- 更新日:2024.08.23
- #退職金とは
退職金とは?退職金の正しい意味や平均相場、もらい方までを徹底解説
この記事を読んで理解できること
- 退職金とは
- あなたがもらえる退職金の額を調べてみよう
- 退職金にかかる税金に注意!
- 思ったより退職金が少ないとき・もらえないときは
実は、退職金は法律で定められたものではなく、会社の裁量によるところが多いのです。
しかし、ほとんどの人が退職金はしっかりもらいたい、と思うはずです。
そこでこの記事では、退職金の正しい意味や相場、退職金が思ったより少ないときの対処法について説明していきます。
この記事を読んで、もらうべき退職金をしっかりもらいましょう!
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■退職金とは
- 退職金とは退職時にもらえるお金のこと
- 退職金そのものについては、法律の定めがなく、もっぱら会社の就業規則に委ねられている
■退職金の制度の2つの種類
■就業規則などに退職金の規定がなくても、退職金がもらえる可能性があるケース
- 今までの退職者には、会社の内規に従い会社の慣行として退職金が支給されていた
- 会社と個別に合意をしていた
- 求人票には退職金が支払われると書かれていた
目次
1章:退職金とは
まずは、退職金の正しい意味と平均額、退職金がもらえる条件について説明します。
1-1:退職金の正しい意味
退職金とは退職時にもらえるお金のことを言います。
もっとも、退職金そのものについては、法律の定めがなく、もっぱら会社の就業規則に委ねられています。
退職金の制度は、大きく2つに分けられます。
・退職一時金制度
退職時に一括して退職金が支払われる制度のことです。退職金規定をもとに支払われるため、規定が変わらない限り、必ず支払ってもらえます。
・企業年金制度(確定給付年金、確定拠出年金制度)
退職後、一定の金額を年金として支給する制度のことです。
他にも、毎月の給与やボーナスに退職金を上乗せすることで、前払いする会社もあります。
また、退職金の算出方法についても、大きく2つにわけられます。
・年功型
企業に在籍した年数に応じて退職金の額があがります。
・成功報酬型
退職時の役職や職業等級により退職金の額が決まります。
さらに、退職金の計算方法も会社ごとに異なります。主に採用されているのは、3種類の方法です。
・基本給連動型
退職時の基本給に勤続年数をかけ、さらに退職理由などに応じた係数をかける計算方法です。
・別テーブル型
算定基礎額に勤続年数、計数をかける方法です。算定基礎額とは、退職理由や退職時の役職によって決まります。
・ポイント制
勤続年数、役職、取得資格などに応じて与えるポイント数を決め、ポイントの合計にポイントの単価をかけて計算する方法です。
このように、退職金は会社ごとに制度や算出方法が異なっています。
1-2:退職金の平均額・相場を徹底解説!
では、退職金の平均や相場はいくらくらいなのでしょうか。
勤続20年以上かつ45歳以上の退職者がもらった退職金の平均額は、「高校卒(現業職)」1,128万円、「高校卒(管理・事務・技術職)」1,673万円、「大学卒(管理・事務・技術職)」1,941万円となります。
※厚労省から発表された「就労条件総合調査結果の概況」(平成25年)
この表から、もっとも退職金をもらえる退職理由は、早期優遇制度を利用して退職した場合だということがわかります。
では、勤続年数が少ない場合の退職金の相場はどのくらいなのでしょうか。
こちらは東京都内の退職金平均なので、全国平均よりやや高めになっています。
とはいえ、勤続年数に合わせて段階的に退職金の額が上がっていることがわかります。
これは、勤続年数に合わせて退職金を支給する「年功型」の企業が多いためです。
※東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成26年度版)」
1-3:退職金がもらえるかは就業規則の内容次第
就業規則や退職金規定(退職金についてだけを定めた規定)によって退職金をもらえることが定められている場合には、それに沿った額の退職金をもらうことができます。
大枠については就業規則で記載し、細かい条件等を退職金規定で定めていることが多いです。
まずは、自分が退職金の支給対象にあたるかを確認しましょう。
就業規則や退職金規定には、このように支給される対象者や条件を定めた項目があります。
これにあたらない場合には、そもそも退職金を貰う権利はありません。
【コラム】懲戒解雇の場合は退職金がもらえないの?
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就業規則のほとんどは、懲戒解雇された場合には退職金が出ない、という定めを置いています。
しかし、退職金が全くもらえないというわけではありません。
そもそも、退職金は賃金の後払いのような性格や「長い間頑張ったことに報いてほめたたえる」という意味があります。
そのため、懲戒解雇されたとしても、その理由が今までの頑張りを打ち消してしまうほど悪質な場合でなければ、会社は退職金を支払う必要があります。【懲戒解雇でも退職金がもらえた裁判例】鉄道会社の社員が電車内で痴漢
鉄道会社の社員が、電車での痴漢行為の再犯で捕まり、懲役4か月の有罪判決を受けました。これを受けて、会社はこの社員を懲戒解雇しました。
社員が退職金を請求したところ、裁判所は「相当の不信行為である」としながら、退職金の3割である約276万円については会社の支払いを認めたのです。
(東京高裁平成15年12月11日)
1-4:就業規則や退職金規定がない場合でも退職金をもらえる可能性はある
就業規則や退職金規定がなくても退職金がもらえる可能性があるケースとしては、以下のようなものがあります。
・今までの退職者には、会社の内規に従い会社の慣行として退職金が支給されていた
・会社と個別に合意をしていた
・求人票には退職金が支払われると書かれていた
2章:あなたがもらえる退職金の額を調べてみよう
自分がもらえる退職金の額を調べてみましょう。
《基本給連動型の場合》
まず、退職金の計算項目を探しましょう。
【退職金の計算項目】
このように、基本給と勤続年数、支給率をかけて計算する場合には、基本給連動型の計算方法と言えます。
次に、勤続年数の計算方法の項目を探しましょう。
さらに、就業規則、賃金規定又は退職金規定の最後のあたりのページを見てください。下のような支給率の係数表が記載された別表が見つかるはずです。
このような、規定がある場合、基本給連動型の退職金を採用していることになります。
その場合、計算式は
退職金=①退職時の基本給(月給)×②退職金支給率(勤続年数で変動)×③退職事由係数
となります。
このように、勤続年数と計算方法がわかれば、具体的な退職金の金額を算出することができます。
実際の例を見てみましょう。
(例)Aさんは29年4か月正社員として働き、自己都合で退職することになった。退職時の月給(基本給)は25万円だった。
まず、勤続年数を確定します。
ここでは便宜上、「ア 第12条適用者については,勤続満1年を越えた後の1か月以上の勤務期間に 2 ついては1か年とみなす。」という規定を使うことにしましょう。
この規定によれば、4か月は切り上げられ、Aさんの勤続年数は30年と言うことになります。
「自己都合、勤続30年」の場合、支給率の係数は48です。
そこで計算式は
25万円×48×0.8=960万円
となります。
《別テーブル型》
別テーブル型の場合、計算方法は以下の通りになります。
算定基礎額×勤続年数×計数
就業規則の見方や計算の流れについては、基本給連動型と同じです。
違うのは、就業規則や退職金規定に定められた算定基礎額をもとに計算するという点です。
《ポイント制》
ポイント制の退職金の規定は、以下のようなものになります。
【退職金の計算】
ポイント制の場合の計算方法は以下の通りです。
単価、ポイントについても就業規則や退職金規定に定められています。
① 退職金ポイント
勤続年数や階級ごとにポイントがふられます。
これも、就業規則や賃金規定又は退職金規定の最後のほうのページに別表として記載されているはずですので探してみてください。
例:勤続年数1年ごとに20ポイント
等級ごとに以下のようなポイント
会社によります。
ここでは、1ポイント1万円としておきましょうか。
③ 退職事由別支給率
定年や解雇された場合を1倍として、自己都合退職した場合は、0.8などとされているなどが典型的です。
一般的には、自己都合退職のほうが退職金が低く設定されていることが多いです。
ではこの例にしたがって、退職金を計算してみましょう。
(例)
・勤続年数15年
・役職は課長
・自己都合退職
退職金=①退職金ポイント(勤続年数ポイント+役職ポイント)×②ポイント単価×③退職事由別支給率
=①(20×15年+32)×②1万円×③0.8
=265万6000円
となります。
3章:退職金にかかる税金に注意!
■所得税の計算方法
《課税対象になる退職金の計算》
課税対象になる退職金の額は、以下の式を使って求めます。
課税対象になる退職金の金額=(収入金額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額)×1/2
※役員(役員としての勤続年数が5年以内)の退職金には1/2はかけません。
退職所得控除額は、以下のとおりです。
《退職金の所得税の計算方法》
※1年に満たない端数は切り上げます。
(例)21年2か月→22年
先ほど算出した課税対象になる退職金の金額をもとに、所得税を計算していきます。
所得税の計算は、課税対象の退職金の額によって変わります。
所得税=(A×B-C)×102.1%
まず、退職所得控除額を出します。
勤続年数は20年未満なので、「40万円×勤続年数」という式を使います。
40万円×15=600万円
そのため、課税対象になる退職金の金額は
(1000万円-600万円)×1/2
=200万円となります。
次に、税額表を見ると、課税対象額が200万円の場合の税率は10%、控除額は97,500円です。
そのため、所得税は
(200万円×10%-97,500円)×102.1%
=104,652円
になります。
■住民税の計算方法
住民税の計算方法は、以下のとおりです。
住民税=課税対象になる退職金の金額×10%(東京の場合)
※課税対象になる退職金の金額は、所得税と同じ計算式を使います。
※所得割は市区町村民税と都道府県民税に分かれ、各自治体で異なります。自治体ホームページでご確認ください。
では、計算したよりも実際の退職金が少なかった場合には、どうすれば良いのでしょうか。
4章:思ったより退職金が少ないとき・もらえないときは
思ったより退職金が少なかったり、もらえなかった場合には、弁護士に相談しましょう。
退職金がもらえるかは、法的な判断を含むケースが多いからです。
4-1:弁護士への相談から請求までの流れ
弁護士に相談した場合、交渉、労働審判、裁判という流れで進んでいきます。
①交渉
まずは弁護士があなたに代わって会社と交渉してくれます。
弁護士が出てくると、会社が交渉に応じることも多いです。
②労働審判
交渉が不調に終わった場合、労働審判へ進みます。
労働審判とは「専門家が裁判官と一緒になって、すばやく労働問題の解決を図る制度」を言います。
労働審判は3回以内で終わるので、裁判よりスピーディーに解決を図ることができます。
③裁判
労働審判でも決着がつかない場合、裁判になります。
裁判になると、判決が出るまで長ければ数年かかることもあります。
退職金は、退職金の支給日から5年で時効にかかり、請求できなくなります。
弁護士への相談は早めに行いましょう。
4-2:そろえておくべき証拠一覧
退職金を請求する場合には、以下のような証拠をそろえておきましょう。
・就業規則
・退職金規定
・退職金について記載された雇用契約書
・退職金が支給されることを示したメール、書面、録音
・退職金が支払われる旨、記載された求人票
4-3:退職金の代わりに残業代を請求することもできる
残業代の計算は、以下の式を使います。
残業代=基礎時給×割増率×残業時間
基礎時給=月給÷所定労働時間
ここでの「残業時間」とは、「1日の労働時間の8時間を超える部分」もしくは「週の労働時間の40時間を超える部分」のことです。
月給制で働いている場合は、自分の月給を1ヶ月の所定労働時間(約170時間)で割るとおおよその基礎時給を出すことができます。
(注)所定労働時間とは、会社から決められている1ヶ月の労働時間のことを言います。
「割増率」とは残業時間の時給にかけられるもので、4種類のものがあります。
(例)月給20万円の人が毎月60時間残業している
この場合基礎時給は、
20万円÷170時間=約1176円
深夜や法定休日の残業がなかったとすると、1ヶ月の残業代は、
基礎時給1176円×割増率1.25倍×残業時間60時間=8万8200円
残業代は3年間までさかのぼって請求することができるので、
8万8200円×24ヶ月=317万5200円
となります。
残業が続いていたという人なのであれば、もらえたはずの退職金と同水準の金額をもらえることがわかるのではないでしょうか。
残業代請求について、詳しくは以下の記事を参照してください。
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
まとめ:退職金について
いかがだったでしょうか。最後に簡単にまとめてみましょう。
・退職金とは退職時にもらえるお金のことをいい、会社ごとに制度や算出方法が異なっている
・退職金をもらうには、原則として就業規則や退職金規定が必要
・退職金の内容は就業規則や退職金規定に定められている
・退職金の計算方法としては、基本給連動型、別テーブル型、ポイント制などがある
・慣行などがあれば、例外的に就業規則がなくても退職金を請求することができる
・退職金には住民税や所得税がかかる
・退職金を請求するときは、弁護士に依頼するのがおすすめ
・退職金がもらえないときには、残業代請求をする
退職してしまう前に、自分のもらえる退職金を把握しておきましょう
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