という指針に基づいて、「同一労働同一賃金」が原則とされています。
しかし、正規社員と契約社員や派遣社員との間では、実態として業務内容が同一であったとしても、賃金に格差があるなど大きな待遇の差が発生している場合があります。
例えば、厚生労働省が発表している「令和4年賃金構造基本統計調査」によれば、製造業の正社員の平均賃金が324.7 万円であるのに対して、正社員以外の平均賃金は205.5 万円となっており、100万円以上もの差が生じています。
出典:厚生労働省 「第6-3表 雇用形態、性、産業別賃金、対前年増減率及び雇用形態間賃金格差」
これらのデータからも、日本では、まだまだ雇用形態によって不平等な待遇の差がある場合が多いです。
待遇の格差は、従業員のモチベーション低下につながるだけではなく、生産性の低下や、トラブルの原因にもなります。
そのため、製造業の働き方改革の取り組みとして、「雇用者の不平等な待遇を無くす」ことが求められます。
1-3:柔軟な働き方ができる環境を整備する
製造業の働き方改革の取り組みの3つ目は、「柔軟な働き方ができる環境を整備する」ことです。
なぜなら、柔軟な働き方ができる環境を整備することが、従業員のワークライフバランスの実現に繋がるからです。
柔軟な働き方の例として、育児休暇やフレックスタイム制の導入、テレワーク環境の整備などがあげられます。
これらの制度を整えることで、育児や介護などの事情で労働時間に制約がある従業員も、仕事と家庭を両立できます。
同じ労働時間でも、多様で柔軟な働き方を導入することで、従業員の労働環境は大きく改善します。
そのため、製造業の働き方改革の取り組みとして、「柔軟な働き方ができる環境を整備する」ことが挙げられます。
1-4:賃金の引上げや労働生産性を向上する
製造業で必要な働き方改革の取り組みの4つ目は、「賃金の引上げや労働生産性を向上する」ことです。
賃金の引き上げは従業員のモチベーションにも直結しますが、日本では賃金の伸び率が非常に低いです。
例えば、2023年7月11日の「OECD雇用見通し2023」の発表を受けて、日本経済新聞が行った調査によれば、2020年12月から2023年5月の、日本の最低賃金の伸び率は、名目・実質ともにOECD諸国の平均値の「約3分の1」という低水準です。
※参考:日本経済新聞 「日本の最低賃金の伸び、OECD平均の3分の1未満」
しかし一方で、賃金の引き上げを実施すると、人件費の増加も避けられません。
そこで、働き方改革の取り組みとして、「賃金の引上げ」と「労働生産性の向上」をセットで行うことが求められます。
1-5:ハラスメントを防止する
製造業の働き方改革の取り組みの5つ目は、「ハラスメントを防止する」ことです。
万が一、職場でハラスメントが発生してしまった場合、従業員のモチベーションや生産性の低下、離職率の増加などの、悪影響を及ぼします。
ハラスメントの例として、「セクハラ」が一番に挙げられることが多いですが、他にも「パワハラ」や「妊娠・出産・育児・介護休業などについてのハラスメント」等も予防する必要があります。
例えば、令和3年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「セクハラ」以外のハラスメントについては、過去3年間で件数が変わらない又は増加しています。
※参考:出典:令和2年度 厚生労働省委託事業 「職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)」
ハラスメントを防止するための方法としては、
- ハラスメント防止のための定期的な研修の実施する
- 匿名の相談窓口を設置する
等の方法が考えられます。
なお、前述の「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、ハラスメント対策を実施した企業の40%近くが、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」等の、副次的な効果も感じています。
ハラスメントを防止することは、予防になるだけでなく、副次的な好影響も生じる可能性が高く、働き方改革の一環として、多方面に大きな効果をもたらします。
そのため、製造業の働き方改革の取り組みとして、「ハラスメントを防止する」ことが挙げられます。
2章:製造業で働き方改革が必要な理由
製造業で働き方改革が必要な理由は、以下の4つです。
- 労働者が減り人手が足りない
- 技術者が高齢化し後継者がいない
- IT化などの環境整備が進んでいない
- 仕事にやりがいが感じられない
それぞれ説明します。
2-1:労働者が減り人手が足りない
製造業で働き方改革が必要な理由の1つ目は、「労働者が減り人手が足りない」ことです。
労働力の不足は、企業の生産性を低下させてしまい、納期の遅延を発生させる原因にもなります。
ところが、経済産業省が作成した「2023年ものづくり白書」によれば、現在の製造業では約11万人もの人手が不足しています。
また、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が行った調査によれば、事業に影響を及ぼす社会情勢の変化として、56%もの企業が、「人手不足」と回答しています。
※参考:出典:経済産業省「厚生労働省 文部科学省「2023年版 ものづくり白書」」
このように、製造業では「労働者が減り人手が足りない」ため、働き方改革を実施して、従業員にとって魅力的な労働環境を整備することで、人手不足に歯止めをかける必要があります。
2-2:技術者が高齢化し後継者がいない
製造業で働き方改革が必要な理由の2つ目は、「技術者が高齢化し後継者がいない」ことです。
技術者の高齢化や後継者不足は、企業の技術的な競争力の低下に直結します。
ところが、先にあげた「2023年版ものづくり白書」によると、製造業の34歳以下の若年就業者数は、過去20年間で129万人も減少しています。
一方で、高齢就業者の割合は、2002年の4.7%から、2022年には8.6%となり、約20年間で増加しています。
つまり、熟練技術者がどんどん高齢化していく一方で、若手の就業者が減る一方となっているため、技術の承継が進んでおらず、後継者が不足しています。
そのため、働き方改革を進めて、若年層にとって魅力的な職場環境を整備することで、後継者不足に歯止めをかける必要があります。
2-3:IT化などの環境整備が進んでいない
製造業で働き方改革が必要な理由の3つ目は、「IT化などの環境整備が進んでいない」ことです。
IT化などの環境整備を進めることで、生産性を大きく向上させて、労働時間を削減できます。
しかし、製造業の多くの企業では、IT化があまり進んでいません。
例えば、スイス国際経営開発研究所が実施した、2022年の「デジタル競争力ランキング」では、日本は過去最低の29位となっています。
また、未だに、部品の調達などにおいて、紙図面作成・FAXでの送受信といったアナログ手法を用いている企業も多いです。
IT化などの環境整備が進んでいない原因としては、多くの企業から、「導入・活用できる人材が不足しているため」という声が散見されます。
そのため、IT化を進めるという点でも、人材確保のために、働き方改革によって魅力的な職場環境を整備することが必要になります。
2-4:仕事にやりがいが感じられない
製造業で働き方改革が必要な理由の4つ目は、「仕事にやりがいが感じられない」ことです。
やりがいのある仕事環境を整備することは、従業員のモチベーション向上や生産性アップに欠かせません。
しかし、製造業では、決められた工程を崩すことなくマニュアルに沿って仕事を進めることが求められるため、やりがいを感じにくいといわれています。
営業部門などに比べて、結果も数値で表れにくいため、適切な評価制度が設けられていないことも多いです。
そのため、働き方改革によって、従業員がやりがいを感じやすい評価制度の導入などが必要になります。
3章:製造業の働き方改革による成功事例
この章では、製造業の働き方改革による成功事例として、以下の3つを紹介します。
- ITツールの活用とペーパーレス化の実現
- 休暇制を導入し柔軟な働き方に対応する
- 人材の多能工化と短時間勤務の実現
それぞれ説明します。
3-1:ITツールの活用とペーパーレス化の実現
1つ目の成功事例は、「ITツールの活用とペーパーレス化の実現」により働き方改革を行った事例です。
大阪府にある「ディンク株式会社」では、出退勤の打刻や休暇申請にクラウドシステムを導入し、紙ベースでの勤怠状況の管理を廃止しました。
結果、勤怠管理や申請の時間短縮に繋がっただけではなく、人の手で行っていた給与計算も格段に楽になりました。
また、ビジネスチャットツールを導入することで、社内の情報共有やコミュニケーションがとりやすくなり、部署を超えた連携も高まりました。
ITツールの導入にあたっては、厚生労働省の「職場意識改善助成金」(現在は「働き方改革推進支援助成金」に改称)などの助成金も積極的に活用しており、予算面でも参考にしやすい成功事例です。
※参照:ディンク株式会社 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省
3-2:休暇制を導入し柔軟な働き方に対応する
2つ目の成功事例は、「休暇制を導入し柔軟な働き方に対応する」ことで、働き方改革を行った成功事例です。
鹿児島県にある「鹿児島製茶株式会社」では、半年に2日取得可能な「リフレッシュ休暇」や、季節ごとに休暇を取得できる「シーズン休暇」などの多様な休暇制度を導入しました。
結果、有給取得率も向上し、なんと43%から62%にまで向上しました。
他にも「子の看護休暇」を拡充したり、新たに「育児目的休暇」を整備したりした結果、鹿児島県では初となる「プラチナくるみん」の認定も受けることになりました。
休暇制度の拡充などにより働き方改革を行う際の、参考となる成功事例です。
※参照:鹿児島製茶株式会社 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省
3-3:人材の多能工化と短時間勤務の実現
3つ目の成功事例は、「人材の多能工化と短時間勤務の実現」をおこない、働き方改革に成功した事例です。
福岡県にある「宮田織物」では、自分の担当外の業務も行うことができるような社員の「多能工化」を推進し、突発的な事態にも互いにフォローし合って対応できる環境を整えました。
また、育休から復帰した社員に対して、9時~16時の間で1日5時間から勤務できる短時間勤務制度を実現するなどの、短時間勤務制度の拡充にも取り組んでいます。
これらの働き方改革を進めた結果、社員のライフステージの変化に対応できる、より働きやすい環境が整備されています。
※参照:宮田織物株式会社 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省
まとめ:製造業の働き方改革の取り組み
最後に、今回の内容を振り返ります。
【製造業の働き方改革の5つの取り組み】
- 長時間労働を削減する
- 雇用者の不平等な待遇を無くす
- 柔軟な働き方ができる環境を整備する
- 賃金の引上げや労働生産性を向上する
- ハラスメントを防止する
【製造業で働き方改革が必要な理由】
- 労働者が減り人手が足りない
- 技術者が高齢化し後継者がいない
- IT化などの環境整備が進んでいない
- 仕事にやりがいが感じられない
【製造業の働き方改革による成功事例】
- ITツールの活用とペーパーレス化の実現
- 休暇制を導入し柔軟な働き方に対応する
- 人材の多能工化と短時間勤務の実現
この記事では、製造業の働き方改革について、必要とされる理由や取り組み、参考となる成功事例などをお伝えしました。
少子高齢化等から慢性的に人が不足している製造業界では、業界全体で働き方改革を進めていく必要があります。
この記事が、働き方改革を行うための一助になれば幸いです。
とはいえ、自社のやり方が法律に適合しているのか、他に良い方法はないのかなど、働き方改革を考える上では、法律の専門知識が必要になることも多いはず。
労働問題で悩んだ場合は、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。
法律の専門家である弁護士は、一般人には思いつかないような観点からの提案もしてくれます。