
介護職として働くあなたは、職場の上司から次のように言われたことがあるのではないでしょうか。
「準備と片付けは業務時間以外で当然やっておくことだよ」
「うちでは、この仕事は残業にはならないんだ」
「時間内に終わらなかったら、自主的にでも終わらせてね」
どれも介護の職場では、よく聞くフレーズです。
ただ、結論から言うとこうした指示はすべて法律違反の疑いがあり、あなたは残業代をもらえる可能性が非常に高いといえるでしょう。
介護業界では、慢性的に人材不足で、過酷なイメージがあるため採用がうまくいかず、今働いている人がますます仕事を押し付けられるという状況があります。
この記事では、介護業界の残業の実態や背景、現場の働き方の法律的なルールを詳しく説明します。それに加えて、今いる職場から転職したいと思った人向けに、ホワイトな職場の見分け方や残業代の請求方法も説明します。
記事を読み、自分が残業代をごまかされていないか、しっかりと確かめ転職や残業代の請求など次のステップを踏み出せるようにしてください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■介護職で残業が長くなる背景
- 業界全体で人手不足
- 手間になる介護記録、引き継ぎ
- 利用者のトラブル
- イベントの準備
■介護職で残業時間としてカウントされる可能性のある時間
- 業務開始前の準備、引き継ぎ
- 労働時間と認められる休憩時間
- 利用者を送迎した帰り時間
- 勤務時間外の作業
■介護職でホワイトな求人を見つけるポイント
- 求人募集に残業代の規定がある
- 在籍年数の長い職員が多い
- 兼業主婦が多い
- 書類管理がPCで行われている
※長時間残業が常態化している場合、未払い残業代を請求できる可能性がありますので、早めに行動することをおすすめします。
1章:サービス残業が当然?介護業界における残業の実態
まずは介護業界の残業の実態を解説します。
1-1: 多くの介護職はサービス残業が常態化
求人募集を見ると「介護は残業が短くてチャンス」「残業は月10時間程度」といったフレーズが並び、整った職場環境であることが強調されている介護業界。
ただ、実際に働き始めてみると、想像していた以上に過酷で、残業が長いという声もよく耳にします。
数年前、SNSで「#介護士辞めたの私だ」というコメントをつけた現場の本音が多く上がっていましたが、次のような残業に関する声も多く見られました。
月夜勤10回、20日連続勤務、ようやくの休日に「人手が足りない」と呼び出される。断りたくても家まで来るから断れない。結果30日休みなしで働くことになったけれど、残業代も休日出勤も全部ボランティア。その月の手取りは相変わらずの15万以下。#介護士辞めたの私だ
— ゆずず (@yuzu0905) 2016年3月9日
働いている人であれば実感があるかもしれませんが、実は介護業界はサービス残業が多い業界としても知られています。
厚生労働省の調査では介護職から転職した理由の上位に「不払い残業がある・多い」が入り、別の調査では「残業代が申告しにくい」という人が半数近くいたというデータもあります。
次節では、介護業界で残業が長くなる理由について解説します。
1-2: 介護職で残業が長くなる背景
介護の現場で働く職員の残業が長くなるのには、次のような業務特性があります。
・業界全体で人手不足
・手間になる介護記録、引き継ぎ
・利用者のトラブル
・イベントの準備
順番に解説していきます。
1-2-1:業界全体で人手不足
介護職で働く人の残業が長くなる要因としては、まず業界全体の人手不足が挙げられます。
仕事がきつい、給料が安いといったイメージが強いこの業界では、年々新しい職員の採用が難しくなっており、どの施設でも人手不足の問題を抱えています。
業務量は変わらないのに、人が減ると当然一人一人の仕事量が増え残業の長時間化につながるのです。
1-2-2:手間になる介護記録、引き継ぎ
多くの人がシフト制で働く介護施設では、交代する職員に担当する利用者の状況を伝えるための申し送りが大切になります。
多くの場合、ケアプランやその日の健康状態のチェックなどを介護記録に手書きで記入し、それを元に引き継ぎを行います。
しかし、忙しい業務時間に介護記録をつける時間を取れることは珍しく、業務時間外で介護記録を記入するケースがほとんどです。こうした毎日の作業が残業時間になります。
1-2-3:利用者のトラブル
介護施設の利用者は高齢者のため、体調不良になったり、転倒をしてけがをしたりするトラブルが日常的に起きています。
こうしたトラブルに対処する時間は通常の業務を行うことができず、必然的に業務時間外に行う仕事が増えることになります。
可能であれば翌日に回したいところですが、介護施設では次の日も同じだけの仕事があるため、どうしても当日中に終わらせたいという事情もあります。
1-2-4:イベントの準備
介護施設では利用者を楽しませるために夏祭りや敬老会、クリスマス会といった様々なイベントを実施します。
こうした催しの準備は職員が行いますが、これらの作業は業務時間外に対応するケースが多いようです。
たかがイベントの準備と思いがちですが、季節によって様々な準備があり、長時間の残業につながると介護職の人からよく耳にします。
2章:介護職の残業に関する正しい法律ルール
ここからは介護職の残業に関連する法律について見ていきましょう。
2-1:1日8時間を超えたら残業
労働基準法では、社員を「1日8時間、週40時間」を超えて働かせてはいけないと定められています。
この「1日8時間・週40時間」の基準のことを法定労働時間と呼び、この時間を超えて働かせた時には、職員に残業代を支払う必要があります。
また、残業代だけの問題ではなく、労働基準法を守らない会社は行政処分の対象にもなります。
労働基準監督署に訴えることで調査に動いてもらったり、弁護士に相談することで環境の改善につなげたりすることもできます。
次に業務と認められる時間について見ていきましょう。
2-2:労働時間にカウントされる時間
ここからは、あなたが日頃からシフト時間外に行っている業務の多くが労働時間として認められることを解説します。
こうした時間を合計すると、多くの場合1日8時間以上働いている計算になります。先ほど説明した通り、8時間を超えて働いたら、残業代をもらう権利があるのでしっかりと確認しておきましょう。
それでは1日のスケジュールに沿って順番に確認していきます。
2-2-1:業務開始前の準備、引き継ぎ
介護施設での仕事では、例えば早番の場合であればシフト開始が9時でも、その1時間ほど前に来て前日の介護記録を確認したり、夜勤のスタッフとの引き継ぎを行ったりします。
タイムカードを切る前であっても、こうした業務を行っている時間帯は当然労働時間として認められます。
ただしタイムカードを切る前の時間帯については、そもそも業務を行ったこと自体を証明できなくなってしまう可能性があるので、メモなどでしっかりと記録を残すようにしましょう。
2-2-2:労働時間と認められる休憩時間
多くの施設では、シフト中に1時間の休憩時間が設定されていることが多いかと思います。
法律的には、休憩時間は仕事から離れ、自分で自由に使える時間でなければいけません。
そのため、
仕事が忙しくて休憩がとれない
休憩時間に作業があり自由に使えない
といった場合は、その時間は労働時間としてカウントされる可能性が高いと言えるでしょう。
休憩時間については、以下の記事でも詳しく説明しているのでご確認ください。
その休憩には賃金が発生!損しない労働時間と休憩のルールを徹底解説
2-2-3:利用者を送迎した帰り時間
自宅で暮らす高齢者が日中の時間を過ごすデイサービス(通所施設)では、担当する利用者を家まで送り届けたら業務終了扱いとなるケースが多く見られます。
職員の側からすると、その場で仕事から解放されるわけではなく、施設に戻る時間がかかるため、少なくとも帰所までを労働時間と考えるのが自然です。
2-2-4:勤務時間外の作業
利用者を介護する担当を外れてからも、会議や勉強会、介護記録の記入やイベントの準備など様々な作業が残っていることがあります。
シフト時間外に行うこうした作業は、「直接の指示がない」ことを理由にサービス残業扱いになることが多く見られますが、当然のことながら業務時間と認められます。
次の章ではホワイトな職場を見分けるポイントを説明します。
3章:ホワイトな介護の職場を見分けるポイント
介護職では、次のような特徴がある職場の多くはホワイトだと言われています。
・求人募集に残業代の規定がある
・在籍年数の長い職員が多い
・兼業主婦が多い
・書類管理がPCで行われている
順番に見ていきましょう。
3-1:求人募集に残業代の規定がある
求人情報の「給与」という項目のほか、次のように「各種手当」という記載がある場合があります。
介護職の求人募集の例
職種:介護職員(特別養護施設)
雇用形態:正社員
給与:基本給20万円+各種手当(時間外手当、休日出勤手当、通勤手当など)
この「各種手当」に含まれているのが、時間外や休日に出勤した分の残業代や通勤手当などです。
こうした規定がある職場は、しっかりと勤怠管理が行われ、残業代が支払われている会社であるといえるでしょう。
ただし、どの手当が残業代にあたるのかがわからない場合や、給与のうちいくらが残業代にあたるのかがわからない場合、本来支払われるべき残業代が支払われていない可能性があるので注意しましょう。
3-2:在籍年数の長い職員が多い
仕事がハードなため、また女性が多い職場であるため、離職率が高い介護業界。
そのため、在籍年数の長い職員が多く、離職率が低い職場はとても働きやすい施設であることが多いでしょう。
面接の際に、担当者に質問してみて職員の多くが1〜2年の在籍年数だった場合は注意しましょう。
3-3:兼業主婦が多い
介護業界で働く女性職員は、結婚・出産を機に退職するケースが多く見られます。
逆に一度退職した職員が復職し、兼業主婦として活躍できる職場は、ライフスタイルに合った働き方が選べ、過酷な労働実態がないと言えます。
面接や施設見学のタイミングで担当者に質問することで、働いている人の年齢分布や就業状況がわかります。こうした職場を見つけ、無理のない働き方ができるようにしましょう。
3-4:書類管理がPCで行われている
介護施設の作業で、地味ながら多くの時間を割かれる介護記録の記入。ほかにも、報告書やチェックリストなど日常の業務で書く書類は多くあります。
改ざんを防ぐために未だに毎日手書きでの記入を求められ施設が多いですが、最近はPCで管理するというケースもあるようです。
こうした職場は、設備投資するだけの資金的な余裕があり、またPC導入によって実際に働く職員の負担も軽くなるため、働きやすいホワイトな環境であると考えられます。ITの導入状況は、介護転職サイトの口コミなども参考になります。
4章:退職を決めたら未払い残業代の請求も行おう
仕事がハードで、職員が精神的に不調をきたしてしまうことも珍しくない介護業界では、施設側の非がしっかりと認められることが多いのが特徴です。
毎日の残業はそれほど長くなくても、さかのぼって請求できる3年間で100万円を超える残業代が戻ってくるケースも珍しくないのでしっかりと確認しておきましょう。
4-1:残業代の計算方法
自分が1日にどれくらい働いているかは、先ほど2章で解説しましたが、自分の残業時間がわかれば、
という式で残業代を計算することができます。残業代は3年にさかのぼって請求できるので、かなりの大金になることがわかったのではないでしょうか。
割増率は時間帯によって決められており、通常の残業は1.25倍、深夜残業の場合は1.5倍で計算しましょう。
詳しい計算方法については、次の記事で解説しているのでご確認ください。
【図解】損してないかチェック!たった3ステップでできる残業代計算法
4-2:残業代を請求する2つの方法
残業代を計算して、大金が受け取れる可能性があることがわかったあなたは、実際に請求したいと考えたのではないでしょうか。
未払いの残業代を請求するためには、大きく分けて、
自分で会社に直接請求する方法
弁護士に依頼して請求する方法
という2つのやり方があります。
それぞれのメリットとデメリットは次の通りです。
自分で請求する方法はお金がかからないメリットがあります。
ただ、介護業界の残業代請求に関しては、専門の弁護士が取り掛かれば、働いた分だけしっかりと受け取れる可能性が高くなります。
そのため介護業界の事例を多く扱った実績を持つ労働問題に強い弁護士への依頼をオススメします。
残業代を請求するときに必要な証拠集めなど、具体的にやることについては以下の記事に詳しく書いてありますのでご確認ください。
いざという時知っておくと便利!?弁護士が教える残業代を1円でも多く請求する手順
まとめ
いかがでしたか?最後に今回の内容をもう一度振り返ってみましょう。
サービス残業が多く仕事が過酷な業界として知られている介護業界。
厚生労働省の調査では、介護職から転職した理由の上位には「不払い残業がある・多い」が毎回のように挙がっています。
介護の現場で働く職員の残業が長くなるのには、
・業界全体で人手不足
・手間になる介護記録、引き継ぎ
・利用者のトラブル
・イベントの準備
といった業務特性があることも確認しました。
労働基準法では、社員を「1日8時間、週40時間」を超えて働かせてはいけないと定められており、この時間を超えて働かせた時には、職員に残業代を支払う必要があります。
職場で残業と認められていなくても、
・業務開始前の準備、引き継ぎ
・労働時間と認められる休憩時間
・利用者を送迎した帰り時間
・勤務時間外の作業
といった時間は労働時間=残業時間として認められるのでしっかりと確認しておきましょう。
ホワイトな介護の職場の見分け方や未払い残業代の請求方法も解説しているので、自分に合った新しい職場を見つけた時は、忘れずに今いる職場に本当はもらえるはずだった残業代を請求するようにしましょう。