【広告代理店の残業】長時間残業の実態と未払い残業代の請求方法を解説
この記事を読んで理解できること
- 広告代理店の残業の実態を解説
- 広告代理店における働き方と残業になりうるグレーな時間
- もらえるはずだった未払い賃金の計算方法
- 残業代を請求する2つの方法
広告業界で働いているあなたは、次のようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
「長時間の残業がツラい…」
「納期前の忙しさが普通じゃない」
「体を壊しそうで心配」
「せめて残業代を払ってほしい」
少し前に、広告代理店で働く若手社員が、一か月に100時間を超える残業で心身を持ち崩し、過労自殺してしまった問題が世の中を騒がせました。
これがもし自分だったら…と考えると他人事ではなく、働き方をどうにか改善したいと考えた人も多いのではないでしょうか。
広告代理店は、月100時間の残業が珍しくないほど、残業が当たり前になっている実態があります。
あなたは上司に次のように言われたことはありませんか?
もしこのように言われていても、残業が一定の条件を満たせば、あなたは残業代をもらう権利があるのです。
この記事では、広告代理店の残業の実態を、労働問題専門の弁護士が詳しく解説したいと思います。
また法律ルールの説明も交えて、あなたの会社が社員を違法に働かせている疑いがないかどうかもチェックします。
長時間の残業から身を守るためにあなたが取ることができる行動や、本当はもらえるはずだった残業代を取り戻す方法についても解説していますので、広告代理店の残業について正しく理解するだけではなく、実際に記事を読んで次の行動につなげてください。
【全部読むのが面倒な方へ|当記事の要点】
■広告代理店の残業の実態とは
- 広告代理店の残業時間は全業界の中で2位というデータがある
- 高額の未払い残業代が発生している場合もある
■広告代理店の残業が長くなる背景
- 出稿媒体が多い
- 何パターンもの制作物を作る必要がある
- 業界全体が体育会系の体質である
- 締め切りや納期がきつい
- クライアントとの飲み会や接待が多い
■広告代理店の業務と関わる残業のルール
- 作業しながらの休憩時間は労働時間
- 営業職は裁量労働制の適用外
- 営業職の飲み会・接待が業務時間になるケースも
- 指示がなくても早出が労働時間にカウントされるケース
- 固定残業制でも無制限な残業はNG
1章:広告代理店の残業の実態を解説
それでは早速、広告代理店の残業がどのようなものか見ていきましょう。
1-1:広告代理店では長時間残業が日常化
広告代理店は華やかで給料も他の業界と比べて高い仕事ですが、その一方で社員に無理な働かせ方をすることが多い業界でもあります。
大手転職サイトVorkersによる調査では、業界別の残業時間ランキングで広告代理店は2位に入り、平均残業時間は78.6時間となっています。
※Vorkers調査レポートVol.4「約6万8000件の社員口コミから分析した“残業時間”に関するレポート」より一部引用
これは平均の数字ですが、仕事量は季節によって波があり、繁忙期には月100時間を超える場合もあります。
1-2:残業が多い広告代理店の業務特性
一般的に「クライアントの意向を大切にする」「オリジナルのクリエイティブ(制作物)を作る」といった性格の仕事は、働く時間が長くなりがちです。
こうしたことに加えて、広告代理店では
出稿媒体が多い
何パターンもの制作物を作る必要がある
業界全体が体育会系の体質である
締め切りや納期がきつい
クライアントとの飲み会や接待が多い
といった業務上の特性によって長時間残業が日常化しています。
次の節では、これまでに私が見てきた広告代理店の長時間残業の例を紹介します。
1-3:広告代理店における長時間残業の実例
実際に広告代理店でどのように過酷な残業をさせられているか実例を見ていきましょう。
広告代理店の過酷な残業の例として多く人がすぐに思い浮かべるのは業界大手・電通の過労自殺ではないでしょうか。
【長時間残業・パワハラによる過労自殺(営業)】
電通の女性社員が月100時間を超える残業で心身を消耗し、過労自殺した問題。
会社側は女性社員に長時間残業をさせていながら、残業時間が労使協定で決められた時間を超えないように、正しい労働時間を申告させていなかったと伝えられています。
また上司からこの新入社員に対してはパワハラも行われていました。
東京地検は労働基準法違反罪の両罰規定を適用して法人としての電通を略式起訴。
上司は書類送検されるも刑事責任を問わず、不起訴処分(起訴猶予)となっています。
それ以外にも、次のような例を挙げればキリがありません。
【残業時間の上限設定と接待(営業)】
広告代理店の営業職では、日頃からクライアントとの会食や接待が設定されており、一度外出後に会社に戻って再び業務に当たることも多くあります。
しかし、Bさんのこの会社では接待は退社後に自分の意思で参加しているとみなされ、それ以降の業務はサービス残業となっていました。
また、毎月の残業時間の上限は70時間とされ、これを超える場合は何時間働いても残業代が支払われませんでした。
【固定残業代と残業の承認制(広告ディレクター)】
固定残業代制をとっていたこの会社では、あらかじめ月20時間の残業代が給料に含まれていました。
広告ディレクターの男性Cさんは、毎月20時間以上働く月の方が多く、場合によっては60時間を超える場合もありました。
しかし残業時間は上司に申請し、承認が下りて初めて認められる仕組みだったため、「仕事を終わらせるための自主的な取り組み」「直接指示を与えていない」として残業は認められませんでした。
【際限のない長時間残業(営業)】
規模の多い広告代理店では、残業した分だけ残業代が支払われる会社もあります。
しかし、それを逆手にとって、働けるだけ働かせて社員を使い潰す会社もあります。
テレビのCM媒体を扱うDさんのチームでは、繁忙期に月150時間を超える残業が常態化していました。
申請すれば残業代が支払われるものの、心身に不調を来たし出社できなくなる同僚が多くいたといいます。
Dさんは労働環境の改善を上司に求めるも、残業代の支払いを盾に突っぱねられたといいます。
2章:広告代理店における働き方と残業になりうるグレーな時間
この章では広告代理店で働く人の一般的な1日のスケジュールを確認し、どういった時間が残業時間になるのか法律ルールを確認したいと思います。
2-1:広告代理店の1日のスケジュール
広告代理店では、特に営業職やクリエイティブ職などの職種の残業時間が長くなりがちです。
こうした仕事に就く人の一般的な1日のスケジュールは次のようなものになります。
どういった時間が労働時間になるのか理解し、残業時間を自分で把握できるようにしましょう。
Aさん(営業職)の1日のスケジュール例
9:00出社
10:00チーム定例MTG
11:00社内MTG①(ディレクター、デザイナー)
12:00社内MTG②(ディレクター、デザイナー)
13:00休憩(移動時間)
14:00クライアントA社MTG
16:00クライアントB社MTG
18:00提案プラン作成
20:00営業チームMTG
22:00取引先飲み会
Bさん(デザイナー)の1日のスケジュール例
8:00出社
11:00社内MTG①(営業、プランナー)
12:00社内MTG②(営業、プランナー)
13:00休憩
14:00デザイン検討
17:00デザイン作成
23:00終業
Aさんはあらかじめ会社側と協定などで決めた時間を労働時間とみなす「裁量労働制」で、Bさんは一定の残業時間分の残業代を最初から給料として支払っておく「固定残業代制」で働いています。
どちらもいくつものプロジェクトを掛け持ちしているため業務量が多く、社内では残業が当たり前の雰囲気があるため、毎日の退社時間が遅くなりがちです。
また終業時間が遅くなる以外にも、毎日の業務の中で残業時間としてカウントできる時間や、法律違反の疑いがある働き方が見え隠れしています。
2-2:残業に関わる法律ルールを確認
どういった時間が残業時間になる可能性があるか、順番に見ていきましょう。
2-2-1:作業しながらの休憩時間は労働時間
まずはどちらの例でも共通する注意点から説明したいと思います。
Aさん、Bさんどちらの場合も忙しい時期は満足に休憩をとることができず、取引先への移動を兼ねた休憩や、広告案の資料作成をしながらの休憩を取るケースがあります。
法律では、
労働時間が6時間以上、8時間以下の場合は少なくとも45分
労働時間が8時間を超える場合は、少なくとも1時間
の休憩を与えるよう定められており、こうした時間は働く人が「労働から離れることが保障された時間」でなければいけません。
そのため、先ほどのような場合は、休憩ではなく労働時間とみなされることが多くなります。
休憩時間については、次の記事で詳しく解説していますのでご確認ください。
その休憩には賃金が発生!損しない労働時間と休憩のルールを徹底解説
次に、営業職のAさんに該当する2つのルールを解説します。
2-2-2:営業職は裁量労働制の適用外
裁量労働制が適用されている会社では、1日のみなし労働時間が1日8時間と決められていた場合、何時間働いても基本的にはその日の労働時間は8時間とみなされ、残業代は発生しません。
この制度は、毎日働く時間を決めると不都合な職種の人を想定して規定されているため、適用される業種も限定されています。
営業職の場合は、裁量労働制は適用されず、この制度で働く社員に営業活動させた違法残業として残業代の未払いが発生した例もあります。
裁量労働制については次の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。
裁量労働制にも残業がある!制度の考え方と残業代が貰える条件を解説
2-2-3:営業職の飲み会・接待が業務時間になるケースも
このスケジュールでAさんは、22時という遅い時間から飲み会への参加を半ば強制されています。
大手広告代理店の女性社員が過労自殺した問題でも話題になりましたが、体育会系の雰囲気が色濃く残る広告代理店では、社外の取引先や社内のチームで飲み会を行うケースが多くあります。
若手の社員は参加を断れず、仕事の合間を縫って準備をしなければならず、心身に大きな負担になっています。
こうした飲み会・接待は上司からの明示的な指示があれば業務時間として認められる可能性もあります。
続いて10時出社と定められているBさんについて見ていきましょう。
2-2-4:指示がなくても早出が労働時間にカウントされるケース
Bさんの出社時間は就業規則で10時と定められていますが、納期が迫ったり、制作スケジュールが滞ったりすると、朝早く来て作業を始めることが多くあるといいます。
通常、自主的に早く出社して作業した時間は労働時間とは認められません。
しかし、納期が迫っており、やむを得ず早く出社して作業するようなケースでは、会社や上司からのはっきりとした指示がなくても労働時間と認められることがあります。
2-2-5:固定残業制でも無制限な残業はNG
Bさんの働き方では定時退社が18:30と定められていますが、日ごろから業務量が多く、この時間に帰れることはめったにないといいます。
ただ、この会社は固定残業代制を採用し、30時間の残業代があらかじめ基本給に組み込まれているため、時間外の仕事はサービス残業になっています。
固定残業代制を悪用する手口については、こちらの記事をご覧ください。
3章:もらえるはずだった未払い賃金の計算方法
ここまで読み進めてきたあなたは、
「どのくらいの残業代がもらえるはずだったんだろう」
と考えているのではないでしょうか。
ここからは、残業代の基本的な考えや計算方法を解説します。
基本的に残業代は、
という式で計算することができます。
基礎時給とは、あなたの1時間当たりの賃金で、月給制の場合は1か月の給料を所定労働時間(※)で割って計算します。
※雇用契約で定められている1ヶ月あたりの平均労働時間のこと。
一般的に170時間前後となっています。
割増率とは、残業や休みの日に出勤した場合に会社が支払うもので、次のように決められています。
実際の例を当てはめてみると、月給が27万円の人が、ある月の残業時間を合計すると40時間だった場合は
27万円÷170×1.25×40=7万9411円
となり、一月で7万円を超える残業代が受け取れる計算になります。
深夜や休日にも働いていた場合は、さらに多くの金額になります。
残業代の請求は過去3年間までさかのぼって行うことができるので、3年間同じように40時間残業していた場合は、約285万円もの大金が受け取れるのです。
4章:残業代を請求する2つの方法
もしあなたが、今いる会社を辞めた後に正しく計算した残業代を取り返そうと思った場合、次の2つの方法があります。
・自分で請求する
・労働問題専門の弁護士に依頼する
この2つの方法のメリットとデメリットは次のようにまとめることができます。
転職活動や新しい環境でのスタートの忙しい時期に証拠集めや残業代の計算、会社との交渉を行うのは大きな負担になります。
また新しい会社が同業他社の場合は、転職後も顔を会わせる可能性があるため、面倒な摩擦を起こすのは避けたいものです。
そういう場合には、手間がかからず、残業代を取り返せる確率も高い「弁護士への依頼」をオススメします。
特に、労働問題専門の弁護士であれば、残業代を取り戻せる可能性が高くなるのでぜひ検討してみてください。
残業代請求の方法については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
【在職中でも退職後でもOK】残業代を請求するための完全マニュアル
未払い残業代の請求をうまく進めるためには、効果的な「証拠集め」が重要になります。
残業代請求の際の証拠集めについては以下の記事もご覧ください。
【未払い残業代を取り戻す3つの方法】請求手続きのポイントと集めておくべき証拠一覧
まとめ
いかがでしたか?もう一度ここまでの内容を振り返ってみましょう。
華やかなイメージがあり、給料が他の業界と比べて高い仕事である一方、残業が長い業界として知られる広告代理店。
転職サイトによる調査では、業界別の残業時間ランキングで2位に入り、平均残業時間は78.6時間となっています。
広告代理店では、
出稿媒体が多い
何パターンもの制作物を作る必要がある
業界全体が体育会系の体質である
締め切りや納期がきつい
クライアントとの飲み会や接待が多い
といった業務上の特性によって長時間残業が日常化しています。
定時の後に長時間会社に残って仕事をするだけでなく、
・早く出社して仕事をする
・作業しながら休憩時間を取っている
・飲み会・接待への参加を指示される
といった時間も労働時間にカウントされる可能性があることを解説しました。
こうした時間を合計して、所定労働時間を超えた時間は残業時間になります。
計算方法や請求の仕方についても簡単に触れているので、もらい損ねのないように行動しましょう。