管理職でも残業代は出る!?労働基準法上の定義と簡単チェックリスト
この記事を読んで理解できること
- 労働基準法における管理職の定義
- 注意!ブラック企業は残業代を払わないための手口として「管理職」を使う
- 名ばかり管理職だった場合に残業代を取り返す3つの方法
ついに念願の管理職に昇進した!
しかし、管理職であるあなたは、
- 残業がずっと続く
- 残業代が出ない
- 休日が取れない
このような働き方をしていませんか?
あなたは、管理職ならばこのような働き方は当たり前、と思っているかもしれません。
しかし、実は世間一般で言われている「管理職」のほとんどは、労働基準法上の管理職(管理監督者)には該当しないのです。
つまり、あなたは会社から「管理職」と呼ばれ、長時間働いても管理職だから残業代は出ない、と思っているかもしれませんが、これは労働基準法に違反しているのです。
このように、管理監督者ではないにもかかわらず、管理職と呼ばれている社員のことを「名ばかり管理職」と言います。
そこで今回は、
- 労働基準法における管理職(管理監督者)の定義
- 世間一般の会社で言われている「管理職」と「管理監督者」の違い
- 管理職の定義の混同による名ばかり管理職問題
を中心に詳しく解説します。
管理職に対する認識が不足していた場合、「残業した分は残業代が出る」など労働者としての権利が保護されず、会社にとって都合のよい存在になっているかもしれません。
場合によっては、高額の残業代を請求できることもあります。
あなたが名ばかり管理職なのかどうかが簡単に分かるチェックリストや過去の裁判例なども参考に、労働基準法上の管理職(管理監督者)について詳しく見ていきましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■労働基準法における管理職とは
- 世間一般の管理職と労働基準法における管理職は異なる。
- 労働基準法における管理職とは「管理監督者」のこと。
■管理監督者の判断基準
以下のすべてが満たされていること。
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
- 自由な裁量のある勤務形態
- 地位にふさわしい待遇
■管理監督者には適用されない労働基準法の権利
一般的な労働者には労働基準法で以下の項目で権利があります。
- 労働時間
- 休憩
- 休日
- 割増賃金
ただし、管理監督者に対しては、これらは適用されません。
■管理監督者の要素を満たさない「管理職」は「名ばかり管理職」
- 管理監督者として十分な権限や裁量、待遇がないにもかかわらず、残業代ゼロで長時間労働をしている場合、名ばかり管理職として会社から利用されている
- もし名ばかり管理職であった場合、未払い残業代を会社に請求できる可能性がある
目次
1章:労働基準法における管理職の定義
「管理職」と聞くと、「部長」や「店長」など会社の中で一定規模の部門を管理する人たちを思い浮かべることが多いのではないでしょうか。
そして、その管理職は、係長や課長職でも管理職にはならない場合もあり、会社によって定義が曖昧で、独自に決定されているケースが多いようです。
しかし、実際には労働基準法では「管理職」という言葉自体はありませんが,代わりに「管理監督者」という言葉を置いています。
1-1:管理職とは、労働基準法では管理監督者のこと
第四十一条
2:事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
「管理監督者って役職で決まるものではないのですか?」
「管理監督者にあたるかどうかは、権限の強弱や、待遇の程度などの実態に基づいて判断しなければならないのです。」
そして、「管理監督者」については、労働基準法関係解釈例規(昭和63年3月14日)にて以下のように記されています。
「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。
そのため、「一般的にイメージされる管理職」と「労働基準法における管理職」は必ずしもイコールの関係にはなりません。
労働基準法上の管理監督者は、以下の3要素を満たしている必要があります。
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
- 自由な裁量のある勤務形態
- 地位にふさわしい待遇
それでは、1つずつ解説していきます。
<自由な裁量のある勤務形態>
管理監督者は、経営者に近い立場で職務を遂行するうえで、労働時間に関する規制や会社から拘束を受けません。
<地位にふさわしい待遇>
管理監督者は、会社の中でも責任ある職務を任される立場にあります。責任を負うだけでなく、業務の範囲も幅広いため、一般の従業員と比べて、給与や賞与などの待遇が高くなっています。
1-2:一般社員に適用され、管理監督者には適用されないルール
労働基準法41条では、「労働期間等に関する規定の適用除外」が定められています。
第四十一条
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
- 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
- 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
- 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
これは、労働基準法で定められた労働時間、休憩及び休日に関する規定は、一部の労働者には適用されないというものです。
一般労働者 | 管理監督者 | |
労働時間 | ○ | × |
休憩 | ○ | × |
休日 | ○ | × |
割増賃金 | ○ | × |
労働基準法で定められた労働時間、休憩及び休日に関する規定のうち、管理監督者に適用されない項目は以下の4つです。
各項目について、1つずつ解説していきます。
<労働時間の規制が適用されない>
第三十二条
- 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
- 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
一般的な従業員に対しては、1日8時間、週40時間を超えての労働は禁止されています。
仮にこのラインを超えて残業をさせた場合、会社側は割増賃金として残業代を支給しなければなりません。
<休憩時間の規制が適用されない>
第三十四条
- 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少なくとも四十五分、八時間を超える場合においては少なくとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
1日6時間を超える労働時間の場合は45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を、労働時間の途中で与えることが義務付けられています。
<休日の規制が適用されない>
第三十五条
- 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。
- 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
毎週少なくとも1日以上、もしくは4週間のうち4日以上、法定休日として休日を与えることが義務付けられています。
仮に休日労働があった場合、休日労働手当の支給がされます。こちらも管理監督者には適用されません。
<割増賃金の規制が適用されない>
第三十七条
- 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法32条で定められている法定労働時間を超えた場合、もしくは35条の法定休日に労働させた場合、所定の割増賃金を支払うことが義務付けられています。
これも、管理監督者には適用されません。
以上が、一般の労働者に対しては適用されますが、管理監督者には適用されない項目です。
そのため、管理監督者は残業代なしの残業や休日出勤などがあっても違法とならないのです。
1-3 :一般社員にも管理監督者の両方に適用される権利
一般労働者 | 管理監督者 | |
深夜割増賃金 | ○ | ○ |
年次有給休暇 | ○ | ○ |
<深夜割増賃金を支払わなければならない>
第三十七条
4:使用者が、午後十時から午前五時までの間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
会社側としては管理監督者には残業代を支払わなくてもよい存在であるため、労働時間の記録を行わないこともあります。
しかし、労働基準法では、深夜労働に対して義務として割増賃金を支払わなければならないとあります。
深夜時間帯の労働に従事する管理監督者は労働時間の記録を行うなど注意が必要です。
<年次有給休暇を与えなければならない>
第三十九条
- 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
有給休暇の行使はあくまで管理監督者本人の意思によりますが、有給を行使する権利は一般の従業員と同様にあります。
ここまで、管理監督者について説明してきました。
会社では「管理職」と言われそうな人でも、実際には、労働基準法上の「管理監督者」に該当するのはほとんどなさそうなことがお分かりいただけましたでしょうか?
2章では、「管理職」という言葉を悪用して、残業代を支払わないブラック企業の手口について解説します。
2章:注意!ブラック企業は残業代を払わないための手口として「管理職」を使う
1章で説明したように、一般的なイメージの「管理職」と労働基準法上での「管理監督者」は、法律上でしっかりと区別されています。
しかし、会社側は労働基準法で定められている労働者の権利が管理監督者には適用されないことを理由に、長時間労働をさせたり残業代を払わなかったりしたいがために「管理職」を悪用して社員をこき使うケースもあります。
それが、これから説明する「名ばかり管理職」というものです。
2-1:名ばかり管理職に注意
名ばかり管理職とは、会社では「管理職」として扱われるものの、労働基準法における「管理監督者」には該当しない管理職のことをいいます。
1章で説明したように、一般的な労働者には労働時間や残業代の規制などが労働基準法で定められています。一方で、管理監督者は概ねその規制が適用されません。
管理監督者には労働時間と休日の制限がなく、割増賃金(残業代)も払わなくてよいため、会社にとっては都合のよい存在なのです。
その結果、企業経営の重要部分に関与、自由な裁量のある勤務形態、地位にふさわしい待遇が与えられていない、つまり労働基準法における管理監督者ではないにもかかわらず、管理職として残業代ゼロで長時間労働をさせたりするのです。
管理監督者の判断基準は1章で説明した通りです。改めて確認して、名ばかり管理職ではないかチェックしてみましょう。
2-2:名ばかり管理職のチェックリスト
1章で説明した管理監督者の判断基準を基にチェックリストを作成しました。
当てはまる項目が多いほど、名ばかり管理職である可能性が高いです。
<チェックリスト>
職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
- 同じ部署に上司がいる。
- 部署の予算決定権がない。
- 部署の業務内容を指示する立場にない。
- 経営方針に関する会議に出席したことがない。
- 採用に関わらない。
- 採用に関わるが、決定権はない。
- 部下の給料など労働条件を決められない。
- 部下を配置転換や解雇にさせることができない。
- 部下がいない。
自由な裁量のある勤務形態
- 出退勤が自由ではない。
- タイムカードで管理されている。
- 会社に勤怠を報告する義務がある。
- 長時間残業を強いられている。
地位にふさわしい待遇
- 同じ立場の社員よりも給料が低い。
- 部署の中で自分より給料が高い社員がいる。
- 残業代が出ていた管理職以前の方が給料が高い。
- 役員手当がもらえない。
- 一般の社員と比較して、それほど給料に差がない。
これらは、1-1で説明した労働基準法における管理監督者の特徴に作成しました。
どれも労働基準法における管理監督者であれば当てはまらない項目です。
2-3:名ばかり管理職とみなされた判例
ここまで、労働基準法における管理監督者の定義と、名ばかり管理職について解説してきました。
それでは実際に、「名ばかり管理職である=管理監督者として認められなかった」判例を理由とともに紹介します。
①ハンバーガーショップ店長が名ばかり管理職と判断された裁判(平成20年1月28日判決)
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
→アルバイトの採用や販促の企画・実施など重要な職責はあったが、店舗内に限られたものだった。
- 自由な裁量のある勤務形態
→会社の方針で月の残業時間が100時間以上で休日出勤を強いられており、労働時間に対する裁量を持っていなかった。
- 地位にふさわしい待遇
→店長の賃金が、店長に次ぐ者と差額が少なく、管理監督者にふさわしい待遇ではなかった。
②学習塾の営業課長が名ばかり管理職と判断された裁判(平成14年4月18日判決)
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
→人事管理を含めた運営に関する管理業務全般の事務を担当していたが、裁量的な権限はなかった。
- 自由な裁量のある勤務形態
→タイムカードで出退勤の記録が求められ、他の従業員と同様に勤怠管理が行われていた。
- 地位にふさわしい待遇
→給与など他の従業員と比較して、管理監督者としての地位にふさわしいものではなかった。
③インド料理店の店長が名ばかり管理職と判断された裁判(平成12年12月22日判決)
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
→店長の業務がほかの店員と同様の接客や清掃などであった。店員の採用権限や労働条件の決定権限がなかった。
- 自由な裁量のある勤務形態
→タイムカードでの出退勤の記録を求められていた。
- 地位にふさわしい待遇
→役職手当等の管理監督者としての地位にふさわしい手当が支給さていなかった。
④ソフトウェア開発のプロジェクトマネージャーが名ばかり管理職と判断された裁判(平成23年3月9日判決)
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
→他の従業員が接することができない機密事項に接する立場になかった。ただし、部下の労務管理はしていた。
- 自由な裁量のある勤務形態
→出退勤は自由であった。ただし、一般の従業員も同様であった。
- 地位にふさわしい待遇
→ほかの従業員と比較して高い給料は貰っていた。
このように、「店長」、「課長」など肩書きから判断すれば管理職と思われがちな立場でも、実際には労働基準法における管理監督者には当たらないケースも多いのです。
もし、名ばかり管理職である場合、あなたが残業した分の残業代は受け取る権利があります。
そこで3章では、実際に名ばかり管理職である場合に、残業代を請求する方法を解説していきます。
3章:名ばかり管理職だった場合に残業代を取り返す3つの方法
労働基準法で「管理監督者」には該当しない「名ばかり管理職」である場合、残業代が支払われないことは違法です。
さらに、長時間労働を強いられている場合には、高額な残業代を請求することも可能になります。
未払いの残業代を取り返すためには、以下の3つの方法があります。
- 自分で直接未払い残業代を請求する
- 労働基準監督署に申告する
- 弁護士に相談する
それでは、一つずつ解説していきます。
3-1:自分で直接未払い残業代を請求する
まずは、会社に自分で直接未払い残業代を請求するというものです。
ただし、会社側が弁護士を用意して争う姿勢をみせる場合には、会社側の有利になるように、本来支払うべき残業代よりも少ない金額で折り合いをつけるかもしれません。
また、交渉が難航した場合には、残業代が支払われたとしても、会社での立場が危うくなり、退職することも考えなければならないでしょう。
自分で直接残業代を請求する方法について、詳しくは以下の記事で解説しています。
自分で残業代を請求する3つの方法と専門弁護士が教える請求額を増やすコツ
3-2:労働基準監督署に申告する
各都道府県に設置されている労働基準監督署に申告することで、会社への調査を経て、未払いの残業代が支払われる可能性があります。
ただし、労働基準監督署は、監察官不足や報酬を受け取らないなどといった理由から、未払い残業代の請求などでは動いてくれないこともあります。
そのため、確実に残業代を取り返すことができるとは言い切れません。
労働基準監督署への相談について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
3-3:弁護士に相談する
そこで、未払い残業代を取り返すためには、弁護士に依頼することが最善といえるでしょう。
実際に弁護士に相談して未払い残業代を請求する場合、以下の3つのケースが考えられます。
- 交渉:弁護士が依頼者の代わりに会社と交渉。
- 労働審判:裁判所で1~3回の審判。
- 訴訟(裁判):上記のケースで決着がつかなかった場合。
弁護士に残業代請求を相談するときのポイントは、以下の記事で詳しく解説しています。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
まとめ:労働基準法における管理職と残業
いかがだったでしょうか?
最後に、もう一度この記事の要点を振り返ってみましょう。
まず、世間一般の管理職と労働基準法における管理職は異なります。
労働基準法における管理職とは「管理監督者」のこと。
その判断基準としては、
- 職務内容と責任及び権限など、企業経営の重要部分に関与
- 自由な裁量のある勤務形態
- 地位にふさわしい待遇
そして、一般的な労働者には労働基準法で以下の項目で権利があります。
- 労働時間
- 休憩
- 休日
- 割増賃金
ただし、管理監督者に対しては、これらは適用されません。
このような特徴を利用して、会社側はあなたを「名ばかり管理職」として扱うケースが多くあります。
管理監督者として十分な権限や裁量、待遇がないにもかかわらず、残業代ゼロで長時間労働をしていませんか?
もし名ばかり管理職であった場合、労働時間や残業代など現在の状況を改善できる可能性があります。
そのためには、
- 自分で会社と直接交渉
- 労働基準監督署に申告
- 弁護士に相談
などの方法があります。
ただし、残業代請求の場合は、3年の時効があります。過ぎてしまうと残業代を取り返すことはできなくなるため、心当たりのある方は早めに行動しましょう。
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