【弁護士が解説】パチンコ店店員が酷使される残業の実情と法律ルール
この記事を読んで理解できること
- 長時間残業が当たり前?パチンコ店の残業の実態
- パチンコ店でサービス残業が発生しやすい理由
- 残業ルールとパチンコ店の手口を法律的に解説
- 未払いの残業代があれば請求しよう
あなたは、普段パチンコ店で働いていて、
「シフト通りの時間に仕事が終わらない」
「毎日残業が長くて大変だ」
「店長なので残業代はつかないと言われている」
などと悩んでいませんか?
パチンコ店は営業時間が長く、閉店後の作業も多いため、働く人たちの残業時間が長くなりやすい職場です。
その一方で、アルバイトスタッフが多いパチンコ店では、社員に「リーダー」「主任」「店長」といった肩書きを与えることが多く、こうした「役職」を理由に残業代を支払わないケースが多く見られます。
あなたは会社や上司から次のように言われたことはありませんか?
後ほど詳しく説明しますが、会社がこのように説明していても、あなたが実際に残業をしていれば、あなたは残業代をもらう権利があります。
それも、後になってからでも、正しい手続きをとれば残業代を取り戻せる可能性があります。
この記事では、まずはパチンコ店における残業の実態を解説し、ブラックなパチンコ店がよく使う手口を法律的な観点からわかりやすく説明します。
さらに残業代を取り戻そうと思ったときに使える計算方法や請求の仕方についてもお伝えします。
「うちの会社では残業代はもらえない」と諦めずに、正しい知識を身につけましょう。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■パチンコ業界の残業の実態
- パチンコ業界は残業時間が長く、特に残業代が支払われないサービス残業が多い
- 毎日数時間の残業が発生し、1カ月80時間以上になることもある
■パチンコ店でサービス残業が発生しやすい理由
- 営業時間外にしかできない作業が多い
- 一部の社員にしか任せられない仕事が多い
- 役職がある社員に残業代を払わないケースが多い
■パチンコ店が残業代をごまかす手法
- 社員を名ばかり管理職にする
- 役職手当を残業代の代わりにする
- 決まった時間にタイムカードを切らせる
- 残業申請を承認制にしている
- 別店舗の応援を「助け合い」で正当化する
■未払い残業代は、会社に請求することができる
1章:長時間残業が当たり前?パチンコ店の残業の実態
早速、パチンコ店の残業の実態について見ていきましょう。
1-1:パチンコ店はサービス残業が多い!
比較的給料が高く、福利厚生が整っているため、そうした条件を重視する人にとっては人気の就職先としてパチンコ業界。
その一方で、パチンコ店での仕事は残業時間が長いことが知られており、多くの場合で残業代が支払われないサービス残業になると言われています。
パチンコ店ではシフト交代制で店舗を運営するのが普通ですが、社員の場合はシフト通りに仕事が終わることは珍しく、毎日数時間の残業が発生するケースもあります。
1-2:パチンコ店の1日のスケジュール
ここからは、実際の店員の1日の動きを見ながら、残業になりやすい時間について考えていきましょう。
詳しくは3章で解説しますが、残業時間とはシフトで決められた後に働いた時間だけではなく、出勤前や休憩時間も含まれる場合があります。
例えば早番で働くAさんの場合は、シフトでは9時から18時までが勤務時間とされていますが、その前後に1時間の作業があるほか、休憩も1時間の半分しかとれない日が多いようです。
次章では、パチンコ店でサービス残業が生まれやすい理由について解説します。
2章:パチンコ店でサービス残業が発生しやすい理由
パチンコ店でサービス残業が生まれやすい要因としては
・営業時間外にしかできない作業が多い
・一部の社員にしか任せられない仕事が多い
・役職がある社員に残業代を払わないケースが多い
といったパチンコ店の仕事内容や業界の慣習が関わっています。順番に見ていきましょう。
2-1:営業時間外にしかできない作業が多い
パチンコ店は午前中に開店し、夜10時以降に閉店するのが一般的です(営業時間は都道府県の条例によって規制)。
この長い営業時間をアルバイト・社員がシフト制でカバーすることになりますが、パチンコ店では店舗の営業時間外の仕事も多いのが特徴です。
通常の開店準備や掃除・片付けのほかにも
・台の調整
・設定の確認・変更
・新台入れ替え
・イベント準備
など、営業中にはできない仕事が多くあります。
パチンコ店では、利益を上げつつもお客さんを楽しませなければ集客が落ちるため、こうした閉店中の業務がとても重要になります。
もちろん中途半端なまま開店することはできないため、シフト時間外であっても誰かがやらなければなりません。
こうした状況が社員にサービス残業を受け入れさせる一因になっているのです。
2-2:一部の社員にしか任せられない仕事が多い
あなたは上司からこんなことを言われた経験はないでしょうか。
台の出玉がお客さんのお金や店舗の経営に直接関わることが多いパチンコ店では、立場によって担当できる仕事がハッキリと決められています。
特に、台の調整や釘の確認、当たり玉の管理などはある程度の責任の立場にいる社員以外はタッチできないのが一般的です。
そのため、場合によっては100台以上あるホール全体を自分ひとりで見ることになり、すべて終わるまでに長い時間が経ってしまうケースがあります。
2-3:役職がある社員に残業代を払わないケースが多い
パチンコ店の社員は、未経験でも「幹部候補」といった名目で採用され、
といった肩書きを与えられながら昇進していくケースが一般的です。
パチンコ業界では、こうした体制を悪用する店舗が多く、肩書きがついた社員は「管理職」として扱い残業代を支払わないケースが多く見られます。
会社全体がこうした給与体系になっていると
「先輩も周りもみんな同じだから仕方ないか」
と諦めてしまう人も多く、サービス残業が改善されることなく残ってしまうのです。
3章:残業ルールとパチンコ店の手口を法律的に解説
パチンコ店はいろいろなルールを設け、残業代を払わなかったり、本来支払うべき金額より少なくしたりすることがあります。
しかし、こうした契約は違法であることがほとんどです。
ここからは残業のルールと様々な給与体系の問題点を説明します。
3-1:残業代なしはNG!基本的な考え方
労働基準法では、会社が「1日8時間、週40時間」を超えて社員を働かせることはできないと決められています。
この「1日8時間・週40時間」の基準を法定労働時間と呼び、これを超えた労働が「残業」になります。
会社側が社員に残業させた場合は、「残業代」が発生します。
そのため、以下のような理由で残業代の支払いを行わないことは違法になります。
3-2:パチンコ店で使われる手口の違法性を解説
サービス残業が多いパチンコ店では、支払う残業代を少しでも減らすため、次のような手口が使われるケースがあります。
・社員を名ばかり管理職にする
・役職手当を残業代の代わりにする
・決まった時間にタイムカードを切らせる
・残業申請を承認制にしている
・別店舗の応援を「助け合い」で正当化する
パチンコ店で働くあなたにとって、見覚えのあるルールもあったのではないでしょうか。
これらのどこに問題があるのか、わかりやすく説明します。
3-2-1:社員を名ばかり管理職として扱う
パチンコ業界では、本来は法律上の管理職に当たらない立場の社員を「管理職」として扱う「名ばかり管理職」が多く見られます。
法律で定める管理職(管理監督者)には、残業代や休日手当などの割増賃金を支払う必要がないため、ブラックなパチンコ店がこのルールを都合よく利用しているのです。
こうした制度の悪用を避けるため、管理監督者と認められる条件は非常に厳しく、「一般的にイメージされる管理職」と「労働基準法における管理職」は必ずしもイコールの関係にはなりません。
労働基準法上の管理監督者は、以下の3要素を満たしている必要があります。
パチンコ店の役職としては、
(図)
リーダー→班長→主任→副店長→店長→マネージャー→エリアマネージャー
といったものが一般的ですが、店によってはリーダーや班長といった肩書きを持つ社員を「管理職」と扱うことがあります。
こうしたケースはほとんどが名ばかり管理職で、管理監督者として認められることはほぼなでしょう。
名ばかり管理職については、次の記事もご確認ください。
弁護士が「名ばかり管理職」を解説「管理職だから残業代無し」は違法
3-2-2:役職手当を残業代の代わりにする
主任やリーダーなど店舗で何か肩書きを与えられている人は、給与に役職手当がついているのではないでしょうか。
役職手当とは、ほかの社員よりも重要で、責任が重い管理職に対して支給されるお金のことです。
しかし、実際には「役職手当を残業代のかわりに払うことで、残業代を抑える」ことを目的として使われることが多く見られます。
管理職ではないのにもかかわらず、役職手当が付いていることを理由に、あなたの残業代が払われていないとしたら、それは違法である可能性があります。
役職手当については、以下の記事でも詳しく解説していますのでご確認ください。
役職手当があっても残業代が出る!その理由と方法を弁護士が徹底解説
3-2-3:決まった時間にタイムカードを切らせる
ブラックなパチンコ店は、シフトで決められた時間でタイムカードを切り、その前後の準備や片付けは労働時間として認めないことがあります。
ただ店側が、
「シフト通りにタイムカードが切られているので、残業代は出ない」
「それ以上の労働時間は把握できないので残業代は払えない」
などと説明しても、残業代が出ない理由にはなりません。
会社が社員の労働時間を把握するのは義務であるため、違法である可能性が高いです。
3-2-4:残業を承認制にしている
残業なしをアピールしている店舗によくあるケースですが、残業をした場合は上司に申請し、それが認められると残業代も支払われるというルールもよく見られます。
ただ、このルールには、「直接の指示がなかった」ことを理由に、社員が自主的に残っていたとして残業として認めない抜け道があります。
閉店後の片付けや台の調整、イベントの準備などは、翌日の営業のために必ずやらなければいけない仕事ですが、毎日同じ作業を行っているのをいいことに「指示を出していない」と開き直るのです。
3-2-5:別店舗の応援を「助け合い」で正当化する
グループ展開しているパチンコ店では、ある店で人手が必要な時に、別の店舗のスタッフに応援を要請することがあります。
これ自体はよくある会社の業務指示ですが、助け合いを理由に無償で働かせ、残業代を支払わない悪質なケースもあるようです。
周りも同じことをやってるから、と納得させてサービス残業させるのはブラック店舗が使う手口ですが、違法であると言えるでしょう。
4章:未払いの残業代があれば請求しよう
ここまで読んで、自分の働き方でも思い当たることがあった人は、本当は受け取れるはずだった残業代を取り戻したいと思ったのではないでしょうか。
最後に、残業代の計算方法や請求の仕方について解説します。
4-1:残業代の計算方法
まずはあなたがどのくらいの残業代を受け取れたか計算してみましょう。
残業代は、
という式で計算できます。
基礎時給とは1時間当たりの賃金のことで、パチンコ店で採用されることの多い月給制の場合は1か月の月給を所定労働時間(※)で割って計算します。
※雇用契約で定められている1ヶ月あたりの平均労働時間のこと。一般的に170時間前後となっています。
割増率は時間帯によって決められており、通常の残業は1.25倍、深夜の場合は1.5倍を掛けます。
例えば、月給が26万円の人が月に50時間残業をした場合は、
26万円÷170×1.25×50=9万5588円
になります。残業代は過去3年間までさかのぼって請求できますが、3年間同じように残業していた場合は340万円を超える大金がもらえる計算になります。
4-2:残業代を請求するための2つの方法
未払いの残業代を請求するためには、大きく分けて
自分で会社に直接請求する方法
弁護士に依頼して請求する方法
という2つのやり方があります。
それぞれのメリットとデメリットは次の通りです。
「自分で請求したほうが多くの金額が取り戻せるのでは」
と考えてしまいがちですが、証拠集めや残業代の計算、職場との交渉はなかなか大変です。
また労働問題に強い弁護士であれば、残業代を取り返せる確率も非常に高いので「弁護士への依頼」を検討してみてはいかがでしょうか。
残業代の請求については以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
いざという時知っておくと便利!?弁護士が教える残業代を1円でも多く請求する手順
4-3:請求するために集めるべき証拠一覧
未払い残業代を請求するときに必要になるのが「証拠集め」です。
例えば、以下のような証拠があると可能性が残業代を取り戻せる可能性が高まります。
【残業代が未払いであることを示す証拠】
雇用契約書
就業規則
賃金規定
給与明細
そして、実際に働いた時間を示すものとして、パチンコ店で働くあなたの場合は
【実際に働いた時間を示す証拠】
タイムカード
シフト表
業務日報
パソコンのログイン履歴
などを集めておきましょう。
原本がない場合には、コピーでも良いので少しでも多くの証拠を揃えておくのが残業代を取り戻す近道になります。
証拠については、以下の記事にも詳しく書いてありますのでご覧ください。
【弁護士が解説】残業代をアップさせる証拠一覧と集め方マニュアル
まとめ
いかがでしたか?今回の内容をもう一度振り返ってみましょう。
パチンコ業界は残業時間が長く、特に残業代が支払われないサービス残業が多いと言われています。
毎日数時間の残業が発生し、1カ月80時間以上になることもあります。
パチンコ店でサービス残業が発生しやすい理由としては
・営業時間外にしかできない作業が多い
・一部の社員にしか任せられない仕事が多い
・役職がある社員に残業代を払わないケースが多い
といったパチンコ店の仕事内容や業界の慣習が関わっていました。
労働基準法では、会社が「1日8時間、週40時間」を超えて社員を働かせることはできないと決められています。
会社側は、残業代の支払いを少なくするために
・社員を名ばかり管理職にする
・役職手当を残業代の代わりにする
・決まった時間にタイムカードを切らせる
・残業申請を承認制にしている
・別店舗の応援を「助け合い」で正当化する
といった手口を使うことがあります。
いずれも違法の疑いが高いルールなので、思い当たる人は自分が本当にもらえるはずだった残業代を計算し、取り戻せるのであれば行動に移してみてはいかがでしょうか。
会社の言い分に騙されず、楽しく仕事をするために、正しい知識を身につけて行動しましょう。