会社をクビになる理由は?解雇と退職勧奨の意味と3つの対処法を解説
この記事を読んで理解できること
- 会社の都合でクビになる場合
- 社員に原因があり、会社をクビになる場合
- 会社からクビを言い渡されたとき確認すべきこと
- 会社をクビになった場合の対処法
あなたは、
「会社の業績が悪いからクビにならないか心配」
「会社に損害を与えたらクビになる?」
「会社にクビと言われたけど辞めたくない」
などとお考えではないですか?
結論から言うと、会社が社員にクビ(解雇)を言い渡す際に、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は、社員を辞めさせることはできません。
労働契約法第十六条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
解雇には大きく分けて次の3つの種類があります。
・整理解雇
いわゆるリストラで、会社の業績が悪い場合に、経費削減のために人員をカットすること。
・懲戒解雇
社員が会社の秩序を著しく乱した場合に、制裁として行われる解雇。
・普通解雇
上記以外の労働者側に問題があった場合に行われる解雇。
また、クビ(解雇)には、大きく分けると会社の都合でクビになる場合と、社員に原因がありクビになる場合の2つがあります。
例えば、会社の業績不振などの理由でリストラ(整理解雇)される場合は、次の4つの事項からクビ(解雇)が有効かどうか判断されます
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
また、社員の勤務態度や勤務成績、違反行為などを理由にクビ(解雇)にする場合も、社員の落ち度の程度や行為の内容、会社に与えた損害などを考慮し、客観的合理性と社会的相当性が必要になります。
そこで、この記事では、1章で会社の都合でクビになる場合について、2章で社員に原因があり、会社をクビになる場合について解説していきます。
さらに、3章では会社からクビを言い渡されたとき確認すべきことを、4章では会社をクビになった場合の対処法を解説しています。
「会社をクビになりそう」「クビになってしまった」場合には、クビになった理由をきちんと理解し、その後の対処法を考えることがなにより大切です。
1章:会社の都合でクビになる場合
会社の都合で社員がクビになる理由としては、次の2つがあります。
- 会社が倒産した
- 会社の業績悪化による人員削減(整理解雇)
それぞれ解説していきます。
1-1:会社が倒産した
会社が倒産した場合は、破産手続を開始する前に社員を解雇するのが一般的です。
会社として社員に対する責任もあるため、社員の退職に関する手続きを行う必要がありますが、状況によっては退職関係の事務処理が行われないままクビになる(失業する)場合もあります。
会社が倒産しクビになった場合は、完全に会社都合の解雇となるため、失業保険を貰う際には、特定受給資格者として所定給付日数が拡大され、給付制限期間がなく待機期間7日間の翌日から給付が開始されます。
1-2:会社の業績悪化によるリストラ(整理解雇)
会社の都合でクビになる場合、そのほとんどは会社の業績悪化によるリストラです。
しかし、リストラの名のもとに、会社が正当な理由もなく社員を勝手に解雇してしまっては困ります。
そのため、整理解雇をするためには、その他の解雇と異なり、次の4つの条件を満たす必要があります。
① 人員削減の必要性
② 解雇回避の努力
③ 人選の合理性
④ 解雇手続の妥当性
① 人員削減の必要性
どうしても社員を減らさなければならない経営上の理由が必要です。
② 会社が解雇を避ける努力をしたこと
希望退職者を募集したり、役員報酬をカットしたり、会社は解雇以外の方法で会社を立て直す努力をしていなければなりません。
③ 解雇される人を選ぶ基準が合理的であること
主観的な基準で人を選ぶことは許されません。
客観的かつ合理的な基準をもって、公正に選ぶ必要があります。
④ 解雇手続きがきちんとなされたか
リストラをするにあたっては、時期や規模、方法などをきちんと説明する必要があります。
- 工場の生産の能力をあげるための解雇
- 役員の給与をカットせず、いきなりリストラを行った
- 職場で嫌われている人から解雇していく
- 労働組合との話し合いをせず、リストラを始める
このように、4つの条件を満たさずになされた解雇は、不当解雇にあたるため認められません。
あなたの解雇が不当解雇にあたる場合には、以下の記事も参照してください。
不当解雇された!4つの相談窓口と相談の仕方を弁護士が徹底解説
2章:社員に原因があり、会社をクビになる場合
社員に原因がありクビになる場合、解雇理由としては次の2つがあげられます。
- 普通解雇
- 懲戒解雇
また、解雇とは異なりますが、会社が社員に対して退職を勧める「退職勧奨」があります。
それぞれ解説していきます。
2-1:普通解雇
普通解雇とは、社員に何か問題があった場合に行われる解雇のことです。
例えば、遅刻・欠勤が多いなど勤務態度が著しく悪かったり、職上業の特性や能力不足など様々な理由があげられます。
また、社員が会社と結んでいる雇用契約に違反してしまった場合なども、解雇理由としてあげられます。
さらに解雇理由には、社員の落ち度の程度や行為の内容、会社に与えた損害などを考慮し、客観的合理性と社会的相当性が必要になります。
つまり、誰が見ても理にかなっている(合理性)解雇理由があったとしても、解雇するほどの理由(相当性)がなければ解雇は無効になります。
2-1-1:解雇が無効とされた例
① 数か所にわたり配置転換されたが、職務能力に欠けるとして解雇された事例
仕事上のミスで上司に注意されたり、クレームを受けたりして、人事考課で下位10パーセントに入っていたが、向上の見込みがないとはいえないとされた。
(東京地裁平成11年10月15日判決)
労働能率が劣り向上の見込みがないという判断は、平均的な水準に達していないというだけでは不十分です。
相対評価で判断された場合、評価の低い社員は必ず存在するため、単に相対評価が低いというだけでは解雇の理由に該当しません。
② 脳内出血で左半身に麻痺が残ったため、将来業務に耐えられないとして解雇された事例
脳内出血で後遺症があったが、発病前の職種以外の職種であれば十分に復職が可能であったとされた。
(大阪地裁昭和62年12月10日判決)
裁判所は、「まず軽作業に従事させて様子をみるなどある程度時間をかけて、適切な職場配置を検討するべき」だったとしています。
③ タクシー運転手が労災後遺症で免許喪失したこと等を理由に解雇された事例
喪失した二種免許は特に高度な専門性を有するものではなく、事業規模からして他の職種への配置転換も困難でないとされた。
(東京地裁平成20年9月30日判決)
2-1-2:解雇が有効とされた例
① 自ら営業職を希望しながら、営業成績が新入社員の実績を下回り、本人も成績向上するための努力をしなかった。
(東京地裁平成1年9月29日判決)
能力不足による解雇は、著しく成績が悪いことに加え、本人に改善の見込みがあるかをもとに判断します。
本人にやる気がなければ、いくら会社が頑張って指導をしても無意味だからです。
また、「成績が悪い」という評価が本当に正しいものであったかも判断の対象になります。
② 入社後重い病気にかかり、軽作業ポストを用意したが、23年間病気休職を繰り返し、日常の健康管理上の措置も必要であった。
(東京地裁昭和49年5月27日判決)
仕事ができるほど回復している場合には、法律上、復帰させなければいけません。
ただし、回復後の体調に見合ったポストがない場合など、社員が仕事を続けられるような環境にないときは、解雇も認められます。
③ 6か月の間に24回遅刻し、14回欠勤していた。ほとんどが無断欠勤であった。
(横浜地裁昭和57年5月25日判決)
数回の遅刻では、解雇は難しいといえるでしょう。
解雇が認められるのは、遅刻や無断欠席を繰り返しているなど、勤務態度が非常に悪い場合です。
また、長期間欠勤している場合であっても、それがうつ病などを原因とするものであれば、すぐには解雇できません。
解雇の前に休職を勧めるなど、会社は社員の経過を見なければいけないからです。
また「妊娠・出産」に関しては、これを理由に社員をクビにすることはできません。
なぜなら、妊娠・出産を理由として、社員に不利益な取り扱いをすることを法律が禁じているからです。
その他の理由に関しては、会社の就業規則や社員の行為の内容によって、クビの理由として適当かどうかが変わります。
2-1-3:解雇する場合は30日以上前の解雇予告が必要
ここまで解説したように、解雇条件を満たした場合は、社員に対して30日前に「解雇予告」をする必要があります。
例えば8月31日に解雇予告がされた場合には、9月30日までは、会社はあなたを解雇することができないのです。
ただし、これには例外があり、会社が予告に代わって「解雇予告手当」というお金を払えば、解雇予告なしにあなたを解雇することができます。
あなたがもらえる解雇予告手当の額は、以下の計算式で調べることができます。
(直前3か月に支払われた賃金総額)÷(3か月間の歴日数)×(解雇予告の短縮日数分)
具体例を見てみましょう。
(例)Aさんのケース
・給料:月給20万円(3か月で60万円)
・解雇予告日:3月25日
・解雇日:20日後(短縮10日)
歴日数の計算
・12月:31日間
・1月:31日間
・2月:28日間
合計90日
60万円÷90日×短縮10日=66,666円
となり、解雇予告手当として「66,666円」を会社からもらうことができます。
2-2:懲戒解雇
懲戒解雇とは、社員が会社の秩序を著しく乱した場合に、制裁として行われる解雇です。
例えば、会社の金を横領したなど、社内で犯罪を犯した場合には、解雇の理由があるといえるでしょう。
一方、プライベートな時間に事件や事故を起こした場合、必ず解雇になるわけではありませんが、新聞などで報道され、会社の名誉を傷つけたといえる場合は解雇になる可能性があります。
2-2-1:解雇が無効とされた例
① 職場内不倫等を理由として懲戒解雇された事例
不倫関係にあったことで職場内の風紀秩序が一定程度乱されることは否定できないが、職場内に具体的にいつどのような悪影響が生じたのかは明らかではない。
諸事情を考慮しても、懲戒解雇の理由に当たるということはできないとされた。
(東京地裁令和元年6月26日判決)
② 虚偽の訪問報告及び旅費等の不正支給等を理由として懲戒解雇された事例
営業先を訪問せず虚偽の訪問報告と旅費等を請求したとして、66項目もの大量の懲戒解雇の理由を掲げていたが、裁判所は営業先不訪問として認められるのは内16項目に留まるとして懲戒解雇は無効であるとした。
(大阪地裁令和元年12月12日判決)
③ 私生活上の住居侵入罪を理由として懲戒解雇された事例
社員が他人の家に入り込み、住居侵入罪で罰金2,500円に処された。
会社は、就業規則の「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に当たるとして懲戒解雇しましたが、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたもので、会社の体面を著しく汚したとまではいえないとした。
(最高裁昭和45年7月28日判決)
2-2-2:解雇が有効とされた例
① 鉄道会社の従業員が電車で痴漢行為を働き、一回チャンスを与えたのにまた痴漢行為に及んだ。
(東京高裁平成15年12月11日判決)
② 会社の業務に関係する訴訟を勝手に提起し、これを取り下げなかった。
(東京高裁平成17年11月30日判決)
会社の業務に影響が出るような事情があると、解雇が有効になりやすいです。
他にも、会社が兼業を禁止していたのに、終業後にアルバイトをしていた場合、アルバイトの時間が長すぎて昼間の業務に支障が出ていた、という事情があれば、解雇が有効となる可能性があります。
懲戒解雇では、会社が労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受けた場合は、解雇予告なく解雇することができます。
2-3:退職を勧める退職勧奨
会社が社員をクビにする方法のひとつとして、退職勧奨があります。
これは、会社が退職を勧め、社員との話し合い、合意によって、自分で辞表を出してもらおうとするものです。
具体的な方法としては、
- 上司から直接会社を辞めるように言われる
- 窓際に追いやって、仕事を与えない
- 品出しなど簡単な仕事しか与えない
などの方法がとられます。
さらにもっと悪質になると
- 退職届を出すまで暴行を加える
- 数人で取り囲んで退職を勧める
など強制的な方法がとられることがあります。
これを退職強要と呼びます。
退職勧奨をされた場合には、あわせて以下の記事も参照してください。
退職勧奨とは?ブラックな手口と対処法や賠償金が請求できるケースを解説
3章:会社からクビを言い渡されたとき確認すべきこと
会社からクビを言い渡された時に確認することは、次の2つです。
- 解雇理由証明書を確認する
- 不当解雇にあたらないか確認する
それぞれ解説していきます。
3-1:解雇理由証明書を確認する
会社から解雇を口頭で言い渡された場合は、解雇通知書の交付を請求しましょう。
解雇通知書を受け取ることによって、会社が解雇した日を明確にすることができるので、裁判所で解雇が無効と判断された際は、解雇した日からの賃金を請求することができます。
また、解雇通知書に解雇の理由が記載されていない場合は、解雇理由証明書を請求し解雇理由を確認しましょう。
会社は、解雇する社員から解雇理由を求められた場合は、解雇理由証明書を交付する義務があります。
労働契約法第二十二条
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
3-2:不当解雇にあたらないか確認する
会社の解雇理由に不当解雇の疑いがある場合は、解雇理由証明書を確認することによって、有力な証拠となる可能性があります。
1章で解説したように、次のようなケースは、整理解雇の要件を満たさず認められない可能性が高いです。
- 工場の生産の能力をあげるための解雇
- 役員の給与をカットせず、いきなりリストラを行った
- 職場で嫌われている人から解雇していく
- 労働組合との話し合いをせず、リストラを始める
その他にも、次のようなケースは、原則的に不当解雇となります。
- 妊娠を理由とした解雇
- 病気や怪我を理由とした解雇
- 社長や上司との不仲を理由とした解雇
- 学歴を理由とした解雇
- 国籍を理由とした解雇
不当解雇の判断が難しいケースも多いため、弁護士に相談することをおすすめします。
4章:会社をクビになった場合の対処法
会社をクビになった場合、もっとも気になるのが「生活していくためのお金の確保」です。
そのため、失業保険をしっかりもらい、さらに可能であれば退職金や残業代請求も必要になります。
そのため、会社をクビになった場合の対処法としては、次の3つがあげられます。
- 失業保険をもらう
- 未払い賃金・退職金を請求する
- 弁護士に依頼する
それぞれ解説していきます。
4-1:失業保険をもらう
会社をクビになった場合は、必ず失業保険をもらいましょう。
失業保険を貰う際に重要なのは、「会社都合」で失業保険をもらう、ということです。
自己都合と会社都合では、失業保険をもらえる期間がこんなに違います。
会社都合で失業保険をもらうことができるのは、次のような理由で退職した場合です。
- 事業所が廃止された
- 整理解雇など会社側の都合で解雇された
- 退職勧奨により退職した
失業保険の手続きや内容について、詳しくは以下の記事を参照してください。
失業保険とは?受給までの手続きと失業保険額・受給期間を弁護士が解説
4-2:未払い賃金・退職金を請求する
未払いの残業代がある場合には、会社に請求することができます。
未払い残業代は、思った以上に高額になるケースもあるため、いくらになるのか一度確認することをおすすめします。
ただし残業代は、最後の給料発生日から3年の時効が成立してしまうと、請求できなくなってしまうので早めに行動に移しましょう。
失敗しない残業代請求!有効な証拠と請求方法、ブラック企業の対処法
また、会社に退職金についての就業規則や退職金規定の定めがある場合は、退職金をもらうことができます。
就業規則に「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」と記載されている場合でも、退職金をもらえる可能性があります。
そもそも、退職金は賃金の後払いのような性格や、「長い間頑張って働いたことに報いてほめたたえる」という意味があります。
そのため、懲戒解雇の理由が、今までの頑張りを打ち消してしまうほど悪質でなければ、解雇された場合でも退職金をもらえる可能性があります。
退職金については、以下の記事をあわせて参照してください。
退職金とは?退職金の正しい意味や平均相場、もらい方までを徹底解説
4-3:弁護士に依頼する
会社にクビを言い渡されて、不当解雇の問題や未払い賃金、退職金の請求等の問題がある場合は、解雇問題に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼した場合、会社に対して解雇の撤回や未払い賃金、退職金の支払いを求めて交渉します。
会社との交渉が決裂した場合は、労働審判や訴訟(裁判)によって解決を図っていきます。
弁護士に依頼すると、あなたの「会社と戦う」という精神的負担を、弁護士が肩代わりしてくれるだけでなく、時間・手間を節約することもできるのです。
ただし、弁護士に依頼する場合は「弁護士なら誰でもいいだろう」とは考えないでください。
実は、法律の知識は広い範囲に及ぶため、自分の専門分野以外の件については、あまり知識がない弁護士が多いです。
そのため、解雇問題に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
まとめ:会社をクビになったら
最後に簡単にまとめてみましょう。
- 会社が倒産した
- 会社の業績悪化による人員削減(整理解雇)
- 普通解雇
- 懲戒解雇
解雇する場合は、30日以上前の解雇予告が必要
- 解雇理由証明書を確認する
- 不当解雇にあたらないか確認する
- 失業保険をもらう
- 未払い賃金・退職金を請求する
- 弁護士に依頼する
会社をクビになった場合は、まずは落ち着いて弁護士に相談し、今後の対処法を考えましょう。