
「営業職には残業代が出ないのは普通のこと」
そう言われても、労働時間や業務量を考えると、あまりにも割に合いませんよね。
あなたがそう思うのは、もっともです。なぜなら、本来は、営業職であろうとも残業代を請求できるからです。もし、あなたの会社が営業職という理由だけで残業代を支払っていないのなら、違法の可能性があります。
しかし、外での仕事が多く、実際の労働時間が見えにくい営業職の場合、「どこからどこまでが残業か」というジャッジが難しいところ。
そこで会社は、あらかじめ給料に残業代を含ませた額面を提示し、高額で魅力的な仕事であるように見せることがあります。
そんなブラック企業の本音を覗いてみましょう。
このように、手当として一定の残業代が支給されていると言われたり、完全歩合制と言われたりしても、それだけで「残業代が出ない」ということはありません。
「営業職に残業代は出ない」などと平気で言う会社は、ブラック企業の可能性が高いです。
もしかするとあなたの会社は、会社の利益しか考えていないブラック企業かもしれません。
この記事を読むことで、
・営業職でも残業代がもらえること
・残業代をごまかすブラック企業の手口
・あなたのこれまでの未払い残業代はいくらか
・どんな証拠を集めればより高い残業代を請求できるか
などが分かります。
最後までしっかり読んで、あなたにとってベストな選択をしましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■営業職でも残業すれば残業代が出る
営業職でも残業代は出ます。そのため、営業職で残業代が出ないことで悩んでいる場合は、下記の手口や計算方法を知っておきましょう。
■営業職が残業代をごまかされる手口
- 営業手当などの手当に残業代が含まれる手口
- 基本給に残業代を含む手口
- 事業場外みなし労働時間制による手口
- 歩合給の中に残業代が含まれている手口
■営業職の残業代の計算方法
残業代の計算式は下記の通りです。
残業代=基礎時給×割増率×残業時間
ただし、営業職の場合は固定給や歩合給などで計算方法が変わるため、詳しくは記事をご覧ください。
目次
第1章:営業職でも残業代は出る
はじめに、営業職でも残業代が出る理由と、残業代を請求するために必要な証拠集めについて解説します。
1-1:営業職の残業代をごまかすブラック企業の言い分
「営業職は休日出勤やサービス残業が当たり前」
「営業職に残業代が出ないのは普通」
そんな風潮が未だにあるのは、営業職が結果で評価されやすく、どれだけ働いているのかが把握しづらいことが関係しているでしょう。
また、会社側も、営業職には、あらかじめ残業代を給料や手当に含めていると考えているため、入社時に残業代が出ないことを、説明しているかもしれません。
しかし、営業職というだけで残業代を出さないというのであれば、違法です。どんな職種であれ、残業したのであれば、残業代は発生します。
そうした残業代を支払わないブラック企業は、営業職に残業代を支払わなくて良いようにあなたをだます手口を心得ているので注意しましょう(※第2章参照)。
1-2:残業代を請求する場合、証拠集めが大切
営業職でも残業代が請求できるとわかったら、そのためには何が必要か、気になりますよね?
自分で請求するにしても、労働基準監督署(労働法違反等を相談する場所)に相談したり、弁護士に頼んだりするにしても、有効な証拠を集めなければ残業代はもらえません。
①雇用契約書、就業規則などの給料・雇用に関することが記載された書類
②タイムカード
③業務日報
④会社のパソコンの利用履歴
⑤メール・FAXの送信記録
⑥シフト表
⑦給料明細など実際に支払われていたものが分かるもの
もし、これらの証拠が見つからなかった場合は、以下のようなものも証拠になる可能性があります。
●手書きの勤務時間・業務内容の記録
●残業時間の計測アプリ
●家族に帰宅を知らせるメール
また、未払い残業代の請求期間は過去3年です。その期間すべての証拠集めができれば理想ですが、どうしても難しい場合は半月分でもかまわないでしょう。
加えて、証拠となるものを会社が後で消してしまう可能性があるので、コピーをしたり、写真を撮ったりしておいたりするのもおすすめです。
では、ブラック企業は具体的にどんな違法な手口を使っているのでしょうか。4つの手口を次章で解説します。
あなたはどの手口で残業代をごまかされているのか、さっそく確認してみましょう!
第2章:営業職の残業代をごまかすブラック企業の「4つの手口」
営業職は仕事の成果、もしくは会社全体の売上や利益に応じて給料が支払われるという考えは、働く側だけでなく、会社側にも浸透しています。
しかし、そうした慣行があるからといって、残業代の支払いが免れるわけではないのです。
決まった時間以上の労働を行ったのであれば、会社はその分の残業代を支払う義務があります。
ただし、会社もバカではありませんから、あらゆる手口で営業職に残業代を支払わなくても良いようにあなたをだます場合があります。
ここでは、ブラック企業が残業代をごまかす4つの手口を解説しましょう。
2-1:営業手当などの手当に残業代が含まれる手口
あなたの給料明細に、「営業手当」という項目はありませんか?
ブラック企業は、この営業手当を「残業代の代わりに付けている」と説明することがありますが、必ずしもこのような会社の説明が認められるわけではありません。
- 「営業手当を残業代として支払う」という仕組みを「みなし労働時間制」あるいは「固定残業代制」(以下、みなし残業代制)と言います。
このような「みなし残業代制」は,ブラック企業では横行しています。
しかし,裁判所は,「みなし残業代制」について,違法とする判断を多く出しています。
特に,「営業手当」とい名前の場合,営業のインセンティブであったり,営業の経費であったりするものを含んでいる場合が多いため,実質的に残業代ではないと判断されることが多いです。
また,「営業手当を残業代として支払う」と記載されている就業規則について,会社が隠して,普段見えるところにないのであれば,固定残業代制は違法です。
なお,固定手当には「残業手当」の他にも、
「残業手当」、「役職手当」、「役付手当」、「業務手当」、「地域手当」、「職務手当」、「調整手当」などがあります。
2-2:基本給に残業代を含む手口
みなし残業代制には、先ほど解説した「固定手当型」のほかに、「基本給組込型」があります。
「基本給組込型」はあらかじめ給料に○○時間分の残業代を組み込んでいる給料形態となります。
みなし残業代制は、あたかも給料に残業代が含まれていると思い込ませるブラック企業の手口です。
2-3:事業場外みなし労働時間制による手口
外回りが中心となる営業職など、正確に労働時間を算定することができない場合に限り、一定時間を労働したとみなす「事業場外みなし労働時間制」を使用する会社があります。
この“事業場外”という言葉は、使用者による場所的拘束から離れて,具体的な指揮・命令・監督の及ばない場所のことを指します。
ただし、下記条件のどれか1つでも当てはまる場合は、事業場外労働とは言えません。
①仕事を指揮・監督する上司などが同行するとき
②行き先や業務内容などを具体的に指示されているとき
③携帯電話・メールなどで命令を受けられる状況にあるとき
一般的に、携帯電話が普及している現代社会で、事業場外みなし労働時間制が認められるのは、極めて稀であると言われています。
よって、事業場外みなし労働時間制だと会社に言われていたとしても、通常通り、残業時間分の残業代は支払われることになります。
2-4:歩合給の中に残業代が含まれている手口
歩合給で働く場合でも、残業代が発生するケースがあります。
一般的に歩合給は、労働時間にかかわらず売上等によって給与が決定される制度とされています。
しかし、会社が「残業手当や休日出勤手当、深夜割増手当は歩合給の中に含まれている」という理由で残業代を支払っていないなら、違法の可能性があります。
最高裁は,この場合,歩合給部分と残業代部分の内訳がわからないため,違法としています(高知県観光事件・最判平成6年6月13日)。
残業代をごまかすブラック企業の「4つの手口」をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
あなたが会社に残業代を請求できるかが、はっきりしたのではないかと思います。
第3章:時効は3年!残業代請求は早めに行おう!
さて、実際に残業代を請求する前に確認してほしいのが、残業代の請求期間です。
未払い分の残業代を請求できるのは、わずか「3年」です。直近の給料支払日から3年前の給料支払い日より前の残業代は時効となり請求できません。
残業代を請求したいなら、一刻も早く行動しましょう!
もし、現時点では迷いが生じるなら、証拠集めだけはしておいた方が得策です。いざ請求すると決めたとき、それが大きな武器となり、あなたの強い味方になるでしょう。
では、実際に未払いの残業代を計算するといくらくらいになるのか、次章をご覧ください。
第4章:計算してみよう!請求できる残業代の金額イメージ
残業代を請求できるとわかったら、知りたいのはその金額ですよね。
これまであなたは、どのくらいサービス残業をしてきたのでしょうか。
4-1:固定給の残業代計算方法
例)月給25万円で、月に80時間残業をした場合
●残業代は下記の計算式で計算できます。
残業代=基礎時給×割増率×残業時間
●基礎時給は下記計算式で求められます。
月給÷一月平均所定労働時間
(一月平均所定労働時間は,160~170であることが多いため,今回は170時間とします)
↓一月平均所定労働時間を170時間として今回の例で基礎時給を計算すると…
月給25万円÷170時間=1,470円
●割増率は下記4種類あります
1.通常の残業時間:1.25倍
2.法定休日(週1日は必ず休まなければならない日):1.35倍
3.通常の深夜残業(22:00~翌朝5:00):1.5倍
4.法定休日の深夜残業1.6倍
↓今回は通常の残業時間:1.25倍を選択して残業代の計算式に当てはめると…
基礎時給×割増率×残業時間=残業代
1470円 × 1.25 × 80時間=14万7,000円
以上のように、今回の事例における残業代は14万7,000円となります。
4-2:歩合給の残業代計算方法
例)歩合給が25万円となり,月に80時間残業した場合(完全歩合制)
●歩合制の残業代は、次のように計算します。
完全歩合制の残業代=基礎時給×0.25×残業時間
●歩合制の基礎時給は,固定給と異なり下記計算式で求められます
残業代=月ごとの歩合給÷総労働時間
総労働時間=1か月の所定労働時間+残業時間
ですので,今回の総労働時間は、
170時間(所定労働時間)+80時間(残業時間)
=250時間となります。
↓今回の例で基礎時給を計算すると…
歩合給÷総労働時間=時給
25万円÷ 250時間 =1,000円
●完全歩合制の残業代の計算方法。
強調時給×0.25×残業時間=完全歩合制の残業代
1,000円×0.25×80時間=20,000円
以上より,今回の事例における残業代は20,000円となります。
4-3:固定給と歩合給が両方ある場合の残業代計算方法
給料に基本給と歩合制給がある場合の残業代の計算方法を解説します。
例)基本給15万円、歩合給10万円で月80時間した場合。
この場合、4-1で解説した基本給の残業代と、4-2で解説した完全歩合給の残業代を合算した金額が残業代となります。
残業代=基礎時給×割増率×残業時間
●基礎時給
月給÷一月平均所定労働時間
↓月平均所定労働時間を170時間として今回の例で基礎時給を計算すると…
月給15万円÷170時間=882円
●通常の残業時間の割増率:1.25倍を選択して残業代の計算式に当てはめると…
基礎時給×割増率×残業時間=残業代
882円 × 1.25 × 80時間=8万8,200円
残業代は8万8,200円となります。
残業代=歩合給÷総労働時間×0.25×残業時間
●基礎時給
歩合給÷総労働時間=時給
10万円÷ 250時間 =400円
●歩合給の残業代の計算方法。
時給×0.25×残業時間=歩合給の残業代
400円×0.25×80時間=8,000円
●残業代の総額
基本給の残業代+完全歩合給の残業代=残業代総額
8万8,200円 + 8,000円 =9万6,200円
以上のように,今回の事例では月に9万6200円の未払い残業代があることになります。
いかがでしたか?
1ヵ月約9万6,200万円の未払い残業代があるとすると、2年では約230万円にも膨らみますね。
未払い残業代の計算方法をより詳しく知りたい場合は、ハタラクエストの別記事「残業代の時給をごまかす「3つの手口」と残業代の「正しい計算方法」」もあわせて参考にしてみましょう。
まとめ:営業職の残業代
以上のように、営業職という理由だけで、残業代がもらえないというわけではありません。
「営業職だから残業代は出ない」と平気であなたをだます会社や、残業代をごまかすブラック企業の手口が、この記事を読んでご理解いただけたのではないでしょうか。
最後に、もう一度この記事の内容をおさらいしましょう。
この記事でもっともお伝えしたいことは、この2つです。
・営業職に残業代が出ないのは違法。
・未払い残業代がある場合、過去3年までさかのぼり請求できる。
営業職で給料に固定手当がついていたり、あらかじめ給料に残業代が含まれていたりしても、労働契約書や就業規則に記載されている以上の時間、労働しているのであれば、それは違法と認められ、残業代を請求することができます。
また、携帯電話やインターネットが普及する現代で、事業場外みなし労働時間制が適用されることはほとんどありません。
①雇用契約書、就業規則などの給料・雇用に関することが記載された書類
②タイムカード
③業務日報
④会社のパソコンの利用履歴
⑤メール・FAXの送信記録
⑥シフト表
⑦給料明細など実際に支払われていたものが分かるもの
ブラック企業の策略に陥らないためにも、
「残業代を請求できる権利」を確認して、「サービス残業を証明する証拠集め」からはじめてみてはいかがでしょうか。