- 2018.06.28
- 2025.01.22
- #変形労働時間制残業代
変形労働時間制の残業代のルールや残業代が出るケースと計算方法を解説


この記事を読んで理解できること
- 変形労働時間制でも残業代が出る!正しいルールを把握しよう
- 変形労働時間制でも残業代が出る2つのケース
- あなたが本来もらえるはずの残業代の計算方法
あなたは、
「会社から『変形労働時間制』って言われたけれど、残業代は出るのかな?」
「変形労働時間制だから残業代は出ないって言われたけれど、それって違法じゃないの?」
「変形労働時間制が採用されている場合の、残業代の計算方法を知りたい」
などの悩み・疑問をお持ちではありませんか?
会社から「変形労働時間制」と言われても、聞き慣れない言葉ですし、どういう仕組みなのかよく分かりませんよね。
あまり知られていない仕組みなだけに、
- 会社が正確に理解しておらず、社員の残業代が少なくなってしまっている
- 悪質な経営者によって、サービス残業を正当化する手口として利用される
というようなケースがよくあります。
そのため、あなたは、変形労働時間制が採用されている場合の残業代の正しいルールを知っておかなければ、知らず知らずにうちに、大きな損をしているかもしれません。
そこでこの記事では、変形労働時間制と、その残業代の正しい定義・ルールと、残業代の計算方法について、詳しく解説します。
よく読んで、あなたの状況に違法性はないかチェックしてみてください。
全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点
目次
1章:変形労働時間制でも残業代が出る!正しいルールを把握しよう
変形労働時間制とは、
「一定の期間を単位として、その期間内であれば1日8時間・週40時間を超えた労働にも、残業代を追加で支払わない」
という仕組みのことです。
一部の会社では、
「変形労働時間制だから、どれだけ残業しても残業代は出ない」
と言われることもあるようですが、実は変形労働時間制でも、一定の時間を超えれば残業代が発生します。
そこでまずは、
- 変形労働時間制の仕組み
- 変形労働時間制の残業代のルール
について、順番に解説します。
1-1:変形労働時間制の仕組み・残業代のルール
変形労働時間制とは、労働時間を月や年単位で決め、週40時間又は1日8時間を超えていても、残業代を支払わないという制度を言います。
(例)年度末の3月は、所定労働時間を1週間あたり平均40時間とする。
図をみると、最初の月曜日は10時間、金曜日は12時間働いており、本来なら8時間オーバーの部分について残業代が支払われます。
しかし、日々の労働時間が8時間を超えていても、所定労働時間が平均して40時間に収まっているため、残業代は出ないのです。
このように、会社が変形労働時間制を導入すると、1日8時間を超えて働いても、社員は割増された残業代をもらうことができなくなります。
そもそも、会社は社員に「1日8時間」もしくは「週40時間」のどちらか一方でも超えて労働させた場合、残業代を支払わなければなりません。
しかし、
- セールなど繁忙期がある小売業
- 旅館・ホテル業界、旅行業
- 業務量が時期によって大きく変動する、運送業・物流業
などの業種の場合は、閑散期と繁忙期が明確に分かれているため、会社としては、「1日8時間・週40時間を超えたら残業」というルールをそのまま適用すると、繁忙期には「基本給+高額な残業代の支払い義務」が発生します。
これでは会社の人件費の負担が大きくなってしまいます。そのため、あらかじめ繁忙期があることが分かっている業種の会社は、「変形労働時間制」を導入することで、「1日8時間・週40時間」を超えて社員を働かせても、残業代が高額にならないようにするのです。
1-2:3つの種類の変形労働時間制の仕組み
変形労働時間制を採用するためには、一定の期間を定める必要があります。
つまり、あらかじめ定めた一定の期間内に限って、「1日8時間・週40時間」を超えて社員を働かせても、会社は残業代を支払い必要がなくなるのです。
変形労働時間制の期間には、
- 1週間単位
- 1ヶ月単位
- 1年単位
の3つのがあり、それぞれルールが異なる部分がありますので、それぞれ解説します。
①1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制を採用すると、その週の所定労働時間が40時間を超えなければ、「1日10時間」まで労働しても、残業代が発生しません。
ただし、
- 1日10時間を超えた労働時間
- その週の40時間を超えた労働時間
に対しては、残業代が発生します。
さらに、1週間単位の変形労働時間制を導入するには、以下の条件を満たす必要があるため、もし満たせていない場合は変形労働時間制が無効になります。
その場合、通常の労働形態として残業代が発生します。
- 労働者30人未満の事業規模の小売業、旅館、料理店、飲食店であること
- 労使協定により、一週間の所定労働時間として40時間を超えないように決めること
- 各週の始まる前に、労働者に労働時間を書面で通知すること
- 就業規則や労働契約において労使協定と同様の定めがあること
②1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間制を採用すると、その1ヶ月の期間内、あらかじめ特定された週・日のみ、「1日8時間・週40時間」を超えた労働にも、残業代が発生しません。
ただし、
『特定された週・日以外で「1日8時間・週40時間」を超えて労働』
すると、残業代が発生します。
さらに、1ヶ月単位の変形労働時間制の導入には、以下の条件を満たす必要があるため、もし満たせていない場合は変形労働時間制が無効になります。
その場合、通常の労働形態として残業代が発生します。
- 労使協定又は就業規則で②~④について決めておくこと
- 変形期間は一か月以内とし、起算日を決めること
- 1ヶ月以内の一定期間を平均して週あたりの労働時間が40時間を超えないように決めること
- 対象期間内における各週・各日の労働時間を具体的に特定しておくこと
→シフト表やカレンダーで、期間内のすべての労働日ごとの労働時間を定めなければなりません。
(例)3月1日 10時間 午前8時~午後7時(休憩1時間)
3月2日 4時間 午後1時~午後5時
③1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制を採用すると、あらかじめ特定した週・日のみ、「1日10時間・週52時間」までの労働には、残業代が発生しません。
ただし、
- あらかじめ特定した週・日以外の「1日8時間・週40時間」を超えた労働
- 特定した週・日での、「1日10時間・週52時間」を超えた労働
に対しては、残業代が発生します。
さらに、1年単位の変形労働時間制を導入するには、以下の条件を満たす必要があるため、もし満たせていない場合は変形労働時間制が無効になります。
その場合、通常の労働形態として残業代が発生します。
- 労使協定及び就業規則により②~⑥を決めること
- 対象労働者の範囲を決めること
→「全従業員を対象とする」などあなたが対象であることがわからないといけません。 - 変形期間は一年以内とし、起算日を決めること
→3ヶ月でも6カ月でも構いません。 - 1ヶ月以内の一定期間を平均して週あたりの労働時間が40時間を超えないように決めること
- 対象期間における労働日数・労働時間が以下の日数を満たすこと
(ⅰ)1日10時間まで
(ⅱ)1週52時間まで
(ⅲ)連続して労働させることができる日数は6日まで
(ⅳ)期間内の労働日数の限度は「280日×対象期間の歴日数÷365日」によって出された日数まで - 対象期間内における各週・各日の労働時間を、具体的に特定しておくこと
→シフト表やカレンダーで、期間内のすべての - 労働日ごとの労働時間を定めなければなりません。
- 特定の方法は2種類あります。
(ⅰ)対象期間内の全日の労働日、所定労働時間を定める方法
(ⅱ)区分期間を設ける方法
2章:変形労働時間制でも残業代が出る2つのケース
変形労働時間制でも残業代が出るケースには、
①最初に定めた時間を超えて働いた場合
②そもそも変形労働時間制の条件を満たしていなかった場合
の2つがあります。
それぞれ解説します。
2-1:あらかじめ定めた時間を超えて働いた場合
1章でもお伝えしましたが、変形労働時間制でも、あらかじめ特定した日・週以外は、1日8時間・週40時間を超えた労働に残業代が発生しますし、特定した日・週でも、条件を超えると残業代が発生します。
整理すると、以下のようになります。
これは、変形労働時間制が正しく導入・運用されている場合の、残業代が発生するケースです。
しかし、それ以前に、変形労働時間制という仕組みが、正しく導入・運用されていない場合も、残業代が発生します。
2-2:そもそも変形労働時間制の条件を満たしていなかった場合
1章でもお伝えしたように、変形労働時間制を正しく導入・運用するには、複数の条件を満たしている必要があります。
そのため、実は非常に多くの会社で、変形労働時間制が正しく導入されておらず、変形労働時間制が無効であるため「残業代が未払い」になっている現状があります。
特に、1か月単位の変形労働時間制は、条件を満たしている会社はほとんどありません。
変形労働時間制を採用している会社が、変形労働時間制を正しく導入・運用しないことがあるのは、
①そもそも会社側が正しい知識を持っておらず、間違って導入・運用している
②条件やルールが複雑なため、社員はよく分からないだろうと考え、サービス残業を強いる手口として悪用する
という2つの理由があります。
特に多いのが②の理由です。
変形労働時間制を導入すると、特定の日・週には、社員を残業させても残業代を支払う必要がありません。
一部のブラック企業は、これを「安い人件費で、社員を長時間労働させる」手口として利用していることがあるのです。
あなたの会社でも、このように残業代が出ないことが、「変形労働時間制だから」という理由で正当化されていませんか?
もし思い当たることがあれば、残業代をごまかされている可能性があります。
3章:あなたが本来もらえるはずの残業代の計算方法
実は、変形労働時間制は、特に中小企業などでは適切に導入・運用されていることが極めてまれです。
そのため、あなたの目的が「自分の残業代を計算する」ことなら、変形労働時間制が適切に導入・運用されていることを前提に、残業代を計算する必要はないと言えます。
そこで、ここでは、「変形労働時間制が適切に導入・運用されていない」ことを前提にした、残業代の計算方法をお伝えします。
あなたの会社が、変形労働時間制を適切に導入・運用していなかった場合、あなたは「普通の労働形態で働いた」として、残業代を計算し、その金額を会社に請求することができます。
普通の労働形態の場合、残業代は以下の計算式で計算します。
計算式に沿って解説します。
①基礎時給(1時間当たりの賃金)を計算する
まずは、基礎時給を計算します。
基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金のことで、時給制の場合は、いつもの時給そのままの金額で、月給制の場合は、以下の計算式で計算します。
(例)
- 月給25万円
- 一月平均所定労働時間170時間
※一月平均所定労働時間とは、あなたの会社で定められている、1ヶ月あたりの平均所定労働時間のこと。一般的に170時間前後。
25万円÷170時間=約1470円
②割増率をかける
割増率とは、残業した場合に、その時間にかける割合のことで、以下の種類があります。
①で計算した基礎時給に割増率をかけることで、残業1時間当たりの賃金を計算することができます。
(例)
- 基礎時給1470円
- 割増率1.25倍
1470円×1.25倍=約1837円(残業1時間あたりの賃金)
③残業時間をかける
最後に、②で計算した「残業1時間当たりの賃金」に、残業したトータルの時間をかけることで、1ヶ月あたりの残業代を計算することができます。
変形労働時間制が適切に導入・運用されていない場合、「1日8時間・週40時間」のどちらか一方を超えて働いた時間は、すべて残業時間としてカウントできます。
それでは、具体的に計算してみましょう。
(例)
1ヶ月の変形労働時間制で1日の所定労働時間が8時間、1ヶ月のシフトが23日で指定されている場合。
↓
1章で触れた「週平均40時間」以内の要件を満たしていないため、変形労働時間制が無効になります。そのため、1日8時間・週40時間を超えて働いたすべての時間で残業代が発生することになります。
(例)
- 月給25万円
- 一月平均所定労働時間170時間
- 1ヶ月の残業100時間
(25万円÷170時間)×1.25倍×100時間=18万3750円
このように計算できるため、この場合は、1ヶ月分の残業代が18万円以上もあることが分かります。
もしあなたが残業代を2年分さかのぼって請求するとすれば、合計額は、
18万3750円×24ヶ月=441万円
にもなります。
残業代を請求する方法には、以下の2つがありますので、詳しい方法や必要な手続き、かかる費用などについて、ぜひ参考にしてください。
【残業代請求を自分で直接行う場合】
【残業代請求を弁護士に依頼する場合】
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【変形労働時間制の定義】
「一定の期間を単位として、その期間内であれば1日8時間・週40時間を超えた労働にも、残業代を追加で支払わない」
【変形労働時間制でも残業代が発生する2つのケース】
①最初に定めた時間を超えて働いた場合
→以下の場合は残業代が発生する
②そもそも変形労働時間制の条件を満たしていなかった場合
→非常に多くの会社で、適切に導入・運用されていない
【変形労働時間制の導入で残業代が未払いになることが多い理由】
①そもそも会社側が正しい知識を持っておらず、間違って導入・運用している
②条件やルールが複雑なため、社員はよく分からないだろうと考え、サービス残業を強いる手口として悪用する
【残業代を請求するための2つの方法】
- 自分で直接請求する
- 弁護士に依頼して請求する
もし、あなたも違法な状況に置かれていることが分かったら、これからは損しないように行動し、状況を改善していきましょう。