
最近よく耳にする「フレックスタイム制」をあなたはご存知ですか?フレックスタイム制とは、「始業や就業の時間を自分で自由に決めることができる働き方」のことです。
そこで、この記事では、フレックスタイム制の正しい意味や合法になるための条件、残業代の計算方法などを紹介していきます。
フレックスタイム制とはどのようなものなのかを、しっかり押さえましょう!
目次
1章 フレックスタイム制とは
この章では、フレックスタイム制の正しい意味やメリット・デメリット、導入の条件などを紹介していきます。
1-1 働き方は自由!フレックスタイム制の正しい意味
フレックスタイム制とは「始業や就業の時間を社員が自分で自由に決めることができる働き方」のことを指します。では、具体的にどのような制度なのでしょうか。
フレックスタイム制は、社員の価値観やライフスタイルが多様化する中で、柔軟な労働の仕方を実現するというニーズにこたえる形で設計された制度です。
まず覚えておいてほしいのは、フレックスタイム制を導入すると法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働くことができる、という点です。
つまり、フレックスタイム制では、あらかじめ決めた労働時間の枠内なら何時間働いても残業代が出ないのです。
一か月以内の「一定の期間(清算期間))」と、その期間内の「総所定労働時間(契約時間)」があらかじめ決められています。定めた期間(清算期間)内で契約時間を超えなければ、その期間は社員が一日8時間、週40時間を超えて自由に働くことができます。
ここで、例を見てみましょう。
(例)定めた期間(清算期間)1週間のうち、契約時間が40時間と設定されていた場合
この例では、月曜は5時間、火曜は10時間…と毎日働く時間が異なります。しかし、定めた期間(清算期間)1週間の労働時間は40時間に収まります。これは契約時間内ですので、例えば火曜日に10時間働いたとしても、会社は残業代を支払わなくてよいのです。
フレックスタイム制の1日の働き方
次に、フレックスタイム制の1日の働き方を見ていきましょう。フレックスタイム制を採る多くの企業は、働く時間帯を2つにわけています。
・フレキシブルタイム
フレキシブルタイムとは、出勤するかを自由に選ぶことができる時間帯を指します。例えば、8時に出勤しても、11時に出勤しても、出勤しなくても構いません。
・コアタイム
コアタイムとは、1日の中で必ず出勤しなければいけない時間帯のことを指します。コアタイムは必ず必要なものではなく、1日中フレキシブルタイムにすることも可能です。
1-2 フレックスタイムのメリット・デメリット
時間に縛られずに働くことができるフレックスタイム制ですが、他にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。
【メリット】
・働く時間帯を自由に設定できるので、子育てやプライベートとの調整がしやすい
・効率的に仕事ができる
・仕事が終われば帰ることができるので、残業を減らせる
【デメリット】
・自己管理ができないと、仕事がうまく回らなくなってしまう
・社員同士でコミュニケーションをとるのが難しい
・残業代をごまかされやすい(残業代を違法に低く支払われやすい)
1-3 フレックスタイム制が合法になる条件
このように、フレックスタイム制は社員にとっても会社にとっても便利な制度ですが、自由に使えるわけではありません。一定の条件をクリアしないと、フレックスタイム制を使うことはできないのです。
法律によれば、フレックスタイム制を合法に使うための条件は、以下の3つになります。
①労働組合(労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)との間の労使協定で次のA~Dまでを定めること
A 対象労働者の範囲を定めること
例:「全従業員を対象とする」
「●●課所属の正社員を対象とする」
B 清算期間(フレックス制の単位となる期間)と起算日を定めること
例 「毎月1日から月末までの1か月」
この場合、毎月1日という起算日と、1か月以内の清算期間が示されています。
C 清算期間において働くべき総所定労働時間(総枠)を定めること
D 標準となる1日の労働時間の長さを定めること
②労使協定において、労働者の過半数を代表する者を選ぶ手続きにおいて、民主的な方法で選ばれていること
③就業規則に「始業時間・終業時間を労働者に委ねる」などフレックスタイム制を採ることを記載すること
なお、労使協定に、コアタイムとフレキシブルタイムを定めた場合は、就業規則にその時間を記載しなければなりません。
以上のうち一つでも満たしていないのであれば、その会社におけるフレックスタイム制は違法です。その場合には、原則通り、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間の残業代を請求することになります。
2章 「フレックスタイム制だから残業代は出ないよ」は違法!
フレックスタイム制を採る場合、働き方は自由です。そのため、このようなことを会社から言われることがあります。
しかし、これは大きな間違いであり、違法です。フレックスタイム制でも残業代は出ます。では、どのような場合に残業代が出るのでしょうか。
残業代が出るのは、定めた期間(清算期間)における総所定労働時間よりも、実際に働いた時間の方が長い場合です。
(例)平成29年1月1日から月末までの清算期間において、総所定労働時間160時間と決められている場合に、1か月で200時間働いた
この場合、
200時間-160時間=40時間
が残業時間となります(実際の計算は次章で)
【コラム】総労働時間より働いた時間の方が短い場合
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フレックスタイム制の下で働く場合、残業時間だけでなく、自分の働いた時間が決められた総労働時間より短くなる場合も注意しないといけません。
万が一、実際に働いた時間が総労働時間より短くなった場合には、不足分の給料がカットされてしまいます。
また、足りなかった時間分を、次の週や月に繰り越して働かせることも違法ではありません。
逆に、残業代があるからといって、残業代分を翌月ただ働きさせることは違法です。
次の章では、実際に残業代を計算する方法を説明します。
3章 自分でできる!フレックスタイム制における残業代の計算方法
2章では、フレックスタイム制においても残業代が発生することについて説明してきました。これを踏まえて、この章では実際に、フレックスタイム制における残業代を計算していきます。
STEP1・2つの残業時間を理解し、残業時間を出す
残業代を計算するにあたり、まずは残業時間を出してみましょう。
総所定労働時間を超える時間が残業時間なのですが、この残業時間には2つの種類があることを理解することが大事です。
実は、フレックスタイム制においても法律で定められた総労働時間(法定労働時間)が存在し、総所定労働時間はその枠内になければならないのです。
とすると、次の図のように、残業時間は、総所定労働時間を超えて法定労働時間内の残業(法内残業)と、法定労働時間を超える残業(法外残業)に区別されることになります。
法内残業においては割増率の適用はなく、法外残業においては割増率(1.25倍)の適用があります。
STEP2・残業代を計算する
次に、残業代を計算してみましょう。残業代の計算式は以下のとおりです。
法内残業時間×基礎時給+法外残業時間×基礎時給×1.25
*月給の場合、基礎時給は「あなたの月給(基本給)÷一月平均所定労働時間」の計算で出します。一月平均所定労働時間は、わかりやすく170時間としています。
(例)平成29年1月1日から月までの清算期間、契約時間160時間、基礎時給1000円のAさんは、その月において200時間働いた。
法定労働時間は、その月ごとに、その月の日数により下の図のように違います。
【表】
1日の法定労働時間が40時間の場合
月の日数 | 法定労働時間 |
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
1月は31日あるので、法定労働時間は177.1時間です。
よって、
法内残業=177.1時間-160時間=17.1時間
法外残業=200時間-177.1時間=22.9時間
よって、
法内残業の残業代は、
1000円×17.1=1万7100円
法外残業の残業代は
1000×1.25×22.9時間=2万8625円
合計
1万7100円+2万8625円=4万5725円
となり、Aさんは4万5725円を残業代として支払ってもらえることがわかります。
計算をした結果、残業代をもらえることがわかったら、証拠を集めたり、請求方法を考えたりしましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
【退職後でも可!】残業代請求の2つの方法と在職中から集めることができる証拠
4章 フレックスタイム制に似ている制度
ここまでフレックスタイム制について説明してきましたが、法律上、似たような制度がいくつかあります。
4-1 裁量労働制
裁量労働制とは、ライターやシステムエンジニアなど、専門的な職種で導入されることの多い働き方です。
具体的には「何時間働いても一定時間働いたこととみなす制度」のことを言います。これは、職業の自由度が高いため認められた働き方です。
例えば、「1日8時間働いたとみなす」という期待があれば、5時間働いても、10時間働いても、8時間働いたことにされてしまいます。
裁量労働制は使い方によってはサービス残業の横行につながりかねないため、導入には厳しい要件が課されています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
【裁量労働制とは?】弁護士が解説する本当の意味と残業代のカラクリ
4-2 変形時間労働制
変形時間労働制とは、1か月単位や1週間単位の中で、総労働時間が規定の範囲を超えなければ、残業代が割増されない、という制度を指します。
フレックスタイム制によく似ていますが、変形時間労働制では、始業や終業の時間は自由ではありません。あくまで、忙しい時期には長く働き、そうでない時期には早く帰れる、という制度になります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
変形労働時間制とは?誤解されがちな意味と企業が悪用している時の対処法
まとめ
今回はフレックスタイム制の正しい意味について解説しましたが、いかがだったでしょうか?
最後にもう一度、今回の内容を振り返ります。
・フレックスタイム制とは「始業や就業の時間を自分で自由に決めることができる働き方」のことを言い、1日の労働時間は、必ず出社するコアタイムと、出社が自由なフレックスタイムに分けられる
・フレックスタイム制では、一か月以内の「一定の期間(定めた期間(清算期間))」と、その期間内の「総所定労働時間(契約時間)」があらかじめ決められており、定めた期間(清算期間)内で契約時間を超えなければ、その時間は自由に働くことができる
・フレックスタイム制のメリットは、
①働く時間帯を自由に設定できるので、子育てやプライベートとの調整がしやすい
➁効率的に仕事できる
③仕事が終われば帰ることができるので、残業を減らせる
・フレックスタイム制のデメリットは、
①自己管理ができないと、仕事がうまく回らなくなってしまう
➁社員同士でコミュニケーションをとるのが難しい
・フレックスタイム制を導入するための条件は3つ
①労使協定おいて、労働者の範囲・清算期間・総省低労働時間・標準的な1日の労働時間の記載が必要
②過半数代表者が民主的に選出されていること
③就業規則にフレックスタイム制であることを書くこと
・残業には、法内残業と法外残業が存在する
・残業代は、法内残業時間×基礎時給+法外残業時間×1.25×基礎時給で計算できる
・フレックスタイム制に似ている制度として裁量労働制と変形時間労働制がある
フレックスタイム制の正しい意味や残業代の計算方法をおさえ、もし、あなたが残業代をごまかされている場合は、もらうべき残業代をきちんともらいましょう!