- 更新日:2024.09.25
- #有給休暇退職
有給休暇を退職時に消化する方法と拒否された時の対処法を弁護士が解説
この記事を読んで理解できること
- 有給休暇は退職時に消化できる!
- 退職時にスムーズに有給休暇を消化する流れ
- 申請を拒否された場合の対処法
- 退職時の有給休暇の申請・取得でありがちなトラブル、悩み
あなたは有給休暇について、
「退職時に余っている分は、まとめて消化できるのかな?」
「どうしたら退職時に消化できるんだろう?」
「退職時に消化できなかったら、どうしたら良いんだろう?」
などの疑問、お悩みをお持ちではありませんか?
有給休暇を取得するタイミングがなく、退職時に何日も余っていると、このまま退職したら損では?と思いますよね。
結論から言えば、付与された有給休暇は、労働者が取得する権利を持っています。
そのため、余った日数は退職時に確実に消化できます。
しかし、会社によっては、
「忙しい時期だから有給休暇を取られると困る」
「退職日までしっかり引き継ぎをしてくれ」
などと言われ、退職時の有給休暇の消化が認められないこともあるようです。
そこでこの記事では、まずは有給休暇が退職時に消化できる理由と、スムーズに消化するための流れについて解説します。
さらに、有給休暇の消化を拒否された場合の対処法や、退職時の有給休暇の申請・取得に関するありがちな悩みについてお答えします。
正しい知識を身につけて、退職時に損することがないように行動していきましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■有給休暇の日数
■有給休暇の消化が拒否された場合の対処法
- 担当部署への相談
- 労働基準監督署への相談
- 労働問題に強い弁護士に相談する
■退職時の有給休暇消化に関するありがちなトラブル・悩み
- 余った有給休暇は買い取りして貰える?
→会社によっては買取り可能 - 有給休暇消化中にボーナスはもらえる?
→就業規則や雇用契約上のボーナス支給の条件に当てはまっているなら、支給される - 消化できることを退職後に知った場合は?
→退職後に請求することはできない - 土日も有給休暇消化の日数に含めると言われたら?
→土日を含めるのは違法であるため、専門家に相談するべき - 会社都合の退職の場合も有給休暇を消化できる?
→会社都合退職でも、有給休暇を消化可能 - 病気やケガ、出産等で休職していた人が休職あけに退職する場合、有給休暇を取得できる?
→休職後に有給休暇を取得することはできない - 派遣社員でも退職時に有給休暇を取れる?
→派遣社員で、派遣元の会社からも退
職する場合は、有給休暇消化可能 - 有給休暇中の転職先での就労は可能?
→今の会社と転職先の会社に了承が得られているなら、就労可能
1章:有給休暇は退職時に消化できる!
繰り返しになりますが、残った有給休暇は退職時に申請し、消化することができます。
なぜなら、労働基準法で、
- 雇入れの日から6ヶ月が経過していること
- 全労働日の8割以上出社していること
という2つの条件を満たす全ての労働者が、有給休暇を取得する権利を持っていることが定められているからです(労働基準法第39条)。
取得できる日数は、下記のように勤続年数によって異なります。
※短時間勤務の場合、上記の日数と異なることもありますので、詳しくは以下の記事をご覧ください。
最大20日!法律上の有給休暇の日数と時期が変更される2つのケース
当然ですが、有給休暇はその会社に在籍している間にしか申請・取得することができません。
そのため、余った有給休暇があるなら、退職時に申請して消化しなければ、退職後には消滅するため、あなたが損してしまうのです。
2章:退職時にスムーズに有給休暇を消化する流れ
退職時にスムーズに有給休暇を申請、取得する流れは、以下の通りです。
スムーズに有給休暇を消化するためのポイントをふまえて、それぞれの内容を順番に解説していきます。
2-1:上司に取得時期を相談
まずは、有給休暇の取得時期について上司に相談しましょう。
有給休暇は、基本的にあなたが自分で取得したい時に取得できるのですが、会社によっては業務が忙しいため「できれば日程をずらして欲しい」という場合もあります。
そのため、
- 有給休暇の取得時期について、少しでも早く相談する
- あなたの退職日までの日程の中で、可能な範囲で会社と有給休暇の日程を合わせる
ということが、会社に迷惑をかけずに有給休暇を取得するポイントです。
具体的には、最低でも「あなたが持っている有給休暇の日数+1ヶ月前」までには、相談するべきでしょう。
なぜなら、会社側もあなたがいなくなる分の業務の調整をする必要があり、そのためには1ヶ月程度は最低限見込んでおいた方が良いからです。
そのため、あなたが持っている有給休暇の日数+1ヶ月以上前に、有給休暇の取得時期について相談することが大事なのです。
2-2:有給休暇を申請
上司との間で有給休暇の日程について合意できたら、正式に有給休暇の取得を申請しましょう。
この時、後からトラブルになることを防ぐために、有給休暇の申請をしたことが分かる証拠を残すことが大事です。そのため、口頭ではなくメールや書面で申請しましょう。
申請すれば、申請した時期に確実に有給休暇を取得することができます。
有給休暇取得の理由については、
「退職時の有給休暇消化のため」
などで構いません。
会社には、有給休暇申請のために理由を言う必要はないため、どのような理由でも取得できるからです。
ちなみに、有給休暇は2年分まで繰り越すことができるため、前年度に消化していない分があれば、それを繰り越して退職時に消化することができます。
たとえば、前年度に有給休暇を1日も消化していなければ、以下の通りの日数を退職時に消化することができます。
【退職時に消化できる有給休暇の日数の例】
- 勤続年数が2年→前年度分(10日)+今年度分(11日)=21日分消化可能
- 勤続年数が3年→前年度分(11日)+今年度分(12日)=23日分消化可能
- 勤続年数が6年半以上→前年度分(20日)+今年度分(20日)=40日分消化可能
2-3:引き継ぎ・挨拶回りを行う
有給休暇の消化を申請したら、あとは円滑に退職できるように、引き継ぎ・挨拶回りを行いましょう。
確実に引き継ぎ・挨拶回りを完了させておくことで、気兼ねなく有給休暇を消化することができるはずです。
退職時には、有給休暇以外にも損しないために覚えておいてほしいポイントがいくつもあります。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
弁護士が徹底解説!退職するときに損しないための“有給消化”と“貰えるお金”の話
【コラム:有給休暇の時季変更権は退職時には使えない】
あなたが有給休暇を取得することで、会社の業務が滞ってしまう場合などは、会社はあなたの有給休暇の時季(日程)を変更する権利があります。これを「時季変更権」と言います。
しかし、退職時には、時季(日程)を変更すると、有給休暇を消化できなくなってしまいます。そのため、退職時の時季変更は認められないことが多いです。
もし退職時に、会社から「有給休暇の日程を変更して欲しい」などと言われていたら、それは認められない可能性が高いのです。
具体的な対処法については、3章をご覧ください。
3章:申請を拒否された場合の対処法
労働者には、付与されたすべての有給休暇の日数を消化する権利があります。
そのため、有給休暇の消化を拒否されることは「違法」です。
もし拒否された場合は、
- 担当部署への相談
- 労働基準監督署への相談
- 労働問題に強い弁護士に相談する
という方法で対処しましょう。
順番に解説します。
3-1:担当部署への相談
退職時に有給休暇を消化できない場合、まずは担当部署や職場の責任者に相談してみましょう。
もしかしたら、あなたが申請した上司や担当者が、有給休暇に関する正しい知識を持っておらず、誤った対応をしている可能性もあるからです。
しかし、
「経営者が、有給休暇を取得させてくれないと言っている」
「もう言っているが、やはり拒否された」
ということもあると思います。
その場合は、これから紹介する方法を実践してください。
3-2:労働基準監督署への相談
有給休暇の消化を拒否されることについて、労働基準監督署に相談すれば解決する可能性があります。
労働基準監督署とは、労働基準法にのっとって全国の会社を監督・指導する行政機関です。
有給休暇の消化を拒否することは「違法」ですので、労働基準監督署に相談すると、
- 立入調査が行われる
- 会社に対して是正勧告(改善命令)がされる
- 再三の是正勧告に従わない場合、経営者が逮捕される
などのことが行われる可能性があり、その結果、会社がしっかり有給休暇を消化させてくれるようになる可能性はあります。
しかし、実際には退職までの短い期間の間で解決できる可能性は少ないです。
なぜなら、全国に400万の会社がある一方で、労働基準監督官は全国に3000人しかおらず、労働災害(労災)や過労死など、人命に関わるような問題が優先されるからです。
そのため、有給休暇が消化できないという程度の問題では、動いてもらえない可能性もあるのです。
それでもまずは労働基準監督署に相談したいという場合は、以下の記事を参考にしてください。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
3-3:労働問題に強い弁護士に相談する
ここまで紹介した方法で現状が変えられない場合、労働問題に強い弁護士に相談するというのも一つの選択肢です。
労働問題に強い弁護士に依頼することには、
- 専門知識があるため、迅速に解決できる可能性が高い
- 問題解決に責任を持って取り組んでくれる
などのメリットがあります。
つまり、退職時に有給休暇が取得できないというお悩みも、労働問題に強い弁護士に相談することで、解決できる可能性があるのです。
しかし、注意点があります。
それは、労働問題弁護士への依頼では、ある程度の費用がかかる可能性があるということです。
もし有給休暇消化のためにそれほどお金がかけられないなら、相談時に聞いてみてください。
労働問題に強い弁護士への依頼方法や選び方について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【保存版】手間、時間、お金をかけずに労働問題を解決するための全知識
4章:退職時の有給休暇の申請・取得でありがちなトラブル、悩み
退職時の有給休暇の消化には、他にも以下のような疑問があるようです。
【退職時の有給休暇消化に関するありがちなトラブル・悩み】
- 余った有給休暇は買い取りして貰える?
- 有給休暇消化中にボーナスはもらえる?
- 消化できることを退職後に知った場合は?
- 土日も有給休暇消化の日数に含めると言われたら?
- 会社都合の退職の場合も有給休暇を消化できる?
- 病気やケガ、出産等で休職していた人が休職あけに退職する場合、有給休暇を取得できる?
- 派遣社員でも退職時に有給休暇を取れる?
- 有給休暇中の転職先での就労は可能?
それぞれ順番に解説します。
4-1:余った有給休暇は買い取りして貰える?
退職時に有給休暇を消化できない場合に、余った有給休暇を会社に買取りしてもらえるということを、聞いたことがあるでしょうか。
原則的に「有給休暇の買取り」は違法です。
なぜなら、買取りを認めることは、労働基準法上付与される有給休暇を、取得させないことを前提にしているからです。
ただし、例外的に以下の2つのケースで、買取も違法ではなくなるとされています。
【有給休暇の買取りが認められる2つのケース】
- 「会社が法定日数を上回る日数を設けた有休」の買取り
1章でお伝えした通り、有給休暇は勤続年数ごとに決まった日数が与えられます。これを「法定日数」と言います。しかし、会社によっては、法定日数を超えた有給休暇を与えることもあります。
この場合は、法定日数でしっかりと休むことができるので、プラスされた部分の買取りをしてもらっても違法ではないのです。
- 有給休暇が消滅してしまう場合の有給休暇の買取り
退職時は、有給休暇を消化しなければ消滅してしまうため、消化できなければ従業員が損してしまいます。そのため、買取りしてもらっても違法ではありません。
ただし、結局は会社が買取りをしないと判断した場合は,買取りをしてもらうことができません。権利として、有給買取りを請求することはできないのです。
4-2:有給休暇消化中にボーナスはもらえる?
実は、ボーナスについて法律での定めはありません。
そのため、有給休暇消化中にボーナスが出るかどうかは、あなたと会社の間での「就業規則」や「雇用契約」での取り決め次第です。
就業規則や雇用契約で、ボーナスを支払うことが定められていれば、有給休暇消化中であってもボーナスは支給されなければなりません。
もし支給されていなければ、契約不履行だからです。
仮に、就業規則や雇用契約で、
「ボーナス支給日に在籍していること」
などのルールが規定されていても、有給休暇消化中は会社に在籍していることになるため、ボーナスが発生します。
もし、就業規則、雇用契約でボーナスの支給が定められてるのに、有給休暇消化中であることを理由にボーナスがもらえていなければ、
- 労働基準監督署
- 労働問題に強い弁護士
に相談してみましょう。
4-3:消化できることを退職後に知った場合は?
退職時に余った有給休暇を消化できるということを、退職後に知ってしまったという場合もあると思います。
この場合は、残念ですが後から買取りしてもらうことはできませんし、もちろん後から申請、取得することもできません。
あなたにできることとしては、
- 元の会社に有給休暇を消化せずに退職したことを伝え、何らかの対応を取ってもらえるか相談する
- 労働基準監督署に申告し、会社が違法行為をしていることを伝える
などのことしかありません。
そのため「後から知って損した!」とならないためにも、この記事で紹介した正しい知識をしっかり覚えてください。
4-4:土日も有給休暇消化の日数に含めると言われたら?
会社によっては、退職時に残った有給休暇をまとめて消化しようとすると、土日も日数に加えられるということもあるようです。
土日まで加えられれば、有給休暇の日数が実質減ってしまうため損ですよね。
これは、もちろん違法行為です。
なぜなら、有給休暇は労働義務がある日のみに付与されるものだからです。
たとえば、あなたが有給休暇をまとめて14日間取得する場合、実際には「14日間の有給休暇+その間の土日の日数分」が休みの期間になります。
もし、有給休暇に「土日も含める」と言われていたら違法なのです。
その場合は、3章で紹介した対処法を実践してくださ。
4-5:会社都合の退職の場合も有給休暇を消化できる?
リストラなどの会社都合での退職の場合でも、有給休暇を消化することができます。
ただし、会社都合退職の場合は、会社側から一方的に退職日を指定される場合もあると思いますので、
- 退職日までに有給休暇を消化できるか相談する
- 有給休暇の消化に日数が足りない場合は、退職日の変更や有給休暇の買取りを請求する
ということを行いましょう。
4-6:休職あけに退職する場合有給休暇を取得できる?
病気やケガ、出産等で休職していた人がそのまま退職する場合、有給休暇を消化することはできません。
なぜなら、有給休暇とは労働義務がある期間に与えられるものだからです。
休職が決定すると、その時点で労働義務が免除されているため、有給休暇が支給されることはありません。
そのため、休職後に有給休暇を取得して退職する、ということはできません。
もし、休職する前に有給休暇の日数が余っていた場合は、会社に相談すれば買取りしてもらえる可能性はあります。
ただし、2−1で説明したように、有給休暇の買取りは会社の義務ではありませんので、必ず買い取ってもらえるとは限らないので、注意してください。
4-7:派遣社員でも退職時に有給休暇を取れる?
派遣社員が退職時に有給休暇を消化する場合、以下の2つのパターンがあります。
①派遣先が変わるだけの場合
派遣社員の雇用契約は、派遣元の会社との間で締結されます。そのため、今の派遣先から、別の派遣先に派遣先が変更になる場合、退職扱いにはなりません。
そのため、派遣先が変わるだけの場合は、余った有給休暇は次の派遣先に引き継がれるため、消化する必要はありません。
②派遣会社自体を退職する場合
派遣先の変更ではなく、派遣元の会社からも退職する場合は、正社員と同じく有給休暇を消化する権利があります。
ただし、その場合有給休暇の申請は、派遣元の会社にする必要があります。
また、退職時に有給休暇を消化する場合は、派遣先にも有給休暇の消化であり、欠勤ではないことをしっかり伝えておくことも大事です。
4-8:有給休暇中の転職先での就労は可能?
有給休暇の消化中に、転職先で働くことは、法律上は可能です。
ただし「両方の会社に了承を得ること」が必要です。
なぜなら、有給休暇の消化中に転職先で働く場合、2つの会社に在籍することになり、社会保険の手続き上問題が発生するからです。
雇用保険は、二重加入することができないため、前の会社で資格喪失手続きをしてもらい、転職先の会社で加入手続きをする必要があるのです。
さらに、転職先の会社で「兼業禁止」の就業規則がある場合もあります。
この場合は、入社からさっそく就業規則に違反することになってしまいます。
以上の理由から、有給休暇消化中の転職先での就労は、両方の会社から了承を得ることが前提になるのです。
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【有給休暇の日数】
【有給休暇の消化が拒否された場合の対処法】
- 担当部署への相談
- 労働基準監督署への相談
- 労働問題に強い弁護士に相談する
【退職時の有給休暇消化に関するありがちなトラブル・悩み】
- 余った有給休暇は買い取りして貰える?
→会社によっては買取り可能 - 有給休暇消化中にボーナスはもらえる?
→就業規則や雇用契約上のボーナス支給の条件に当てはまっているなら、支給される - 消化できることを退職後に知った場合は?
→退職後に請求することはできない - 土日も有給休暇消化の日数に含めると言われたら?
→土日を含めるのは違法であるため、専門家に相談するべき - 会社都合の退職の場合も有給休暇を消化できる?
→会社都合退職でも、有給休暇を消化可能 - 病気やケガ、出産等で休職していた人が休職あけに退職する場合、有給休暇を取得できる?
→休職後に有給休暇を取得することはできない - 派遣社員でも退職時に有給休暇を取れる?
→派遣社員で、派遣元の会社からも退
職する場合は、有給休暇消化可能 - 有給休暇中の転職先での就労は可能?→今の会社と転職先の会社に了承が得られているなら、就労可能
正しい知識をしっかり覚えて、有給休暇をすべて消化して退職しましょう。