正解は「拒否する」!退職強要された場合のシーン別対処法を紹介
この記事を読んで理解できること
- 退職を強要された場合の対処法
- 退職を「強要された」と判断できるライン
- 退職することになったら
このように、会社があなたに無理やり退職届を出すよう迫って来ることがあります。
これを退職強要といいます。退職強要は違法ですので、あなたはこれに応じる必要がありません。
しかし、いきなり上司に退職するよう迫られたら、「どうしていいかわからない」のではないでしょうか。
そこで、この記事では、退職強要への対処法や退職することになった場合にやるべきことを解説します。
2章にはチェックリストも用意してありますので、退職強要にあたるか自分で判断してみましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■退職強要の対処法
・退職届を出していない場合
→徹底的に提出を拒否する
・退職届を出してしまった場合
→弁護士に相談し、会社に戻ったり、賠償金を請求する
■退職強要とは
・退職強要とは「会社が圧力をかけ、退職届を強制的に自分で出させること」
・退職強要にあたるかは、期間の長さや1回あたりの時間の長さ、上司の言動などから総合的に判断する
・退職勧奨との違いは、程度がひどいかどうか
■退職したらすべきこと
①「会社都合」での失業保険の受給
②未払い残業代の請求
目次
1章:退職を強要された場合の対処法
まずは、退職を強要された場合の対処法について見ていきましょう。
1-1:まだ退職届を出していない場合
【step1】退職届を出すことを拒否する
退職を強要された場合、まずはこれに応じないことが重要です。
なぜなら、会社がどのように言おうとも、あなたが退職に応じる義務はないからです。
また、いったん退職届を提出してしまうと、これを覆すのは難しくなる、という実情もあります。
【step2 弁護士に相談】
退職強要を受けたら、すぐに弁護士に相談に行きましょう。
このときに、以下のような証拠を用意しておくと、相談がスムーズに行きます。
・上司の言動を録音したICレコーダー、スマホのボイスメモ
・上司とやり取りをしたメール
・退職を強要されるに至った経緯を書いたメモ
【step3 内容証明郵便】
次に、会社に対し、内容証明郵便を送り、退職強要をやめてもらうようにしましょう。
自分で内容証明を送ることもできます。その場合には、以下の文面を使いましょう 。
私は、貴社○○支店の○○課にて勤務しております。
去る平成○年○月○日、私は、○○支店長である○○○○氏に「会社が人員削減を行っているので、自主的に退職してほしい」と退職を強要されました。
私が、退職する意思がない旨を同支店長にお答えしたところ、その後、同支店長より何度も呼び出しがあり、「○○○○だから退職しろ。このままでは解雇する。」「退職しなければ○○するぞ」等と退職を強要されています。
「繰り返してなされる執拗かつ半強制的な退職の勧奨」、「退職勧奨拒否を理由として不利益な措置を行うこと」は違法です。直ちに、私に対する退職強要や嫌がらせを中止してください。
万が一、今後も、社会通念上の限度を超えた退職勧奨(退職強要)や嫌がらせ等を継続する場合には、法的手段に訴える所存であることを、併せて通知します。
内容証明には、文字数や出し方に決まりがあります。
内容証明の作り方について、詳しくは以下の記事を参照してください。
残業代を内容証明で請求!自分で出す方法と適切なタイミングを徹底解説
もっとも、自分で内容証明を出しても、会社がおとなしく従ってくれることはほとんどありません。
弁護士から内容証明郵便を送ってもらう方が良いでしょう。
【step4 差し止めの仮処分】
内容証明を送ってもなお、会社が退職を強要してくるときは、「差止めの仮処分」という方法を取ります。
これは、「ひとまず退職強要をやめなさい」という裁判所の命令です。
仮処分の流れとしては、
仮処分命令申立書の提出→自分の審尋(裁判官との面談)→相手方の審尋→仮処分命令
となります。
ここで、仮処分命令申立書を出す際には、「どのような権利を守りたいのか、なぜその権利を守る必要性があるのか」を裁判所に説明しないといけません。
しかし、この説明には法律の知識が必要であり、自分で行うことは難しいと言えます。
差し止めの仮処分を行いたい場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
1-2:もう退職届を出してしまった場合
退職届を出してしまった場合は、弁護士に相談しましょう。
1-2-1:弁護士に相談できる2つのこと
退職届を出してしまった場合、
①会社に戻って賃金をもらう
②賠償金をもらう
という方法をとることができます。
①会社に戻って賃金をもらう
会社に戻るためには退職届の無効や取り消しを主張しないといけません。
例えば、
・暴行により退職届を出すよう迫った
・「退職届を出さなければ、お前の家族がどうなってもいいのか」と脅した
など、強迫にあたるケースであれば、退職届は取り消すことができます。
ただし、実際どのようなケースが退職届の無効や取り消しにあたるのかは、法律による専門的な判断が必要になります。
まずは、どのような事情で退職届を出してしまったのか弁護士に説明し、退職届の無効や取り消しを主張できるのか確認してみましょう。
②賠償金をもらう
退職強要を受けた場合には、賠償金をもらうこともできます。
会社がどのような様子で働きかけたのかにもよりますが、賠償金の相場としては、20~50万円 が多いようです。
内容証明を出して賠償金を求める、という方法はありますが、自分で交渉をしても、会社が賠償金を払ってくれることはほぼありません。
賠償金が欲しい場合には、弁護士に会社との交渉を依頼しましょう。
【コラム】必要な証拠とは
退職強要について弁護士に相談する場合には、退職強要がされたことを示す証拠が必要になります。
証拠がないと、会社との交渉の場で、言った・言わないの水掛け論になってしまうからです。
そこで、可能であれば以下のような証拠を準備しておくと良いでしょう。
・どういった経緯で辞めたのか
・上司とのやり取りを示す書面・メール
・上司の発言を録音したICレコーダー
1-2-2:弁護士に相談してからの流れ
弁護士に相談した場合でも、いきなり裁判になるわけではありません。まずは弁護士が会社と交渉し、解決を図ります。
上手くいかない場合には、労働審判、裁判へと進みます。
*労働審判とは専門家と裁判官が一緒に労働問題の解決を図る制度を言います。必ず3回以内で終わるため、裁判よりスピーディーに解決することができます。
2章:退職を「強要された」と判断できるライン
そもそも退職強要とはどのような行為を指すのでしょうか。
2-1:退職強要の定義
退職強要とは、「会社が圧力をかけ、退職届を強制的に自分で出させること」を言います。
退職強要にあたるかは、会社があなたに退職をすすめた経緯全体を見て判断します。
そのため、退職強要にあたるかを簡単に決めることはできません。
しかし、上司の言動や退職を勧められた回数など、いくつかの判断ポイントがあります。
ここでは、判断ポイントをチェックリストにまとめましたので、自分で確認してみましょう。
【退職強要チェックリスト】
■ひとつでも該当すれば退職強要になります
退職届を出すよう、殴る、蹴るなどの暴行を受けた
「退職届を出さなければ家族に危害を加える」などの強迫を受けた
■チェック項目が複数あるほど、退職強要にあたりやすくなります
「お前は無能」など名誉を侵害するような発言があった
3人以上に囲まれて退職を勧められた
1回2時間以上など長時間にわたり説得された
数か月にわたって説得を受けるなど、期間が長い
面談の際に机をたたくなど、威圧的なふるまいがあった
上司からこのような言動・行動をされた場合には、その都度証拠をとっておくことが大切です。
2-2:似ているけれど違う!退職勧奨との違い
退職勧奨とは、様々な手口を使って、あなたに自発的に退職届を出させることを言います。
例えば、以下の例が退職勧奨にあたります。
・「別の会社に行くのが君のためだ」などと直接的に退職を促す
・仕事がほとんどない暇な部署においやって、自主退職を促す
「退職届を自分で出させるようにする」という点では、退職勧奨も退職強要も変わりません。
この2つの違いは、手段の程度にあります。
そのため、退職勧奨なのか退職強要なのか判断がしづらいケースも存在します。
「もしかして、自分のケースは退職勧奨かも?」と思ったら、以下の記事も参照してください。
退職勧奨とは?5分でわかる!退職勧奨のパターンと3つの対処法
2-3:退職が「強要された」と判断された裁判例・されなかった裁判例
退職強要について判断した裁判例を見てみましょう。
【退職強要が認められた例―兄まで巻き込む!「寄生虫」と呼ばれたCAの話】
(大阪地判平成11年10月18日)
キャビンアテンダントとして働くXは、タクシーに乗車中に事故にあい、後遺症のため1年間病気欠勤をした。その後、復職にむけて「知識テスト」を受けたが、結果が悪かったため、Xは上司に呼び出され、「CAとしての適正を欠いている」と言われた。その後も、複数回にわたり上司から「別の道を考えるべき」「普通は辞表を出すものよ。」「あなたは寄生虫」などと言われ、ときには説得が8時間に及ぶこともあった。さらにXの兄まで面談に呼ばれ、「退職するように説得してほしい」と告げられた。上司が実家まで行って、両親を説得したこともある。
Xはそれでも退職を拒否したが、復帰者訓練に不合格となったことを理由に解雇された 。
この裁判では、退職強要に対する慰謝料50万円が認められました。
面談が何回も行われたり、長時間にわたると、社員も精神的に疲れ、正しい判断ができなくなってしまいます。
そのため、このような事情がある場合には、退職強要が認められやすくなります。
また、今回のケースでは本人を「寄生虫」呼ばわりしたり、家族にまで面談を行ったりと、会社側のやり方に問題がありました。
退職強要の判断は様々な事情を考慮して行われるので、経過を少しずつ証拠に残していくことが大切です。
【退職強要が認められなかった例―優しい?ひどい?退職のための特別プログラム 】
(東京地裁平成23年12月28日)
会社は退職者支援制度として「特別支援プログラム」を用意した。これは、「①退職金に加えて特別支援金として給与15か月分を支給する②再就職支援をする」ことを内容とするプログラムであった。
Yは、業績が悪かったことからメンバーに選ばれ、プログラムを受けることになったが、これは退職強要に当たるとして、慰謝料を請求した。
社員が「退職したくない」と言っているにも関わらず、会社が退職するよう説得を続けることは原則として違法になります。
しかし、会社が丁寧に説得を続け、退職した場合の手厚い支援も用意している場合には、退職を勧め続けることも違法とならない可能性が高いのです。
では、会社からの退職強要を受け、退職することになったら何をすれば良いのでしょうか。
3章:退職することになったら
会社を退職することになったら、①失業保険の受給と②未払い残業代の請求をしましょう。
3-1:失業保険を受け取ろう
会社を退職したら、ハローワークに行って失業保険の受給手続きをしましょう。
退職強要によって退職した場合、失業保険の受給理由を「会社都合」にすることを忘れないでください。
失業保険の手続きや内容について、詳しくは以下の記事を参照してください。
失業保険とは?貰える金額から手続きの方法、受給資格などを徹底解説
3-2:未払い残業代を請求しよう
会社を辞めた後でも、未払いの残業代がある場合には会社に請求することができます。
未払い残業代はあなたが思った以上に高額になることもあります。
そのため、いくらになるのか一度確認することをおすすめします。
残業代の計算方法については、以下の記事を参照してください。
5分で分かる!正しい残業代の計算方法と実は残業になる8つの時間
残業代を請求するときは、時効で消滅することに注意しましょう。
残業代請求ができるのは、最後の給料日から3年間です。そのため、早めに行動に移しましょう。
残業代請求について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
3-3:賃金や賠償金をもらおう
退職強要を受け、退職届を出してしまった場合には、会社に対して以下の2つの請求をすることができます。
①会社に戻って賃金をもらう
②賠償金をもらう
自分でこういった請求をしても、会社はほぼ応じてくれません。
そのため、賃金や賠償金を貰いたい場合には、弁護士に依頼した方が良いでしょう。
詳しくは1-2-1で解説していますので、そちらを参照してください。
まとめ:退職を強要されたらどうする?
退職強要について理解できたでしょうか。
最後に簡単にまとめてみましょう。
【退職強要の対処法】
・退職届を出していない場合
→徹底的に提出を拒否する
・退職届を出してしまった場合
→弁護士に相談し、会社に戻ったり、賠償金を請求する
【退職強要とは】
・退職強要とは「会社が圧力をかけ、退職届を強制的に自分で出させること」
・退職強要にあたるかは、期間の長さや1回あたりの時間の長さ、上司の言動などから総合的に判断する
・退職勧奨との違いは、程度がひどいかどうか
【退職したらすべきこと】
①「会社都合」での失業保険の受給
②未払い残業代の請求
退職強要を受けたら、早い段階で弁護士に相談することが大切です。