
運送業に興味があるあなたは、
「運送業はブラックな会社が多いイメージがあるけど、本当にブラックなのかな?」
「運送業がブラックと言われるのはナゼなんだろう?」
などの疑問はありませんか?
また、すでに運送業界で働いている場合、
「どんな運送会社がブラックと言われるんだろう?」
「ブラックな運送会社に入ってしまったらどうしたら良いんだろう?」
とも思っているのではないでしょうか?
結論から言えば、運送業は「労働時間が長い」「給料が低い」「危険な労働で怪我や病気になる人が多い」という、ブラックな実情があります。私も労働問題に積極的に取り組んできた弁護士として、特に運送業の人からは数多くの相談を受けてきました。つまり、それだけ運送業にはブラックな会社が多いのです。
とは言え、運送業の会社のすべてがブラックというわけではありません。
見分け方を知っておくことで、ブラックな運送業の会社に入ってしまうことを避けることができますし、万が一入ってからブラックであることが分かっても、適切な対処法を知っておくと、そこから抜け出すこともできます。
そこでこの記事では、まずは運送業の実態と、ブラックになってしまう背景について解説します。さらに、ブラックな運送業の会社を見分けるための7つのポイントと、万が一ブラックな会社に入ってしまった場合の対処法について解説します。
しっかり読んで今後の行動に活かしてくださいね。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■運送業の労働時間の実態
■運送業の給料の実態
■運送業がブラックになりがちな理由
- 拘束時間が長いこと
- 深夜労働が多いこと
- 道路状況や荷受人の都合に振り回されること
- 積み下ろし作業を行わなければならないことがあること
- 宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加していること
- 6割以上の運送会社で人手不足こと
■ブラック運送業を見分ける判断基準
- 給料や残業代が未払い
- 長時間のみなし残業時間がある
- 歩合給制で歩合の率が高い
- 雇用契約ではなく請負契約での採用
- 離職率が高い
- ドライバー・車両の数が少ない
- 会社に古い車両ばかり
■ブラック運送会社に入ってしまった場合の対処法
- 労働基準監督署に相談する
- 別の会社に転職する
- 未払い残業代を請求する
1章:運送業はブラック?実態と背景を解説
運送業がブラックと言われるのには理由があります。それは、労働時間や給料、労働災害保険の支給状況などから明らかです。
そこで、
- 運送業のブラックさの実態
- 運送業がブラックになる背景
について解説します。
それより先に、ブラックな運送業の会社を見分ける方法について知りたい場合、2章から読んでください。
1−1:運送業のブラックさが分かる実態
それでは、
- 運送業の労働時間
- 運送業の給料
- 労働災害保険の支給状況
から、実態を見てみましょう。
1−1−1:運送業の労働時間は全業界で一番長い
厚生労働省の「平成29年賃金構造統計調査」によると、運送業の労働時間について、以下のような調査結果が出ています。
※厚生労働省「平成29年賃金構造統計調査」
これを見て分かるように、運送業の労働時間の平均は月198時間、最も長いのは40代の204時間であることが分かります。
では、他の業界はどうなのでしょうか。他の業界の同じ調査を見てみると、以下のような結果が出ています。
このように、運送業は他の業界に比べて、労働時間が最も長いのです。さらに、運送業の中でも最も多いトラック運転手に限ると、以下のような結果が出ています。
このように、他の業界に比べて運送業の労働時間は最も長く、さらにその中でもトラック運転手の労働時間は最も長いのです。運送業は、労働時間から見てブラックだと言えるでしょう。
次に、給料から運送業のブラックさを確認してみましょう。
1−1−2:運送業の給料は全業界で一番低い
次に、運送業の給料の実態を確認してみましょう。
先ほどと同じ、賃金構造統計調査では、以下のような調査結果が出ています。
このように、運送業の給料の実態は、平均月給が32万6000円、年間賞与が61万6000円という結果が出ています。
では、他の業界の結果と比べてみましょう。
このように、運送業は給料の金額が業界最低であり、平均以下であることが分かります。
以上から、運送業は、
「労働時間が長く、給料は低い」
というブラックな業種であると言えます。
さらに、運送業の中でも最も多いトラック運転手の月給、賞与を見ると、以下のような結果が出ています。
月給はほぼ変わりませんが、年間賞与に関しては、運送業の平均と比べても半額以下であることが分かります。このように、運送業の中でもトラック運転手は、より労働時間が長く、給料が低いブラックな仕事なのです。
さらに、労働災害保険の支給状況から、運送業の仕事の危険性についても見てみましょう。
1−1−3:運送業の労働災害保険の支給数が一番多い
労働災害保険(労災保険)とは、業務中や通勤中に起こったことが原因で、病気や怪我になった時に、国が支給する保険のことです。
よく聞く、「労災がおりるかおりないか」と言われる、あの労災のことです。
この支給が多いほど、「健康に悪影響を及ぼす過酷な仕事」、つまりブラックな仕事であると考えることができます。
以下の調査結果を見てみてください。
これは、「脳・心臓疾患」の労働災害保険の支給状況に関するデータですが、「運輸業」は、平成27年、28年共にワースト1位であることが分かります。
※厚生労働省「過労死等の労災補償状況(平成28年度)」より引用
さらに、別の調査によると、運送業の「死傷災害(※)は、以下のように、
- 墜落、転落
- 動作の反動、無理な動作
- はさまれ、巻き込まれ
- 転倒
- 交通事故
など、様々な原因で発生していることが分かります。
※ここでの死傷災害とは、死亡や4日以上休業した怪我の数。
※厚生労働省「交通労働災害防止のための新しい安全衛生管理手法のすすめ」から引用
以上の結果から、運送業は長時間労働、低賃金であるだけでなく仕事の危険性も高い仕事であり、ブラックな実態があることが分かります。
そうなんですね。なぜ運送業はブラックになるんでしょうか?
それでは、ブラックになる理由を解説します。
1−2:運送業がブラックになる理由
運送業の仕事がブラックになってしまうのは、以下の6つの理由があります。
- 拘束時間が長いこと
- 深夜労働が多いこと
- 道路状況や荷受人の都合に振り回されること
- 積み下ろし作業を行わなければならないことがあること
- 宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加していること
- 6割以上の運送会社で人手不足こと
詳しい理由は、以下の記事で解説しています。
長時間労働で低賃金?トラック運転手の過酷さの実態と過酷さの5つの理由
私がいる会社もブラックな気がします。ブラックな運送業を見分ける基準はあるのでしょうか?
それでは、これからブラックな運送業を見分ける判断基準を解説します。
2章:ブラックな運送業を見分ける7つの判断基準
今働いている運送業の会社がブラックかもと思う場合、もしくは、これから運送業に就職するためにブラックな会社を避けたい場合、以下の点からブラックな運送会社を見分けることができます。
【ブラック運送業を見分ける判断基準】
- 給料や残業代が未払い
- 長時間のみなし残業時間がある
- 歩合給制で歩合の率が高い
- 雇用契約ではなく請負契約での採用
- 離職率が高い
- ドライバー・車両の数が少ない
- 会社に古い車両ばかり
それぞれ順番に解説します。
それよりも、すでにブラックな運送業の会社に入ってしまい、対処法が知りたい場合は、3章に進んでください。
2−1:給料や残業代が未払い
あなたは、今働いている運送会社で、
- 給料を分割で支払う
- 給料を給料日に支払わず滞納する
- 残業しているのに、残業代が一切出ない
ということはありませんか?
もしこのようなことがあるなら、その会社はブラック運送会社です。
運送業の会社の中には、社員を不当に安い賃金で、長時間労働させる会社が少なくありません。私はこれまでに、そのような運送業の会社の社員から数多くの相談を受けてきたのです。
運送業界で給料や残業代の未払いが多いのは、長い間トラック運転手が個人事業主のように扱われ、労働時間ではなく、仕事量で給料を決めるような慣習があったからだと考えられます。
しかし、あなたと会社との関係が雇用契約なら、どんな理由があっても、給料や残業代の全額もしくは一部が支払われないことは、違法です。
もしそのような会社で働いているなら、3章で紹介する対処法を実践して、現状を変えてください。
2−2:長時間のみなし残業時間がある
現在働いている会社で、もしくはこれから働こうと思っている運送業の会社で、「長時間のみなし残業時間」があるなら、ブラック運送会社であることを疑った方が良いかもしれません。
みなし残業代制とは、毎月一定の残業時間に対して、一定額の残業代が支払われる制度のことです。
長時間のみなし残業時間をあらかじめ規定しておくこと自体は、違法ではありません。
しかし、たとえば、求人票や雇用契約書などに、
「残業手当あり(みなし残業80時間分)」
などと書かれていたら、基本的に毎月最低それだけの残業があると考えられるため、長時間残業が常態化しているブラック運送会社であると考えらるのです。
みなし残業代制について、詳しくは以下の記事で解説しています。
みなし残業(固定残業)の違法性を判断する7つのポイントを徹底解説
2−3:歩合給制で固定給部分が異常に少ない
もし、あなたがいる会社や、これから入ろうと思っている会社で、歩合給制が採用されており、
- 歩合の割合が高い
- 固定給がなく、給料の全てが歩合給
という場合は、ブラック運送会社である可能性が高いです。
歩合給制とは、
「個人の成績や売り上げに応じて給与が計算される給与体系」
のことで、運送業の多くの会社で採用されています。
運送業の場合は、売上げの中から会社のガソリン代、トラックの維持費、会社の諸経費等が引かれ、その残りの30%〜40%程度が歩合給として運転手に支払われることが多いようです。
歩合給制には、
①固定給+歩合給…固定給にプラスして、出来高に応じて給与が支払われる
➁完全歩合給制…給与のすべてが出来高に応じて支払われる
という2つがありますが、実は②は「成績が悪い場合に給与があまりにも低くなり最低賃金すら保証されない」という理由から原則的に「違法」とされています。
そのため、固定給部分がなかったり、異常に少ない場合はブラック運送会社である可能性が高いのです。
2−4:雇用契約ではなく請負契約での採用
あなたが働いている会社や、これから働こうと思っている会社で、採用条件が雇用契約ではなく請負契約になっている場合は、ブラック運送会社である可能性があります。
運送業の会社の場合、特にトラック運転手は雇用契約ではなく請負契約で契約することも多いです。
請負契約だと、会社からすれば、
- 社会保険や厚生年金を負担する必要がない
- 残業代や深夜手当、休日手当を支払う必要がない
というメリットがあります。
しかし、契約が請負契約でも、
- 他の運送会社の仕事が取れず、仕事を選択する自由がない
- 始業時間、終業時間が決められている
などの場合は、実態としては雇用契約と同じです。
もし、実態は雇用契約と変わらないのに、採用条件が請負契約である場合は、会社が残業代等をごまかすための手口である可能性があるため、ブラック運送会社である可能性が高いのです。
2−5:常に求人をかけている会社
あなたが今働いている会社、もしくはこれから働こうと思っている会社で、平均勤続年数が短く離職率が高い場合、ブラック運送会社である可能性が高いです。
なぜなら、従業員が定着しないのは、会社側に何らかの原因があると考えられるからです。
入社前だと離職率が高いかどうか判断しにくいかもしれませんが、
- 常に求人をかけている会社
- 転職系の口コミサイトで悪い評判が多い会社
- 企業規模と採用人数を照らし合わせて、やたらと大量採用している会社
等は、離職率が高い会社である可能性が高いため避けることをおすすめします。
2−6:ドライバー・車両の数が少ない
あなたが働いている会社や、これから働く予定の会社で、会社規模に比べてドライバー・車両の数が少なければ、ブラック運送会社である可能性があります。
なぜなら、ドライバーや車両の数が少ない会社は、離職率が高い、利益が上がっていない会社で、少ない従業員を低い賃金で長時間こき使っている可能性があるからです。
利益を上げている会社、離職者の少ない会社は、しっかりとドライバーや車両を確保して業務を行っています。
入社前でも、面接時等、会社を訪問したときに車両やドライバーの数をチェックすることができますので、できるだけ車両やドライバー数が多い会社を選びましょう。
2−7:会社に古い車両ばかり
古い車両ばかりの会社も、ブラック運送会社である可能性があります。
運送業に特有なのが、「交通事故」のリスクです。その事故のリスクを最小限にしてくれるのが、衝突被害軽減ブレーキや車線一脱警報装置などの安全装置です。
こうした安全装置は、古い車両には十分に搭載されていないことが多いです。
そのため、ある程度利益を上げている運送会社では、最新の安全装置を搭載した車両を導入していますが、利益を上げていない会社、社員を大事にしていない会社は導入していないことがあります。
十分に安全に配慮している会社で働くためには、古い車両ばかりの会社はできるだけ避けるべきでしょう。
ブラックな運送業を見分けるポイントは、よく分かりました。私の会社はブラック運送会社に当てはまるようなのですが、どうしたら良いでしょうか?
それなら、これからブラック運送会社に入ってしまった場合の対処法をお伝えしますので、しっかり読んで実践してください。
3章:ブラックな運送業に入ってしまった場合の対処法
もしブラックな運送業の会社に入ってしまった場合、
- 労働基準監督署に相談する
- 別の会社に転職する
- 未払い残業代を請求する
という方法で行動をはじめることをおすすめします。
なぜなら、そのまま会社に居続けては、あなたは会社からこき使われ、本来もらえるはずのお金がもらえなかったり、仕事の負担で健康を害してしまう可能性があるからです。
それでは、それぞれ順番に解説しますので、今後の行動の参考にしてください。
3−1:労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、労働基準法にのっとって会社を監督する行政機関です。労働基準法違反の疑いのある会社の行為について相談し、対応を依頼することが可能です。
あなたが、
「会社の違法行為を訴えたい」
「職場の違法な労働環境を改善して欲しい」
などの悩みをお持ちの場合、労働基準監督署に相談することをおすすめします。
労働基準監督署に相談することで、
- 労働基準法にのっとった具体的なアドバイスがもらえる
- 会社の行為が悪質な場合は、会社に対して「調査」「是正勧告」などの対応をとってもらえる
ということが期待できます。
労働基準監督署に相談できることや、相談する流れなどについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【労働基準監督署にできること】相談の流れとより確実に解決するコツ
ただし、あなたが、
「未払いの給料や残業代を支払って欲しい」
という場合は、労働基準監督署では不十分です。なぜなら、労働基準監督署はあくまで会社の違法行為を監督する機関であり、あなたのために、給料や残業代を取り返してくれる機関ではないからです。
そのため、給料や残業代を取り返したい場合などは、別の選択肢をおすすめします。給料や残業代の請求方法は、3−3で解説しています。
3−2:ホワイトな運送会社に転職する
現状を変える抜本的な方法は、ブラック運送会社からホワイトな運送会社に転職することです。
なぜなら、あなたの努力で、たとえ一時的に現状が改善できても、ブラック運送会社の経営者の「考え方」は簡単には変わらないため、いずれ元の経営に戻ってしまう可能性大だからです。
でも、転職なんて簡単にできないよ。
あなたもこのように思われているかも知れませんが、ブラック運送会社で働き続ければ、あなたの心身やプライベートに使えたはずの時間が蝕まれ、後で後悔することになりかねません。
そのため、すぐにでも転職のための行動を開始することをおすすめします。
転職する場合は、3−3で解説するように、「未払い給料・残業代を請求する」などのことを行って、できるだけ損しないように辞めることをおすすめします。
損しないための退職の流れについて、詳しくは以下の記事で解説しています。
弁護士が徹底解説!退職するときに損しないための“有給消化”と“貰えるお金”の話
3−3:未払い残業代を請求する
ブラック運送会社で働いている場合、残業代が未払いになっている可能性があります。そのため、退職時等に未払い残業代を請求することをおすすめします。
トラック運転手の場合は、未払い残業代は高額になることが多いです。
簡単に計算してみましょう、
(例)
- 基本給25万円
- 一月平均所定労働時間170時間
※一月平均所定労働時間とは、会社によって定められた1ヶ月の平均労働時間のことで、170時間前後であることが一般的です。
月の残業の合計:80時間
月の深夜労働の合計:28時間
上記の場合は、
- 1ヶ月の残業代
(25万円÷170時間)×1.25倍×80時間=14万7000円 - 1ヶ月の深夜手当
(25万円÷170時間)×1.25倍×28時間=5万1450円
と計算でき、合計金額は19万8450円にもなります。
残業代や深夜手当は、3年分までさかのぼって請求できるため、
19万8450円×36ヶ月=714万4200円
と高額になります。
トラック運転手の場合、荷待ち時間が労働時間にカウントされ、高額な未払い残業代が発生するケースも珍しくありません。
そのため、他の職種よりも残業代が高額になる可能性が高いです。
トラック運転手の残業代のルールや計算方法、請求する方法などについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【トラック運転手向け】残業代請求の全手順と正しい残業代の計算方法
まとめ
いかがでしたか?
最後に今回の内容をまとめます。
【運送業の労働時間の実態】
【運送業の給料の実態】
【運送業がブラックになりがちな理由】
- 拘束時間が長いこと
- 深夜労働が多いこと
- 道路状況や荷受人の都合に振り回されること
- 積み下ろし作業を行わなければならないことがあること
- 宅配便の急増で1人あたりの業務量が増加していること
- 6割以上の運送会社で人手不足こと
【ブラック運送業を見分ける判断基準】
- 給料や残業代が未払い
- 長時間のみなし残業時間がある
- 歩合給制で歩合の率が高い
- 雇用契約ではなく請負契約での採用
- 離職率が高い
- ドライバー・車両の数が少ない
- 会社に古い車両ばかり
【ブラック運送会社に入ってしまった場合の対処法】
- 労働基準監督署に相談する
- 別の会社に転職する
- 未払い残業代を請求する
運送業もすべてがブラックというわけではありませんので、自分らしい働き方ができるように、正しい知識を覚えて行動していきましょう。