歩合給制とは?正しい意味と違法なケース、未払残業代の計算方法を解説

監修者

弁護士法人QUEST法律事務所
代表弁護士 住川 佳祐

歩合給制とは?正しい意味と違法なケース、未払残業代の計算方法を解説
チェック
この記事を読んで理解できること
  • 歩合給制とは
  • 歩合給制でも残業代は取れる!計算方法を徹底解説
  • 不当な低賃金労働に注意!最低賃金を下回っていないかチェックしよう
  • 未払残業代と最低賃金に満たない部分の賃金請求方法

歩合給制とは、「個人の成績や売り上げに応じて計算した給与のこと」を言います。

歩合給制には様々な言い方があり、例えば、募集要項などでよく見かける、

・出来高払制
・インセンティブ給制
・請負給制

などは、すべて歩合給制を指します。

この記事ではこのようなブラック企業に対抗できるよう、歩合給制の正しい意味を解説したうえで、残業代の計算方法や最低賃金のチェックリストを紹介していきます。

この記事を読んで歩合給の正しい意味をきちんと理解しましょう。

【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】

■歩合給制の2つのタイプ

①固定給+歩合給…固定給にプラスして、出来高に応じて給与が支払われる
➁完全歩合給制…給与のすべてが出来高に応じて支払われる(違法)

■歩合給制のメリット・デメリット

メリット:成果を出せれば給与が高くなる

デメリット:給与が一定ではないので生活が不安定になる、サービス残業になりがち

■歩合給制の場合は、残業代が未払いになっていないかチェックすることが大事

  • 歩合給の額は固定でないため、場合によっては最低賃金を下回っていることもある。最低賃金を下回っている場合には、最低賃金と給与の差額がもらえる。
  • 歩合給制の中に、明確な残業代部分を分けないで、残業代を含むとするのは違法。
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1章:歩合給制とは

歩合給制とは「個人の成績や売り上げに応じて計算した給与制度のこと」を言います。

しかし、実はこの制度を悪用するブラック企業も存在します。そんな歩合給制のオモテとウラを徹底解説します。

1-1:完全歩合給制は違法!歩合給制の正しい意味

歩合給制と一口に言っても、給与の支払い方法には2つのパターンがあります。

①固定給+歩合給…固定給にプラスして、出来高に応じて給与が支払われる
➁完全歩合給制…給与のすべてが出来高に応じて支払われる

この中で、実は➁完全歩合給制は法律上違法とされています。これはどういうことでしょうか。

法律によれば、「あなたが一定時間働いた場合には、その時間に合わせて給料を払わないといけない」とされています。

このようにしないと、給与があまりに低くなり、生活できなくなるおそれがあるからです。

そのため、歩合給制をうたっている場合でも、実際には「固定給+歩合給」の形をとっているのです。

1-2:歩合給制のメリット・デメリット

では、固定給と比較し、歩合給制のメリット・デメリットはどこにあるのでしょうか。

【メリット】
・成果を出せれば給与が高くなる
→歩合給制は、できた成果に応じて給与が変わります。そのため、能力がある人にとっては給与を多くもらえるというメリットがあります。

【デメリット】
・給与が一定ではないので生活が不安定になる
→歩合給制は、固定給のように給与が一定に定まっていないことから、生活の基盤が不安定になりがちです。

・サービス残業になりがち
→歩合給制は結果が給与に結びつくため、つい残業をしてしまいがちです。ブラック企業の中には「自分で勝手に残業したのだから」と残業代を払わない会社もあります。

2章:歩合給制でも残業代は取れる!計算方法を徹底解説

歩合給の仕事をする際に覚えておいてほしいことは、「歩合給であっても残業代が出る」ということです

この章では、歩合給制でも残業代を請求する方法を徹底的に解説していきます。

2-1:「歩合給の中に残業代が含まれている」は違法 

歩合給制を採るあなたの会社では、こんなことを言われていませんか?

「残業代は歩合給に含まれています。」
 

しかし、会社が歩合給の中に残業代を含めるには、一定の要件を満たす必要があります。

もし、あなたの会社が要件を満たしていない場合には違法になるので、あなたは残業代をもらえる可能性があります。
 

この点、判例によれば、歩合給の中に残業代を含める場合には、「通常の労働時間の賃金と、残業代部分が明確に区別できること」という条件を満たす必要があります。

「歩合給には残業代を含む」との規定が就業規則の中に存在する場合、歩合給の中のいくらが残業代なのかは把握できません。
したがって、通常の労働時間の賃金の部分と、残業代部分が明確に区別できませんので、残業代が含まれるという合意は無効となります。

また、通常の労働時間の賃金と残業代が明確に区別されていたとしても、名目が「残業代」というだけで実質はただの歩合給である場合、残業代として扱われない可能性があります。
(ただし、かなり専門的な話になるため、専門家に実際に聞いてみましょう。)

例えば、
「売上げの10%を歩合給として支払う。そのうちの2割を残業代とする。」という就業規則の記載が存在していたとしましょう。

この場合、
通常の労働時間の賃金=歩合給の8割
残業代       =歩合給の2割
であり、両者は明確に区別されているとはいえます。

しかし、「残業代」とされている部分は、実際は、社員の方が頑張った成果に過ぎず、残業をしたことの対価ではありません。

つまり、「残業代」という名目であるだけで、中身はただの「歩合給」ということです。
(つまり、残業代でないものが「残業代」という名前を付けられているだけに過ぎない)

このような場合、「残業代」部分について、ただの「歩合給」であり、残業代ではないと主張できる可能性があります。
詳しくは、専門家に聞いてください。

このように、通常の労働時間の給与と残業代部分が区別できない場合や歩合給が「残業代」と名付けられているにすぎない場合、いくら歩合給をもらっても、残業代は未払いということになり、あなたは適切な金額の残業代を貰える可能性があるのです

この場合には、残業代請求をするケースをご覧ください。

【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠

2-2:残業代の計算方法

ここまでで歩合給制でも残業代の支払いを受けられることがわかりました。

そこで、次は歩合給制の場合の残業代の計算方法を見ていきましょう。

【固定給部分と歩合給部分の両方がある場合】
残業代の額は以下の計算式で導かれます。

基礎時給×割増率×残業時間

① 基礎時給

基礎時給の算出方法は、固定給部分と歩合給部分とで異なります。

固定給部分については、
基礎時給
=固定給÷所定労働時間

歩合給部分については
基礎時給(1時間当たりの給与)
=歩合給の額÷総労働時間(所定労働時間+残業時間)

となります。
歩合給部分に対して、割る時間は所定労働時間ではないことに注意しましょう。

➁次に基礎時給に割増率をかけます。

基礎時給×割増率=1時間当たりの残業代

割増率についても、固定給部分と歩合給部分とで異なります。

固定給
法定労働時間を超えた労働:1.25倍

歩合給
 法定労働時間を超えた労働:0.25倍

なお、割増率は複数存在します。詳しい割増率について、

【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠

の記事を参照してください。

③最後に、1時間あたりの残業代に残業時間をかけましょう。

1時間当たりの残業代×残業時間=あなたがもらえる残業代

複雑になりましたが、最後に練習してみましょう。

【例】固定給20万円、歩合給として10万円もらっているAさん(月給の合計は30万円)は、1か月で190時間働いた。そのうち30時間が時間外労働だった。(所定労働時間は160時間)

・固定給部分
① 基礎時給
固定給÷所定労働時間
=20万円÷160時間
=1250円

② 割増率
1.25倍となるため、残業の時給は
1250円×1.25=1562.5円

③ 残業時間をかける
1250円×1.25×30時間=4万6875円(固定給部分の残業代の額)

・歩合給部分
①基礎時給
歩合給÷総労働時間
=10万円÷190時間
=526円

②割増率
0.25倍となるため、残業の時給は、
526円×0.25=131.5円

③残業時間をかける
526円×0.25×30時間=3945円(歩合給部分の残業代の額)

そして、残業代の総額は、固定給部分と歩合給部分の残業代の額を足し合わせたものとなります。

つまり、
4万6875円+3945円=5万0820円となります。

3章:不当な低賃金労働に注意!最低賃金を下回っていないかチェックしよう

世の中には歩合給制を活用した素晴らしい会社もたくさんありますが、中には、歩合給制を悪用して、非常に低い給与であなたをこきつかうブラック企業も存在します。

そこで、歩合給制の場合には

最低賃金を下回っていないか

という点もチェックしましょう。

なぜなら、歩合給制の場合には、「売上の〇%」と示されるため、実際に計算をして見ないと最低賃金を下回っているかわからないからです。

ここで、最低賃金とは、法に認められた最も低い給与額のことです

あなたの給与は大丈夫ですか?早速確認してみましょう。

3-1:あなたの時給の計算方法

最低賃金は、1時間あたりの金額(時給)で定められています。そのため、まずはあなたの時給を計算してみましょう。

時給は

①固定給部分の時給
固定部分の給与÷170時間
②歩合給部分の時給
歩合給部分の給与÷総労働時間
⇒①+②=時給

という式で出すことができます。

時給を出すことができたら、次に自分の働いている都道府県の最低賃金をチェックしましょう。

3-2:都道府県別最低賃金リスト

最低賃金は都道府県ごとに異なります。

ここでは最低賃金の一覧表を用意しましたので、自分が働いている都道府県の最低賃金を確認してみましょう。

都道府県名 最低賃金時間額【円】 発効年月日
北海道 810 平成29年10月1日
青  森 738 平成29年10月6日
岩  手 738 平成29年10月1日
宮  城 772 平成29年10月1日
秋  田 738 平成29年10月1日
山  形 739 平成29年10月6日
福  島 748 平成29年10月1日
茨  城 796 平成29年10月1日
栃  木 800 平成29年10月1日
群  馬 783 平成29年10月7日
埼  玉 871 平成29年10月1日
千  葉 868 平成29年10月1日
東  京 958 平成29年10月1日
神奈川 956 平成29年10月1日
新  潟 778 平成29年10月1日
富  山 795 平成29年10月1日
石  川 781 平成29年10月1日
福  井 778 平成29年10月1日
山  梨 784 平成29年10月14日
長  野 795 平成29年10月1日
岐  阜 800 平成29年10月1日
静  岡 832 平成29年10月4日
愛  知 871 平成29年10月1日
三  重 820 平成29年10月1日
滋  賀 813 平成29年10月5日
京  都 856 平成29年10月1日
大  阪 909 平成29年9月30日
兵  庫 844 平成29年10月1日
奈  良 786 平成29年10月1日
和歌山 777 平成29年10月1日
鳥  取 738 平成29年10月6日
島  根 740 平成29年10月1日
岡  山 781 平成29年10月1日
広  島 818 平成29年10月1日
山  口 777 平成29年10月1日
徳  島 740 平成29年10月5日
香  川 766 平成29年10月1日
愛  媛 739 平成29年10月1日
高  知 737 平成29年10月13日
福  岡 789 平成29年10月1日
佐  賀 737 平成29年10月6日
長  崎 737 平成29年10月6日
熊  本 737 平成29年10月1日
大  分 737 平成29年10月1日
宮  崎 737 平成29年10月6日
鹿児島 737 平成29年10月1日
沖  縄 737 平成29年10月1日

3-3:最低賃金を下回っていた場合にはいくら請求できる?

もしも、あなたの時給が最低賃金を下回っていればそれは違法となります

違法な場合には、
(最低賃金-今の給与から算出された時給)×労働時間
の分だけ差額を請求することが可能になります。

(例)栃木県に住むBさんは歩合給制のもと1か月に80時間働き、5万円もらっている。
→時給は5万円÷時間80=時給625円
栃木県の最低賃金は800円なので、
(800円-625円)×80時間=1,4000円
1万4000円がもらえる計算になる。

時給が最低賃金を下回っている場合には、弁護士に相談しましょう

4章:未払残業代と最低賃金に満たない部分の賃金請求方法

未払いの残業代や最低賃金に満たない部分の賃金を請求する場合、何をしたらよいのでしょうか。

まずすべきことは、自分が働いていた証拠を集めることです。

残業代や最低賃金に足りない場合

・タイムカード
・日報
・業務メール
・勤怠マニュアル
・PCのログイン履歴

などが証拠として有用です。

詳しくは

【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠

をご参照ください。

同時にすべきことは、残業代や最低賃金を請求する方法を決めることです。請求方法は、大きく分けて2つあります。

・自分で請求する→内容証明郵便を送る、労働基準監督署に相談する

・弁護士に依頼する

自分で請求するのは簡単でお金もあまりかかりませんが、

・自分で残業代を計算する必要がある
・自分で書面を作成しなければならない
・会社と交渉するには多大な労力がかかる

という欠点があります。

そのため、自分で残業代を請求するよりも、弁護士に依頼する方がおすすめです。 
詳しくはこちらの記事を参考に、請求してみましょう。

辞めた後でも大丈夫!未払い給料の3つの相談先と弁護士に依頼する方法

なお、残業代や最低賃金との差額は、給料日から3年で時効にかかり、消滅してしまいます。請求する場合は早めに行動しましょう。

まとめ:歩合給制について

いかがだったでしょうか?

簡単にこの記事を振り返ってみましょう。

・歩合給制とは「個人の成績や売り上げに応じて計算した給与のこと」
・生活が不安定になるため、完全歩合給制は違法
・歩合給制のメリットは、成果を出せれば給与が高くなること
・歩合給制のデメリットは、①給与が一定ではないので生活が不安定になること➁サービス残業になりがちなこと
・歩合給制の中に、明確な残業代部分を分けないで、残業代を含むとするのは違法
・残業代の計算方法は3ステップ
→基礎時給、割増率、残業時間を正確に把握する必要性 
・歩合給の額は固定でないため、場合によっては最低賃金を下回っていることもある。
・最低賃金を下回っている場合には、最低賃金と給与の差額がもらえる
・最低賃金は都道府県ごとにもらえる額が異なる

これから歩合給制の職に就く人も、今歩合給のもとで働いている人も、自分の給与は正しく出ていますか?この記事を参考に、早速計算してみましょう。

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