労働時間と休憩のルールと休憩時間が取れない時の対処法を弁護士が解説


この記事を読んで理解できること
- その時間は休憩にならない!労働時間と休憩の関係を解説
- 与えられた「休憩」が労働時間と認められた事例
- 休憩時間が取れない時にとるべき行動
- 休憩が労働時間だった時の賃金計算と請求の方法
毎日忙しく働くあなたは、次のような疑問や悩みをお持ちではないでしょうか。
「休憩時間には、どのようなルールがあるのだろうか?」
「仕事が長いのに休憩時間が短い気がする」
「休憩中にも頼まれることがあり、ゆっくり休めない」
「休憩時間の禁止事項が多くて、くつろぐことができない」
ただでさえ労働時間が長くなりがちな環境で、休憩時間も自由に使えず、ゆっくりと休めないとすれば、働く人の疲労が取れないばかりか、仕事の効率も下がるという悪循環にはまってしまいます。
実は、休憩時間は働く人の権利として認められており、取得の方法もしっかりと法律で定められています。
例えば、会社側は社員の1日の労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならず、この時間は仕事から離れて自由に使わせる必要があります。
しかし、会社側はあなたが休憩時間のルールに詳しくないのをいいことに、勝手に時間を短縮したり、仕事を兼ねた時間を休憩としたりするケースが多くあります。
そこで今回は、会社側の言い分に惑わされることなく、しっかりと休憩をとることができるように、正しい労働時間と休憩のルールをわかりやすく詳しく解説します。
あわせて、休憩が正しく取れない時の相談方法や、これまでの休憩が労働時間だった場合の未払い賃金の計算・請求方法についても説明したいと思います。
休憩について正しい知識を身につけ、自分が働きやすい環境を整えましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■労働時間と休憩のルール
労働時間は社員の働く時間の長さによって、下記のように与えることが義務付けられています。
- 労働時間が6時間以上、8時間以下の場合は少なくとも45分
- 労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間
■休憩時間は労働から離れられなければならない
休憩時間は、社員が「労働から離れることが保障された時間」でなければならず、下記のような場合は、休憩として与えられていても労働時間とみなされる場合がある。
- コンビニ、ファミレス、ガソリンスタンド1人勤務の休憩
- 警備員の仮眠時間
- 住み込み管理人の夜間の時間
- 電話番を任されている休み時間
- ドライバーの荷待ち時間など
■休憩時間の3つの原則
- 自由に利用させなければいけない
- 途中で与えないといけない
- 一斉に取らないといけない
目次
1章:その時間は休憩にならない!労働時間と休憩の関係を解説
あなたは普段、休憩時間をしっかりと取ることができているでしょうか?
1日働いて休みがないといったケースはもちろん、休憩が与えられていても実はその時間が労働時間に当たるケースは多くあります。
この章では、まず休憩時間の定義とルールについて解説します。
正しい休憩時間の考え方がわかれば、“休憩中”に仕事を押し付けられたり、本来は仕事とされるべき時間をごまかされたりしなくなるので、しっかり学んでおきましょう。
1-1:休憩時間の基本ルール
法律では、休憩時間を次のように設定するように定められています。
- 労働時間が6時間以上、8時間以下の場合は少なくとも45分
- 労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間
この休憩時間のルールは、正社員だけでなく、アルバイトや契約社員、嘱託など働き方にかかわらず適用されます。
こうした休憩時、働く人が「労働から離れることが保障された時間」でなければならないとされ、次のような事例は休憩ではなく労働時間とみなされることが多くなります。
- コンビニ、ファミレス、ガソリンスタンド1人勤務の休憩
- 警備員の仮眠時間
- 住み込み管理人の夜間の時間
- 電話番を任されている休み時間
- ドライバーの荷待ち時間など
多くの場合、作業と作業の間の待機時間や、来客や電話の対応も兼ねているという時間は休憩とはみなされません。
1-2:休憩時間の3つの原則
また、休憩時間には次の三つの原則があります。
- 自由に利用させなければいけない
- 労働時間の途中で与えないといけない
- 一斉に取らないといけない
順番に説明していきましょう。
①自由利用の原則
働く人は休憩時間を自由に使えることが保障されています。
そのため、会社や上司が休憩中の過ごし方について指示を出したり、一部の例外を除いて行動に制約をかけたりすることはできません。
②途中付与の原則
休憩時間には、社員の疲労回復という目的があるため、休憩は働いている時間の途中でなければなりません。
会社の指示はもちろんのこと、社員が自分の都合で休憩を取らずその分早く退社するといったこともできません。
③一斉付与の原則
また休憩はバラバラにではなく、働く人に一斉に与えなければいけないという原則があります。
ただ、休憩時間を一斉に与えると職場に誰もいなくなるような場合は、例外が認められています。
また、労使協定(会社と社員の間で結ばれる書面での決まりごと)を結んだ場合も一斉に付与しなくて良いとされています。
1-3:休憩時間に関する疑問Q&A
ここからは上記のルールや原則を踏まえて、休憩時間の疑問について説明したいと思います。
①休憩時間の分割
先ほど、「労働時間が6時間以上、8時間以下の場合は少なくとも45分、労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間」と説明しました。
ただ、休憩時間は分割することができます。
例えば9時から18時までが労働時間の場合、12時から1時間休憩しても、12時から45分と3時から15分休憩しても問題ありません。
②自主的に仕事
休憩は会社が必ず与えなければいけないもので、休憩時間は完全に仕事から離れている必要があります。
一方で、休憩には「自由利用の原則」があるので、社員が自主的に仕事をするのは自由です。
しかし、こうした場合に残業代を請求するのは難しいと言えるでしょう。
③外回りの休憩
外回りの仕事など場合も、同じように労働時間の長さで休憩できる時間が決まります。
休憩時間は完全に労働から離れた時間でなければいけないので、移動時間を休憩の代わりにすることはできません。
次章では、労働時間と休憩の判断が争われた具体的な事例を見ていきます。
自分と似たケースがないか確認してみてください。
2章:与えられた「休憩」が労働時間と認められた事例
法律上の労働時間とは、社員が会社の「指揮命令下」に置かれている時間を指すとされています。
指揮命令下というのは、会社の指示・命令で動いている時間かどうかで判断します。
例えば、朝礼への出席が義務であれば「指揮命令下にある」と考え、自主的に早く出社し勉強に当てている時間は「指揮命令下ではない」と考えます。
裁判などでは、社員が実際には作業をしていない時間が、仕事から離れた時間かどうかが微妙なケースが争いになることが多くなります。
休憩時間が労働とみなされた事例としては以下のようなものがあります。
◆セルフガソリンスタンドの休憩時間(クアトロ事件 東京地判 平成17年11月11日 )
このケースでは、セルフ式のガソリンスタンドで働く従業員が、勤務時間帯に休憩を取ることができない実態から、与えられた休憩が手待時間(※)に当たるとして割増賃金を請求しました。
裁判所は、
- 休憩中でも来客時は接客する必要があった
- 休憩時間の外出や利用方法が制限されていった
といった理由から、休憩時間は手待時間とし、労働時間として考えるべきだと判断しました。
※手待時間とは、指示があればすぐに仕事ができる準備をして待機している時間を指します。
◆大手スーパー警備員の仮眠時間(千葉地判 平成29年5月17日 )
こちらの事例では、大手スーパーの関連会社で警備を担当していた社員が、宿直時の仮眠時間が労働時間に当たるとして、未払いの賃金の支払いを求めていました。
裁判所は、この社員が仮眠中も制服を着たままで、異常が起きた場合はすぐに対応できるよう求められていた点から、仮眠時間に労働から離れていなかったと判断し、会社側に180万円の割増賃金の支払いを求めました。
◆住み込みのマンション管理人の時間外業務(大林ファシリティーズ事件 最二小判平成19年10月19日)
住み込みでマンション管理人として働いていた夫婦は、労働時間として決められていた9~18時以外にも、ゴミ出しや住民の対応など様々な業務があったため、未払いの残業代を雇用主に対して請求しました。
最高裁は、夫婦が労働時間外にも住民の対応に当たらなければいけない状況だったとし、朝の7時から管理室を消灯する10時まで、待機の時間も含めて労働時間とすべきだと判断しました。
このように、裁判でも社員が労働から離れていたかどうかで、休憩が労働時間として認められることが多く見られます。
それでは、正しく休憩時間が取れないとき、立場の弱い社員どのような行動をとればよいのでしょうか。
次章では、目的と相談先別にあなたがとるべき行動を解説します。
3章:休憩時間が取れない時にとるべき行動
もしあなたが休憩時間を正しく取れていない時、あなたが取るべき行動は次のような目的によって変わります。
- 休憩時間が正しく取れるように環境を改善する
- 未払いの賃金を請求する
ここからは、この2つの目的に対する効果を考えながら、会社に直談判する、労働基準監督署に相談する、弁護士に相談するという3つの方法について説明したいと思います。
3-1:会社に直談判する
環境の改善:★
賃金の請求:−
休憩時間の問題を解決しようと思った時に、すぐに行動できるのやり方は働いている会社に直接相談することです。
会社や上司が休憩時間のルールを正しく理解していなかった場合や、社員が知らないことで休憩時間を設定している場合は、改善が期待できる可能性もあります。
しかし、始めから社員を使い潰す気のブラック企業の場合は、直談判されて開き直ることも多く、こうした会社の場合は環境の改善は難しいかもしれません。
逆に上司や会社に「うるさい奴」「面倒な奴」だと思われ、社内での風当たりが強くなることもあります。
こうした場合でも自分たちの判断で、窓口業務や顧客対応など業務に影響が出ない範囲で、交代で休憩を取ることはできると考えられています。
3-2:労働基準監督署に相談する
環境の改善:★★
賃金の請求:−
労働基準監督署は、労働基準法などの法律が守られているかをチェックする機関で、各都道府県の労働基準局に設置されています。
休憩時間についても、明らかに法律違反がある場合は立入検査や行政指導に動いてくれることもあります。
労働基準監督署への相談は、
- メールで相談
- 電話で相談
- 訪問して相談
という3つの方法によって可能です。
匿名での相談も可能ですが、メールや電話よりは対面の相談の方が、緊急性の高い事案として扱ってくれることが多いようです。
しかし、証拠が揃っていない段階や、法的な判断が分かれるような事例では動いてくれず、未払い賃金の請求についても管轄外になります。
労働基準監督署への相談については、次の記事でも詳しく説明していますのでご確認ください。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
3-3:弁護士に相談する
環境の改善:★★
賃金の請求:★★★
3つの相談先のうち、唯一、未払い賃金の請求や会社との交渉まで行ってくれるのが弁護士です。
会社側が話し合いに応じない場合でも、証拠集めから交渉までを行い、未払い賃金の支払いでは最も解決の可能性が高いと言えます。
相談料や着手金などの費用の面でも、建て替え制度を利用したり、完全成功報酬制の弁護士に依頼したりすることで、初期費用をかけずに相談することが可能です。
また、会社側に正しい休憩時間を与えないと面倒なことになると思わせ、結果的に環境の改善につながると言えるでしょう。
弁護士に相談して残業代を取り返す方法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
ここまで読んだあなたは、「自分の休憩がもしかしたら労働時間だったのでは」と思っているのではないでしょうか。
そして、実際にもらえるはずだった賃金の計算についても気になっているかと思います。
そこで次章では、休憩が実は労働時間だった場合の計算方法について解説します。
4章:休憩が労働時間だった時の賃金計算と請求の方法
休憩が労働時間だった場合、その時間を足した1日の労働時間の合計が
- 8時間以内の場合は通常の給料として
- 8時間を超える場合は残業代として
賃金を受け取ることができます。
残業代は、
という式で計算することができます。
基礎時給というのは1時間あたりの賃金のことで、時給制の人の場合は時給、月給制の人の場合は、以下の計算式で算出できます。
1日9時間勤務(1時間休憩)で月給25万円の人のケースを考えてみましょう。
この人が休憩だと考えていた時間が、実は労働時間だったという場合は、
受け取れる金額=基礎時給×割増率×実は労働時間だった休憩時間
という式で計算します。
基礎時給は25万円÷170時間で1470円
割増率は通常の残業の場合は1.25倍
ひと月の休憩時間は20日勤務として20時間
とします。計算すると、受け取れる金額はひと月当たり
1470×1.25×20=3万6750円
になります。
残業代の請求は3年さかのぼって行うことができるので、
3万6750×36か月=132万3000円
と大金になるのです。
1日単位では少額でも、毎日の休憩が全て労働時間とされれば、このような大きな額になります。
休憩時間のルールを正しく理解し、しっかりと損のないように行動しましょう。
残業代の請求について、さらに詳しく知りたい方は次の記事もご覧ください。
【在職中でも退職後でもOK】残業代を請求するための完全マニュアル
まとめ
いかがでしたか?労働時間と休憩について正しく理解できたでしょうか。
ここで、今回の内容を簡単に振り返って見たいと思います。
まず、労働時間は社員の働く時間の長さによって、会社に与えることが義務付けられています。
その時間とは、
- 労働時間が6時間以上、8時間以下の場合は少なくとも45分
- 労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間
こうした休憩時間は、社員が「労働から離れることが保障された時間」でなければならず、休憩として与えられている時間のなかには、労働時間とみなされる時間が多くあることを確認しました。
ほかにも、休憩時間には
- 自由に利用させなければいけない
- 途中で与えないといけない
- 一斉に取らないといけない
というな3つの原則があります。
社員は働く人は休憩時間を自由に使うことができ、働いている時間の途中で休憩を取らなければいけません。
また、例外はあるものの休憩は働く人に一斉に与えなければいけないという原則もあります。
裁判などでは、社員が実際には作業をしていない時間が、仕事から離れた時間かどうかが微妙なケースが争われますが、「社員が労働から離れていたかどうか」で休憩が労働時間として認められることを説明しました。
ここまで見てきたように会社側に休憩時間と与えられる時間も、実は労働時間として認められるケースが珍しくありません。
休憩のルールをしっかりと理解し、より働きやすい環境を整え、場合によっては未払い賃金を請求できるように準備しておきましょう。