IT業界のブラック企業の実態と見分け方やトラブル対処法を弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- IT業界とブラック企業について
- ブラックなIT企業の特徴
- ホワイトなIT企業の特徴
- ブラックなIT企業に勤めている時の対処法
- 転職の際にブラックなIT企業を見抜くポイント
あなたは、
「ブラックなIT企業の特徴が知りたい」
「IT業界にブラック企業が多いのは本当?」
「今の会社がブラック企業なら早く転職したい」
などとお考えではないですか?
結論から言うと、他の業界と同じようにIT業界にもブラック企業は存在します。
特に、ブラック企業の大きな特徴である長時間労働が、常態化している企業や職種があります。
転職サイトの「doda」が、2022年に行った残業時間の調査の中には、全94職種中11の「IT/通信系エンジニア」関連の職種があげられています。
残業時間/月 | 職種名 |
18.9 | テクニカルサポート/ヘルプデスク |
20.2 | 品質管理(IT/通信) |
20.3 | データベース/セキュリティエンジニア |
21.5 | 社内SE |
22.1 | アプリケーションエンジニア |
22.4 | 研究開発/R&D(IT/通信) |
22.9 | ネットワークエンジニア |
24.9 | Webエンジニア |
25.1 | サーバーエンジニア |
25.6 | ITコンサルタント(アプリ) |
27.5 | インフラコンサルタント |
28.1 | ゲームクリエイター(Web/モバイル/ソーシャル) |
※単位:時間(2022年4~6月の1カ月あたりの平均)
この調査によると、2022年の平均残業時間は、「22.2時間/月」で前回調査より1.4時間増えているようですが、IT関連では6つの職種が平均より多くなっています。
職種では、インフラコンサルタントやITコンサルタントなど、外部にクライアントや取引先を持つ職種や、ゲームクリエイターなどクリエイティブな職種の残業時間が長くなっていることがわかります。
その一方で、「テクニカルサポート/ヘルプデスク」や、業務が会社内で完結する「社内SE」など社内向けの業務を行う職種が、残業時間が短くなっています。
このように、IT業界では平均22時間ほどの残業時間と言っても、職種によって大きく幅があるのが実情です。
この記事では、1章でIT業界とブラック企業について、2章ではブラックなIT企業の特徴を、3章ではホワイトなIT企業の特徴について解説します。
さらに、4章ではブラックなIT企業に勤めている時の対処法を、5章では転職の際にブラックなIT企業を見抜くポイントについて解説していきます。
自分の今後のキャリアをより良いものにするために、記事をよく読んでしっかりと内容を理解してください。
今働いている会社がブラックで、
- 未払いの残業代を取り戻したい
- 今いる会社から抜け出したい
など、すぐにでも行動に移したい人は、4章で対処法について解説していますので、そちらからご覧ください。
目次
1章:IT業界とブラック企業について
私の知る範囲では、IT業界にもブラックな会社は多く存在し、その過酷さは他の業界と比べても悪いと言えることもあります。
この章では、まずIT業界の職種やその内容と、そもそもブラック企業とはどういったものなのか解説していきます。
1-1:「IT企業はブラックが少ない」は間違い
IT業界には様々な職種がありますが、主な職種としては次の6つがあげられます。
- システムエンジニア(SE)
- ネットワークエンジニア
- セキュリティエンジニア
- プログラマー・Webデザイナー
- ITコンサルタント・インフラコンサルタント
- 営業
それぞれ解説していきます。
【システムエンジニア(SE)】
システムエンジニアは、クライアントの要望や意見をヒアリングし、最適な仕様のシステム開発を行う職種です。
システム設計やプログラミング業務を担当あるいは指示し、システムだけでなくメンバーや予算などプロジェクト全体を統括します。
会社の規模によっては案件を1人でこなしたり、システム運用後もメンテナンスやトラブル対応に追われることがあります。
【ネットワークエンジニア】
ネットワークエンジニアは、クライアントの要望をヒアリングし、コンピューターネットワークの設計、構築から運用・保守までを行う職種です。
常時安定した接続・運用が求められるため、通信機器のチェックや交換など、運用開始後の保守点検も重要な仕事になります。
そのため、もし通信トラブルが発生した際は、大きな損失につながるおそれもあるため、迅速な対応が不可欠となります。
【セキュリティエンジニア】
セキュリティエンジニアは、企業や団体のサービスやサーバーの情報セキュリティーを守る職種です。
インターネットが一般化した現在では、システムを安全に運用するためには、第三者による悪質なサイバー攻撃を防ぐ技術力が必要不可欠です。
そのためセキュリティエンジニアは、日々のセキュリティー強化のための学習が欠かせないだけでなく、個人情報の漏洩やウイルスが侵入した際は、迅速な対応と原因究明が求められます。
【プログラマー・Webデザイナー】
プログラマー・Webデザイナーは、設計図や要望に基づいてシステムやWebサイトを実際に作り上げていく職種です。
プログラマーは、システム構築に必要な多数のプログラミング言語やコーディングなどの、知識や技術のアップデートが常に必要となります。
さらに、正確さだけでなくスピードも求められ、プログラムの誤り(バグ)や修正依頼も納期に合わせて調整が求められます。
Webデザイナーは、Webサイトのデザイン性だけでなく、クライアントが求める使いやすさや見やすさを理解し、サイトに落とし込める能力が要求されます。
そのため、クライアントとの調整が必要となり、場合によっては修正作業に追われることもあります。
【ITコンサルタント・インフラコンサルタント】
ITコンサルタント・インフラコンサルタントは、クライアントの課題をヒアリングし、ITシステムの見直しや新システムの提案・導入によって、その課題を解決する職種です。
ITコンサルタントは、主にアプリケーション関連のコンサルティングを専門とし、インフラコンサルタントは、ハードウェアなどITインフラの活用やシステム導入に関連したコンサルティングを専門とします。
そのため、クライアントの課題を聞き取る理解力だけでなく、解決に必要なアプリケーションやシステムの開発、ハードウエア、データベースなど全般の知識と構成力が求められます。
【営業】
営業は、IT業界でも一般の企業と同様に、クライアントの課題を解決するために自社の商品を提案する職種です。
そのため、自社商品のシステムやソフトの、受注から制作・納品までのスケジュールや予算など、制作側と確認しながら提案していく必要があります。
次に、これらのIT業界の主な職種に見られる、ブラック企業の実情をあげていきます。
IT業界のどの職種でも、
- クライアントに振り回される
- 人員が不足している
- 一度決めた納期は動かせない
といった特徴があり、1人あたりの仕事の量が多く、長時間労働が常態化しているケースが目立ちます。
そのため、未払い賃金や長時間労働といった問題が起こりやすいほか、職場環境が荒れパワハラや社内でのいじめが起こるといった事例もみられます。
また、ITコンサルタント・インフラコンサルタントの職種では、
- クライアントの要望に沿って仕様を決定
- 社内のデザイナーやエンジニアに仕事の割り振り
- 外部スタッフへの仕事の発注
など業務内容が多岐にわたります。
そのため、クライアントの要望が二転三転したり、社内からの反発で板挟みになることも多く、残業が長時間化し心身共に疲弊してしまうケースがあるようです。
さらに営業職は、他の業界と同じように、IT業界においても
- 出先から戻った後に多くの事務作業が残っている
- 成績がはっきり見えやすく、成果主義になりやすい
というブラックになりやすい一面を持っています。
そのため、残業時間が長くなりやすく、成績が伸びない社員に対して上司がパワハラまがいのプレッシャーをかけるようなケースもあります。
1-2:そもそもブラック企業とは
そもそも「ブラック企業」とは、どんな企業のことなのでしょうか?
実は、明確に定義があるわけではありませんが、厚生労働省の
「Q&A|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト」
では、下記のように記載されています。
ブラック企業」ってどんな会社なの?
厚生労働省においては、「ブラック企業」について定義していませんが、一般的な特徴として、① 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、② 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、③ このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、などと言われています。
また、当サイト(クエストリーガルラボ)では、
「従業員を採用してから辞めさせるまで過酷な労働環境や低待遇で働かせ続けて、会社だけが儲けようとする企業のこと」
をブラック企業と呼んでいます。
IT業界にももちろんホワイト企業は存在しますが、中小企業やベンチャー企業も多いため、大手IT企業の大規模システム案件の下請けや人手不足で、過重労働に陥りブラック化する企業も見受けられます。
2章:ブラックなIT企業の特徴
ブラックなIT企業の特徴として次の7つがあげられます。
- 長時間残業・休日出勤が常態化している
- サービス残業が多い
- 技術や開発経験が身につかない
- IT部門の権限が低い
- 多重請負構造の孫請けになっている
- 入社難易度が非常に低い
- ベンチャー企業がブラックになりやすい
それぞれ解説していきます。
2-1: 長時間残業・休日出勤が常態化している
他の業界と同じく、ブラックなIT企業にもよく見られるのが、社員の長時間残業・休日出勤が常態化していることです。
なぜなら、IT業界の市場規模は、売上高・企業数ともに年々拡大していますが、そのスピードに人材の供給・育成が追い付かず、人材不足が慢性化しているからです。
そのため、1人当たりの仕事量が増えて労働時間も長時間となり、納期に間に合わない場合は、休日出勤も求められることになります。
特にブラック企業では、人員を増やすことより、今いる社員を働かせることを最優先するため、長時間残業や休日出勤が無くなることはありません。
2-2:サービス残業が多い
ブラックなIT企業では、社員に長時間残業させるだけでなく、残業代を払わない「サービス残業」が多いという特徴があります。
ブラック企業で良く使われる手口としては、
みなし残業制度を悪用している
- 裁量労働制なので残業代が出ない
- フレックスタイム制で残業代が出ない
- タイムカードを決まった時間に切らされる
といったものがあります。
みなし残業制度とは、固定残業代制のことで、「一定の残業時間分の残業代を、最初から給料として払っておく制度」のことを言います。
例えば「みなし残業40時間」の場合は、月給には40時間分の残業代が既に含まれているため、他の企業より給料を多く見せることができます。
さらに、毎月40時間分の残業として毎日2時間ほどの残業が始めから見込まれているだけでなく、残業代を固定してごまかしている場合もあります。
裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社側と協定などで決めた時間を労働時間と「みなす」制度のことを言います。
例えば、会社側と1日のみなし労働時間を1日8時間と決めていた場合、働いた時間が10時間でも14時間でも、その日に働いた時間は8時間とみなされることになり、残業代は発生しません。
裁量労働制は本来、エンジニアやデザイナーなど専門性の高い業務にかかわる社員が対象とされていますが、ブラック企業では悪用されている場合があります。
フレックスタイム制は、「社員が自分で始業時間と終業時間を決めることができる働き方」です。
しかし、ブラック企業の中には、フレックスタイム制を悪用して、残業代を払わない会社もあります。
実際には、所定労働時間を定めた期間(清算期間)中の法定労働時間より実労働時間が超えた場合は、残業代を支払う必要があります。
フレックスタイム制については、以下の記事でも解説していますので、自分の働き方が当てはまる人はご覧ください。
フレックスタイム制とは?正しい使い方とメリデメや残業代の計算方法
いずれも、社員に残業代を支払わない理由にはならないので、思い当たる人は4章で説明する「残業代の請求方法」をご確認ください。
2-3:技術や開発経験が身につかない
ブラックなIT企業では、ITエンジニアの技術や開発経験が身につかないケースが多いです。
なぜなら、下請け業務の多いIT企業の場合は、スキルアップにつながる業務が回されることは少なく、企業ごとに決まったパターンの仕事をこなしていくだけだからです。
また、会社自体にエンジニアを育成する考えがなく、自分で新しい技術を勉強しなければスキルアップできないため、会社に不満があっても転職しづらいケースもあります。
キャリアアップを求めるエンジニアにとって、スキルがつかないことは、致命的な問題だといえます。
2-4:IT部門の権限が低い
ブラックなIT企業では、IT部門の権限が低いために、無理な案件を押し付けられるケースがあります。
例えば、社長や営業部門がITの理解度が低い場合、受注した案件の作業の内容やかかる仕事量、現状の人員の稼働力など正確に把握しきれない場合があります。
そういったケースでは、そのしわ寄せは全て現場のエンジニアに回ってきます。
無理な受注で納期に追われて残業が必要になり、また直前になってどうにか間に合わせる形で納品しても、納品後にはバグ改修など事後処理に追われて、また仕事が増えることになります。
2-5:多重請負構造の孫請けになっている
ブラックなIT企業の特徴としては、多重請負構造の孫請けになっていることが多いです。
中小のIT企業は、大きな会社の下請け仕事を引き受けることが多くあります。
小さな会社が仕事を受注するためには、厳しい日程や低く設定された発注費用でも受け入れなければならないケースも多く、こうしたシワ寄せが社員に及ぶことも少なくありません。
そのため、ITエンジニア業界では、「多重下請け構造」と呼ばれるシステムが見られ、ピラミッドの下へ行けば行くほど社員にとって過酷な職場となります。
2-6:入社難易度が非常に低い
IT業界に限らずブラック企業では、入社難易度が非常に低くなっています。
なぜなら、ブラック企業では、門戸を広げてより多くの求職者を大量募集・大量採用して、人手不足を解消しようとしているからです。
また、とりあえず多くの求職者を集めて、その中から人物や学歴・職歴、資格などを見極めて選考するといった、会社都合の求人を行っている企業もあります。
こういった求人は、採用されたとしてもきちんと教育してもらえなかったり、ノルマのきつい仕事を強いられて、働けるだけ働かされる可能性があります。
2-7:ベンチャー企業がブラックになりやすい
IT業界では、ベンチャー企業がブラックになりやすいという特徴があります。
なぜなら、創業から年数が経っていないベンチャー企業は、
- 少人数で事業を行うので業務量が多く、業務範囲も大きい
- 収益を上げるために新規事業を次々に展開する
- 急な成長に人的リソースが追いつかない
- 経営陣や創業メンバーが、社員に自分たちのような働き方を求める
といったケースが多いからです。
そのため、社員に無理な働かせ方を求めたり、経営陣が成績の伸びない社員を不当に扱ったりするブラックな職場になりやすい一面を持っています。
3章:ホワイトなIT企業の特徴
ここまで、IT業界のブラック企業について解説してきましたが、この章では比較としてホワイトなIT企業の特徴を4つあげていきます。
- 残業が少なく年間休日数が多い
- 直請けの仕事が多い
- 社長や営業部門のITへの理解力が高い
- 人材育成に力を入れている
それぞれ解説していきます。
3-1:残業が少なく年間休日数が多い
ホワイトなIT企業の特徴として、残業が少なく年間休日数が多いことがあげられます。
ホワイト企業では、常に仕事の効率化を図り、業務内容を見直したりシステム化するなど、無駄な残業や休日出勤が生じないように取り組んでいます。
なぜなら、IT業界は深刻な人手不足のため、せっかく確保して育成した人材が、すぐに辞めてしまっては大きな痛手となってしまうからです。
IT業界においては、エンジニアの需要が増えていることで、ホワイト企業を中心に労働環境の改善が進んでいます。
3-2:直請けの仕事が多い
ホワイト企業の特徴としては、直請けの仕事が多いことがあげられます。
直請けの仕事とは、IT業界の多重請負構造の中で、発注元から直接受注する仕事のことです。
直請けの仕事のメリットとしては、次の3つがあげられます。
- 適正な単価で適正な納期が設定しやすい
- 実績としてアピールできる
- 成果次第で継続的な受注につながる
直請けの仕事の方が、二次請け・孫請けの仕事より確実に利益は見込めますし、スキルや成果が上がることで単価交渉もさらにしやすくなります。
3-3:社長や営業部門のITへの理解力が高い
ホワイト企業の特徴としては、社長や営業部門のITへの理解力が高いことがあげられます。
受注の段階で、社長や営業がIT部門の開発力や作業力をしっかり理解し把握していれば、無理な案件や納期が間に合わないような設定は十分避けることができます。
そのため、エンジニア側は、無理な長時間労働や休日出勤をする必要がなくなるため、会社への信頼も深まります。
3-4:人材育成に力を入れている
IT業界のホワイト企業では、人材育成にも力を入れています。
なぜなら、直請けや単価の高い案件を受注し成果をあげ続けていくためには、エンジニアのスキルを向上させることが不可欠だからです。
個々の社員のスキルをアップさせることで、会社全体の開発力も上がり、他社との競争力を強化することができます。
ここまで、IT業界のブラック企業の特徴や、ホワイト企業の特徴について解説してきました。
次の章では、今あなたがブラックなIT企業に勤めている場合、どの様な対処法があるか詳しく解説していきます。
4章:ブラックなIT企業に勤めている時の対処法
もし、あなたがブラックなIT企業に勤めている場合、どのような対処法を取れば良いでしょうか。
会社に使い潰されないよう身を守るためには、
- 労働基準監督署や労働組合に相談する
- すぐに退職する
- 慰謝料や残業代を請求する
といった方法をとることができます。
順番に解説していきます。
4-1:労働基準監督署や労働組合に相談する
ブラックな労働環境であっても、そうした部分が解消されるなら今のまま会社で働き続けたい、という人もいるのではないでしょうか。
そうした場合は、会社に改善を要求する必要があるので、労働基準監督署や労働組合に相談しましょう。
労働基準監督署は、労働者からの相談によって会社を調査することも可能です。
ブラック企業には指導が入ることになっていますが、慢性的な人員不足のためその効果は限定的だと言えるかもしれません。
4-2:退職・転職の準備をする
あなたの会社がブラックなIT企業だった場合、専門家に相談するだけでなく、ブラック企業を退職し、もっと労働環境の良いIT企業に転職する準備を進めることが重要です。
4-2-1:ブラック企業を退職する流れ
ブラック企業から転職するためには、まずは退職するための流れについて、正しく押さえておく必要があります。
退職する場合の流れは、次のようになります。
ポイントは、
- できるだけ1ヶ月以上前(最低でも2週間前)に退職の意思を伝えておく
- すぐに転職しない場合は、失業保険受給の手続きを進めておく
- 退職拒否された場合は会社に内容証明で退職届を提出すればOK
という点です。
退職時の注意点について、詳しくは以下の記事で解説しています。
今すぐ辞めよう!ブラック企業を穏便かつ確実に退職する方法と2つの注意点
4-2-2:ブラック企業から転職するための準備
ブラック企業から転職するためには、まずは働きながらでも転職活動を進めていく必要があります。
なぜなら、転職先が決まっている状態で退職できれば、無収入の期間が短くなり経済的な負担を抑えることができるからです。
過酷なブラック企業に勤めながら転職活動を進めることは大変ですが、ネットでの情報収集や転職サイトを利用するなど、前もって転職活動を進めていくことをおすすめします。
また、転職先が決まり会社を退職する前に、「残業代の請求」の準備をはじめておくこともとても重要です。
4-3:慰謝料や残業代を請求する
転職することを決め、今の会社を辞める際には、本当はもらえるはずだった残業代の請求を忘れずに行うことをおすすめします。
うまくいけば、あなたの手間がほとんどかからずに200万を超える大金が戻ってくる可能性もあります。
残業代は、
という式で計算します。
基礎時給は、月給制の場合は1か月の給料を所定労働時間(※)で割って計算できるので。
※雇用契約で定められている1ヶ月あたりの平均労働時間のこと。一般的に170時間前後となっています。
月給が25万円の人が月に60時間残業をしていた場合は
25万円÷170×1.25×60=11万294円
という大金になります。
もし過去2年間60時間残業していた場合は、260万円を超える金額になります。
これまで働いていたブラックな会社から未払いの賃金や残業代を取り戻すためには、
- 自分で請求する方法
- 弁護士に依頼する方法
という2つの方法が考えられます。
それぞれのメリットとデメリットは次の通りです。
残業代をより高額かつ確実に取り返すためには、弁護士に依頼することが最善です。
なぜなら、残業代の計算や交渉は、専門的な知識が必要なため、1人で戦っては会社側に負けてしまうからです。
弁護士に依頼した場合、
- 交渉
- 労働審判
- 訴訟(裁判)
といった手段によって、残業代請求の手続きが進められます。
実は、弁護士に依頼すると言っても「訴訟」になることは少ないです。
おそらくあなたが心配しているであろう「費用」の面でも、「完全成功報酬制」の弁護士に依頼すれば、「相談料」や「着手金」ゼロで依頼することができます。
弁護士に依頼すると、あなたの「会社と戦う」という精神的負担を、弁護士が肩代わりしてくれるだけでなく、時間・手間を節約することもできるのです。
ただし、弁護士に依頼する場合は「弁護士なら誰でもいいだろう」とは考えないでください。
実は、法律の知識は広い範囲に及ぶため、自分の専門分野以外の件については、あまり知識がない弁護士が多いです。
そのため、残業代請求に強い弁護士に依頼することをおすすめします。
残業代請求に強い弁護士の選び方や、相談の流れ・かかる費用などについて、詳しくは以下の記事に書いていますので、ご覧になってください。
【残業代請求】弁護士選びの8つのポイントと解決までの流れや費用を解説
5章:転職の際にブラックなIT企業を見抜くポイント
転職時にブラックなIT企業を見抜くポイントは、次の3つです。
- 求人情報のポイント
- 面接時のポイント
- 自分で情報を集める場合のポイント
それぞれ解説していきます。
5-1:求人情報のポイント
就職・転職の際に、求人情報からブラック企業を見抜くポイントは、次の4つです。
- 常に求人をかけている
- 給与が不相応に高い
- 未経験者も募集している
- みなし残業代制・裁量労働制での採用と書かれている
それぞれ解説していきます。
5-1-1:常に求人をかけている
2、3ヶ月も同じ求人を続けているIT企業は、社員がすぐに辞めてしまうことを前提にして、大量募集・大量採用を行っている可能性があります。
このような企業は、ブラック企業の可能性が高いといえます。
なぜなら、ブラック企業は、従業員を育てるつもりがなく、使い捨ての駒のように扱うため離職率が高くなるからです。
そのため、人手不足を解消するために、常に大量採用を行っているのです。
5-1-2:給与が不相応に高い
求人情報で、給与が不相応に同業他社より高い場合は、ブラック企業の可能性があります。
なぜなら、掲載されている金額には、「業績給」や「固定残業代」含まれている場合があるからです。
例えば、「業績給」が含まれている場合は、厳しいノルマが課されるだけで、成績が上がらなければ低い基本給だけになってしまいます。
また、「固定残業代」が含まれる場合は、給与を多く見せかけることができますし、残業時間と金額が不明確な場合は、長時間の残業や超過分の残業代の未払いが生じる可能性があります。
5-1-3:未経験者も募集している
「IT業界未経験者OK」こういった求人を行っている企業は、ブラック企業の可能性があります。
なぜなら、門戸を広げてより多くの求職者を大量募集・大量採用して、人手不足を解消しようとしているからです。
また、とりあえず多くの求職者を集めて、その中から人物や学歴・職歴、資格などを見極めて選考するといった、会社都合の求人を行っている企業もあります。
こういった求人は、採用されたとしてもきちんと教育してもらえなかったり、営業についても厳しいノルマを課される可能性があります。
5-1-4:みなし残業代制・裁量労働制での採用と書かれている
みなし残業代制・裁量労働制での採用と書かれている求人は、はじめから残業が前提となっていて労働時間が長いブラック企業の可能性があります。
みなし残業代制とは、固定残業代制のことで、「一定の残業時間分の残業代を、最初から給料として払っておく制度」のことを言います。
例えば、次のような求人があった場合、
- A社:基本給32万円(60時間分の残業代5万円を含む)
- B社:基本給27万円(残業代別)
一見、A社の方が社員の残業代を確実に支払ってくれる良い会社のように思えますが、B社で通常の計算をもとに残業代をもらえれば、A社よりも給与は高くなります。
またA社のような契約では、60時間を超えないと表記にある32万円が支払われなかったり、何時間残業をしても固定残業代の5万円以上が支払われなかったりするケースもあります。
そもそも、60時間の残業に対して5万円の残業代は金額が低すぎるので、計算方法が不当である可能性も高いです。
裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ会社側と協定などで決めた時間を労働時間と「みなす」制度のことを言います。
例えば、会社側と1日のみなし労働時間を8時間と決めていたら、10時間働いた日でも働いた時間は8時間とみなされ、残業代は発生しません。
しかし、この制度は誰にでも適用できるわけではなく、当てはまる職種が厳しく制限されています。
裁量労働制は本来、エンジニアやデザイナーなど専門性の高い業務にかかわる社員が対象とされていますが、ブラック企業では悪用されている場合があります。
裁量残業制については、次の記事で詳しく解説しています。
裁量労働制にも残業がある!制度の考え方と残業代が貰える条件を解説
5-2:面接時のポイント
就職・転職の面接の際に、ブラック企業を見抜くポイントは、次の3つです。
- 面接官や社内の様子が異様
- 質問に対して曖昧な回答しかない
- その場で内定が出る
それぞれ解説していきます。
5-2-1:面接官や社内の様子が異様
面接の際に、面接官の態度が横柄だったり、社内の様子が暗く活気がなかったり、少しでも異様な感じがした場合は注意が必要です。
特に面接官の態度が悪い会社は、上司が部下に対して高圧的な態度をとることが常態化している場合が多いため、選考を辞退することをおすすめします。
また、面接時にIT職種を軽視している感があったり、逆にITに過度に期待しすぎている場合も注意が必要です。
なぜなら、会社内におけるIT部門の権限が低かったり、経営陣のITに関する理解度が低いため、その認識の違いがIT部門の仕事に影響する可能性があるからです。
5-2-2:質問に対して曖昧な回答しかない
業務内容や勤務形態、残業などに関するこちらの質問に対して、曖昧な回答しか得られない場合は、ブラック企業の可能性が高いです。
なぜなら、入社するまで会社としては、実情を隠しておきたい理由があると考えられるからです。
例えば、毎日の残業が日常化して「みなし残業代制」が悪用されている状況だったり、ノルマやプレッシャーの厳しい業務内容が多い場合もあります。
面接の際は、職と人を求めるそれぞれの立場に上下はないので、気になることは全て質問することが重要です。
5-2-3:その場で内定が出る
面接の場ですぐに内定が出て承諾を求める企業は、ブラック企業の可能性があるので注意が必要です。
なぜなら、ブラック企業は、従業員を育てるつもりがなく、使い捨ての駒のように扱うため、離職率が高く人手不足に陥っている企業が多いからです。
内定後すぐに承諾を求められる場合や、内定辞退を認めさせない企業は、ブラック企業ではないか再度面接状況や求人情報などを確認することをおすすめします。
5-3:自分で情報を集める場合のポイント
自分で企業の情報を集める方法としては、インターネットでその企業の口コミを調べたり、実際に夜間や休日に電話をかけてみることがあげられます。
ネットの口コミは、実際にその企業の社員や元社員が書いたものか確認できないため鵜呑みにはできませんが、あまり否定的な意見が多い場合はやはり注意が必要です。
さらに、深夜や休日に電話を掛けてもつながるようであれば、残業が常態化していることも考えられます。
まとめ
最後に今回の内容について、もう一度振り返ってみましょう。
ブラック企業とは、
「従業員を採用してから辞めさせるまで過酷な労働環境や低待遇で働かせ続けて、会社だけが儲けようとする企業のこと」
です。
IT業界特有のブラック企業の特徴は
- 長時間残業・休日出勤が常態化している
- サービス残業が多い
- 技術や開発経験が身につかない
- IT部門の権限が低い
- 多重請負構造の孫請けになっている
- 入社難易度が非常に低い
- ベンチャー企業がブラックになりやすい
といった面に現れることを説明し、最後にブラック企業で働くあなたが今すぐ取るべき行動の選択肢を解説しました。
転職を考えている場合は、少しの手間で多額の残業代が戻る可能性もあるので、残業代請求に強い弁護士に依頼することをおすすめします。