【図解で分かる】残業代の正しい計算3ステップを弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- 残業代計算の流れとポイント
- 残業代請求の2つの方法
- 集めておくとスムーズに手続きできる証拠
- 残業代請求の2年の時効
あなたは、「正しい残業代の計算方法」を知っていますか?
私はこれまでに、弁護士として数多くの労働問題の相談に乗ってきた経験上、
- 自分がいくらの残業代をもらうべきなのか把握していない
- 自分の残業代を、間違った金額で把握している
という会社員が非常に多いと感じています。
一方で、私の経験上、会社の中には、残業代について間違った知識を持っていたり、意図的に社員が気づかないような手段を使っており、正しい金額の残業代を支払っていない会社も多いです。
そのため、あなたも自分で自分の本来の残業代を計算できるようになっておくことことが大事です。
実は、残業代の計算方法は難しくなく、簡単な3つのステップで計算できます。
計算方法を一度覚えておけば、自分が残業代を満額もらえているか分かり、損しないように行動してくことができるはずです。
そこでこの記事では、残業代の計算方法について、詳しく解説しています。
さらに、もし未払い残業代があれば、後から会社に請求することもできますので、いつか残業代を請求する時に活用できる、手続き方法やそのポイントもお伝えします。
しっかり読んで、周りの人にも教えてあげてくださいね。
目次
1章:残業代計算の流れとポイント
それでは、さっそく残業代の計算方法を解説します。
ですがその前に、自分で計算するのが面倒である場合は、以下の「残業代チェッカー」で計算してみてください。
自分で計算してみたいという場合は、これからお伝えする計算方法に従って計算してみましょう。
残業代は、あなたの給料の制度によって計算方法が異なりますので、基本的な計算方法と、様々なケースの計算方法を分けて解説します。
まずは基本的な計算方法から解説します。
1-1:基本的な計算方法
残業代は、以下の簡単な計算式で計算することができます。
計算式は簡単ですが、正確に残業代を計算するためには、以下のステップで計算する必要があります。
それでは、順番に解説していきます。
1-1-1:1時間あたりの賃金(基礎時給)を求めよう
まずは、1時間あたりの賃金(基礎時給)の計算方法から説明します。
基礎時給とは、1時間当たりの賃金のことで、時給制で働いている場合は、そのまま自分に適用されている時給のことです。
基礎時給の計算は、月給や日給、歩合給などでそれぞれ異なります。
①月給制
月給制の場合は、以下の計算式で計算することができます。
ここでの「月給」には、自分の基本給だけではなく、以下の手当を含めることができます。
「一月平均所定労働時間」とは、あなたの雇用契約で定められている1ヶ月あたりの平均労働時間のことで、一般的に170時間前後であることが多いです。
たとえば、基本給が20万円、基礎時給の計算に含めることができる手当が3万円あり、一月平均所定労働時間が170時間である場合は、
(基本給20万円+手当3万円)÷170時間=約1353円
と計算することができます。
②時給
時給制の場合は、あなたの時給がそのまま基礎時給になります。
③日給
日給制の場合は、あなたの日給の額を、あなたの一日の所定労働時間を割った額が基礎時給となります。
例えば、あなたの日給が1万2000円で、かつ、1日8時間労働が義務付けられているのであれば、あなたの基礎時給は、
基礎時給=1万2000円÷8時間=1500円
となります。
④年俸制
年俸制とは、年単位で賃金の金額を決める制度のことです。
年俸制の場合、残業代の計算式における「基礎時給の計算」のみが異なります。
年俸制の場合は、まずは年俸の金額を12で割り、その金額を一月平均所定労働時間で割って、基礎時給を計算します。
なお、ボーナスの額も含めて年俸額が決まっている場合は、年俸の金額からボーナスを引く必要がありません。
この基礎時給に、通常通り割増率や残業時間をかけることで、残業代を計算することができます。
年俸制について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
⑤歩合制
歩合制の場合の基礎時給の計算方法は少し特殊です。
歩合制の場合、
歩合給で算定される賃金の総額を総労働時間数で割ったものが基礎時給となります。
総労働時間数というのは、所定労働時間と残業時間の合計です。
例えば、1か月ごとに歩合給の額を算定している場合、所定労働時間が170時間で、残業時間が30時間だとしましょう。
その場合、総労働時間数は、
170+30=200時間ということになります。
歩合給の額が、20万円であれば基礎時給は、
基礎時給=歩合給÷総労働時間数
=20万円÷200時間
=1000円
となります。
歩合給については、以下の記事を参考にしてください。
基礎時給について理解できたら、次に基礎時給にかける「割増率」について把握しましょう。
1−1−2:「割増率」は残業した時間によって異なる
それでは、割増率について解説します。割増率とは、1時間当たりの賃金(基礎時給)に対してかける割合のことで、月給制の場合、以下の種類があります。
原則的に、「1日8時間・週40時間」を超えた時間働いた場合、その時間の基礎時給に「1.25倍」の割増率をかけた残業代がもらえます。
また、通常の残業時間とは別に、深夜残業の時間についても把握しておく必要があります。
【深夜労働の時間】
深夜労働とは、深夜(22時〜翌朝5時)の時間帯に働いた時間のことです。深夜労働は、通常の残業とは適用される割増率が異なりますので、注意してください。
また、通常の残業と法定休日の労働も、適用される割増率が異なるため、区別して考えなければなりません。
【法定休日の労働】
法律上、労働者は週1日以上の休日(法定休日)を取得できる権利があります。
そのため、その週に7日働いた場合は、7日目が法定休日になります。
「うちの会社では土日が休みだけれど、土日に出勤したらどっちも法定休日出勤になるのかな?」
「法定休日はあくまで「週1日」ですので、日曜から土曜まで働いた場合、その週の7連勤目である土曜日のみ「法定休日」になります。」
たとえば、基礎時給が1000円の場合は、
- 通常の残業:1250円
- 深夜残業:1500円
- 法定休日労働:1350円
- 法定休日における深夜労働:1600円
が、1時間あたりの残業代として支払われるということです。
なお、歩合給の場合に限り、割増率が異なります。
1.25倍ではなく0.25倍となることに注意が必要です。
この点については、詳しくは、以下の記事をご参考ください。
1−1−3:残業時間を正しくカウントしよう
残業時間とは、以下のように「法定労働時間」を超えて働いた時間のことです。
- 1日8時間を超えて働いた時間
- 週40時間を超えて働いた時間
さらに、以下の8つの時間も労働時間としてカウントすることができることがあります。つまり、これらの時間も残業代計算に含められる可能性があります。
【労働時間にカウントできることがある時間】
- 準備時間:制服、作業服、防護服などに着替える時間、始業前の朝礼・体操の時間など
- 後始末時間:着替え、掃除、清身
- 休憩時間:休憩中の電話番や来客対応などを依頼された場合
- 仕込み時間:開店前の準備やランチとディナーの間の仕込み時間
- 待機時間:トラックの荷待ちの時間
- 仮眠時間:警報や緊急事態に備えた仮眠の時間(特に警備や医療従事者など)
- 研修:会社からの指示で参加した研修
- 自宅の作業:仕事が終わらず自宅に持ち帰って仕事した時間
「じゃあ、自分が勝手に会社に残って働いた時間も残業時間にできるっていうこと?」
「そうではありません。働いた時間としてカウントできるのは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」である必要があります。簡単に言うと、上司などから明らかに「この作業をやりなさい」と指示されていた場合や、明確な指示は無かったものの、納期に間に合わないために、どうしても残業しなければなかった場合などの時間のことです。」
上記の「8つの時間」について、労働時間にカウントするためには証拠が必要です。必要な証拠については、第3章で詳しく解説します。
さて、残業時間を正しくカウントする方法について、理解できたでしょうか?それでは、具体例を紹介しますので、一緒に計算してみましょう。
1-1-4:残業代計算のシミュレーションをしよう
以下の例でシミュレーションしてみます。
(例)飲食店勤務のAさん
- 月給23万円(手当込み)
- 1ヶ月の残業時間100時間(深夜残業なし)
- 法定休日の出勤:8時間×2日)
- 一月平均所定労働時間170時間
まずは基礎時給を計算すると、
月給23万円÷170時間=約1353円
Aさんは100時間の残業と16時間分の休日労働をしているため、
通常の残業:基礎時給1353円×割増率1.25倍×100時間=16万9125円
休日労働分:基礎時給1353円×割増率1.35倍×16時間=約2万9225円
で、1ヶ月の残業代は、
16万9152円+2万9225円=19万8350円
と、合計19万8350円になることが分かります。仮に、同じ残業・休日出勤をずっと続けているとすると、残業代は2年前の分までさかのぼって請求することができるため、
19万8350円×24ヶ月=476万400円
となります。これほどの多額の残業代を請求することができるのです。
ここまで、基本的な計算方法について解説しましたが、理解できたでしょうか?
次に、これを踏まえて「変形労働時間制・裁量労働制」などの変則的なケースについて、解説します。
変則的なケース以外の人は、「2章:残業代請求の「自分でやる」と「弁護士に依頼」の2つの方法」に飛んでください。
1-2:みなし残業制・変形労働時間制などの場合の計算方法
最近、固定残業代制(みなし残業代制)を採用する会社が増えてきました。
固定残業代制(みなし残業代制)は違法であることのほうが多いのですが、仮にもし固定残業代制(みなし残業代制)が認められてしまうと、固定残業代の分を引いた残業代の計算をしなければなりません。
また、変則的な雇用形態を採用する会社も増えており、その場合が計算方法が特殊です。
一般的に採用されている変則的な雇用形態としては、
- 裁量労働制
- 変形労働時間制
などがあります。
これらの制度で働いている場合は、通常の残業代計算の方法とは計算方法が少し異なります。これから、これらの制度での残業代計算の正しい方法についてお伝えします。
1-2-1:固定残業代制(みなし残業代制)が認められる場合の残業代計算
固定残業代制(みなし残業代制)の場合、残業代の計算式で異なるのは、最後に固定残業代分を差し引くという点のみです。
固定残業代制(みなし残業代制)とは、毎月の決められた時間の残業に対して、定額の固定残業代を支払う制度のことです。たとえば、毎月30時間のみなし残業に対して、3万円の固定残業代を払うイメージです。
固定残業代制(みなし残業代制)では、実際に働いた時間がみなし労働時間を下回っても、決められた固定残業代が払われなければ違法です。
また、実際に働いた時間がみなし労働時間を超えた場合は、その超えた時間分の残業代が払われなければ違法です。
そのため、固定残業代制(みなし残業代制)の残業代計算では、これまで通りの計算をした後に、その金額から固定残業代分を差し引くことで、「本来もらえるはずの残業代」を計算することができます。
固定残業代制(みなし残業代制)の残業代計算の方法について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
あなたも違法?正しい固定残業代の計算方法と残業代を取り返す2つの手段
また、固定残業代制(みなし残業代制)はブラック企業によって悪用されることもあります。違法性があり、固定残業代が認められなかった場合、下記のように残業代の金額が大きくアップする可能性もあります。
1-2-2:裁量労働制の残業代計算
裁量労働制の場合は、残業代の計算式における「残業時間」のカウント方法のみが異なります。
裁量労働制とは、実際に働いた時間に関係なく、決められた時間働いたと「みなす」制度のことです。たとえば、1日のみなし労働時間を8時間と決めていた場合、4時間働いた日も、12時間働いた日も「8時間働いた」とみなされることになります。
ただし、裁量労働制でも残業代が発生するケースもあります。それは、みなし労働時間が最初から法定労働時間を超えて設定されている場合です。
たとえば、1日のみなし労働時間が「9時間」に設定されていたら、8時間を超える1時間分には、割増賃金が払われなければなりません。また、深夜の労働や休日の労働に関しても、割増賃金がもらえる権利があります。
また、そもそも裁量労働制が違法に適用されているケースがあります。
そのような場合は、1日8時間・週40時間を超えるすべての時間を残業時間にカウントできる可能性があります。
裁量労働制について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
【裁量労働制とは?】弁護士が解説する本当の意味と残業代のカラクリ
1-2-3:変形労働時間制の残業代計算
変形労働時間制の場合、残業代の計算方法が異なるのは、残業時間のカウント方法のみで、それ以外はここまで解説した通りの計算方法で計算できます。
変形労働時間制とは、一定の期間を設定し、その期間内の特定の日や週について、法定労働時間を超える所定労働時間を設定することができる制度です。
たとえば、特定の期間(例えば1か月)の平均所定労働時間が40時間の範囲内となるのであれば、特定の日において一日8時間を超えたり、特定の週において週40時間を超えて残業させることが可能になる制度です。
例えば、4月の他の週の残業時間をトータル5時間減らせば、4月の1週目の1週間の所定労働時間を45時間にすることができます。通常は「週40時間」を超えて働いた時間は、残業代が払われなければなりませんが、変形労働時間制が正しく適用されていた場合、残業代は発生しません。
上の図の場合は、この週の木曜日と金曜日は、1日の労働時間が10時間30分を超えた時間(上図だと21時30分)から残業時間となります。その部分は、残業代(割増賃金)がもらえなければなりません。
変形労働時間制について、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
変形労働時間制とは?誤解されがちな意味と企業が悪用している時の対処法
変則的なケースの残業時間の計算について、注意しなければならない点があります。
それは、これらの制度はブラック企業によって悪用され、残業代がごまかされていることもあるということです。
そのため、残業代を計算する前に、これらの制度が正しく適用される要件を満たしているか判断する必要があります。
要件を満たしていない場合、これらの制度は無効であり、原則通り、1日8時間・週40時間を超える時間が残業時間となります。
変則的な雇用ケースの残業代計算の方法について、理解できたでしょうか?
「会社から払われている残業代が、計算結果より少なくなった!」
という場合は、これから紹介する残業代の請求方法を読んで、いつか活用してください。
2章:残業代請求の2つの方法
それでは、これから残業代を請求する方法について解説します。
会社から残業代を取り返すための方法には、
- 自分で請求する方法
- 弁護士に依頼する方法
の2つがあります。
「自分で請求する方法」と「弁護士に依頼する方法」のメリット・デメリットをまとめると、以下の図のようになります。
それぞれの方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
【残業代を自分で請求する方法】
【残業代請求を弁護士に依頼する方法】
こうした請求の手続きを進める前にやっておいてほしいのが、「証拠集め」です。必要な証拠と、集める上での注意点についてお伝えします。
3章:集めておくとスムーズに手続きできる証拠
残業代を請求する最初のステップとして、自分で証拠集めを始めることをオススメします。
残業代請求でもっとも大事なのが「証拠集め」です。
証拠集めは弁護士に依頼し、弁護士から会社に証拠提出を要求してもらうこともできます。
しかし、中には証拠の提示を要求しても、提出しない会社も存在します。
そのため、可能ならば、会社に在籍しているうちに、自分で証拠を集めておくことで、よりスムーズに残業代の請求手続きを進められるのです。
集めるべき証拠には、
- 労働条件を示す証拠
- 残業時間を示す証拠
の2つがあります。
集めるべき証拠や集めるときのポイントについて、詳しくは以下の記事を参考にしてください。
【弁護士が解説】残業代をアップさせる証拠一覧と集め方マニュアル
4章:残業代請求の2年の時効
もう一点注意してもらいたいのが、残業代請求には2年という消滅時効があるということです。
時効を過ぎると、どんなブラック企業が相手だったとしても、残業代は二度と取り返すことができなくなります。
そのため、未払いの残業代を取り返したい場合は、できるだけ早めに行動する必要があります。
残業代請求の時効について、詳しくは以下の記事を参照してください。
残業代請求の時効は2年!時効を止める3つの手段と具体的な手続きの流れ
まとめ:残業代の計算
いかがだったでしょうか?
最後にもう一度、今回の内容を振り返りましょう。
まず、残業代は以下の計算式で計算することができます。
基礎時給は、
で計算でき、
割増率には、以下のものがあります。
また、残業時間とは「1日8時間・週40時間」を超えた労働のことで、以下の8つ時間も入れられることがあります。
【労働時間としてカウントできることがある時間】
- 準備時間:制服、作業服、防護服などに着替える時間、始業前の朝礼・体操の時間など
- 後始末時間:着替え、掃除、清身
- 休憩時間:休憩中の電話番や来客対応などを依頼された場合
- 仕込み時間:開店前の準備やランチとディナーの間の仕込み時間
- 待機時間:トラックの荷待ちの時間
- 仮眠時間:警報や緊急事態に備えた仮眠の時間(特に警備や医療従事者など)
- 研修:会社からの指示で参加した研修
- 自宅の作業:仕事が終わらず自宅に持ち帰って仕事した時間
これらの計算の結果、未払いの残業代があることが分かれば、
- 自分で会社に直接内容証明を送る
- 労働基準監督署に申告する
- 弁護士に依頼する
という手段で、残業代を請求することができます。
残業代請求には2年の時効がありますので、未払いの残業代があれば、早めに行動をはじめましょう。
【参考記事一覧】
歩合給制とは?誰でも5分でわかる正しい意味と不当な低賃金への対処法
あなたも違法?正しい固定残業代の計算方法と残業代を取り返す2つの手段
【裁量労働制とは?】弁護士が解説する本当の意味と残業代のカラクリ
変形労働時間制とは?誤解されがちな意味と企業が悪用している時の対処法
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