- 更新日:2024.09.27
- #長時間労働
【長時間労働の実態】違法性が分かる4つの基準と政府の取り組みとは
この記事を読んで理解できること
- 長時間労働の定義と4つの基準
- 長時間労働の実態と厚生労働省の取り組み
- 長時間労働の3つの問題点
- 長時間労働と違法になるケース
- 長時間労働を改善する方法
あなたは、
「何時間からが長時間労働になるんだろう?」
「私の労働時間は、長時間労働なのかな?」
「長時間労働って違法なのかな?」
「長時間労働を改善したい」
などの悩み、疑問をお持ちではありませんか?
毎日遅くまで仕事が終わらず、それが毎日のように続くと辛いですよね。
結論から言えば「月45時間」を超え残業は違法になる場合がありますし、80時間を超える残業は、厚生労働省によって「命の危険がある」とされています。
そのため、あなたが一定の基準を超えた労働をしていれば違法ですし、その場合は適切な手続きを取ることで、長時間労働を改善することができます。
そこでこの記事では、まずは長時間労働の定義・基準、長時間労働の原因が違法になるケースについて、さらに長時間労働の実態や、現在の政府の取り組みなどについて詳しく説明します。
さらに、現状を変えたいという人のために、長時間労働を改善する具体的な方法についても紹介します。
気になる章から読んで学び、これからの仕事生活に活かしてください。
特に未払い残業代が発生していることも多いですので、その可能性がある場合は4章からお読みください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■長時間労働とは
法定労働時間よりも、実際の労働時間が大幅に超える状況のこと。
■長時間労働の問題点
- 勤労意欲が下がる
- 心身に悪影響
- プライベートが圧迫される
■長時間労働と関連して違法になるケース
- 残業代が出ない
- みなし残業代で残業代がごまかされる
- 管理職を理由に長時間労働させられる
■長時間労働を改善する方法
- 自分で工夫して改善する
- 会社に改善を求める
- 労働基準監督署に相談する
- 労働問題専門の弁護士に相談する
1章:長時間労働の定義と4つの基準
そもそも、長時間労働とは、法定労働時間よりも、実際の労働時間が大幅に超える状況のことです。
法定労働時間とは「1日8時間・週40時間」までの労働時間のことです。
1ヶ月の労働時間は、計算上「173.81時間」が上限になります。
1ヶ月の労働時間が、上記を大きく超える状況なら「長時間労働」と言えるでしょう。
そして、労働基準法と厚生労働省の基準から、どの程度の労働時間から長時労働と言えるのか、判断することができます。
そこで、長時間労働の基準について、
- 約218時間(36協定の基準)
- 約253時間(過労死基準)
- 約273時間(過労死基準)
- 約333時間(精神障害の基準)
を解説します。
1-1:約218時間(36協定の基準)
そもそも「1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超える労働(残業)は、違法です。
しかし、36協定(※)を締結することによって、法定労働時間を超える労働(残業)が可能になります。
※36協定とは、会社と社員との間で、社員の残業を可能にするために締結されるものです。
ただし、36協定が締結されていても、以下のように残業が可能な時間には上限が設定されています。
つまり、1ヶ月に45時間を超える残業は、36協定が締結されていても違法なのです。
「なるほど。でも、私のいる会社ではよく月45時間を超えた残業がありますよ。これは違法なのでしょうか?」
「特別条項付き36協定」が締結されている場合、条件さえ満たせば、実質1ヶ月の残業時間に上限がなくなります。
※特別条項付き36協定とは、通常の36協定で定められた限度時間を超えて「臨時的・突発的」に、残業しなければならない場合に備えて、あらかじめ延長時間を定めておく協定のことです。
特別条項付き36協定について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
長時間残業に注意!特別条項付き36協定の3つのルールを弁護士が解説
とは言え、それでは会社は社員をいくらでも残業させることができることになりますので、社員の健康を守るために「労災認定基準」という法律があります。
1-2:約253時間(過労死基準)
1ヶ月の残業時間が80時間を超えている(1ヶ月の労働時間が253時間前後ある)という月が、2ヶ月以上続いている場合「過労死基準」に該当します。
過労死基準とは「これに該当すると、脳・心臓疾患を発症する可能性が高くなる」と厚生労働省が定めている基準のことです。
過労死基準を超えて労働し、その結果、過労死したり、脳・心臓疾患を発症した場合に「仕事に原因があった」と労災認定されやすくなります。
労災認定されると「療養給付」「休業補償給付」などを受けることができます。
この過労死基準には、
「健康障害を発症する前の2ヶ月ないしは6ヶ月にわたって、1ヶ月の残業時間の平均が80時間を超えている」
というものがあります。
「脳血管疾患及び虚血性疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(基発1063号平成13年12月12日))
つまり、月の残業時間が80時間を超えると、命の危険があると定められているのです。
1-3:約273時間(過労死基準)
さらに、過労死基準には、
「健康障害が発症する前の1ヶ月間に100時間を超えている」
という基準もあります。
つまり、月の労働時間が273時間前後に達していたら、これも命の危険がある長時間労働をしていることになるのです。
1-4:約333時間(精神疾患の基準)
月の残業が160時間、労働時間の合計が333時間前後になる場合「精神疾患発症の可能性が高い」という長時間労働の基準があります。
これも、先ほど説明した厚生労働省が定める、労災認定基準の一つです。
労災認定基準の一つには「精神疾患に関する労災認定基準」というものがあり、この基準の中には以下の「長時間残業」の項目があります。
【精神疾患に関する長時間労働の基準】
- 精神疾患の発症前の1ヶ月に160時間以上の残業を行なった
- 精神疾患の発症前の2ヶ月間連続して、月120時間以上の残業を行なった
- 精神疾患の発症前の3ヶ月間連続して、月100時間以上の残業を行なった
上記の場合「極度の長時間労働」に該当し、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」の中で「強」と判断してよいとされています。
心理的負荷の強度が「強」と判断されることは、過労死基準でも珍しく、厚生労働省も、これら時間を超える残業を、精神疾患の原因にもなる危険な残業と考えているといえます。
2章:長時間労働の実態と厚生労働省の取り組み
それでは、労働時間の実態について、
- 長時間労働の国内の実態と推移
- 世界と比べた日本の長時間労働
- 長時間労働改善に向けた取り組み
について紹介します。
2-1:長時間労働の国内の実態と推移
少し古い調査結果ですが、長時間労働をしている労働者の数は、以下のように減少傾向にあります。
※引用:厚生労働省「総実労働時間の推移」
これは、週60時間、1ヶ月に240時間程度の労働時間(残業40時間程度)の労働者の比率のデータです。
これを見ると、平成2年時点での「15.9%」から、平成21年時点での「9.2%」まで長時間労働をする労働者の数が減っていることが分かります。
さらに、日本の労働時間を世界と比べてみましょう。
2-2:長時間労働の世界との比較
「労働政策研究・研修機構」の調査を見ると、日本は世界と比べて長時間労働と言えますが、その差は徐々に世界とも縮まってきていることが分かります。
引用:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2017」
2-3:長時間労働改善に向けた取り組み
一部の労働者が長時間労働によって、健康障害を発症したり、過労死・過労自殺に至ってしまう現状があるため、政府は長時間労働を改善するための取り込みを行っています。
それが「働き方改革」です。
「働き方改革」では、長時間労働改善のために、大きく以下の3つの取り組みが計画・実践されています。
①残業時間の上限を設定
1章で説明したように「特別条項付き36協定」を締結した場合は、残業時間の上限が実質ない現状がありました。
そこで、今後は、特別な事情がある場合でも、残業時間は「年720時間」「単月100時間未満」「複数月80時間」までの限度が設定されました。
②中小企業も月60時間を超える残業には1.5倍の割増賃金が発生
これまで、残業時間が月60時間を超える場合は、大企業のみ、1.5倍の割増賃金が発生することになっていました。
中小企業は猶予されていたのですが、平成35年4月からは、中小企業も月60時間を超える残業が発生した場合は、1.5倍の割増賃金を支払わなければなりません。
③年次有給休暇の確実な取得
平成31年4月からは、10日以上の有給休暇が付与されている労働者に対して、会社は5日は確実に取得させなければならないことになりました。
これらについて、もし違反した場合は会社には罰則が与えられることになりました。
したがって、今後は長時間労働がさらに改善されていくでしょう。
3章:長時間労働の3つの問題点
長時間労働を続ける場合、以下のような問題に繋がる可能性があります。
【長時間労働の問題点】
- 勤労意欲が下がる
- 心身に悪影響
- プライベートが圧迫される
それぞれの問題について、順番に解説します。
それより先に対処法が知りたい場合、4章からお読みください。
3-1:勤労意欲が下がる
長時間労働を継続すると、まず勤労意欲が下がっていく可能性が高いです。
つまり、
「働きたくない」
「仕事が嫌だ」
「毎日やる気が出ない」
と思うようになってしまいがちです。
もしあなたがそのような気持ちになっているなら、それは長時間労働に原因がある可能性があります。
長時間労働を改善して、生活にメリハリが付くと、仕事への意欲も戻ってくるかもしれません。
3-2:心身に悪影響
長時間労働を続けると、心身に悪影響が及び、健康障害を発症してしまう可能性があります。
実際、過去には以下のような事件がありました。
【長時間労働を原因とした脳疾患の発症】
長時間労働で、脳動脈瘤が悪化し、くも膜下出血を発症した事件がありました。
動脈瘤は、治療の必要性があるものではなかったため、長時間労働による精神的・身体的負荷から症状が悪化し、くも膜下出血発症の原因となったと認められました。
支店長付き運転手くも膜下出血事件(最判平成12年7月17日)
【長時間の残業で自殺に追い込まれた事件】
長時間労働を原因として、精神状態に異常をきたし、自殺に追い込まれてしまった事件がありました。
この社員は自殺する前の月には、午前6時半や7時に自宅に帰宅し、午前8時ごろには自宅を出て出勤するという異常な生活をしていました。
周囲も心配するほどのストレスを抱えた状態でしたが、職場の環境が改善されることはなく、その後自宅で自殺してしまいました。
電通事件(平成12年3月24日)
このように、基準を超えた長時間労働は、心身に大きな悪影響を及ぼします。
しかも、長時間労働をしている本人は自分の疲労に鈍感になっていき、気付いたら手遅れな状況になっていることもあります。
あなたも、手遅れにならないうちに、現状を変える行動をはじめることをおすすめします。
3-3:プライベートが圧迫される
長時間労働を続ければ続けるだけ、プライベートの時間が圧迫されてしまいます。
もしあなたが月に100時間の残業をしているなら、年間1200時間、10年で1万2000時間もの時間を、仕事に割いていることになります。
1万2000時間とは、500日です。残業がない人に比べて、これだけの日数を仕事のために使っており、その分家族や恋人と過ごす時間や、趣味のための時間を失っているのです。
仕事が大好きなら問題ありませんが、そうでないなら、できるだけ早く現状を変えるべきではないでしょうか。
4章:長時間労働と違法になるケース
長時間労働が発生している職場では、これから紹介するような違法なケースが長時間労働と関連して発生していることがあります。
- 残業代が出ない
- みなし残業代で残業代がごまかされる
- 管理職を理由に長時間労働させられる
これらのケースは違法ですので、もし思い当たる場合は、しっかり読んでみてください。
4-1:残業代が出ない
長時間労働が日常化している会社にありがちなのが「残業代が出ない」ということです。
残業とは、
「1日8時間・週40時間」を超えて働いたすべての時間のことです。
たとえば、
- 1日に10時間働いた日がある
- 毎日8時間労働し、休みが週に1日しかない
などのことがあれば、残業していることになります。
もし残業しているのに、残業代が出ていなければ違法です。
残業代は取り返すことができますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
いざという時知っておくと便利!?弁護士が教える残業代を1円でも多く請求する手順
4-2:みなし残業代で残業代がごまかされる
会社によっては、
「基本給に残業代が含まれている」
「残業代を、毎月一定額支払っている」
という場合があります。
これを「みなし残業代制」と言います。
みなし残業代制は、
「40時間までの残業に対し、毎月5万円を支払う」
というように決められている必要があり、さらにみなし残業時間を超えた残業に対しては、追加で残業代が出なければ違法です。
もしあなたが、毎月どれだけ残業しても残業代が変わらない、という状況であるなら、違法である可能性が高いです。
その場合、未払い残業代が発生しているため、請求して取り返すことができます。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
みなし残業(固定残業)の違法性を判断する7つのポイントを徹底解説
4-3:管理職を理由に長時間労働させられる
「店長」「課長」「所長」など、肩書きが管理職である場合、管理職であることを理由に、
「残業時間の上限がない」
「残業しても、残業代は発生しない」
などと言われているケースがあります。
しかし、実は肩書きが管理職であることは「残業時間の上限がない」「残業代は発生しない」などの理由にはなりません。
労働基準法上の「管理監督者」の要素を満たす場合は認められますが、実は、ほとんどの管理職は管理監督者の要素を満たしていません。
そのため、あなたが管理職を理由に長時間労働を強いられていたり、残業しても残業代がもらえていなければ、違法である可能性が高いです。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
「管理職の残業代ゼロ」はほぼ違法!判断基準から解決策まで徹底解説
5章:長時間労働を改善する方法
長時間労働がある現状を変える方法には、これから紹介する4つのものがあります。
【長時間労働を改善する方法】
- 自分で工夫して改善する
- 会社に改善を求める
- 労働基準監督署に相談する
- 労働問題専門の弁護士に相談する
それぞれの方法について解説します。
5-1:自分で工夫して改善する
長時間労働の原因が自分にある場合、まずは自分で工夫して改善するという方法もあります。
たとえば、
- 仕事前にスケジュールを立てる
- 仕事ができる先輩から、方法を学ぶ
- 仕事に直結するスキルを高める
など、いろいろな方法があると思います。
しかし、
「自分で何とかなる状況ではない」
という場合もあると思いますので、その場合はこれから紹介する別の方法を実践してください。
5-2:会社に改善を求める
自分の能力をはるかに超える業務を押しつけられていて、どうしても定時のうちに仕事が終わらないという場合、それは上司の管理能力が悪いことが原因かもしれません。
その場合、上司に「定時で終わる業務量ではないこと」「もっと労働時間を減らしたいこと」を伝えて、改善できないか相談してみましょう。
聞き分けの良い上司なら、あなたの相談を受けて何らかの対応策を取ってくれる可能性があります。
しかし、
「そんなことはもう試した」
「そんなことが言えるような上司ではない」
という場合は、他の方法を実践する必要があります。
5-3:労働基準監督署に相談する
あなたが、1章で紹介した基準を大幅に超えるような長時間労働を続けている場合、労働基準監督署に相談することで解決できる可能性があります。
【労働基準監督署とは】
労働基準監督署とは、労働基準法にのっとって全国の会社を監督・指導する行政機関です。労働者の方は誰でも無料で相談することができます。
労働基準監督署に相談すると、
- 会社に立入調査する
- 会社に是正勧告(改善命令)が出される
- 再三の是正勧告に従わない場合、経営者が逮捕される
- 違法行為をした会社として、厚生労働省のHPで公表される
などの対応が取られることがあります。
その結果、長時間労働が改善される可能性があります。
労働基準監督署に相談する流れやポイントについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
5-4:労働問題専門の弁護士に相談する
異常な長時間労働で、
- 心身に健康障害を発症した
- サービス残業がある
などの場合は、労働問題専門の弁護士に相談することをおすすめします。
労働問題専門の弁護士に相談すると、
- 確実に依頼に対処してくれる
- 豊富なノウハウがあるため、あなたに最適な対処法を実践できる
- 未払い残業代や休日手当を取り返してくれる
というメリットがあります。
しかも、依頼内容によっては、あなたの手出しの費用がほとんどなく解決できることもあるのです。
労働問題専門の弁護士に依頼する場合は、以下の記事を参考にしてください。
【保存版】手間、時間、お金をかけずに労働問題を解決するための全知識
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【長時間労働とは】
法定労働時間よりも、実際の労働時間が大幅に超える状況のこと。
【長時間労働の問題点】
- 勤労意欲が下がる
- 心身に悪影響
- プライベートが圧迫される
【長時間労働と関連して違法になるケース】
- 残業代が出ない
- みなし残業代で残業代がごまかされる
- 管理職を理由に長時間労働させられる
【長時間労働を改善する方法】
- 自分で工夫して改善する
- 会社に改善を求める
- 労働基準監督署に相談する
- 労働問題専門の弁護士に相談する
現状に問題がある場合は、できるだけ早めに行動していきましょう。