
残業手当(残業代)とは「1日8時間・週40時間」を超えて残業した場合に、通常の時給に「1.25倍」などの割増率をかけて支払われる手当のことです。
アルバイトでも正社員でも、残業手当(残業代)の定義やルールは同じで、残業したのに残業手当(残業代)が出ていなければ違法です。
しかし、一部の会社では、従業員が法律に詳しくないことを利用して、
「アルバイトには残業手当は出ないんだよ」
「残業手当分は時給に含まれてるんだよ」
などと言って、適正な金額の残業手当が支払われていないことがあります。
そこでこの記事では、アルバイトの場合の残業手当(残業代)の定義、正しい残業手当(残業代)を計算する方法と、残業手当(残業代)が適切な金額ではなかった場合の対処方法を紹介します。
最後までしっかり読んで、残業手当(残業代)の正しい知識を覚えましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■残業手当(残業代)が発生する時間
- 1日8時間を超えた労働時間
- 週40時間を超えた労働時間
■労働時間としてカウントされる時間
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
最も大事なことは、アルバイトであっても、正社員と同じく、これらの定義・ルールが適用されるということ。
■残業手当(残業代)の計算方法
■もらっている残業手当(残業代)が、計算結果より少ない場合の対処法
- バイト先に相談する
- バイト先に配達証明付き内容証明郵便を送る
- 労働基準監督署に相談する
- 弁護士に依頼する
目次
1章:アルバイトでも残業手当が出る!その定義を解説
繰り返しになりますが、アルバイトであっても、残業手当(残業代)の定義や支払いのルールに違いはありません。
正社員と同じように、労働基準法にのっとって、適正な金額が支払わなければ違法になります。
まずは、残業手当(残業代)の定義について詳しく解説します。
残業手当(残業代)の定義について知っておくことは、
- 自分が残業手当(残業代)を正しくもらえているか判断すること
- 残業手当(残業代)を正しく計算すること
などの前提知識になりますので、ここでしっかり学んでおきましょう。
それでは、解説します。
1-1:残業手当(残業代)の法律上の定義とは
残業手当(残業代)とは、以下の「法定労働時間を超えて働いた時間(残業)」に対して支払われる賃金のことです。
法定労働時間とは、法律で定められた「1日8時間・週40時間」までの労働時間のことで、これを超えた労働が「残業」になります。
つまり、以下のどちらか一方でも超えて働いた時間が残業です。
- 1日8時間を超えた労働時間
- 週40時間を超えた労働時間
この残業時間に働いた労働の対価として支払われるのが「残業手当(残業代)」です。
会社は社員に、残業の対価として残業手当(残業代)を支払わなければならないと、法律で義務づけられています。
さらに、残業手当(残業代)は、普段の賃金に「割増率」をかけたものでなければなりません。
※割増率とは、時間当たりに換算した賃金(基礎時給)にかけられる1.25倍〜1.6倍の倍率のことです。
たとえば、1時間あたりの賃金が1000円の人は、残業した場合は1時間あたりの賃金が1250円以上になるのです。
①1日8時間・週40時間を超えて働いたすべての時間の分だけ支払われる
②普段の賃金に割増率をかけて支払われる
という2点が守られていなければ違法なのです。
「働いた時間」としてカウントされるには条件があるのです。
1-2:過去の判例から判断できる「働いた時間」にカウントされる基準
過去の判例から、「働いた時間」としてカウントできるのは、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
(三菱重工業長崎造船所事件・最判平成12年3月9日労判778号)
のことであるとされています。
「使用者」とは、簡単に言えばあなたのバイト先の「上司」や「社長」「店長」などのことです。その使用者から「この仕事をやってくれ」「この時間は働いてくれ」という指示を受けている時間は、すべて労働時間としてカウントされます。
さらに、会社から明らかに「この仕事を残ってやってくれ」と指示されていなくても、
- 就業時間内に終わらないほどの量の仕事を任されている
- 納期が差し迫っていて残業せざるを得ない
などのような、仕事上働かざるを得なかった時間は、「働いた時間」としてカウントされる可能性が高いです。
そのため、以下の時間も、使用者の指揮命令下に置かれたのであれば、働いた時間としてカウントされます。
- 準備時間:制服、作業服、防護服などに着替える時間、始業前の朝礼・体操の時間など
- 後始末時間:着替え、掃除、清身
- 休憩時間:休憩中の電話番や来客対応などを依頼された場合
- 仕込み時間:開店前の準備やランチとディナーの間の仕込み時間
- 仮眠時間:警報や緊急事態に備えた仮眠の時間(特に警備や医療従事者など)
1日8時間・週40時間」のどちらか一方を超えた時間
で、かつ、
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
の両方を満たす場合に、支払われるということです。
そこで、次に残業手当(残業代)の計算方法を解説します。
2章:正しい金額の残業手当が出ているか自分で計算してみよう
残業手当(残業代)を計算するためには、正しいステップで計算する必要があります。
順番に解説しますので、もし給与明細などが手元にあれば、ぜひ一緒に計算していきましょう。
それでは、解説します。
残業手当(残業代)は、以下の計算式で計算することができます。
順番に解説します。
①基礎時給を計算する
まずは、あなたの基礎時給(=1時間当たりの賃金)について計算します。
アルバイトの方は,時給の方が多いと思うのでここでは時給を前提として考えます。
基礎時給の額は、時給制の場合はあなたの時給の額そのものです。あなたの普段の時給をそのまま計算式に入れましょう。
②割増率をかける
次に、基礎時給に割増率をかけます。
割増率とは、残業した時間や法定休日出勤した場合に基礎時給にかけるもので、以下の種類があります。
- 通常の残業:1.25倍
- 深夜(22時から翌朝5時まで)の労働:1.25倍
- 法定休日の労働:1.35倍
- 法定休日の深夜労働:1.6倍
他方が,あなたが時給制アルバイトなら、おそらく働いた時間分の時給はもらっていると思います。
すると、残業したのに、普段通りの時給分しか残業手当(残業代)が出ない場合、上記の割増率をかけた額が未払いになっていると判断できます。
たとえば、あなたの基礎時給(=時給)が1000円の場合は、一時間当たり
- 通常の残業:250円
- 深夜(22時から翌朝5時まで)の労働:250円
- 法定休日の労働:350円
- 法定休日の深夜労働:600円
が、未払いの残業手当(残業代)の金額になります。
③残業時間をかける
そして、基礎時給に割増率をかけて出た数字(残業1時間あたりの時給)に、1ヶ月の残業時間をかけることで、1ヶ月の残業代を算出することができます。
法定休日の労働や深夜労働がなかった場合として、以下の例で計算してみましょう。
(例)
- 基礎時給:1000
- 1ヶ月の残業が40時間
1000円×0.25倍×40時間=1万円(1ヶ月の残業手当(残業代)
このように、1ヶ月の残業手当(残業代)は1万円になることが分かります。
もし、同じ条件でこれよりも少ない金額しか残業手当(残業代)をもらっていなかったら、請求して取り返せる可能性があります。
さらに、残業手当(残業代)を請求する場合、3年分までさかのぼって請求できるため、請求金額は合計で、
1万円×36ヶ月=36万円
にもなります。
残業手当(残業代)の計算方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
5分で分かる!正しい残業代の計算方法と実は残業になる8つの時間
3章:残業手当が少ない!そんなときの4つの対処方法
あなたの残業手当(残業代)が適正な金額出ていなければ、以下の4つの対処方法をとる必要があります。
- バイト先に相談する
- バイト先に配達証明付き内容証明郵便を送る
- 労働基準監督署に相談する
- 弁護士に依頼する
これらの行動をとることで、会社から残業手当(残業代)を取り返せる可能性が高いです。
それでは、それぞれの方法を解説します。
3-1:バイト先に連絡する
未払いの残業手当(残業代)について、バイト先の上司などに相談することが可能なら、まずは直接相談してみましょう。
もし、
- 上司に言ってもはぐらかされる
- 上司から丸め込まれる
- そもそも上司に相談するのは怖い
などの場合は、自分が勤務している支社や店舗ではなく、本社に直接連絡して相談することをおすすめします。
バイト先がチェーン展開している会社などなら、自分が勤務していた店舗や営業所ではなく、本社に直接連絡し、未払い残業手当(残業代)を請求することをおすすめします。
なぜなら、あなたのバイト先の上司が残業手当(残業代)を未払いにしていることを、本社は知らない可能性がある上、本社は問題になることを恐れて、あなたの上司よりも誠実な対応をしてくれる可能性があるからです。
しかし、
- そんなことできない!
- もう試した!
という場合は、これから紹介する他の方法を試してみてください。
3-2:自分でバイト先に直接「配達証明付き内容証明郵便」を送って請求する
内容証明とは、差し出した日付、差出人の住所・氏名、宛先の住所・氏名、文書に書かれた内容を、日本郵便が証明してくれる手紙の一種です。そして、配達証明とは、配達した日付や宛名を証明してくれる郵便の制度です。
「配達証明付き内容証明」で会社に請求書を送ることで、バイト先の会社は「そんなもの届いていない」としらばっくれることができなくなります。
「配達証明付き内容証明郵便」を送って未払い残業手当(残業代)を請求する流れは、以下の4つのステップからなります。
- 証拠を集める
- 未払い残業手当(残業代)を計算する
- 会社に配達証明付き内容証明郵便を送る
- 自分でバイト先の会社と交渉する
それでは解説します。
【①証拠を収集する】
未払いの残業手当(残業代)を請求するために、最も重要なポイント「未払いの残業手当(残業代)がある」ことを証明することです。そのため、証拠集めをする必要があります。必要な証拠について、詳しくは以下の記事で解説しています。
【②未払い残業手当(残業代)を計算する】
①で集めた証拠をもとに、未払いの残業手当(残業代)がどれだけあるか計算します。
弁護士に頼むと、正確に請求金額を計算してもらうことができます。
【③時効を止める】
未払いの残業手当(残業代)を請求できるのは、3年の時効が成立するまでの間と、法律で決められています。そのため、もし時効を止めなければ、毎月の残業手当(残業代)日が来るたびに、請求できる残業手当(残業代)が1ヶ月分消滅してしまいます。
【給料の支払日が「15日締め・翌月末払い」の場合】
たとえば、給料の支払日が「15日締め・翌月末払い」の場合、2020年2月16日から3月15日までの給料は、2020年4月30日に支払われます。そのため、2020年3月15日締めの給料は、2023年の4月30日経過時に時効を迎えます。
そこで、2020年3月15日締めの給料の時効を止めるためには、2023年の4月末までに「時効を止める」手続きを行う必要があります。
ただし、「配達証明付き内容証明」を会社に郵送することで時効を半年間止めることが可能です。
つまり、内容証明を送ることで、手続きや交渉を進めることができる期間が半年延びるのです。
そのためできるだけ早く、会社に対して、未払いの残業手当(残業代)などを記載した内容証明を送ることが重要です。
内容証明のひな形を下記に示しますので参考にしてください。
<内容証明ひな形>――――――――――
私は○○年○○月○○日,貴社に入社し,○○年○○月○○日に退社した者です
私は,平成○○年○○月○○日から平成○○年○○月○○日(以下「請求期間」とします。)まで,貴社に対し,合計■時間の時間外労働を提供いたしましたが,貴社からは,一切,割増賃金のお支払いただいておりません。
よって,私は,貴社に対し,請求期間内の未払割増賃金の合計額である★円の支払を請求いたしますので,本書面到達後1週間以内に,以下の口座に振り込む方法によるお支払をお願いいたします。
○○銀行○○支店
○○預金(普通・定期などの別)
口座番号○○
口座名義人○○
なお,本書面到達後を1週間を過ぎても貴社から何らご連絡いただけない場合は,やむを得ず労働基準監督署への申告,訴訟の手段をとらせていただくことをあらかじめ申し添えます。
―――――――――――――――――――
時効について、詳しくは、残業代請求の時効は3年!時効を止める3つの手段と具体的な手続きの流れ
を参照してください。
【④バイト先の会社と交渉する】
ステップ③で内容証明を送ったところから会社との交渉がスタートします。運が良ければ、内容証明が届いた時点で支払いに応じる会社もあるかもしれません。
しかし、多くのブラック企業は、あなたになるべく残業手当(残業代)を払いたくないため、顧問弁護士等を介して減額の交渉をしてくるでしょう。
どの金額で折り合いがつくかは、あなた次第ですが、相手は、法律のプロである弁護士なので本来もらえる額より少ない金額で妥協しなくてはならない可能性が高いです。
また、一人で交渉してもブラック企業に対してはあまり圧力とならないため、相手にしてもらえず、内容証明を送っても無視されるという可能性もあります。
そんな場合は、次に紹介する「労働基準監督署」に相談するのも一つの選択肢です。
3-3:労働基準監督署に申告する
残業手当(残業代)が未払いになっていることについて、労働基準監督署に相談するという方法もあります。
このような流れで労働基準監督署に申告することができるのですが、この方法は「未払いの残業手当(残業代)を請求したい場合」は、あまりおすすめではありません。
そこで、未払い残業手当(残業代)を取り返す場合には、最初から弁護士に依頼することをオススメします。
3-4:より多く取り戻すために弁護士に依頼しよう
未払いの残業手当(残業代)請求の成功する確率を上げるために、弁護士に依頼することをおすすめします。なぜなら、未払いの残業手当(残業代)の計算や交渉は、専門的な知識が必要なため、1人で戦っては会社側の弁護士に負けてしまうからです。
失敗したら残業代ゼロ?弁護士選びの8つのポイントと請求にかかる費用
まとめ:アルバイトの残業手当
いかがでしたか?
今回の内容をまとめます。
まず、残業手当(残業代)とは、以下の時間のことです。
- 1日8時間を超えた労働時間
- 週40時間を超えた労働時間
さらに、労働時間としてカウントされるのは、以下の時間のことです。
「使用者の指揮命令下に置かれている」時間
最も大事なことは、アルバイトであっても、正社員と同じく、これらの定義・ルールが適用されるということです。
残業手当(残業代)は、以下の計算式で計算できます。
あなたのもらっている残業手当(残業代)が、計算結果より少なければ、以下の方法で対処することができます。
- バイト先に相談する
- バイト先に配達証明付き内容証明郵便を送る
- 労働基準監督署に相談する
- 弁護士に依頼する
正しい知識を覚えて、残業手当(残業代)で損することがないように行動していきましょう。
【参考記事一覧】
残業手当の計算方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
5分で分かる!正しい残業代の計算方法と実は残業になる8つの時間
残業手当が請求できる「3年」の時効について、詳しくは以下の記事で解説しています。
残業代請求の時効は3年!時効を止める3つの手段と具体的な手続きの流れ
残業代請求をする上で集めておくべき証拠や集め方のポイントについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【保存版】知らないと損する?残業代請求する為に揃えておくべき証拠
残業代請求を弁護士に依頼する方法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。